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会社が持続するために必要な売上=資金繰り分岐点売上高、というハナシ【前編】

会社が持続するために必要な売上=資金繰り分岐点売上高、というハナシ【前編】

会社にとって「持続」は大きな関心ごとです。

というわけで。会社が持続するために必要な売上、言い換えると「資金繰り分岐点売上高」についてお話をしていきます。

目次

借りたおカネは返さねばならない。税金も払わねばならない。

会社を「持続」させたいのであれば、考えなければいけないことがあります。それは、「いくらの売上があればいいのか?」です。

会社を持続させるためには、仕入をしたり、社員の給料や家賃を支払わなければいけません。支払うためには、「売上」が必要になります。では、「いくら」の売上があれば足りるのか?

その「いくら」を求める算式は、ズバリこちらです↓

資金繰り分岐点売上高の算式

資金繰り分岐点売上高 =[(固定費+{(借入返済額ー減価償却費)÷(1ー税率) }]÷(1ー変動費率)

な、な、なんじゃこりゃあ…! と、おののいてしまうかもしれませんが。ひとまずは、算式のなかに「借入返済額」と「税率」が含まれていることを確認しておきましょう。

これは、借入を返済する分の売上が必要なことを意味しています。加えて、税金を加味した売上を考える必要があることを意味しています。

したがって。借入金返済や税金を忘れて、「仕入や経費の分だけ稼げばいい」とはいかないんです。会社から出ていくおカネのすべて、言うなれば「資金繰り」を考えることから、会社を持続させるのに必要な売上高を「資金繰り分岐点売上高」と名付けることにします。

それではこのあと、「資金繰り分岐点売上高」の算式について、その意味を理解していきましょう。

会社にとって「持続」は大きな関心ごと。であるならば、「資金繰り分岐点売上高」をないがしろにはできないはずです。じっくりと、理解を深めていきましょう。

まずは基本形の理解から。

まずは、冒頭で見た「資金繰り分岐点売上高」の算式を理解するところからはじめましょう。算式を再掲します↓

資金繰り分岐点売上高の算式

資金繰り分岐点売上高 =[(固定費+{(借入返済額ー減価償却費)÷(1ー税率) }]÷(1ー変動費率)

見ているだけでアタマが痛くなる? そうですか、でもしばしガマンをお願いします。ひとつひとつ読み解いていけば、きっとだいじょうぶです。

シンプルに考えるために、算式から「一部」を取り除くことにします。こちらです↓

資金繰り分岐点売上高の算式(一部取り除き)

固定費÷(1ー変動費率)

もしかすると、「これ、見たことあるぞ」というヒトがいるかもしれません。そう、これは「損益分岐点売上高」の算式です。

損益分岐点とは、利益がゼロになるときの売上高。言い換えると、損益トントンまでもっていくには、いくらの売上高が必要か? それが損益分岐点売上高です。

で、「固定費」とは。売上高の増減と連動しない費用、を言います。たとえば、事務所の家賃。売上が増えたからといって家賃は増えませんし、売上が減ったからといって家賃は減りませんよね。家賃は一定です。

これに対して、「変動費」とは。売上高の増減と連動する費用、を言います。たとえば、商品の仕入。売上が増えれば仕入も増えますし、売上が減れば仕入も減ります。

えー!? 費用を固定費と変動費に分類するのメンドくさ。って言うか、どっちとも言えないようなものもあるし… と思われるのであれば、そのとおりです。なので、ざっくり考えるのであれば、「売上原価は変動費」、「販売管理費と営業外費用は固定費」ということにしてしまいましょう。

そのうえで、算式中の「変動費率」とは。「売上高に対する変動費の割合」です。売上原価を変動費と考えるのであれば、変動費率とはすなわち「売上原価率(売上原価 ÷ 売上高)」ですね。これでだいぶ、スッキリしたのではないでしょうか。

もっとちゃんと分けたいなら

統計学の「最小二乗法」を使って、Excelで固定費と変動費とに「合理的」に分ける方法もあります。ざっくりではなく、もっとちゃんと分けたいんだ! というのであれば、こちらの記事も参考にどうぞ↓

