決算書を2つ作るのはいけませんが。計画書であれば2つ作ってもいい。むしろ、場合によっては積極的に2つ作ったほうがいい。それはなぜ? どんなメリットがある? というお話です。
決算書は1つ、計画書は2つ。
世の中には、2つ(あるいは、それ以上)の決算書を作っている会社がある、と言われています。なんのために? 融資を受けている銀行に対して、業績をよく見せるため。あるいは、税務署に対して、業績を悪く見せて税金を逃れるためです。
正しい決算書とは別に、〇〇銀行用の決算書とか、税務署用の決算書などを作ってしまう… そんなことをやってはいけない、というのは言うまでもないでしょう。どんな理由であれ、決算書を2つ作ったりしてはいけないのです。
これに対して、「計画書(事業計画書、経営計画書)」であれば、2つ作ってもかまいません。むしろ、場合によっては積極的に作ったほうがよい、とさえ言えます。
が、これはあまり広く知られている話ではないようです。というわけで、なぜ計画書は2つ(あるいはそれ以上)作ってもよいのか? についてお話をしてみます。具体的にはこちらです↓
- 予測ができないから
- 予測は外れることがあるから
- 対銀行用として必要だから
これらの理由について、計画書を2つ作ることには、どのような「効果」や「メリット」があるのかもふまえて、このあと確認をしていきましょう。
計画書は2つ作ってもよい理由
予測ができないから
そもそも、計画書など必要ない。との「論」がありますが。その論拠をたずねると、「先のことなどわからないから」との思いがあるようです。
たしかに、そのとおりでしょう。だれも、未来を正確に予言することはできません。ですが、計画書は予言書ではありません。未来を言い当てるために作るものではなく、先のわからない未来に備えるために作るものです。
とはいえ、先のことなどわからないから、未来を描きようもない… との話はよく聞きます。そんなときにお伝えをしているのは、「2つでも3つでも、作ってみましょう」ということです。
具体的にはまず、「いまよりも売上が〇〇%アップした場合」「いまよりも売上が〇〇%ダウンした場合」といったシナリオを検討します。〇〇%については、「このくらいは起こりうる」であろう最大値がよいでしょう。
そのうえで、現状の数字をベースにして、つまり、「固定費(売上の増減によって変化しない費用)」は現状のまま、売上が〇〇%変化したときの費用や利益をシミュレーションしてみます。
まったくのゼロから計画を作ろうとすると悩んでしまう場合でも、現状をベースに、売上高を増減させるだけのシナリオであれば、作りやすくなるはずです。これを「たたき台」とします。
売上〇〇%アップのほうであれば、利益に余裕ができるでしょうから、その利益でなにをするのかも計画してみましょう。設備投資をするとか、開発費にまわすとか、借入返済を進めるとか。
逆に、売上〇〇%ダウンの場合には、固定費の見直しや、借入返済額の圧縮が必要になるでしょう。必要な利益を出せるまで、そのあたりの検討を重ねることになります。
こうしてできあがった複数の計画書の数字と、毎月の試算表の数字とを比較していきましょう。このとき、試算表の数字により近い計画書に注目します。
もしも、売上〇〇%アップの計画書に試算表が近ければ、売上アップの度合いに応じて、計画していた投資や開発、借入返済を、優先順位を決めつつ進めていけばよいでしょう。
逆に、売上〇〇%ダウンの計画書に試算表が近ければ、売上ダウンの度合いに応じて、やはり計画していた固定費の見直しや、借入返済額の圧縮を、優先順位を決めつつ進めていきます。
というように、もし「予測ができない」としても、2つ(あるいはそれ以上)の計画書を作っておくことで、さまざまな未来がおとずれたときにも、「対応が速くなる」のはメリットです。
予測は外れることがあるから
ここまでは、「(先のことなどわからないから)予測ができない」というケースでの話でした。では、「予測はできる」というケースはどうでしょう。言い換えると、「計画書は作れるよ」というケースです。
ただし、この場合でも、計画書を2つ作るべき理由はあります。それは、「予測は外れることがあるから」です。繰り返しになりますが、だれも未来を正確に予測することはできません。
