決算書の税引後利益が黒字だと融資が受けやすい、とは聞きますが。
実は、そうとばかりも言い切れない。というわけで、税引後利益が黒字でも銀行融資に問題がある決算書事例について、お話をしていきます。
黒字だからOK、というわけでもない。
会社が銀行から融資を受ける場合において、「決算書の税引後利益(最終利益)が黒字だと融資が受けやすい」というのは有名なハナシです。
ところが。税引後利益が黒字だとしても、「銀行融資を受けるには問題がある」という決算書もあります。
会社としては「黒字だからだいじょうぶ、融資を受けられるはず」と考えていたのに。どういうわけか、銀行からは融資を断られてしまった…
困りますよね。そこで、税引後利益が黒字でも銀行融資に問題がある決算書事例について、お話をしていきます。
事例はぜんぶで3つ。自社の決算書にあてはまるものがないか、チェックをしてみましょう。意外と「あるある」な事例です↓
- 役員報酬が少ない
- 特別利益が多い
- 買掛金や未払金が無い・少ない
それではこのあと、それぞれの事例をくわしく見ていきます。
税引後利益が黒字でも銀行融資に問題がある決算書事例3選
《事例1》役員報酬が少ない
税引後利益が黒字でも銀行融資に問題がある決算書事例の1つめ。それは、「役員報酬が少ない」です。
役員報酬、つまり、社長や社長の家族など「役員」のお給料。その役員報酬が少ないと、銀行融資では問題になることがあります。
たとえば、決算書(損益計算書)を見たときに。社長のお給料として、「役員報酬 120万円」が掲載されていたとします。
そのうえで、損益計算書の末尾にある「税引後利益」は 100万円の黒字でした。と、そんな決算書があったらどうでしょう?
税引後利益が黒字なのだから、きっと融資が受けられるだろう。と、考えるのは尚早です。銀行は、こう考えるからです↓
「黒字ではあるけれど、役員報酬が少ないなぁ。役員報酬を減らして、利益を水増ししているだけなのでは?」
役員報酬が 120万円ということは。社長は、毎月 10万円のお給料だということです。一般的に、月 10万円のお給料で「生活」するのは難しいでしょう。
であるならば、役員報酬は本来、もっと多くあるべきです。仮に、月 30万円くらいなければ生活できないと考えれば、年間の役員報酬は 360万円になります。
そこで、決算書の「役員報酬 120万円」を「役員報酬 360万円」に置き換えてみると。税引後利益 100万円は、黒字から赤字に一変しますよね。
だったら、この会社は「実質的には赤字」だ。というのが、銀行の見方になります。だから、「役員報酬が少ない」と銀行は言うのです。
では、本来の役員報酬とは、具体的に「いくらの金額」を言うのか? ケースバイケースです。社長の生活環境や家族構成などにもよるでしょう。
それでもあえて目安を示すのであれば、「最低でも月額 20万円くらい」です。そのくらいの金額は必要だろう、と銀行は考えているものと想像します。
ちなみに。社長の配偶者が、別の会社で働いているので、生活できるくらいの給与収入がある。みたいなケースでは、社長のお給料が月 10万円でも問題にならないこともあります。
ただし。それは、会社のほうから銀行に伝えなければ、銀行にはわからないことです。決算書を銀行に渡すときに、あわせて伝えるようにしましょう。
[ad1]《事例2》特別利益が多い
税引後利益が黒字でも銀行融資に問題がある決算書事例の2つめ。それは、「特別利益が多い」です。
特別利益とは、損益計算書の下のほうにある、文字どおり「特別な利益」を言います。
たとえば、会社が持っている不動産を売却した利益とか、株式や投資信託を売却した利益とか。あるいは、保険を解約したときの利益とか。
そのような「特別利益」が多いと、銀行融資では問題になることがあります。
たとえば、決算書(損益計算書)を見たときに。いまは使っていない遊休不動産を売却したことによる利益として、「特別利益 500万円」が掲載されていたとします。
そのうえで、損益計算書の末尾にある「税引後利益」は 100万円の黒字でした。と、そんな決算書があったらどうでしょう?
