銀行はつくっているキャッシュフロー計算書を、会社がつくらない、社長が見ていないというのではよろしくありません。そのキャッシュフロー計算書と決算書(貸借対照表・損益計算書)から、なにを読み取ればよいのか? というお話をしていきます。
とにかくまずは、キャッシュフロー計算書をつくるんだ。
社長が経営・財務の判断をするにあたって見ている書類に「決算書」があります。なお、中小企業における決算書とは「貸借対照表」と「損益計算書」だと言ってよいでしょう。
いっぽうで、大企業では決算書として作成が義務付けられているものに「キャッシュフロー計算書」があります。中小企業においては作成が任意であるため、「自社のキャッシュフロー計算書はつくったことがない」という社長は少なくありません。
が、銀行はつくっています。融資先の決算書をもとにして、キャッシュフロー計算書をつくっています。銀行はその内容も確認をしながら、融資の判断をしていることを覚えておきましょう。
だとすれば、社長もまた、キャッシュフロー計算書を作成して、その内容を確認しておくのがよいでしょう。では、キャッシュフロー計算書を作成したとして、社長は、そのキャッシュフロー計算書と決算書(貸借対照表・損益計算書)からなにを読み取ればよいのか?
おもなものを挙げると、次のとおりです ↓
- 資金と利益のズレ
- 休日の影響を受けているか
- フリーキャッシュフローはじゅうぶんか
それではこのあと、順番に確認していきましょう。
以下のサイトから、Excelファイルをダウンロードして作成することができます↓
中小企業の会計31問31答(平成21年指針改正対応版)ツール集 / 中小企業庁
キャッシュフロー計算書と決算書からなにを読みとるか
資金と利益のズレ
キャッシュフロー計算書と決算書(貸借対照表・損益計算書)からなにを読みとるか? まずは、「資金(おカネ)」と「利益」のズレを把握するところからはじめてみましょう。
もう少し具体的に言うと。「資金(おカネ)」とは、キャッシュフロー計算書の「営業キャッシュフロー」にあたります。これに対して「利益」とは、損益計算書の「経常利益」にあたります。
その「営業キャッシュフロー」と「経常利益」をそれぞれ、過去3期分、抜き出してみましょう。抜き出すことができたら、営業キャッシュフローの推移と経常利益の推移とを比較します。
このとき、それぞれが異なる動きをしている場合には注意が必要です。たとえば、経常利益は上昇傾向にあるのに、営業キャッシュフローは下降傾向にある、といったケースがありえます。
この点で、「おカネ(資金)と利益の動きは一致しない」というハナシは聞いたことがあるでしょう。これは、損益計算書に利益が計上されるタイミングと、おカネが動くタイミングは必ずしも一致しないよね、ということを言っています。
ところが、それは「短期的」に見たときのハナシであって、「中長期的」に見た場合には、「おカネと利益の動き」はおおむね一致をするものです。利益が増えれば、いつかはおカネも増える。
ゆえに、「営業キャッシュフロー(おカネ)」と「経常利益(利益)」とを、3期分という「中長期」で見たときには、おおむね動きは一致するはずです。もし、一致しないのだとすれば、それを銀行はどう見るか?
粉飾決算を疑います。粉飾決算とは、利益を水増しする行為です。とはいえ、利益は水増しできても、おカネを水増しすることはできません。利益は操作できても、銀行の預金残高を操作することはできないからです。
これを聞いて、「いやいや、ウチは粉飾などしていない」とおもわれるかもしれませんが。それは、尚早だといえます。なぜなら、「悪意なき粉飾・自覚なき粉飾」というものがあるからです。
この場合、社長には粉飾の認識がないのにもかかわらず、銀行からは粉飾を疑われている可能性があります。じゅうぶんに注意が必要です ↓
また、売上が急上昇しているような会社では、経常利益が増えているのに、営業キャッシュフローは減っている… という現象が起きることがあります。売上が増えると、売掛金(売上代金の未回収)も増えるために、営業キャッシュフローはマイナスの影響を受けるからです。
この場合には、会社の状況(売上増加、売掛金増加の内容など)を、銀行に対して説明をするのがよいでしょう。銀行の粉飾に対する疑いを解消するのに役立つはずです。
休日の影響を受けているか
決算日が休日の場合には、キャッシュフロー計算書や決算書が影響を受けることがあります。たとえば、売掛金。ふだんは月末入金でも、決算日(月末)が休日のために、決算日後(翌月)に入金される、というようなケースです。
すると、決算書には、例年よりも多額の売掛金が掲載されることになります。決算書をもとにつくられるキャッシュフロー計算書もまた、影響を受けることは言うまでもありません(営業キャッシュフローがマイナスの影響を受ける)。
