「在庫」を抱える商売をしている場合にはツキモノである、在庫の「評価損」。
その評価損を隠すよりも、あえて決算書に表示するメリットについてお話をしていきます。
あえて隠すか、あえて晒すか。
会社が「在庫」を抱える商売をしている場合にツキモノなのが、在庫の「評価損」です。
売れずに時間が立つことで商品が劣化したり、あるいは、流行遅れになったりで、在庫商品の価値が低下する。その低下した部分の金額が「評価損」です。
ところが。在庫の評価損を決算書に表示していない、という中小企業は少なくありません。
理由としては、評価損を計上すると利益が減って決算書が悪くなるから。当然、銀行から融資を受けるにあたってはよろしくありません。
また、そもそも評価損を把握するのがメンドーだ… ということもあるでしょう。いずれにせよ、ほんとうはあるはずの評価損を隠しているわけです。
これに対して、在庫の評価損をきちんと決算書に表示することには5つのメリットがあります。こちらです ↓
- 税金を減らす効果がある
- おカネを増やす効果がある
- 業績良好のアピールになる
- 決算書の内容がよくなる
- 在庫管理コストの削減につながる
これらのメリットを理解したうえで、在庫の評価損は「あえて隠す」のではなく、「あえて決算書に表示する」ことを検討しましょう。
それではこのあと、5つのメリットを順番に見ていきます。
在庫の評価損をあえて決算書に表示する5つのメリット
《メリット1》税金を減らす効果がある
たとえば、いま現在の利益が 100万円である会社があったとして。税率が 30%だとすると、会社が支払う税金は 30万円になります(100万円 × 30%)。
では、この会社に「在庫の評価損が 30万円ある」とした場合。その評価損を決算書に表示するとこうなります ↓
(利益 100万円 − 評価損 30万円)× 税率 30% = 税金 21万円
上記のとおり、評価損は「経費」として利益を減らす効果があります。結果として、会社が支払う税金は 30万円から21万円に減りました。
もし、「在庫の評価損が 30万円ある」のにもかかわらず隠しているとなると、税金を9万円も余分に支払うことになります。
当然、会社の資金繰りはその分だけ厳しくなるのですから、望ましいことではありません。
いっぽうで、在庫の評価損を「あえて決算書に表示する」ことには、税金を減らす効果があります。両者の差を理解しておきましょう。
会計(決算書)では「評価損」として表示していても、税金計算をするうえでは「経費」と認められないものもあります。
端的に言うと、税法(税金の法律)が経費と認める評価損の範囲は、会計で言うところの評価損よりもだいぶ狭いのです。
詳しくは、顧問税理士などに確認をするとよいでしょう。
《メリット2》おカネを増やす効果がある
もともとは利益 100万円の会社が、在庫の評価損 30万円が発生し、これを決算書に表示する場合の利益は次のとおりです ↓
もともとの利益 100万円 − 評価損 30万円 = 利益 70万円
上記のとおり、この会社の利益は 70万円です。では、手元に残るおカネも70万円なのかというと違います。
評価損 30万円は、おカネの支払いを伴わない費用なので、おカネは減りません。よって、利益は 70万円ですが、手元に残るおカネは 100万円です。
この「利益 70万円」と「手元に残るおカネ 100万円」の差である 30万円のおカネが増えたように見える。
これを専門用語で「自己金融効果」などと言います。ここで言う「金融」とは「調達」と同じ意味であり、評価損によって 30万円のおカネを調達してきたように見える、ということです。
とはいえ。商品を仕入れたときにはその分のおカネを支払っているのだから、おカネはちっとも増えていないじゃないか! との見方もあるでしょう。
そこはもう少し説明なり議論なりが必要になるところですが、長くなりそうですからやめにします。
それでも、《メリット1》でお話をしたとおり、評価損には税金を減らす効果があるわけで。減った税金の分は、商品を仕入れたときのおカネを回収したことになります。
したがって、評価損を隠すことなく、明らかにすれば。減った税金の分だけ、おカネを増やす効果はある、ということです。
《メリット3》業績良好のアピールになる
冒頭でもお話をしたとおり。銀行に対して「決算書が悪くなるから」という理由で、評価損を決算書に表示していない中小企業は少なくありません。
これを逆手にとると。
評価損を決算書に表示している会社は、それでも決算書が悪くならないだけの「利益がじゅうぶんに出せる会社だ」と言うことができます。
一見すると評価損によって利益が減っているように見えても、逆に、自社の「業績良好」をアピールする効果があるのです。
せっかく利益が出ているのに評価損を隠そうとする… ようなことはないようにしましょう。評価損を決算書に表示して、業績良好をアピールするチャンスです。
業績良好のアピールは、税法で認められない評価損であったとしても効果を発揮します。
むしろ、税金を減らす効果もないのに、利益を減らしてまで自主的に費用を計上する「堅実な会社だ」と言えるでしょう。
《メリット4》決算書の内容がよくなる
実際には評価損を抱えた在庫を、決算書ではなにもせずに放置することは問題の先送りにほかなりません。
いずれ、決算書に評価損を表示しなければならないときが来ると考えれば。いま評価損を明らかにすることは、将来の決算書の内容をよくすることにつながります。
つまり。膿は早めに出しておく、ということです。
ちなみに。評価損を決算書に表示したら利益が減って、銀行からの評価が下がってしまうじゃないか! と思われるかもしれませんが。
評価損を隠していることなど、銀行はわかったうえで黙っているだけ… ということもありえます(というか、よくあります)。
利益が減るのも銀行からの評価を下げますが、隠しごとはもっと評価を下げる。これは覚えておきましょう。
《メリット5》在庫管理コストの削減につながる
在庫を保管するにはさまざまなコストがかかります。在庫を持つとおカネがかかるのです。
きちんと売れるであろう在庫のコストであればまだしも。劣化したり、流行遅れの在庫のコストとなると、ただただおカネを食うばかりです。
この点で、「評価損を把握する」ということが、「在庫管理のきっかけ」になります。
評価損を把握しようとする過程で、劣化や流行遅れの原因を追求する。対策をする。結果、在庫を減らすことができれば、在庫管理コストの削減につながります。
とはいえ、ちょっと在庫が減ったからと言って、在庫管理コストが一朝一夕に下がるものではありませんが(たとえば、いきなり倉庫を半分にしたりはできないので)。
それでも「できる限り在庫を減らそう」と考え、実行し続けることによって、在庫管理コストを中長期的に下げることはできるはずです。
まとめ
会社が「在庫」を抱える商売をしている場合にツキモノなのが、在庫の「評価損」です。その評価損を隠している中小企業は少なくありません。
けれども、在庫の評価損をきちんと決算書に表示することには5つのメリットがあります。
メリットを理解したうえで、在庫の評価損は「あえて隠す」のではなく、「あえて決算書に表示する」ことを検討しましょう。
- 税金を減らす効果がある
- おカネを増やす効果がある
- 業績良好のアピールになる
- 決算書の内容がよくなる
- 在庫管理コストの削減につながる