自社・じぶんの決算書や試算表ができあがったら、「5つの視点」を漏らすことなく比較してみましょう、というお話をしていきます。
比べることで見える「良し悪し」
年に1度の決算書ができた、月に1度の試算表ができた、というときに。それを「なにか」と比較してみることは大切です。
比較をすることで「良し悪し」が見えてくる、「良し悪しの理由」も見えてくるから、ですね。
ではいったい、「なに」と比較をすればよいのか? と言われるのであれば、「5つの視点」が挙げられます。
そこで。自社・じぶんの決算書や試算表ができあがったら、5つの視点を漏らすことなく比較してみましょう、というお話をしていきます ↓
- 前年
- これまでの傾向
- 同業他社
- 世の中全体
- 予測、計画
それではこのあと、5つの視点を順番に見ていきます。
決算書・試算表を比較するときの5つの視点
《視点1》前年
まずは、「前年」という視点で比較をしてみましょう。
決算書であれば、前年の決算書と。試算表であれば前年同月の試算表と比較をしてみる、ということです。
前年と比べて、どこが良くなったのか悪くなったのかの「変化」を確認する。そのうえで、どうして良くなったのか悪くなったのかの「原因」を考えてみる。
これが、自社・じぶんの良し悪しを「自覚」する助けになります。自覚ができるからこそ、良いところはさらに伸ばし、悪いところはあらためて直す、という行動にもつながります。
この点で。「前年といまとでは状況が違う。前提が違うのだから比較をしても意味がない」との意見を見聞きすることがあります。
たしかに「比べるだけ」ならばそうかもしれません。けれども、だいじなことは「比べたあと」です。前述したとおり、「変化」を確認して、変化の「原因」を考えることが比較をする目的になります。
会計ソフトを使っていれば、前年との比較は手間もなくできるところです。必ず比較をしてみましょう。
《視点2》これまでの傾向
前年との比較は、過去の「1年」との比較でした。これに対して、同じ過去でも「数年間の傾向」との比較もあります。
つまり、前年だけではなく、過去数年間を並べてみる、ということです。
たとえば、売上高について。前年1年だけと比較をしたら減っていた場合と、過去数年間と比較をしても減っていた場合とでは、見えてくるものが違ってきます。
前年1年だけを比較したときには、「突発的な原因」による売上減少もありうるところです(得意先の倒産とか)。
いっぽう、過去数年間との比較において売上減少傾向だというのであれば、「本質的な原因」を考えることになります(商品開発を怠った結果とか)。
したがって、決算書・試算表を過去と比較するときには、「1年」と「数年間の傾向」という2つの視点で見るようにしましょう。
なお、試算表で「毎月の数字」で傾向を見る場合には、「移動平均」がおすすめになります。いわゆる季節変動を除外することができるからです。
売上高を例に挙げると、繁忙期の月は多く、閑散期の月は少なくなる。という季節変動がある商売は少なくありません。
この場合、毎月の売上高の数字をただ並べて眺めているだけだと、凸凹が大きく、いまいち傾向がつかみづらいものです。
そこで、「直前12ヶ月の売上高をひとくくり」にして比較をするのが「移動平均」の考え方です。すると、季節変動による凸凹を取り除くことができ、季節変動以外の増減を把握することができます。
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《視点3》同業他社
ここまでの視点は、「自社・じぶん自身」との比較でした。次はそこから離れて、「同業他社」との比較です。
自社・じぶんと「近く」にある同業他社と比べてみることで、じぶん本位ではなく、「客観的」に決算書・試算表の良し悪しをはかることができます。
とはいえ、具体的にどうやって同業他社と比較をすればよいのか…? と言うのであれば、経済産業省が提供する「ローカルベンチマーク」がおすすめです。
ローカルベンチマークは、「企業の健康診断ツール」の位置づけであり、いろいろな角度から企業の状況を把握するのに役立ちます。
WEBサイトから、ローカルベンチマークのExcelファイルが無料でダウンロードできるのでぜひ利用してみましょう。