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あとは、具体例を見てしまったほうが早いでしょう。

たとえば、固定費(販売管理費+営業外費用)が 3,000万円、変動費率(売上原価率)が 40%の会社があったとします。この会社の「損益分岐点売上高」は、次のとおりです↓

損益分岐点売上高 = 3,000万円 ÷(1ー40%)= 5,000万円

これが正しいかどうか、確かめてみましょう。売上高が 5,000万円、売上原価率が 40%ということは、売上原価は 2,000万円です(5,000万円 × 40%)。よって、売上高から売上原価を差し引いた「売上総利益」は 3,000万円になります。

その売上総利益から、販売管理費と営業外費用の 3,000万円をマイナスしたら? ゼロですよね。利益がゼロ、損益トントンになるのは、5,000万円で正しかった! ということになります。

取り除いたモノを戻していく

ここからは、いちど取り除いたモノを算式に戻していきましょう。まずは「借入返済額」から↓

資金繰り分岐点売上高の算式(一部取り除き)

(固定費+借入返済額)÷(1ー変動費率)

上記の算式は、さきほどまでの算式に、いちど取り除いていた「借入返済額」を戻しただけです。

会社は、変動費と固定費のほかに「借入返済額」も支払わなければいけません。ちなみに、ここで言う「借入返済額」とは、借入金の元金返済額のこと。支払利息は固定費に含まれます。いっぽうで、元金返済額は費用ではないため、変動費と固定費とは別に考えなければいけません。

でもなんで、借入返済額が費用じゃないの? というのであれば。こちらの記事も参考にどうぞ↓

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それはそれとして。借入返済額の分も売り上げなきゃ、というわけで。固定費に借入返済額を足し算しています。と、言われても「なんのこっちゃ?」と思われるかもしれません。そこで、また具体例で考えてみましょう

固定費(販売管理費+営業外費用)が 3,000万円、変動費率(売上原価率)が 40%の会社があったとして。ここまでは先ほどの具体例と同じ。加えて、年間の借入返済額が 600万円あるとします。すると、算式は次のとおりです↓

(3,000万円+600万円)÷(1−40%)= 6,000万円

さきほど見た、税金を加味しなかった場合の売上高 5,000万円より、1,000万円も増えましたね。これが、「借金の恐ろしさ」です。では、6,000万円が正しいかどうか確かめてみましょう。

売上高が 6,000万円、売上原価率が 40%ということは、売上原価は 2,400万円です(6,000万円 × 40%)。よって、売上高から売上原価を差し引いた「売上総利益」は 3,600万円になります。

その売上総利益から、販売管理費と営業外費用の 3,000万円、借入返済額の 600万円をマイナスしたら?ゼロですよね。資金繰りがトントンになるのは、6,000万円で正しかった! ということになります。

さらに、取り除いたモノを戻していく

さらに、いちど取り除いたモノを算式に戻していきましょう。次は「減価償却費」です↓

資金繰り分岐点売上高の算式(一部取り除き)

(固定費+借入返済額ー減価償却費)÷(1ー変動費率)

上記の算式は、さきほどまでの算式に、いちど取り除いていた「減価償却費」を戻しただけです。

固定費から減価償却費をマイナスしているのはなぜなのか? それは、減価償却費は固定費のひとつではあるものの、おカネの支出をともなわない固定費だからです。減価償却費とは、固定資産の購入金額を分割した費用のこと。

大きな金額の固定資産をいちどに費用にしてしまうと、利益が激減してしまいます。固定資産はあるていどの年数使えることから、その年数で分割して費用にするのが合理的です。

そのうえで。おカネを支出したのは、固定資産を「買ったとき」になります。買ったときにおカネの支出は済んでいるのですから、減価償却費を計上してもおカネの支出はありません。だから、固定費のなかに含まれる減価償却費を除くために、算式ではマイナスしているのです。

ちょっと難易度高めの論点ではあります。もうちょっと解説が必要… ということであれば、こちらの記事も参考にどうぞ↓

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それはそれとして、また具体例で考えてみましょう。

固定費(販売管理費+営業外費用)が 3,000万円、変動費率(売上原価率)が 40%、年間の借入返済額が 600万円の会社があったとして。ここまでは先ほどの具体例と同じ。固定費のなかに減価償却費が 60万円あるとします。すると、算式は次のとおりです↓