これを見た銀行は、粉飾決算を疑うかもしれませんので注意が必要です。つまり、売掛金が例年よりも多いということは、架空売上を計上しているのか? それとも、回収できない売掛金(不良債権)を隠しているのか? といった具合です。
したがって、会社としては、銀行に決算書を提示するときに、「休日の影響」を具体的な数字で説明するのがよいでしょう。売掛金であれば、「決算日明けに入金された売掛金が 〇〇万円あります」というような説明です。
売掛金のほかに、買掛金や未払金なども「休日の影響」を受けることが考えられます。
そのような影響を排除するために、月末が休日の場合には月内入金の約束をする、買掛金や未払金は月内に支払ってしまう、という方法もあるでしょう。とはいえ、ある意味では現実的ではないので、多くの会社では「休日の影響」が決算書に残るものと想像します。
結果として、前述したとおり、「休日の影響」を銀行に説明するというのが現実的な対応になるでしょう。
なお、キャッシュフロー計算書については、「休日の影響」を排除したうえで作成することをおすすめします。中小企業にとって、キャッシュフロー計算書は「内部資料」に過ぎないからです。社長にとって、役立つカタチに加工することになんらの問題もありません。
逆に、休日の影響を受けたままのキャッシュフロー計算書となると、過去との比較がしづらくなるため、社長にとっては役に立ちづらい書類となってしまいます。
フリーキャッシュフローはじゅうぶんか
キャッシュフロー計算書について、「フリーキャッシュフロー」という指標があります。算式であらわすと、「フリーキャッシュフロー = 営業キャッシュフロー + 投資キャッシュフロー」です。
理想でいえば、営業キャッシュフローがプラスであり、その金額の範囲内で設備投資をする。そのときの設備投資の金額が、投資キャッシュフローのマイナスとしてあらわれます。結果、フリーキャッシュフローはプラス。これが、理想形です。
そのうえで、フリーキャッシュフローがどれくらいあるか? がポイントになります。なぜなら、フリーキャッシュフローが、借りたおカネの返済原資になるからです。言い換えると、フリーキャッシュフローがなければ、会社は借りたおカネを返済することができません。
銀行としては困ってしまいますから、銀行は、融資先のフリーキャッシュフローに注目をしていることを理解しておきましょう。では、社長は自社のフリーキャッシュフローをどのように見ればよいか?
フリーキャッシュフローがプラスであればいい、と考えるのでは不十分です。フリーキャッシュフローがプラスであるのは大前提として、「必要な投資ができているのか?」にも目を向けてみましょう。
ここでもういちど、フリーキャッシュフローの算式をふりかえってみます。フリーキャッシュフローは、「営業キャッシュフロー + 投資キャッシュフロー」で計算されるのでした。では、自社のフリーキャッシュフローを見たときに、投資キャッシュフローはどれほどあるのか?
極端なケースとして、まったくのゼロだとしたら。それは、投資ができていないことをあらわしています。先行投資という言葉があるように、将来にわたって利益をあげるためには、継続的な投資が必要です。だとすれば、投資キャッシュフローは毎期、相応の金額があるのがよいでしょう。
にもかかわらず、投資キャッシュフローがないのだとすれば、投資をするおカネが無いのか、社長が投資の必要性を理解していないか、ということになってしまいます。また、銀行からそういう見方をされたとしても文句はいえません。
ゆえに、社長は、毎期の投資キャッシュフローの金額にも注意をしつつ、フリーキャッシュフローのプラス(それも、借入金の返済ができるだけの)を考えるようにしましょう。
ちなみに、「ウチは設備投資をするような業種ではない」とおもわれるかもしれませんが。設備はなくても、投資自体はどのような業種であっても必要なものです。研究開発費、人材採用・教育費なども、もっと身近な言い方をすれば、書籍代や研修受講料なども投資のうちです。
それらは、投資キャッシュフローにはあらわれませんが、営業キャッシュフローのなかにあらわれます。そのあたりもふまえて、「必要な投資」ができているかの確認をするようにしましょう。
なお、必要な投資ができていることを、銀行に伝える(アピールする)のも有効な銀行対応です。将来にわたって成長が期待できる会社だ、との見方につながります。
まとめ
キャッシュフロー計算書と決算書(貸借対照表・損益計算書)から、なにを読み取ればよいのか? というお話をしてきました。
銀行はつくっているキャッシュフロー計算書を、会社がつくらない、社長が見ていないというのではよろしくありません。見たことがないというのであれば、まずはキャッシュフロー計算書をつくるところからはじめてみましょう。