「これ以上は借りすぎかなぁ?」
借りすぎはいけませんよね。でも、ちょっと待って。そもそも「借りすぎ」ってどういうこと?というわけで、「ホンモノの借りすぎ」と「ニセモノの借りすぎ」についてお話をしていきます。
そもそも、銀行融資の「借りすぎ」ってどういうこと?
当ブログでは、会社・事業の銀行融資に関する記事を多数投稿しています(本投稿日現在で 255記事)。
ということもあり、銀行融資について「さまざまなキーワード」による閲覧があります。
そのさまざまなキーワードのひとつに挙げられるのが「借りすぎ」です。おそらく、次のような方が多いのではないかと推測します ↓
- 借りすぎてしまった…(返済が厳しい)
- 借りすぎたらどうしよう?
- これ以上は借りすぎかなぁ? などなど
つまり、「借りすぎはよくない」と考えているわけです。たしかに、借りすぎてよいことはありません。借りすぎはいけない。
ところで。「借りすぎ」とは、具体的にどういう状態を言うのでしょうか?
この点で、
これ以上は本当に借りてはダメだ、という「ホンモノの借りすぎ」と。いやいや、借りすぎに見えても実は違う、という「ニセモノの借りすぎ」と。見分けがつかなくなっているヒトもいるかもしれない。
そこで、「ホンモノの借りすぎ」と「ニセモノの借りすぎ」についてお話をしていきます。お話の内容は次のとおり ↓
- 《ホンモノの借りすぎ》返済額>税引後利益+減価償却費
- 《ニセモノの借りすぎ①》借入金=現金預金
- 《ニセモノの借りすぎ②》返済額=0
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
「ホンモノの借りすぎ」と「ニセモノの借りすぎ」の見分け方
《ホンモノの借りすぎ》返済額>税引後利益+減価償却費
まずは、「借りすぎ」のお話から。これはホンモノの借りすぎ、というケースです。
借りたおカネをすぐに使ってしまう、というケース
たとえば、これから 700万円の銀行融資を受けようとしているとします。返済期間は7年、年間 100万円の返済額です。
借りたおカネの使いみちは、あたらしい製造機械 700万円の購入。いわゆる設備投資を目的とした借入です。
このときの「借りすぎかどうか」の見分け方は次のとおり ↓
『返済額 > 税引後利益+減価償却費』ならば借りすぎ
さきほどの例にあてはめると、
『返済額 100万円 > 税引後利益 + 減価償却費』ならば借りすぎ
となります。
もし仮に、「手元にはおカネがさっぱり無い」という状態で 700万円を借り入れて、そのおカネをすぐに機械の購入に充てたとすると。
手元にはおカネが残りません。ゆえに、借りたおカネを返済するには「税引後利益」が必要です。
ただし、税引後利益を計算する過程でマイナスされている「減価償却費」は、現金預金の支出はない費用(支出は購入時に済んでいる)なので足し戻す。
というのが、上記算式の「税引後利益 + 減価償却費」になります。減価償却費は、ちょっと難易度高めの論点ですから、「そんなもんかな」でひとまず算式だけアタマに入れておくでもOKです。
とにかく。借りたおカネをすぐに使うのであれば、「返済額 > 税引後利益+減価償却費」だと借りすぎになってしまうことを押さえておきましょう。
将来を見込む、他の借り入れも合わせる
さきほどの算式「返済額 > 税引後利益+減価償却費」について。注意すべきポイントが3つあります。
1つめのポイントは、現在だけを見るのではなく、将来の見込みまで見る、ということです。
700万円の融資の例で言えば。返済期間である7年先まで、「返済額 100万円 > 税引後利益+減価償却費」にはならない、と見込めるかどうか。
いま現在はだいじょうぶだとしても、その先はダメかも… というのであれば借りすぎです。
もちろん、「先」を読むのは容易ではありませんが。少なくとも、まったく「先」を読まずに勢い任せ、にはならないように注意しましょう。
2つめのポイントは、他の借り入れも合わせて見る、ということです。
すでに借りている融資があって返済をしているのであれば、それも合わせて「返済額 」としましょう。
算式中の「返済額」は、今回融資を受けた分の返済額と、すでに融資を受けている分の返済額との合算。そのうえで、「返済額 > 税引後利益+減価償却費」かどうかです。
3つめのポイントは、「返済額 > 税引後利益+減価償却費」は、借りたおカネをすぐに使うケースで利用する算式だということ。
700万円の融資を受けて、そのおカネを 700万円の機械購入に充てる、という例を挙げました。そういうケースで「借りすぎ」を見分けるのに利用する算式です。
では、借りたおカネをすぐに使わないケースは? それが、このあとのお話です。
《ニセモノの借りすぎ①》借入金=現金預金
続いて、「ニセモノの借りすぎ」について。一見すると借りすぎのようだけど、実は借りすぎではないというケースです。