税引後利益が黒字なのだから、きっと融資が受けられるだろう。と、考えるのはやはり尚早です。なぜなら、銀行はこう考えるからです↓
「黒字ではあるけれど、特別利益が多いなぁ。特別利益が無ければ赤字だったのでは?」
たしかに、特別利益が 500万円ということは、その 500万円が無ければ税引後利益は赤字です。
じゃあ、来年も特別利益があるか? と、言えば。ありませんよね。今回限りの特別な利益だからこそ、「特別利益」なのです。
そう考えると、この会社の決算書は「実質的には赤字」になります。銀行としては、融資がしにくい状況です。
銀行から融資を受けるにあたっては、税引後利益が黒字であるに越したことはありません。けれども、加えて、銀行は「営業利益」にも注目していることを覚えておきましょう↓
営業利益とは、損益計算書のなかほどにある、その会社の「本業による利益」をあらわすものです。
したがって、「まずは、営業利益が黒字かどうか」が重要になります。そのうえで、税引後利益も黒字かどうかです。
税引後利益が黒字でありさえすればOK、ではないことを理解しておきましょう。
[ad1]《事例3》買掛金や未払金が無い・少ない
税引後利益が黒字でも銀行融資に問題がある決算書事例の3つめ。それは、「買掛金や未払金が無い・少ない」です。
貸借対照表の負債として掲載される「買掛金」や「未払金」について。それらの掲載が無い、あるいは少ないと、銀行融資では問題になることがあります。
たとえば、決算書(貸借対照表)を見たときに。負債として、「買掛金 50万円」が掲載されていたとします。
この点で。前年の決算書、前々年の決算書を見てみると。それぞれ、500万円くらいの買掛金が掲載されている。と、そんな会社があったらどうでしょう?
税引後利益が黒字なのであれば、きっと融資が受けられるだろう。と、考えるのはまたまた尚早です。銀行は、こう考えるからです↓
「会社の状況に変化がなければ、今回の決算書にも同じくらいの金額の買掛金があってもいいはずなのに… もしかして、買掛金の計上を見送って、利益を水増ししているのでは?」
買掛金とは、「いまは未払いの状態にある仕入代金」のことです。
たとえ、おカネは未払いであっても、仕入が済んでいる(商品を受け取っている)のであれば、仕入金額を費用として計上する。これが会計のルールです。仕訳としてはこうなります↓
仕入高 ××× / 買掛金 ×××
したがって、買掛金を計上すれば、費用(仕入高)が増える。買掛金の計上を見送れば、費用(仕入高)は減る。
そこで、利益を水増しするために「買掛金」の計上を見送る会社があります。各種費用の未払いである「未払金」についても同じことです。
そのときの利益のようすを見て、買掛金や未払金の計上金額を少なくしたり、あるいは、まったく計上しないこともあったり。
そのうえで、税引後利益が黒字であったとしても、正しい利益とは言えませんよね。買掛金や未払金が無い・少ない分だけ、利益は「過大」です。
したがって、例年に比べて、買掛金や未払金が無い・少ないと、利益の水増しを疑われる可能性があることを理解しておきましょう。
利益の水増しをしたのではなく、事実、無い・少ないのだとしたら。その経緯や理由を、銀行に説明しておくのがおすすめです。
ムダに疑われてしまう。疑われた結果、融資が受けにくくなってしまうことを避けられるでしょう。
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まとめ
会社としては「黒字だからだいじょうぶ、融資を受けられるはず」と考えていたのに。どういうわけか、銀行からは融資を断られてしまった…
そんなことがないように。税引後利益が黒字でも銀行融資に問題がある決算書事例を押さえておきましょう。意外と「あるある」な事例です。
- 役員報酬が少ない
- 特別利益が多い
- 買掛金や未払金が無い・少ない