「決算書には粉飾がある」というのが、銀行の見方です。そこで、粉飾無しのクリーンな決算書を銀行に印象づける5つの方法について、お話をしていきます。
「粉飾なんてしてないし」が通用しない。
今回の記事では、「粉飾無しのクリーンな決算書」を銀行に印象づける方法について、お話をしていきます。が、これを聞いて、「いやいや、粉飾なんてしてないし」と思われるのであれば、それは注意が必要です。
なぜなら、銀行は「決算書には粉飾がある」という前提で見ているから。なので、たとえ粉飾をしていないとしても、「粉飾無しのクリーンな決算書」であると印象づけるのはだいじなことだと言えます。
というわけで、さっそく、具体的な方法を確認していくことにしましょう。ぜんぶで5つ、次のとおりです↓
- できるだけ長期のデータを提供する
- 明細をしっかりと明かす
- 入金サイトをあきらかにする
- 売上入金口座に指定する
- 出せる利益をきちんと出す
これら5つの方法について、このあと順番に見ていきます。
会社の側に悪意や自覚はなくとも、実は粉飾をしてしまっているケースがあります。あわせて、注意が必要です。そのあたりが気になるようでしたら、こちらの記事もどうぞ↓
粉飾無しのクリーンな決算書を銀行に印象づける5つの方法
1.できるだけ長期のデータを提供する
決算書に粉飾があるかどうかを判断するときに、とても参考になる指標があります。それは、売掛金と棚卸資産の金額です。粉飾をする会社は、十中八九、それらのいずれか、あるいは両方に「細工」をしています。
その結果、決算書に記載される、売掛金や棚卸資産の金額には「歪み」が生じるのがポイントです。歪みは、粉飾をすればするほど、積み重なるほど大きくなります。
したがって、「できるだけ長期」にわたって決算書を見比べることで、粉飾の有無は判断しやすくなるものです。つまり、決算書3期分よりも5期分のほうがいい、5期分よりも10期分のほうがいい、ということになります。
そこで、銀行に対しては、できるだけ長期の決算書データを提供するようにしましょう。あらたに取引をはじめようとする銀行に対してはとくに、です。通常3期分の決算書を渡しますが、「ご参考に」と5期分を渡してみたり。
また、決算ごとの「売掛金回転期間」や「棚卸資産回転期間」を計算して、5〜10期分ていどの推移グラフ(折れ線グラフ)をつくって銀行に渡すのもよいでしょう。「粉飾のチェックにどうぞ」と言うのではなく、「資金繰りへの影響も考えて、当社では、これらの指標をいつもチェックしています」などと言うのがおすすめになります。
銀行が売掛金や棚卸資産を見るときに、必ずチェックをしているのが「売掛金回転期間」や「棚卸資産回転期間」だからです。このあたり、くわしくはこちらの記事もどうぞ↓
2.明細をしっかりと明かす
さきほど、粉飾をする会社は「売掛金」や「棚卸資産」に細工をする、といいました。
たとえば、売掛金については、「架空売上の計上」です。ありもしない売上を計上するわけですが、「仕訳」というしくみ上、同時に「売掛金」が発生します。
その売掛金の「明細」は、決算書の添付書類である「勘定科目内訳明細書」という書類に記載する。というのは、ごぞんじでしょうか。顧問税理士に任せているところかもしれません。
架空売上分の売掛金は、当然、相手先がありませんので、明細として記載できないことになります。そこで、「その他」として記載をするケースが多いでしょう。
また、実在する売掛金についても、5件ていどの明細を記載して、あとは「その他 〇件」などと記載しているケースもあります。対税務署としては、それで問題はありません。
けれども、対銀行という面では、粉飾の疑いを残すことは想像がつくはずです。「明細がない=架空売上だから書けない」、これが粉飾を疑う「銀行の見方」になります。
棚卸資産についても同じです。明細がなければ、架空在庫を疑われる可能性があります。ですから、売掛金や棚卸資産については、税務署に提出する書類とは別であっても、全明細を銀行に提出するようにしましょう。
すると、銀行からは「明細がある=隠しごとがない(粉飾がない)」という見方をしてもらいやすくなるはずです。
3.入金サイトをあきらかにする
たとえば、売上先Aについては、毎月月末締め・翌月末入金。売上先Bは、毎月月末締め・翌々月末入金。といったことを決めているはずです。これを「入金サイト」などと呼びます。
その入金サイトについては、銀行に対してあきらかにするようにしましょう。なぜなら、入金サイトがわかれば、決算書に記載されている売掛金の金額が「おおむね適正かどうか」はわかるからです。
わかりやすい例として、すべての売上先の入金サイトが「毎月月末締め・翌月末入金」だとします。にもかかわらず、決算書の売掛金の金額が、売上高3ヶ月分相当だったらどうでしょう?
