大企業ほど潤沢な自己資金がなく、大企業ほど豊富な資金調達手段がない中小零細企業。「銀行融資の上手下手」が、会社の持続・成長を左右します。
そこで、自社が「どのくらい銀行融資を活用できているのか」をはかる目安として、「銀行融資の活用度レベル」についてお話をしていきます。
銀行融資の上手下手が、会社の持続・成長を左右する
中小零細企業が、会社・事業を持続させる・成長させるにあたって、「銀行融資」はだいじな役割を担っています。
なぜなら、中小零細企業には大企業ほど潤沢な自己資金がなく、大企業ほど豊富な資金調達手段がないからです。
ゆえに、「銀行融資の上手下手」が、中小零細企業の持続・成長の結果を左右する。と言っても過言ではありません。
そこで。自社が「どのくらい銀行融資を活用できているのか」をはかる目安として、銀行融資の活用度レベルについてお話をします。
レベルは4段階。自社がいまどのレベルなのか? 確認をしてみましょう ↓
- 《レベル1》銀行から融資を受けている
- 《レベル2》運転資金分の融資を受けている
- 《レベル3》プロパー融資を受けている
- 《レベル4》融資条件を交渉できている
このあと、各レベルについて「クリアするための対策」をふまえてお話をしていきます。
銀行融資の「活用度レベル」をチェックしよう
《レベル1》銀行から融資を受けている
まずは、銀行から融資を受けているか、受けられているか? これが、銀行融資活用のレベル1です。
融資金額、金利などの融資条件にかかわらず、ひとまず銀行から融資を受けている。というのであれば、レベル1はクリアです。
いっぽうで。まだ銀行融資を受けていない、受けたくても受けられていない… というのであれば、次のような「対策」を打ちましょう。
- 「借金=悪」だと考えない
- 日本政策金融公庫から借りる
- 融資の3指標を理解する
上記について、それぞれ説明をしていきます。
「借金=悪」だと考えない
「借金はしないほうがよい」という考えが強すぎる会社・経営者がいます。だから、銀行から融資を受けようとしない。
もちろん、じゅうぶんにおカネを持っているのであれば「借金はしないほうがよい」でしょう。ところが、じゅうぶんなおカネを持てずにいる中小零細企業は少なくありません。
その結果、経営者が日々の資金繰りで疲弊している。いざというときにおカネが足りずに潰れてしまう。これでは本末転倒です。
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また、「おカネが足りなくなったら借りればいい」という考えは誤りです。銀行は、おカネが足りずに困っているような相手に、おカネを貸すところではないからです。
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まずは、「借金=悪」の考えをあらためるところから。必要であれば借入はする・しなければならない、という考えを持ちましょう。
日本政策金融公庫から借りる
融資を受けたいのに受けられない… と言うのであれば。「銀行選び」を間違えている可能性があります。
端的に言えば、「小さい会社は小さい銀行を、大きい会社は大きい銀行を」が銀行選びのセオリーです。ゆえに、中小零細企業がメガバンクから融資を受けるのは困難です。
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また、民間の銀行よりも、政府出資による貸出専門金融機関である「日本政策金融公庫」が、中小零細企業にはおすすめです。
とくに、初めての融資ということであれば、まずは「日本政策金融公庫」にチャレンジしてみましょう。
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融資の3指標を理解する
融資を受けたいのに受けられない… と言うのなら。銀行選びのほかにもうひとつ「融資の3指標」に問題があるのかもしれません。融資の3指標とは、こちらです ↓
- 税引後当期利益 + 減価償却費 > 0
- 資産の総額 > 負債の総額
- 銀行借入金残高 ÷(税引後当期利益 + 減価償却費)< 10
上記3つの指標について、クリアできている指標の数が多いほど、クリアの余裕度が高いほど、融資を受けられる確率が上がります。
ですからもしも、上記3つの指標がすべてバツ(クリアできない)なのであれば、融資を受けるのは難しいということです。
銀行が見ている3つの指標について、考え方を含めて理解をしておきましょう。そのうえで、3つの指標のクリアを目指しましょう。
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《レベル2》運転資金分の融資を受けている
