決算書にはこれだけの借入金があるけれど。借りたおカネをいったい何に使ったのだろうか? というのはよくある疑問です。
銀行員もやっている「借りたおカネを何に使ったか?」のチェック方法・手順を押さえておきましょう。
借りたおカネはどこへ消えた?
自社の決算書を見たときのよくある疑問として、「借入金の使いみち」が挙げられます。つまり、こういうことです ↓
「決算書にはこれだけの借入金があるけれど。借りたおカネをいったい何に使ったのだろうか?」
重要な疑問であり、解消されるべき疑問です。
借りたおカネは返済しなければいけないのですから、「ムダ使い」をしていたのでは困ります。
したがって、銀行もまた、「(会社が)借りたおカネを何に使ったか?」のチェックをしているのです。
というわけで、そのチェック方法・手順を押さえておきましょう。こちらです ↓
- 借入金残高を把握する
- 経常運転資金に充てた、と見る
- 有形固定資産を買った、と見る
- ムダ使いをした、と見る
- 現金預金として持っている、と見る
- 赤字の穴埋めに消えた、と見る
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
「借りたおカネを何に使ったか?」のチェック方法・手順
《手順1》借入金残高を把握する
まずは決算書のなかから「貸借対照表」を用意しましょう。「借りたおカネを何に使ったか?」は、その貸借対照表からチェックします。
貸借対照表が用意できたら、「負債の部」を見て、「借入金」の金額を確認です。借入金は「短期(で返済をする)」と「長期(で返済をする)」に分かれます。
短期の借入金は「流動負債」として、「短期借入金」や「1年以内返済長期借入金」などの勘定科目で掲載されているはずです。
いっぽう、長期の借入金は「固定負債」として、「長期借入金」の勘定科目で掲載されているはずです。
短期・長期、それぞれの借入金の金額を確認して、「合わせてどれだけの借入金があるか」を把握します。
たとえば、「短期借入金 1,000万円、長期借入金 4,000万円」であれば。合わせて 5,000万円の借入金がある。
この 5,000万円というおカネは何に使われたのか? それをこのあとの手順で見ていきます。
《手順2》経常運転資金に充てた、と見る
突然ですが、「経常運転資金(正常運転資金、所要運転資金などとも呼ばれます)」という言葉があります。
その経常運転資金とは、「売上債権 + たな卸資産 − 仕入債務」で計算される金額です。
上記算式中の「売上債権(売掛金・受取手形)」と「たな卸資産(在庫)」は、おカネが入金されるのを待っている状態のもの。
仕入債務(買掛金・支払手形)は、逆におカネを支払うのを待ってもらっている状態のものになります。
結果として、両者の差額である「経常運転資金」分のおカネが無いと、会社の資金繰りはもちません(経費の支払いなどができない)。
ゆえに、会社は経常運転資金分のおカネを用意するべく、銀行から融資を受けるのが財務の常套手段です。
であるならば。借りたおカネはまず、その経常運転資金に充てられた、と見ることになります。
自社の貸借対照表から、「売上債権(売掛金・受取手形) + たな卸資産(在庫) − 仕入債務(買掛金・支払手形)」が 1,000万円と計算された場合。借入金がぜんぶで 5,000万円だとすると、残りは 4,000万円です。
残りの 4,000万円のおカネは何に使われたのか? 次の手順で見ていきましょう。
たとえば、貸借対照表の売掛金のなかには「回収不能の売掛金」も残っている。実は、粉飾決算をしたときの「架空の売掛金」もある、という場合。
その分の金額は、経常運転資金の金額からは除きます。実際には、無いのといっしょだからです。在庫についても、不良在庫や架空在庫があれば除きます。
銀行もまた、不良資産・架空資産と認識したときには同じように考えていることを覚えておきましょう。
《手順3》有形固定資産を買った、と見る
続いて、貸借対照表の「有形固定資産」を確認します。有形固定資産とは、その名のとおり、カタチある固定資産です。
たとえば、建物や土地などの不動産、機械設備、自動車、什器や備品など。それら有形固定資産がぜんぶでいくらあるか確認をしてみましょう。
確認をした結果 2,000万円ある、という場合。これを借りたおカネで買った、と見ます。
ここまでを振り返ると、
借入金 5,000万円 − 経常運転資金 1,000万円 − 有形固定資産 2,000万円 = 2,000万円。
借りたおカネのうち、何に使ったのかがわからないおカネはあと 2,000万円です。続きは、次の《手順4》で確認しましょう。