あれ、おかしいぞ… ということになりますよね。銀行から見れば、「架空売上分の売掛金が混じっているのかも?(あるいは、不良債権が混じっているのかも)」となるわけです。
なので、銀行は入金サイトに関する情報をほしがります。そこで、会社が「売上先ごとの入金サイト一覧表」のようなものを提供できれば、銀行としてはありがたい情報です。
結果として、銀行は、決算書の売掛金の金額を検証できますし、「この会社は、入金サイトをあきらかにできるのだから粉飾もないだろう」との見方にもつながるでしょう。
あわせて、支払サイトの情報も提供するのがおすすめです。つまり、仕入先に対する「締日・支払日」の情報です。これがあると、銀行は「運転資金」の融資をしやすくなります。
運転資金の融資は、「売掛金+棚卸資産ー買掛金」が融資金額の基本的な考え方になるからです。支払サイトがわかれば、銀行は、決算書の買掛金の金額が適正かを検証しやすくなります。
4.売上入金口座に指定する
さきほど、入金サイトの話をしました。この点で、自社の取引銀行であるZ銀行に対して、売上先Aの入金サイトが「毎月月末締め・翌月末入金」であることを伝えているとします。
また、決算書の売掛金のうち、売上先Aに対する売掛金が 100万円であることが、「勘定科目内訳明細書」であきらかになっている。という状況について考えてみましょう。
この状況でもし、売上先Aからの入金口座がZ銀行だとしたら、当然ながら、Z銀行はその入金を「確認」できることになります。つまり、売掛金 100万円は「架空ではない」とわかるわけです。
ところが、入金口座が別の銀行だとしたらどうでしょう? Z銀行は、入金まで確認できませんから、架空の疑いを完全に消し去ることまではできません。
そう考えると、売上入金口座をどの銀行に指定するかは、クリーンな決算書をアピールするのにも役立つことがわかります。融資を受けていない・受けるつもりもない銀行に入金をするよりも、融資を受けている・受けようとしている銀行に入金したほうがいい、ということです。
また、売上入金があれば、それだけ預金残高も増える傾向にあります。おカネを貸す銀行としては安心できるところです。返済が滞る可能性が少ないので、融資がしやすくなります。
こういった点もふまえて、売上入金口座をどの銀行にするかを、あらためて考えてみましょう。意外と、なんのメリットも得られない銀行を指定している会社は少なくありません。
5.出せる利益をきちんと出す
さいごに、もうひとつ。粉飾無しのクリーンな決算書を銀行に印象づける方法、それは、出せる利益をきちんと出すことです。
大企業のように第三者株主の目がない中小企業では、社長の一存で「利益調整」をしていることはめずらしくありません。利益が増えそうなら経費を増やす、利益が減りそうなら経費を減らす。
これはこれで、ひとつの考え方ではありますが。銀行は、「利益=返済原資」と見ています。ですから、利益が減れば、借りられる金額も減ることは理解しておきましょう。
利益が増えると税金も増えますから、経費を増やして、利益を減らそうとする社長がいます。
ではもしも、売上が 5,000万円、税引前利益が 50万円の会社と。売上が 5,000万円、税引前利益が 500万円の会社があったとしたら。どちらが「粉飾の可能性が高い」と感じますか?
多くの人が、前者の会社だと感じるはずです。なぜなら、利益が 500万円であれば、それだけ税金の負担が大きくなります。そこまでして、粉飾をするかどうか? というハナシです。
粉飾をするような会社は、もともと資金繰りが厳しいものでもありますから、できるだけ税金は払いたくないと考えます。とはいえ、赤字だと融資が受けにくくなるので、「ちょっとだけ黒字」を狙って粉飾することが多くなるのです。
この点で、売上高に対して、税引前利益が1%を割り込むような会社は、銀行から粉飾を疑われる可能性が高くなる。と、考えておきましょう。
事実、利益がその金額であれば、それはそれですが。出せるはずの利益を出さずにいる(あえて経費を増やしている)のであれば、利益をきちんと出したほうがいいのではないですか? という提言になります。
まとめ
「決算書には粉飾がある」というのが、銀行の見方です。そこで、粉飾無しのクリーンな決算書を銀行に印象づける5つの方法を押さえておくようにしましょう。
- できるだけ長期のデータを提供する
- 明細をしっかりと明かす
- 入金サイトをあきらかにする
- 売上入金口座に指定する
- 出せる利益をきちんと出す