続いて、運転資金分の融資を銀行から受けているか、受けられているか? これが、銀行融資活用のレベル2です。
いわゆる「正常運転資金」の金額を計算してみて、その金額に相当する融資を受けている。というのであれば、レベル2はクリアです。
いっぽうで。まだ運転資金分の融資を受けられていない… というのであれば、次のような「対策」を打ちましょう。
- 「運転資金とは」を理解する
- 運転資金の存在を明らかにする
上記について、それぞれ説明をしていきます。
「運転資金とは」を理解する
はじめに「運転資金とは?」を確認しておきましょう。厳密には、「正常運転資金」や「経常運転資金」などと呼ばれているもので、次のような算式であらわされます ↓
運転資金 = (売掛金 + 受取手形) + たな卸資産 − (買掛金 + 支払手形)
上記の算式について言葉で表現をすると、「会社が立て替えているおカネであり、事業・しごとを続けていく限り必要になるおカネ」が運転資金です。
要は、運転資金の金額だけ、会社のおカネは不足する。売上増加などにより運転資金が増加すると、会社のおカネはもっと不足する。これが、運転資金が抱える問題です。
CHECK! 借りなさすぎの典型『運転資金分の融資すら受けていない』と資金繰りはツラくなる
だから、会社は運転資金分のおカネを、銀行からの融資によって確保しておくのがよい。ということを理解しておきましょう。
つまり、運転資金分の融資を受けていないような会社は、「借りなさすぎ」だとも言えます。
運転資金とは別に。月商(年間売上高 ÷ 12)の1ヶ月分も現金預金がない会社も「借りなさすぎ」に当たります。
手元の現金預金が月商1ヶ月分未満の場合、日常の資金繰りが厳しいという会社がほとんどのはずです。
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運転資金の存在を明らかにする
さきほど掲載した「運転資金」の算式を思い出してみましょう ↓
運転資金 = (売掛金 + 受取手形) + たな卸資産 − (買掛金 + 支払手形)
銀行にとって、運転資金分の融資自体に抵抗はありません。上記算式のとおり、売掛金・受取手形や、たな卸資産(在庫)という「資産」があるからです。
万一、その会社が潰れてしまっても、売掛金・受取手形を回収し、たな卸資産を売却すれば、銀行が取りっぱぐれることはありません。
ところが。もしも、決算書(あるいは試算表)に掲載されている売掛金のなかに不良債権があったら? たな卸資産のなかに不良在庫があったら?
算式で計算したとおりの金額を融資はできない、と銀行は考えます。銀行は「ほんとうにこれだけの運転資金が必要なのかなぁ?」と疑っているのです。
よって、売掛金やたな卸資産の明細金額を開示するなどして、運転資金の存在を明らかにすることが大切です。
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《レベル3》プロパー融資を受けている
続いて、プロパー融資を銀行から受けているか、受けられているか? これが、銀行融資活用のレベル3です。
プロパー融資とは、民間の銀行が「単独」で実行する融資を言います。言い方を換えると、信用保証協会の保証付き融資ではない融資、がプロパー融資です。
その「プロパー融資」を受けている。というのであれば、レベル3はクリアです。
いっぽうで。まだプロパー融資を受けられていない… というのであれば、次のような「対策」を打ちましょう。
- 3指標を改善する
- 信用金庫・信用組合を狙う
上記について、それぞれ説明をしていきます。
3指標を改善する
プロパー融資を受けるためには、銀行からの「高い評価」が必要になります。信用保証協会の保証がないプロパー融資は、銀行にとってリスクが高いため慎重なのです。
「評価の対象」もいろいろありますが、とりわけ重視をされるのが「会社の数字(業績)」です。数字が良いほど安全な会社と評価され、プロパー融資を受けられる可能性が高まります。
具体的に言うと《レベル1》のところで触れた、「3指標」をすべてクリアしていることがひとつの目安になります ↓
- 税引後当期利益 + 減価償却費 > 0
- 資産の総額 > 負債の総額
- 銀行借入金残高 ÷(税引後当期利益 + 減価償却費)< 10
ちなみに、3指標を改善するためのいちばんの方法は「利益を出す」ことです。
そんなのあたりまえじゃないか、と思われるかもしれませんが。ほんとうはもっと利益を出せるのに、「税金を払うくらいないら経費を使う」と利益を減らしている会社が散見されます。
「節税もしたい、でも融資も受けたい」は矛盾であることを覚えておきましょう。
