会社が銀行に提示する決算書。銀行はその決算書をそのまま見ているわけではありません。
銀行が見ているのは、会社がつくった決算書ではない。修正を加えた「実態の決算書」を見ている、というお話です。
会社がつくった決算書を修正している銀行
会社が銀行から融資を受けようとする・受けていると、「決算書」の提示を求められます。
融資の可否を判断するにあたり、決算書が重要な判断材料になるからです。具体的には決算書で、次のような指標を確認しています ↓
- 簡易キャッシュフロー(税引後利益+減価償却費) >0
- 資産の総額 > 負債の総額
- 借入金残高 ÷ 簡易キャッシュフロー < 10
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CHECK! 『銀行から融資を受けられる?』の目安がわかる決算書の見方
ところが。銀行は「会社がつくった決算書」そのものから、上記の指標を見ているわけではありません。
会社がつくった決算書には「実態とは異なる点がある」として、まずは修正を加えています。修正した結果である「実態の決算書」で、上記の指標を見ているのです。
このことがわかっていないと。会社は「じぶんがつくった決算書」を見て、「どうして銀行が評価をしてくれないのか?」と首をかしげるばかり… ということが起こります。
したがって、会社としても「実態の決算書とはどういうものか」を理解しておくことが大切です。
というわけで。銀行が見ている「実態の決算書」について、このあとお話をしていきます。
決算書の2大帳票である「貸借対照表」と「損益計算書」とに分けて、順番に見ていきましょう。
まずは、実態の貸借対照表
会社がつくった決算書には実態と異なる点がある。ゆえに、銀行は決算書に修正を加えている、と言いました。
その修正点について、まずは貸借対照表から。次の5つです ↓
- 回収できない資産を減額する
- 時価に修正する
- 流動・固定を正しく区分する
- 粉飾を正す
- 社長一族からの借入金を資本とみなす
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
回収できない資産を減額する
たとえば、売掛金のなかに、得意先の倒産などにより、回収できない金額が混じっているとわかれば減額修正します。
また、たな卸資産のなかに、売れそうもない不良在庫の金額が混じっているとわかれば減額修正します。
銀行は、決算書に付属する「勘定科目内訳明細書」をチェックしたり、会社へヒアリングしたりで、そのあたりの情報収集をしているのです。
さらに。貸付金や未収入金のなかに、回収できそうもないものがあれば、やはり減額修正します。
銀行から社長への貸付金について状況を聞かれたり、子会社・関係会社への貸付金について子会社・関係会社の決算書を求められるのは、減額するか否かを検討するためです。
いずれにせよ、資産を減額修正されると、「実態の貸借対照表」は「会社がつくった貸借対照表」よりも評価が下がることになります。
資産が減った分、会社の安全度が下がる(負債に対しての余裕が減る)からです。
時価に修正する
貸借対照表の資産のなかで「時価」があるもの、その時価と貸借対照表の金額とが異なるものについて、銀行は時価に修正しています。
たとえば、土地。いまは使っていない遊休の土地は、売ろうと思えば売ることができます。だから、「売れたらいくらか?」の時価に修正するわけです。
当然、会社がつくった貸借対照表に掲載している金額よりも時価のほうが大きいケース(増額修正)もあれば、逆のケース(減額修正)もあります。
同じように、上場している会社の株式など、時価がある有価証券があれば、やはり銀行は時価に修正しています。
ほかには、貸借対照表に掲載されている「保険積立金」。これを解約返戻金の金額で時価に修正する、ということもあるでしょう。
時価に修正した結果、増額修正であれば会社にとっては有利になります。資産が増えた分、会社の安全度が上がる(負債に対しての余裕が増える)からです。
銀行の修正を待つだけではなく、会社のほうからアピールする(時価評価の資料を提示する)ことも検討するとよいでしょう。
流動・固定を正しく区分する
貸借対照には「流動」と「固定」の区分というルールがあります。
資産でいうと「流動資産」か「固定資産」か。負債でいうと「流動負債」か「固定負債」か。
この区分を間違えている中小企業があります。
銀行もそれを理解しているので、実態に合わせて修正をしているのです。
たとえば、1年以内に返済してもらえる見込みがなさそうな貸付金を、会社は「短期貸付金」として「流動資産」に区分している。銀行は「長期貸付金」として「固定資産」に修正します。
また、銀行からの借入金のうち、1年以内に返済期限がくる金額を「長期借入金」として「固定負債」に区分している。銀行は「短期借入金(または1年以内返済長期借入金)」として「流動負債」に修正します。
この修正の結果なにが起きるか?
