銀行は融資先の評価・審査をするうえで、「数字(おもに決算書)」を重要視しています。
というわけで。銀行から「数字に弱い社長」と思われないために、決算書を見なくても覚えておきたい数字についてお話をしていきます。
「数字に弱い社長」は銀行から嫌われる
銀行から融資を受けている、あるいは、受けようとしている会社の社長が気をつけるべきことがあります。
それは、銀行から「数字に弱い社長」だと思われないようにすることです。
銀行は融資先の評価・審査をするうえで、「数字(おもに決算書)」を重要視しています。
これは、「数字=裏付け」として考えているからですね。
したがって、自社の業績や状況について「売上はそこそこあります」とか、「利益はまあまあです」などと言っても銀行はなっとくしません。
そこは具体的な「数字」で示してくれ! ということになります。
このとき社長が「え〜っと利益の額は…」などと慌てて決算書を探しているようだと、銀行からは「数字に弱い社長」とのレッテルを貼られてしまうことでしょう。
当然、融資は受けにくくなってしまいます。困りますよね。
そこで。銀行から「数字に弱い社長」と思われないために、決算書を見なくても覚えておきたい数字についてお話をしていきます。次の7つです ↓
- 従業員ひとりあたり売上高
- 売上総利益率
- 損益分岐点売上高
- キャッシュフロー分岐点売上高
- 簡易キャッシュフロー
- 自己資本の額、自己資本比率
- 借入金総額、債務償還年数
これらは銀行がとくに注目をしている数字です。
わざわざ決算書を見なくても、口にすることができれば「数字に弱い社長」と思われることもないでしょう。
とはいえ「数字を丸暗記する」ということではなく。会社経営においても重要な数字と位置づけて、ふだんから確認するのをクセづけておくのがおすすめです。結果として、覚えることができるはずです。
それではこのあと、7つの数字を順番に見ていきます。
社長が決算書を見なくても覚えておきたい数字7選
1.従業員ひとりあたり売上高
従業員ひとりあたり売上高 = 売上高 ÷ 従業員数
会社の売上高については覚えていても、「従業員ひとりあたり」となると計算してみないとわからない… ということはありませんか。
銀行は「従業員ひとりあたり売上高」を、収益力の指標として見ています。会社全体としての売上高が同じでも、従業員が多い会社と少ない会社とでは収益力に差があるからです。
銀行から「従業員ひとりあたり売上高」を聞かれたときに、「そういえばウチの会社の従業員は 17人… いや 18人だっけ?」なんて言っているようだと、経営者の姿勢(従業員に対する関心)まで疑われてしまいます。
中小零細企業であれば、大企業のように従業員数は多くないはずですし、入退職による変動も多くはないはずです。きちんと把握をしておきましょう。
2.売上総利益率
売上総利益率 = 売上総利益 ÷ 売上高
売上高は重要な数字ではありますが、それ以上にだいじな数字として「利益」があります。いくら売上高が大きくても利益がなければ意味がないからです。
なかでも「売上総利益」は商品力・商品価値を示す数字として、「売上総利益率」の指標には銀行も注目をしています。
値引きをしてでも売上を増やす(いわゆる売上至上主義)ような会社は、売上総利益率は低くなる。いっぽうで、商品力・商品価値を高める努力をしている会社は、売上総利益率が高くなる。
どちらの会社に成長性や将来性を感じるか? と言ったら、売上総利益率が高いほうでしょう。売上総利益率の高低には、商品力・商品価値に対する社長の姿勢・関心度合があらわれるものです。
「売上総利益率」の数字、過去からの推移、今後の目標値などを押さえておきましょう。
3.損益分岐点売上高
損益分岐点売上高= 固定費 ÷ (1− 変動費率)
かんたんに計算したいなら、
損益分岐点売上高= 売上原価を除く経費 ÷ 売上総利益率
損益分岐点売上高とは、文字どおり、損と益とが分岐する売上高。つまり、「利益がゼロになる売上高」を言います。
銀行の考え方として、「貸したおカネの返済原資 =利益」です。利益が無ければ会社は返済ができない。利益が無ければ融資はできない。
ゆえに、利益が出るか出ないかの分かれ目となる損益分岐点売上高がどれくらいなのか?に銀行も注目しています。
損益分岐点売上高が高ければ、それだけたくさんの売上が必要であり、利益を出す難易度は上がります。いっぽうで、損益分岐点売上高が低ければ、そのぶん小さな売上で済みますから、利益を出す難易度は下がります。
損益分岐点売上高を覚えると同時に、それを下げる方法についても覚えておきましょう。
損益分岐点売上高を下げる方法のひとつは経費を下げること。経費削減ですね。
それからもうひとつ、売上総利益率を上げること。ここでも前述した売上総利益率が登場します。売上総利益率を管理する重要性がわかるところです。
4.キャッシュフロー分岐点売上高
キャッシュフロー分岐点売上高={ 固定費 + ( 借入金返済額 ÷(1 − 法人税率)}÷ (1 − 変動費率)
かんたんに計算したいなら、
キャッシュフロー分岐点売上高 ={ 売上原価を除く経費 +( 借入金返済額 ÷ 0.7)}÷ 売上総利益率
※ 便宜的に法人税率を 30%とする
さきほど、「損益分岐点売上高」のところで、「貸したおカネの返済原資 =利益」だと言いました。
この点で。たとえ、売上高が損益分岐点売上高を超えて利益が出たとしても。その利益が借入金返済額よりも小さければ、返済をすることはできません。
