融資を受けるときに、銀行から提示を求められる試算表。その試算表が不正確であれば、当然、融資は受けにくくなってしまいます。
では、銀行が試算表の正確性をどのように見極めているのか? 押さえておきましょう。
試算表は不正確なものだ。
会社が銀行から融資を受けるときに、試算表の提示を求められる場合があります。
基本的には決算書があればよいのですが、決算日から時間がたっていると(数ヶ月ていど)、銀行が「近況を把握するため」に、追加で試算表が必要になるわけです。
このとき気をつけたいのが、試算表の「正確性」になります。
銀行から「不正確だ」と見られれば、当然、融資は受けにくくなります。そもそも銀行は、「試算表は不正確なものだ」とさえ考えていることは覚えておきましょう。
では、銀行がどのように、試算表の正確性を見極めているのか? おもなポイントとして、3つ挙げてみます。こちらです↓
- 棚卸、減価償却の有無
- 前月比較、前期比較
- 決算書とのズレ
これらのポイントについて、このあと順番に見ていきましょう。
銀行が試算表の正確性を見極めるポイント3選
【ポイント1】棚卸、減価償却の有無
1つめのポイントは、棚卸と減価償却の有無です。まずは、棚卸から。わかりやすいところで、「モノを仕入れて売る」という商売をしている会社をイメージしてみましょう。
仕入れたからといって、必ずしもすぐに売れるわけではなく。また、欠品による売り逃しをしないよう、あるていど余分に仕入れていることもあるでしょう。
結果として、「在庫」が発生します。その在庫量は、「常に一定」ということはあまりなく、多かれ少なかれ「変動」するものです。その変動を、試算表に反映させるための方法が「棚卸」になります。
在庫がいくつあるかを数えて、金額にするといくらあるかを計算するのが「棚卸」です。これをせずにつくられた試算表の「利益」が、事実をあらわすことはありません。
このあたり、くわしくはこちらの記事を参考にどうぞ↓
結論として、銀行は「試算表の棚卸資産の金額が変動しているかどうか?」を確認しています。棚卸資産とは、商品や製品、原材料、仕掛品など。
これらの金額が、決算書の数字(あるいは前回提示した試算表の数字)と同じである場合には、棚卸をしていないことになります。だとすれば、その試算表の正確性には問題ありです。
また、減価償却費を毎月計上しているかどうか? も、銀行が確認しているポイントになります。
そもそも減価償却とは、「金額が大きな固定資産の購入金額を分割して費用にする」という会計のルールです。分割された費用を、「減価償却費」と呼びます。
これを毎月に分割して減価償却費を計上せずに、決算のときに1年分まとめて計上する会社があります。すると、毎月の試算表は利益が出ていたのに、決算書を見たら赤字… になりかねません。
だから銀行は、試算表に減価償却費が計上されているかどうかを見ているのです。
この点で、「ウチは在庫も減価償却費も少ないから、試算表ではなにもしなくてよいだろう」と考えている社長がいます。が、銀行に対して良いイメージを与えないことを理解しておきましょう。
なぜなら、「ほかにも不正確な経理をしているかもしれない」と見られることもあるからです。一事が万事、金額の大小にかかわらず、正確な経理ができる会社を銀行は好みます。
【ポイント2】前月比較、前期比較
銀行は試算表を、前月との比較や前期との比較をして見ています。比較をすることで、「差」を見つけ出して、正確性をはかる材料にしているのです。
たとえば、売掛金。前月や前期に比べて大幅に増えている。でも、前月や前期に比べて、売上そのものが大幅に増えたわけではない。もしかして、回収できていない売掛金があるのか…?
といった、見方です。会社に確認をした結果、それが事実であれば、不良債権と見て減額評価することになります(売掛金という資産が減ると、会社の評価はその分下がります)。
それはそれとして、回収できなくなった売掛金があるのなら、本来は「損失」として経理処理すべきです。すべき処理をしない会社、つまり、不正確な試算表をつくる会社だと見られてしまうのもよくありません。
似たようなところでは、棚卸資産が挙げられます。やはり、前月や前期に比べて大幅に増えていると、不良在庫を疑われることになります。
別の例で言うと、買掛金です。前月や前期を見ると、100万円くらいの金額が計上されている。ところが、この試算表では買掛金がゼロ。もしかして、利益を水増しするために計上を先送りしたのか…?
といった、見方もあるでしょう。利益を水増しする意図がなくても、メンドーがって横着をしたり、見落としていたりするケースもあります。結果、利益の水増しを疑われるのはかないません。
似たようなところでは、未払金もいっしょです。銀行は、前月や前期と比較をしているものと考えて、会社のほうでも比較をして確認をしておくようにしましょう。
そのうえで、事実、前月や前期と「大きな差」があるようなら、その原因・経緯を銀行に説明することが大切です。
たとえば、「この先の受注増に備えて、先行仕入をしたため在庫が増えています」とか、「仕入単価を下げるために、仕入先への支払サイトを短くしたことで、買掛金が減っています」とか。
前月や前期との差を理由に、銀行から試算表の不正確を疑われないように気をつけましょう。
【ポイント3】決算書とのズレ
銀行は、試算表について、決算書とのズレも確認しています。途中経過である試算表と、その先の最終結果である決算書とを比べたときに、おかしなところはないか? という確認です。
たとえば、途中で見た試算表の売上高から見ると、決算書の売上高はかなり少ない、という場合。試算表の段階では、融資を受けやすくするために、売上高を水増ししていた可能性があります。
同じように、試算表の段階では、費用を少なめに計上するようなことも考えられます。そこを、銀行は決算書とのズレとして確認しているわけです。
また、決算書に付随する「法人事業概況説明書」という書類も、銀行はよく見ています。とくに、毎月の売上高や仕入高の金額です。
法人事業概況説明書には、決算書の売上高や仕入高の内訳として、月別の金額が記載されていることは覚えておきましょう。銀行は、この金額と、以前に提示された試算表との数字を突き合わせしています。
結果、金額にズレがあったために、決算書を提示したあとになって、以前に提示した試算表について銀行から訊かれる… というケースがあります。決算のときなどに、さかのぼって経理処理を修正しているような会社に起きるケースです。
こうなると、銀行からは試算表の正確性をかなり疑われてしまいますから、よくありません。以降に提出する試算表については、常に、疑いの目で見られることにもなります。
すると、期中に試算表を提示して融資を受けることは難しくなり、銀行からはいつも「決算書ができてから」と言われてしまうことでしょう。
したがって、試算表についても「決算書並み」の正確性を持たせることが、銀行融資をスムーズに受けるコツになります。どうせ試算表だから、とは考えないこと。不正確な試算表を、銀行に提示しないことです。
まとめ
融資を受けるときに、銀行から提示を求められる試算表。その試算表が不正確であれば、当然、融資は受けにくくなってしまいます。
銀行が試算表の正確性をどのように見極めているのか? 試算表を作成・確認するときのポイントとして、押さえておきましょう。
- 棚卸、減価償却の有無
- 前月比較、前期比較
- 決算書とのズレ