「ちょっとだけ黒字」の決算書を見た銀行が、粉飾を見極めるために見ているポイントがあります。
粉飾などしていないにもかかわらず、あらぬ疑いをかけられることがないように。ポイントを押さえておきましょう。
銀行員じゃないから関係ない、なんて言わないで。
あらゆる会社において、やってはいけない・やるべきではないことのひとつに「粉飾決算」が挙げられます。
粉飾決算とは。カンタンに言えば、事実とは異なる決算書を意図的につくること。つまり、ウソの決算書をつくること、を言います。
なんのために? 株主や投資家、銀行など、いわゆる「利害関係者」をダマすためです。
たとえば、「事実が赤字」だとすれば、利害関係者に見限られてしまう。資金調達にも支障をきたしてしまう。だから、「ウソでも黒字」の決算書をつくるわけです。
そういう意味で、「ちょっとだけ黒字」の決算書はかなり匂います。ほんとうは赤字だけれど、ギリギリ黒字になるように粉飾をしているのではないか? と匂います。
中小企業の決算書にあって、その匂いを嗅ぎ分けようとしている代表が「銀行」でしょう。ほんとうは赤字の会社に融資をしてしまい、結果、返済をしてもらえなければ一大事です。
だから、銀行は決算書の粉飾を見極めようとしています。
そこで。「ちょっとだけ黒字」の決算書を見た銀行が、粉飾を見極めるために見ているであろうポイントを見てみましょう。こちらの3つです ↓
- インタレスト・カバレッジ・レシオが「1倍そこそこ」
- 仮払金関連の残高が前年よりも増加
- 未払金・未払費用の残高が前年よりも減少
「ちょっとだけ黒字」の決算書を見たときに、これら3つのポイントのいずれか、あるいはすべてに該当するようなら粉飾確定! 銀行はそんな見方をしています。
いやいや、わたしは銀行員じゃないから関係ないし… と思われるのであれば尚早です。
なぜなら、自社の決算書が「たまたま」、ポイントを満たしているケースもありえるからです。粉飾などしていないけど、たまたまそうなっている。
すると、銀行から「粉飾の誤解」を受けることにもなりかねません。
そう考えると。銀行員が「会社の決算書をどう見ているか?」は、会社にとっても重要なのです。
というわけで、このあと3つのポイントを順番に見ていきましょう。
いくらの金額が「ちょっと」にあたるのか、明確な基準があるわけではありませんが。
いちおうの目安として、売上高に対して税引前当期純利益の割合が「1%未満」といったとろでしょう。
ちょっとだけ黒字でコレをやったら粉飾確定!3つのポイント
《ポイント1》インタレスト・カバレッジ・レシオが「1倍そこそこ」
まずはじめに見るべきポイントは、経営指標のひとつ「インタレスト・カバレッジ・レシオ」です。
なんともいかつい名前がついてはいますが、それほど難しい指標はありません。算式であらわすと次のとおりです ↓
インタレスト・カバレッジ・レシオ = 営業利益 ÷ 支払利息
見てのとおり、営業利益が支払利息の何倍あるのか? を見るのが、インタレスト・カバレッジ・レシオ(以下、インカバ)です。
たとえば、営業利益が 300万円、支払利息も 300万円という場合。「営業利益 = 支払利息」ですから、ギリギリです。営業利益で利息をギリギリ払えるという状態。
このギリギリ状態をインカバで言うと、「1倍」になります(営業利益 300万円 ÷ 支払利息 300万円)。
では、インカバが1倍未満となった場合にはどうでしょう?
1倍未満ということは、営業利益よりも支払利息が大きいことを意味します。この状況で、受取利息や雑収入などの「営業外収益」が無い・少ないと、「経常利益」がマイナスになってしまいます。
営業利益から支払利息などの「営業外費用」をマイナスして、受取利息や雑収入などの「営業外収入」をプラスすると「経常利益」になります。
したがって。インカバが1倍そこそこの会社というのは、支払利息の金額から逆算をして、営業利益がギリギリでプラスになるように粉飾をしている可能性が高い、と見られるのです(架空売上や架空在庫の計上など)。
なお、それでもインカバが1倍未満になってしまうような会社は、雑収入などの「営業外収益」を増やして「経常利益」をプラスにする、という粉飾をすることがあります。
いずれにせよ、「その手」の状況にある決算書は粉飾を疑われるかも、と考えておきましょう。
《ポイント2》仮払金関連の残高が前年よりも増加
貸借対照表の勘定科目である「仮払金」の残高が、前年よりも増えている場合。その増えた分の金額は「利益の水増し」と考えられます。
もっとも。仮払金という勘定科目自体に問題があり、本来、決算書に掲載されるべきものではありません。
仮払金とは文字どおり「仮」なのであって、そんな「仮」状態のものを最終的な決算書に残しているのは「経理の機能不全」を露呈するようなものです。
そのうえで、仮払金の残高が増加しているとなれば。その増加分は「ほんとうは費用」を隠したにちがいない! ということになります。
なお、仮払金以外にも、同様の意図(費用隠し)で使われる勘定科目はいろいろあります ↓
- 貸付金
- 立替金
- 前払金
- 前払費用
などなど。ことほどさように、仮払金関連の勘定科目は粉飾に使われるものです。
したがって、貸借対照表をパッと見たときに、「やたら仮払金関連の勘定科目が多い」と。つまり、「資産の部」が賑わっていると、粉飾を疑われやすくなるものだと覚えておきましょう。
いっぽうで、「負債の部」はと言うと閑散としている、ほとんど勘定科目が無い、となると。未払計上すべき費用を隠しているのでは? と考えられることから、いよいよ粉飾確定! との見方が強くなります。
そのあたりの話しが、次の《ポイント3》です。
《ポイント3》未払金・未払費用の残高が前年よりも減少
たとえば、水道光熱費について。今月の利用分を来月支払う、というケースがあるでしょう。
この場合、1ヶ月分の水道光熱費が「未払金」や「未払費用」として掲載されるのが、正しい決算書の姿です。
会計的には、未払金と未払費用とは似て非なるものですが、実務的にはどっちつかずで運用されているものであることを申し添えます。
未払金だろうが未払費用だろうが、このあとの話の本質は変わりません。
このような「未払金」や「未払費用」は水道光熱費に限りません。ほかにも電話代や、クレジットカード利用額の支払いなど、いろいろあります。
また、給料が20日締めの会社であれば、21日から月末までの給与分は「未払金」や「未払費用」として決算書に掲載されるべきです。
であるならば。決算書には「あるていど」の未払金なり未払費用なりが掲載されていないのはヘンだ、ということになるでしょう。
にもかかわらずヘンなのは、粉飾をしようとしているからに違いない! と、銀行は考えます。
この点で。利益が出ているときには「未払金」に計上する(利益を減らして税金を少なくしたい)、利益が出ていないときには「未払金」を計上しない(ちょっと黒字を目指す)、という会社があります。
銀行は必ず数年間の決算書を並べて見ていますから、そういう会社の決算書はすぐにわかります。そういう会社の決算書はなんともアヤシイものであり、銀行からの信用が得にくいものであることは言うまでもありません。
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まとめ
銀行から粉飾を疑われれば、融資が受けられなくなる、あるいは、受けにくくなってしまいます。
粉飾などしていないにもかかわらず、粉飾を疑われてしまうことがないように。銀行員が「会社の決算書をどう見ているか?」を押さえておきましょう。
- インタレスト・カバレッジ・レシオが「1倍そこそこ」
- 仮払金関連の残高が前年よりも増加
- 未払金・未払費用の残高が前年よりも減少