返済をするのに利益が必要ではあるけれど、利益を出しさえすれば必ず返済できるわけではない、ということです。
したがって、「借入金を返済するにはいくらの売上高が必要か?」が重要になります。それが、キャッシュフロー分岐点売上高です。
利益が出るか出ないかの分かれ目が損益分岐点売上高、それとは別に返済ができるかできないかの分かれ目がキャッシュフロー分岐点売上高、と覚えておきましょう。
なお、キャッシュフロー分岐点売上高は、さきほどの損益分岐点売上高の算式に「借入金返済額(利息は含めない)」を加味したものになっています。
ちなみに、法人税率もからんでいるのは、借入金の返済原資は「税金を支払ったあとの利益」だからです。ちょっとややこしいですね。
5.簡易キャッシュフロー
簡易キャッシュフロー = 税引後利益 + 減価償却費
さきほど、借入金の返済原資は「税金を支払ったあとの利益」だと言いました。
さらに厳密に言うと、借入金の返済原資は「税金を支払ったあとの利益(税引後利益)」に「減価償却費」を加えたものを言います。それが、この簡易キャッシュフローです。
つまり、「簡易キャッシュフロー > 借入金返済額」であれば、返済ができていることになります。
逆に、「簡易キャッシュフロー < 借入金返済額」だと返済原資が足りず、手元のおカネをとりくずしながら返済をしていることになります。
ゆえに、銀行は「簡易キャッシュフロー」の有無、大小に注目をしているのです。
ところで、なぜ「減価償却費」を加えるのか? と言うと。減価償却費は、おカネの支払いがともなわない費用だからです。
費用ではあるけれどおカネの支払いは無いので、利益に足し戻している。ということになりますが、これまたややこしいところですね。
そのあたりくわしくはこちらの記事をどうぞ ↓
6.自己資本の額、自己資本比率
- 自己資本の額 = 純資産の部の金額 = 資産の部の金額 − 負債の部の金額
- 自己資本比率 = 自己資本の額 ÷ 資産の部の金額
会社の安全性をあらわす指標として、「自己資本比率」はよく見聞きするところです。
ではなぜ、自己資本が安全性として大切なのでしょうか?
それは、「自己資本の額 = 資産の部の金額 − 負債の部の金額」という算式を見るとわかります。
もしも「資産の部の金額 < 負債の部の金額」だとすると、自己資本の額はマイナス。いわゆる「債務超過」です。
これは、いまある資産をぜんぶ現金に換金したとしても、負債を返済することはできないということであり、会社が危険な状態にあることをあらわしています。
そのような会社に融資をしても返済してもらうのは困難ですから、銀行は「自己資本の額」がプラスかどうか? に注目をするのです。
そのうえで、どれくらい自己資本がプラスであればよいか? の指標として、「自己資本比率」が注目されます。目安は 20%〜30%といったところでしょう。
なお、少々会計的なお話になりますが。
「自己資本の額」は「資産の部の金額 − 負債の部の金額」でもありますが、「資本金 + 利益剰余金」でもあります。
自己資本の額は、株主からの出資である「資本金」と「利益剰余金」とで構成されている、ということです。
このうち「利益剰余金」とは「過去の利益の累積額」であり、利益を出せば出すほど利益剰余金は大きくなり、自己資本の額は大きくなります。
結果として、債務超過に陥る危険性が小さくなる。
これに対して、利益を出せない会社や、納税を嫌って利益を抑えようとする会社は、自己資本の額は大きくならず、債務超過に陥る可能性が高くなります。
したがって、自己資本の額を見ることで、会社の利益体質や、社長の利益に対する姿勢までわかる。そのあたりもふまえて、自己資本の額や自己資本比率を覚えておきましょう。
7.借入金総額、債務償還年数
- 借入金総額 = 銀行借入金の残高
- 債務償還年数 = 借入金総額 ÷ 簡易キャッシュフロー
おカネを貸す側の銀行から見たときに、融資先が「借りすぎ」ではないか? は関心事のひとつです。
そこでまずは「借入金総額」がどれくらいあるか、に注目をしています。
当然、おカネを借りる側としても「借りすぎ」ではないかは把握すべきところですから、借入金総額くらいは決算書を見ずとも言えるようにしましょう。
では、具体的にいくらの借入金があると借りすぎなのか? の目安として「債務償還年数」の指標が注目されます。
「借入金総額」を、借入金の返済原資である「簡易キャッシュフロー」で割ってみる(簡易キャッシュフローは前述したとおり、「税引後利益 + 減価償却費」でしたよね)。
つまり、いまの簡易キャッシュフローだと、あと何年で借入金が返済できそうか?が「債務償還年数」です。
その債務償還年数が 10年を超えると、「借りすぎ」というのが一般的な見方になります。
債務償還年数を 10年以内に抑えられるような簡易キャッシュフローの額(とくに税引後利益の額)まで把握しておくようにしましょう。
社長がそこまでわかっていれば、銀行としても安心です。
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まとめ
銀行は融資先の評価・審査をするうえで、「数字(おもに決算書)」を重要視しています。
したがって、銀行から「数字に弱い社長」と思われないことが大切です。決算書を見なくても覚えておきたい数字を押さえておきましょう。
- 従業員ひとりあたり売上高
- 売上総利益率
- 損益分岐点売上高
- キャッシュフロー分岐点売上高
- 簡易キャッシュフロー
- 自己資本の額、自己資本比率
- 借入金総額、債務償還年数