そう考えると、計画書とは「ぜったいにハズれる」ものなのです。場合によっては、大きくハズれることもあります。そのときに計画書が1つだけだと、まったくの想定外の事態です。
けれども、あえて複数のシナリオをもとに計画書を作っていれば。ハズれたとしても、そのハズれ具合の小さな計画書が存在することになります。結果、「想定の範囲内」におさめやすくなるのはメリットです。
というわけで、計画書を作れる会社に対しても、計画書を複数作ることをおすすめしています。作るときのイメージとしては、「楽観」「悲観」「中立」の3つのシナリオを用意するのがよいでしょう。
計画書を作ろう、というと。どうしても「楽観」の傾向が強くなるものです。いやいや、楽観などしていない、と思われるかもしれませんが。公私ともに、はじめから「悪い計画」を作ろうとうする人はいないはずです。
多くの人が、「明るい未来」「成功した未来」をイメージして計画書をつくることでしょう。ゆえに、なにが起こるかわからない現実とのバランスをとるためにも、「楽観」の対になるものとして「悲観」の計画書も作る価値があるわけです。
そのうえで、楽観と悲観の「あいだ」としての「中立」の計画書もつくっておくのがよいでしょう。ある意味これが、もっとも現実的な計画書だと言えます。
というように、3つの計画書があれば、さまざまな未来がおとずれたときにも、やはり「対応が早くなる」のがメリットです。どれかしら、現実に近い計画書は存在するはずだから、ですね。
ていどの差こそあれ、想定していた会社と、想定していなかった会社と。どちらが、有事の対応が速いかと言えば、想定していた会社のほうでしょう。予測はハズれるという前提のもと、複数のシナリオを想定しておくのがおすすめです。
対銀行用として必要だから
ここまでの話を聞いて、思われたかもしれません。複数シナリオを用意するなど、それは「受動的(成り行きまかせ)」な計画書にすぎないのではないか? でも、ほんとうに作るべきは、「能動的(みずからが実現・実行する)」な計画書ではないのか? と。
そのとおりです。会社が、現状をもとにして、目指すべき場所を決めて、そこまでの道すじを「計画書」として落とし込む。というように、「目指す」ことを目的として作られる計画書を、「努力目標」の計画書と呼ぶことにします。
では、銀行対応の一貫として、計画書を銀行に提示する場合。その計画書が、努力目標の計画書だとなにが起きるのか?
銀行からは、「ほんとうに実現できるの?」と疑われる可能性が高くなります。目標が高ければ高いほど、その疑いは強くなるでしょう。結果として、「根拠」を求められます。
どうして実現できるといえるのか? という根拠です。未来に対する根拠を示すことは、多くの場合には難しく、結局は「がんばります」との精神論に終止することは少なくありません。
当然、銀行からの理解はえられず、計画書としての信頼度は下がります。よりスムーズに融資を受けるという点では、得策とは言えません。では、どうするか?
銀行用の計画書を作ることです。などと言うと、二重帳簿のようで聞こえが悪くはなりますが。作るべきは、「必達目標」の計画書です。努力目標に対して、必達目標。
ここで言う「必達目標」とは、銀行から借りているおカネ(これから借りようとしている分も含む)の返済をとどこおりなくできるだけの売上を目標にすることをいいます。
具体的な売上の金額(資金繰り分岐点売上高)の求め方については、こちらの記事をご覧いただくことにして↓
銀行には、その必達目標の計画書を提示しましょう。要は、より「手堅い計画書」を提示するということです。銀行は、「大成功」や「急成長」を望んでいるわけではありませんので、これでじゅうぶん。計画に対して、実績が上回る分には、問題になることもないでしょう。
だからといって、努力目標の計画書をつくるな、ということではありません。それはそれとして、銀行には提示することなく、社内用の計画書として運用・管理すればよいだけです。
まとめ
決算書を2つ作るのはいけませんが。計画書であれば2つ作ってもいい。むしろ、場合によっては積極的に2つ作ったほうがいい。それはなぜ? どんなメリットがある? というお話をしてきました。
先のことなどわからないから、計画書は作らない・作れない。とのハナシもありますが。先のことなどわからないからこそ、計画書を作る意味があります。わからないからこそ、複数の計画書を作ることで、いろいろな未来に備えるようにしてみましょう。