有形固定資産は買ったあと、時間の経過・使用に応じて、価値が減っていきます(土地は除く)。経理上は「減価償却」の処理を通じて、有形固定資産の金額を減額していきます。
いっぽうで。有形固定資産を買うための借入金も徐々に返済が進むはずですから、貸借対照表の有形固定資産の金額と、有形固定資産を買うための借入金残高はおおむね等しい、と考えられるところです。
ところが。利益を水増し(粉飾)する目的で、減価償却をしない会社があります。結果、貸借対照表に掲載されている有形固定資産は過大になります。
すると、有形固定資産の金額と、借入金残高とのバランスは崩れてしまうので、「減価償却をしたもの」として有形固定資産の金額を補正しなければいけません。
このあたりは、銀行が当然のようにやっているところです。
《手順4》ムダ使いをした、と見る
借りたおカネはまず経常運転資金に充てた、と見る。次に、有形固定資産を買った、と見る。
それでもなお、借入金が残るのであれば。次に見るのは、ムダ使いです。
具体的には、貸借対照表で「仮払金、立替金、貸付金、有価証券」などの勘定科目をチェックします。
これらは、ムダ使いの結果あらわれる勘定科目であり、銀行も目を光らせているところです。
たとえば、仮払金や立替金、貸付金のなかに、会社とは関係がない「社長のプライベートの支出」が混じっている、とか。
有価証券のなかに、投資(というか投機?)目的の株などが目立つ、とか。
これらの「ムダ使い」について、借りたおカネを充てたのではないかと考えます。
もし、貸借対照表にムダ使いの貸付金 1,000万円があったとすると ↓
借入金 5,000万円 − 経常運転資金 1,000万円 − 有形固定資産 2,000万円 − ムダ使い 1,000万円 = 1,000万円
借りたおカネのうち、何に使ったのかがわからないおカネはあと 1,000万円です。
ちなみに。前述したようなムダ使いがあると、銀行は今後の融資を躊躇します。なぜなら、次に貸したおカネもまた、ムダ使いをされてしまうのではないか? と考えるからですね。
《手順5》現金預金として持っている、と見る
経常運転資金、有形固定資産、ムダ使いと見て、まだなお借入金が残っているという場合。貸借対照表の「現金預金」の金額を確認してみましょう。
借入金のうち、使っていないおカネが「現金預金」として残っているはずだからです。
ここまでを振り返ると ↓
借入金 5,000万円 − 経常運転資金 1,000万円 − 有形固定資産 2,000万円 − ムダ使い 1,000万円 = 1,000万円
1,000万円以上の金額が「現金預金」として掲載されているかどうかを、貸借対照表で確認します。
結果、1,000万円以上の金額があれば、「借りたおカネを何に使ったのか?」は判明したことになります。
これに対して、1,000万円も現金預金は無い、という場合。さいごの《手順6》で確認です。
借入金の金額が大きくても、現金預金も大きければ、銀行は「借りすぎ」だとは考えません。
現金預金で借入金を返済することができるわけですから、借入金は無いのといっしょです。また、手元におカネがあれば、売上減少時などもしばらくのあいだは返済が滞る心配がないからです。
《手順6》赤字の穴埋めに消えた、と見る
もしも。貸借対照表を見たら、現金預金はほとんど無い、という場合。残りの 1,000万円は赤字の穴埋めに消えた、と見ます。
本来、赤字を補てんするための融資を銀行はしないものですが。運転資金だなんだと理由をつけて借りはしたものの、結局は赤字の穴埋めだった、というケース。
このような会社の貸借対照表では、「純資産の部」にある「利益剰余金」の金額がマイナスになっていたり(創業からの累積利益が赤字であることを示します)。
もっと状況が悪いと、「純資産の部」自体の金額がマイナスになっていたりします(この状態を「債務超過」と呼びます)。
こうなると、銀行もこれ以上の融資はためらうところです。会社としては、融資を受けるのは厳しい状況だとの認識をしなければいけません。
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まとめ
「借りたおカネをいったい何に使ったのだろうか?」というのは、重要な疑問であり、解消されるべき疑問です。
借りたおカネは返済しなければいけないのですから、「ムダ使い」をしていたのでは困ります。
「借りたおカネを何に使ったか?」のチェック方法・手順について押さえておきましょう。
- 借入金残高を把握する
- 経常運転資金に充てた、と見る
- 有形固定資産を買った、と見る
- ムダ使いをした、と見る
- 現金預金として持っている、と見る
- 赤字の穴埋めに消えた、と見る