Excelファイルのなかには「財務分析」が用意されています。そこへ業種や決算書の数字を入力することにより、自社と業界平均とを比較した結果を知ることができます。
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このようなローカルベンチマークを利用するのは、ただただ同業他社と比べるだけ、が目的ではありません。単に他社よりも良かった、悪かったを知りたいわけではない、ということです。
そうではなく、同業他社と比べたときの「自社・じぶんの強いところ・弱いところ」を自覚するのが、ローカルベンチマークを利用する目的になります。
自社・じぶんだけを見ていると、意外と「強いところ・弱いところ」は自覚しにくいものです。他社と比べることで、他社との違いのなかから自覚をするきっかけにしてみましょう。
《視点4》世の中全体
いましがたお話をした同業他社は、自社・じぶんに「近いところ」との比較だと言えます。これに対して、さらに範囲を広げた視点が「世の中全体」です。
同業他社含めて、そもそも業界自体の特殊性というものもあるでしょう。そう考えると、もうすこし広い視点で、世の中を見ておいたほうがいいよね、ということです。
そのときに具体的に使えるツールとしてまず、総務省が提供している「統計ダッシュボード」というWEBサービス(無料)があります。
数字だけではなくグラフ加工された各種の統計データを確認することができる、なかなかのスグレモノです。自社・じぶんの業界だけではなく、広く世の中の大きな動きを捉えるのに役立ちます。
また、もうすこし範囲を狭めて、自社・じぶんの「地域」について知りたい、ということであれば。内閣府が提供している「RESAS(リーサス)」がおすすめです。
これは、人口、人の流れ、産業構造、企業活動など、さまざまなビッグデータを「見える化」したシステムであり、かんたんな操作ひとつで各地域の情報を収集することができます。
とんでもない情報量でもあり、これが無料で使えるのですから使わない手はありません。くわしくはこちらの記事もどうぞ ↓
統計ダッシュボードやRESASを利用することで、世の中の動きを把握する。そのうえで、世の中の動きと自社・じぶんの動きは同じようであるか、それとも違うようであるか、を考えてみましょう。
世の中とは違う動きがあるということは、そこには自社・じぶん独自の「なにか特別なもの」があるはずです。それが良いものであれば「強み」として、悪いものであれば「弱み」として認識するきっかけになります。
《視点5》予測、計画
ここまで見てきた視点は、自社・じぶん自身にせよ、同業他社や世の中にせよ、いずれも「過去」に関するものでした。
これらに対して、さいごの視点は「将来」に関するもの。具体的には、「予測」あるいは「計画」の視点です。
目の前にある決算書や試算表の数字をもとに、これからの予測や計画の数字を考えてみましょう。というのがまずひとつ。
それからもうひとつ、その予測や計画した数字と、実際の数字とがどうだったのか比較をしてみましょう。ということになります。
予測や計画、などと言うと。将来のことなど誰にもわからないのだから考えてもしかたない、との反論を見聞きするところです。
たしかに、予測や計画について「当たるか当たらないか」を重視するのであればそうでしょう。けれども、重視すべきは「なにを目指すか」です。
予測や計画は、自社・じぶんがどこを目指すかを示すものであり、それを考える過程が重要だと言えます。逆に、目指すものを決めずにいると、行動も結果も場当たり的になりがちです。
したがって、予測や計画のとおりになるか、つまり「当たるか当たらないか」は二の次三の次。それよりもなによりも、予測や計画を立てるなかで行動を変える、その予測や計画と、実績とを比較検証するなかでまた行動を変えること。
ぜひ、予測や計画をつくる、そして比較をしてみましょう。
まとめ
比較をすることで「良し悪し」が見えてきます。比較をすることで「良し悪しの理由」も見えてきます。
自社・じぶんの決算書は、5つの視点を漏らすことなく比較してみましょう。
- 前年
- これまでの傾向
- 同業他社
- 世の中全体
- 予測、計画