信用金庫・信用組合を狙う
《レベル1》のところで「銀行選び」の話をしました。「小さい会社は小さい銀行を、大きい会社は大きい銀行を」というセオリー。これは、プロパー融資にも当てはまります。
したがって、セオリーに反して、中小零細企業がメガバンクからプロパー融資を受けようとするのは、とても難易度が高い行為です。
CHECK! 中小企業がメガバンクから融資を受けるときの注意点まとめ
メガバンクの得意先は大企業です。大企業に比べて業績が不安定な中小零細企業に、わざわざリスクを犯してまで融資をする道理はありません。難易度が高くて当然です。
この点で、中小零細企業がまずはじめにプロパー融資を狙うのであれば、地域の信用金庫・信用組合だと心得ておきましょう。
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《レベル4》融資条件を交渉できている
さいごに、銀行に対して融資条件を交渉できているか? これが、銀行融資活用のレベル4です。
融資金額、返済期間、金利、担保・保証などの面で、より良い条件を引き出せている。というのであれば、レベル4はクリアです。
いっぽうで。なかなか良い融資条件が引き出せないなぁ… というのであれば、次のような「対策」を打ちましょう。
- 複数銀行と付き合う
- 月商の2〜3ヶ月分以上の現金預金を持つ
上記について、それぞれ説明をしていきます。
複数銀行と付き合う
そもそも論として。おカネを借りる側よりも、貸す側の立場が上であることがほとんどです。
よって、借りる側が「金利をもっと安くして」など融資条件でムリを言えば、貸す側は「じゃあ貸さない」でハナシは終わってしまいます。
おカネを借りれなくてもよいのであれば、それでもいいでしょう。ですが、できるだけ借りたい・なんとしても借りたいという場面であれば困ったことになります。
ではどうするか? 銀行とは直接的にムリな交渉をしないことです。交渉はせずに、銀行同士が自然と競争せざるをえない環境をつくることです。
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たとえば、いまお付き合いしているA信用金庫があるのなら。A信用金庫の競争相手(競合)と思われるB信用金庫ともお付き合いもはじめるのです。
あとは、双方の銀行に融資条件を開示することで競争原理が働きますから、おのずと銀行のほうから「より良い条件」を提示してもらえるようになるでしょう
(前述の3指標が良い・悪くないなど、銀行にとって魅力的な融資先である必要はあります)。
ここまでの話をふまえて。まずは日本政策金融公庫から融資を受ける。次に、どこかの信用金庫・信用組合から。
さらに、競合する信用金庫・信用組合(あるいは地方銀行)の1つ以上から融資を受ける。と、複数銀行とのお付き合いを進めていきましょう。
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月商の2〜3ヶ月分以上の現金預金を持つ
銀行同士の競争をさらに促すためには、自社が銀行にとってより魅力的になることです。
魅力のひとつとして「3指標」については触れました。もうひとつの魅力として、「潤沢な現金預金」が挙げられます。
銀行は、手元におカネを持っている会社を好みます。ひとまずおカネがあれば、返済に詰まることもありませんし安心だからです。
CHECK! 現金預金の残高はいくら必要?月商〇ヶ月分の議論に終止符を打つ
このときの「現金預金」は、自己資金か借りたおカネであるかを問いません。たとえ借金が多くても、いっぽうで現金預金があるのであれば、借金は無いのと同じですから。
現金預金が多くなれば、銀行は融資をしたくなります。融資を受けたことでますます現金預金は潤沢になり、銀行はもっと融資をしたくなります。
その段階では、銀行のほうから「借りてほしい」という営業をされるような状況になります。
銀行融資をじょうずに受けながら、月商の2〜3ヶ月以上の現金預金を目指してみましょう。銀行から見て、魅力的な会社に映るはずです。
CHECK! 銀行に『借りてほしい』と営業されたらどうする?営業されるにはどうする?
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まとめ
銀行融資の「活用度レベル」についてお話をしてきました。
会社の持続・成長を左右する「銀行融資」について、自社の活用度レベルを把握しておきましょう。そして、より上のレベルを目指しましょう。
- 《レベル1》銀行から融資を受けている
- 《レベル2》運転資金分の融資を受けている
- 《レベル3》プロパー融資を受けている
- 《レベル4》融資条件を交渉できている