「実態の貸借対照表」は「会社がつくった貸借対照表」よりも「流動比率(流動資産 ÷ 流動負債)」が悪化します。
なかには、流動比率をよく見せようと、意図的に流動・固定の区分を操作する会社もありますが。ムダな努力であるとの理解が必要です。
粉飾を正す
会社が粉飾決算をしている、ということもあります。もちろん、銀行はそれがわかれば、実態にあわせるべく修正します。
たとえば、固定資産。減価償却すべきところをしていないとわかれば、その分だけ固定資産を減額修正です。
また、退職金制度がある会社では、将来の退職金額を見積り、退職給付引当金として負債に計上します。これが無い、あるいは不足しているとわかれば、銀行は負債を増額修正です。
結果、粉飾の効果は打ち消されることとなります。
粉飾についてはほかにもいろいろです。架空の売掛金や在庫、資産価値が無い仮払金や立替金などは、資産を減額修正します。
本来なら計上すべき買掛金や未払金が計上されていなければ、負債の増額修正をします。
粉飾となると、銀行に修正をされるだけではなく、銀行からの信用を失う、というのがいちばんのデメリットです。
悪意の粉飾については自業自得ですが、悪意なき粉飾・自覚なき粉飾には気をつけましょう ↓
社長一族からの借入金を資本とみなす
中小企業では資金繰りに困ると、会社が社長(あるいはその一族)からおカネを借りるということがよくあります。
これは、借入金(負債)として貸借対照表に掲載されることになります。
ただし、社長がすぐには返済を求めないのであれば、負債ではなく資本とみなす。というのが、銀行の考え方です。
銀行は、社長からの借入金の金額を減額修正します。
結果として、負債が減りますから、「実態の貸借対照表」は「会社がつくった貸借対照表」よりも評価が上がることになります。
この点で。会社は「社長からの借入金」だとわかるように、貸借対照表には「役員借入金」と明示して、固定負債に区分をするようにしましょう。
これに対して「短期借入金」などと表示していると。社長からの借入金の存在に気づいてもらえず、ムダに評価を落としてしまう可能性があります。
続いて、実態の損益計算書
さきほどまでの貸借対照表に続いて、ここからは損益計算書についてです。
銀行による損益計算書の修正点は次の2つです ↓
- 粉飾を正す
- 特別利益・特別損失を正しく区分する
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
粉飾を正す
貸借対照表のところでも見ましたが。会社は「粉飾決算」をしていることがあります。
その影響は貸借対照表ばかりではなく、損益計算書にも及ぶもの。
たとえば、減価償却をしていない固定資産があれば。本来、損益計算書に計上すべき減価償却費の金額について、費用を増額修正します。
また、架空の売上や架空の在庫があるとわかれば、それらはなかったものとして売上を減額修正して、費用(売上原価)を増額修正します。
ほかにもさまざまな粉飾が考えられるところですが。いずれにせよ、修正の結果、粉飾の効果は打ち消されることとなります。
したがって粉飾の努力もむなしく、「会社がつくった損益計算書」よりも「実態の損益計算書」の評価は下がることになります。
特別利益・特別損失を正しく区分する
損益計算書には「特別利益」と「特別損失」という区分があります。
文字どおり、特別の利益と損失であり、その年だけ特別に発生した利益や損失のことです。
たとえば。特別利益でいえば、固定資産や有価証券の売却益や保険の解約にともなう利益。特別損失でいえば、固定資産や有価証券の売却損、役員退職金など。
ではもし、多額の特別利益が原因で、「会社がつくった損益計算書」の最終利益が大幅黒字だという場合はどうでしょう?
その黒字は今期限りで、会社のほんとうの実力は特別利益を除いたところで見なければいけません。
逆に、多額の特別損失が原因で、「会社がつくった損益計算書」の最終利益が大幅赤字だという場合はどうでしょう?
その赤字は今期限りで、会社のほんとうの実力は特別損失を除いたところで見ることになります。
この点で、会社が正しく特別利益と特別損失を区分していれば、「会社がつくった損益計算書」を見れば済む話です。
けれども、会社は特別利益と特別損失の区分を間違えることがあります。あるいは、意図的に操作することがあります。
たとえば。本来は「特別利益」に区分すべきものを、会社は「営業外収益」に区分している。すると、会社のほんとうの実力を見誤ることになります。
したがって銀行は、「特別利益」と「特別損失」とを正しい区分に修正をして、「実態の損益計算書」をつくっているのです。
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まとめ
銀行が見ているのは、会社がつくった決算書ではない。修正を加えた「実態の決算書」を見ている、というお話をしてきました。
このことがわかっていないと、「どうして銀行が評価をしてくれないのか?」と首をかしげることになってしまいます。
会社としても「実態の決算書とはどういうものか」を理解しておきましょう。