決算書に掲載されている「在庫」について、銀行は不良在庫や架空在庫を疑っています。
あらぬ疑いをかけられぬよう、「在庫がほんとうにある」ことを証明する方法を押さえておきましょう。
在るのに「無い」と考える銀行
銀行が融資先の決算書を見るときに、注目するものとして「在庫(たな卸資産)」が挙げられます。
なぜ注目されるのかと言うと。決算書に掲載されている数字が「事実」と異なるケースが少なくないからです。
たとえば、決算書に 3,000万円の在庫が掲載されているとして。ところが実は、1,000万円の不良在庫(もう売れない)がある。さらには、1,000万円の架空在庫(実在しない)があるとしたらどうでしょう。
その在庫のほんとうの価値は 1,000万円しかないのですから(3,000万円 − 不良 1,000万円 − 架空 1,000万円)、額面どおり 3,000万円で見るわけにはいきません。
ですから銀行は、在庫を 1,000万円に修正したうえで、決算書を評価することになるのです。
この点で、銀行は在庫の金額が大きい決算書を警戒しています。あまりに金額が大きいと考えれば、無いものとして評価することもありえます。
実際に在るものを無いとされてしまえば、融資を受ける側としては当然に「不利益」です。「在庫がほんとうにある」ことを証明する方法を押さえておきましょう。こちらです ↓
- 現物を見せる
- 同業他社平均と比較する
- 過去の推移と比較する
- 入出庫表を見せる
- 月次試算表を出し続ける
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
銀行に「在庫がほんとうにある」を証明する5つの方法
《方法1》現物を見せる
まずは、在庫そのものを銀行に見せることです。現物があれば、少なくとも架空ではないことがわかります。
そんなのあたりまえじゃないか! と思われるかもしれません。ところが、「銀行に在庫を見せたことがない」という会社は意外と多いのです。
在庫表を提示しながら、「これはこれ、これはこれ」という具合に現物を確認してもらうのがよいでしょう。
在庫が倉庫にあるのであれば、倉庫に案内をして見てもらいます。
ただし、「整理整頓」には注意が必要です。倉庫のなかはぐっちゃぐちゃだったり、ホコリをかぶったりであきらかに劣化が見て取れる… これでは、在庫表の数字も信用できませんから逆効果です。
現物を見せる以上は、きちんと管理ができていること、管理ができているから正しい在庫量を把握できることを示しましょう。
《方法2》同業他社平均と比較する
いましがた、現物を見せるというお話をしました。これにより、銀行は在庫が「実在」することを確認できます。
けれども。その在庫の「量」が適正なのか?その在庫にどれだけの「価値」があるのか?はなかなかわからないでしょう。
そこで、同業他社平均のデータを参考にします。
在庫の指標には「在庫回転期間(在庫 ÷ 平均月商)」があり、その業種別平均値はネットや書籍で確認できるところです。
そのあたり、銀行は独自にデータを持っていて、当然に確認をしています。
そのうえで、自社の在庫回転期間が同業他社平均並、あるいはそれ以下であれば、「おおむね多すぎではない」との心証を得られることでしょう。
問題は、自社の在庫回転期間が同業他社平均よりもだいぶ長い、というケースです。この場合、銀行は不良在庫・架空在庫を疑うことになりますから、「なぜ長いのか」を説明するのが大切です。
たとえば、「いつでも品揃えが豊富で、短納期で対応できるのが当社の強みとして、他社よりも多くの在庫を持っています」など。説明ができないと疑われるばかりですから気をつけましょう。
《方法3》過去の推移と比較する
同業他社平均との比較に対して、自社の「過去の推移」との比較もあります。過去何年間かの在庫回転期間を計算してみて、その推移を確認してみましょう。
その結果、在庫回転期間がどんどん長くなっているようなことがあると、銀行は「不良在庫や架空在庫が増えているのかな?」と考えます。
加えて、利益の推移が減少傾向だと、在庫金額の操作による粉飾決算を疑われるところです。
したがって、在庫回転期間が長くなっているのであれば、在庫が増えている「経緯」を銀行に説明することが重要になります。
逆に、過去の在庫回転期間がおおむね同じような値で推移していれば。同業他社平均に対して長いとしても、「自社はだいたいいつもこのくらいなんだ(不良在庫や架空在庫が増えているわけではない)」との証明にはなるでしょう。
というわけで、銀行には「同業他社平均」や「過去の推移」を提示しながら、「在庫がほんとうにある」ことを説明するのがおすすめです。
《方法4》入出庫表を見せる
決算書に掲載された多額の在庫に対しては、「ほんとうに売れるのか?」との疑問が生じます。
いくら在庫があっても、売れなければおカネにはなりません。おカネにならなければ資金繰りに影響しますから、銀行は「ほんとうに売れるのか?」が気になるのです。
そこで役に立つのが「入出庫表」になります。各商品をいつ仕入れて(入庫)、いつ売れたのか(出庫)を記録したものが「入出庫表」です。
一定期間の入出庫表を見たときに、各商品が入庫と出庫とを繰り返していれば「ほんとうに売れている」ことの証明になります。
これは、決算日など一時点の状況で作成する「在庫表」では証明できません。
入出庫表を整備するのも手間ではありますが、「ほんとうに売れる在庫がある」ことの証明として取り組んでみましょう。
《方法5》月次試算表を出し続ける
「在庫がほんとうにある」を証明するさいごの方法は、月次試算表を出し続けることです。試算表を毎月作成して、それを銀行に提示し続ける。
このときのポイントは、毎月「たな卸」がされている試算表なのかどうか? にあります。
毎月たな卸をして、その結果を試算表に反映させていることが「在庫がほんとうにある」のアピールになるからです。
いっぽうで。毎月試算表を提示していても、たな卸をしていないようだとアピールができません。
毎月のたな卸をしなければ、在庫の金額は期首からずっと同じです。それを見た銀行からしてみれば、「ほんとうに在庫あるの?」と首をかしげたくもなるでしょう。
なお、実地たな卸(実際に在庫を数える)を毎月やるのはタイヘンだ… と言うのであれば。帳簿たな卸(標準的な原価率などからあるべき在庫を計算する)でもやらないよりはマシです。
「在庫がほんとうにある」の証明は一朝一夕にはできません。時間と手間とをかけることで、証明できるものと心得ておきましょう。
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まとめ
銀行が融資先の決算書を見るときに、「在庫(たな卸資産)」に注目をしています。金額が大きい在庫はとくに、です。
あまりに金額が大きいと見られれば、不良在庫や架空在庫を疑われ、在庫は無いものとして評価されることもありえます。
実際に在る在庫を「無い」とされてしまうことがないように、「在庫がほんとうにある」を証明する方法を押さえておきましょう。
- 現物を見せる
- 同業他社平均と比較する
- 過去の推移と比較する
- 入出庫表を見せる
- 月次試算表を出し続ける