(3,000万円ー60万円+600万円)÷(1−40%)= 5,900万円

さきほど見た売上高 6,000万円より、100万円ほど減りましたね。減価償却費 60万円分については、おカネを必要としないからです。では、5,900万円が正しいかどうか確かめてみましょう。

売上高が 5,900万円、売上原価率が 40%ということは、売上原価は 2,360万円です(5,900万円 × 40%)。よって、売上高から売上原価を差し引いた「売上総利益」は 3,540万円になります。

その売上総利益から、減価償却費 60万円を除いた販売管理費と営業外費用の 2,940万円、借入返済額の 600万円をマイナスしたら?ゼロですよね。資金繰りがトントンになるのは、5,900万円で正しかった! ということになります。

さいごにもういっちょ、取り除いたモノを戻してみる

いちど取り除いたモノが、もうひとつ残っています。「1ー税率」です。算式に戻していきましょう↓

資金繰り分岐点売上高の算式

資金繰り分岐点売上高 =[(固定費+{(借入返済額ー減価償却費)÷(1ー税率) }]÷(1ー変動費率)

上記の算式は、さきほどまでの算式に「1ー税率」を戻しただけです。

会社は、税金(法人税)を支払わなければいけません。その税金は、利益に対して税率を掛け算することで計算されます。そこで、支払わなければいけない税金分も加味するために、「借入返済額ー減価償却費」を「1ー税率」で割り算しています。

と、言われても。なんのこっちゃ? と思われるかもしれません。そこで、また具体例で考えてみましょう。

固定費(販売管理費+営業外費用)が 3,000万円、うち減価償却費が 60万円、変動費率(売上原価率)が 40%、年間の借入返済額が 600万円の会社があったとして。ここまでは先ほどの具体例と同じ。加えて、税率はざっくり 30%とします。法人税はだいたいそんなもんです。すると、算式は次のとおり↓

[(3,000万円+{(600万円ー60万円)÷(1ー30%) }]÷(1ー40%)= 6,285万円

さきほど見た、税金を加味しなかった場合の売上高 5,900万円よりも 385万円ほど増えましたね。これが、「税金の恐ろしさ」です。怖すぎです。税金を見逃しているとエライめにあう、ということです。

では、これが正しいかどうか確かめてみましょう。

売上高が 6,285万円、売上原価率が 40%ということは、売上原価は 2,514万円です(6,285万円 × 40%)。よって、売上高から売上原価を差し引いた「売上総利益」は 3,771万円になります。

その売上総利益から、販売管理費と営業外費用の 3,000万円をマイナスすると 771万円。これが会社の最終利益です。そこに、税率 30%を掛け算すると、税金は 231万円になります。

最終利益 771万円から税金 231万円をマイナスすると 540万円。これが、税金を払ったあと手元に残るであろう金額です。ここで、減価償却費 60万円はおカネの支出はありませんので、 540万円に足し戻します(最終利益を計算するときにいちどマイナスしているので)。

結果、600万円が手元に残っていることになります。ただし、別途、借入返済額 600万円を支払わなければいけません。かくして、手元のおカネはゼロになります。資金繰りがトントンになるのは、6,285万円で正しかった! ということが明らかになりました。

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まとめに代えて 〜 そして、派生を学びなさい。

会社にとって「持続」は大きな関心ごとです。

というわけで。会社が持続するために必要な売上、言い換えると「資金繰り分岐点売上高」について押さえておきましょう。

資金繰り分岐点売上高の算式

資金繰り分岐点売上高 =[(固定費+{(借入返済額ー減価償却費)÷(1ー税率) }]÷(1ー変動費率)

けれども、これでハナシが終わるわけではありません。まだ、続きがあります。上記の算式で求めた売上高よりも、実はもっと少ない売上でOK! というケースがあるのです。

それはいったいどういうケースなのか? 上記算式の「派生型」として、あらためてお話をしていきます。今回は、その前段まで。「前編」として、「後編」に続きます↓

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