借りたおカネをひとまず置いておく、というケース
前述の《ホンモノの借りすぎ》とは違い、借りたおカネをすぐに使わない銀行融資もあります。
極端な例を挙げれば「余裕資金」です。たとえば、300万円の融資を受けたけれど、ひとまず使わずに置いておく。
というのであれば、「返済額 > 税引後利益+減価償却費」の算式で借りすぎをはかる必要はありません。
なぜなら、使わずに置いてある 300万円で返済をしていけばよいからです。つまり、
『借入金 = 現金預金』ならば借りすぎではない
これについてまで、「返済額 > 税引後利益+減価償却費」の算式をあてはめて「借りすぎだ!」と誤解をしてしまうヒトがいますから気をつけましょう。
おカネが無くなれば、会社・事業はつぶれてしまいます。いっぽうで、おカネが無くなってから銀行融資を受けることは困難です。「ひとまず置いておく」という考え方がおすすめです。
運転資金も余裕資金
ところで、「余裕資金なんて借りれるの?」と思われたかもしれません。
結論から言えば、借りれます。
銀行は、資金繰りが回るギリギリまでしか融資をしない、というわけではないからです。カツカツの手元資金でギリギリの資金繰りをしていたのでは、危なくてしかたありません。
銀行もそれはわかっていますから、融資によって手元資金に多少の余裕(月商の1.5ヶ月から2か月分ていど)を持つことにまで、とやかくは言わないものなのです。普通は。
ちなみに。「普通は」と言ったのは、会社・事業の状況が悪い(赤字・債務超過など)と、借りること自体が厳しくなることもあるからです。
また、いわゆる「運転資金」のための借入は、広い意味での「余裕資金」と考えることができます。
ここで言う「運転資金」とは、通常の仕入や経費に使うおカネ。運転資金はいったん使って減りはしますが、売上によって回収されるおカネです。
短期的には減っては増え、減っては増え、を繰り返しはしますが、基本的には減らないおカネ。長い目で見れば、置いてあるおカネです。
したがって、運転資金についても「借入金 = 現金預金」かどうかで借りすぎを見分ければよいでしょう。
基本的には、返済をした分だけ「借入金」が減り、同額の「現金預金」が減りますから、「借入金 = 現金預金」は維持されるはずです。
運転資金や余裕資金について、返済が進んでも「借入金 = 現金預金」は維持される、と言いました。これに対して、別途利息を支払わなければいけないじゃないか! と思われるのであれば、そのとおりです。
とはいえ、利息は元本ほどの金額的インパクトはありません。また、手元にじゅうぶんなおカネを置いておく、ということのメリットに比べれば、利息のデメリットはそう大きなものではないと考えます。
《ニセモノの借りすぎ②》返済額=0
さいごに、もうひとつの「ニセモノの借りすぎ」について見ていきます。
返済をしなくてもいい融資もある
もし、返済をしなくてもいい融資があるとしたら。借りすぎ、ということはありませんよね。つまり、
『借入金 = 0』ならば借りすぎではない
とはいえ。返済はなくても、利息の心配をされるかもしれませんが。そこは、会社・事業がつぶれるほどの利息になるまで、銀行が融資をすることはありません。
それはそれとして。返済をしなくてもいい融資などあるのか? と言うと。
あります。たとえば、「短期継続融資」です。
これは、いわゆる「所要運転資金(経常運転資金、正常運転資金などとも呼ばれる)」に対する融資になります。
所要運転資金を算式にすると、「売掛金・受取手形 + たな卸資産 − 買掛金・支払手形」。会社・事業を継続するかぎり、「立て替え」が必要になる金額をあらわします。
この所要運転資金分のおカネを確保しておかないと資金繰りは回りませんので、銀行融資を受けるのがセオリーです。
短期継続融資は、その所要運転資金の融資の「受け方」として登場します。具体的には、
- 期限が1年以内の手形貸付で融資する
- 期限を迎えると、銀行は審査をしたうえで融資を継続する(手形を更新する)
- 会社は利息を支払い、元本の返済は無し
というわけで、実質的に元本の返済は無し。所要運転資金は、会社・事業を継続するかぎりずっと「立て替え」が必要になるのですから当然といえば当然です。
したがって、このような融資について「借りすぎ」はありません。むしろ、積極的に借りるべき。
なお、この所要運転資金については、短期継続融資ではなく、「長期の証書貸付(毎月返済あり)」で借入をしている会社・事業がほとんどです。
そうなると、返済を続けるほどに手元のおカネは減っていきます(「手元のおカネ < 所要運転資金」になる)。じゅうぶんに注意が必要です。くわしくはこちらの記事をどうぞ ↓
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まとめ
ホンモノの借りすぎとニセモノの借りすぎ、についてお話をしてきました。