税理士は資金繰り表をつくれない、というハナシもありますが。つくれないのではなく、つくらないのだ!みたいな話と、税理士がつくる資金繰り表の「強み」や、資金繰り表の作成を税理士に任せる際の「注意点」などについても話をします。
たとえポジショントークだと云われても。
会社の銀行融資・銀行対応には、「資金繰り表」の作成が不可欠です。この点で、ときおり見聞きをすることとして、「税理士は資金繰り表をつくれない問題」があります。
税理士は「税金の専門家」であって、「財務(≒資金繰り表)の専門家」ではない、という論拠のようです。まぁたしかに、税理士になるにあたって「資金繰り表の作成」が必須ではありませんから。いわんとしていることはわかります。
とはいえ、結論を述べるのであれば、「税理士は資金繰り表をつくれないのではなくて、つくらない」ということです。などというと、「アンタは税理士だし、ポジショントークではないのか?」とおもわれるかもしれませんが。
もちろん、わたしにはわたしなりの論拠はありますので。このあとそんな話もしつつ、税理士がつくる資金繰り表の「強み」や、資金繰り表の作成を税理士に任せる際の「注意点」などについても話をしていきます。
- 税理士が資金繰り表をつくらないわけ
- 税理士がつくる資金繰り表の強み
- 資金繰り表の作成を任せる際の注意点
資金繰り表をつくっていない・つくれない社長には、いちど確認をいただきたい内容です。
税理士が資金繰り表をつくらないわけ
冒頭、「税理士は資金繰り表をつくれないのではなくて、つくらない」という話をしました。ではなぜ、税理士は資金繰り表を「つくらない」のか?
そもそも、契約の範囲外だからです。会社と税理士とのあいだで結ばれる「顧問契約」の内容を見たときに、契約範囲として「資金繰り表の作成」が明記されているケースはまれでしょう。
それもそのはず、顧問契約の「顧問」とは「税務顧問」がほとんどであって、「財務顧問」ではないからです。
ちなみに、「契約など結んでいない」という場合には、きちんと結びましょう。顧問契約に限りませんが、商売に関する約束事は「書面(電子契約含む)」に残すのは大切なことです。のちのち起きるかもしれないトラブルから、会社を守るために。
それはそれとして。いくら契約が「税務顧問」だとはいえ、その「関連業務」に「資金繰り表の作成が含まれる」という考え方だってあるだろう。とおもわれるのでしたら、そのとおりでしょう。
それでも、税理士が資金繰り表をつくらないのだとすれば、「おカネをもらえないから」です。
仮に、顧問料の月額が3万円だとして、当初契約をしたときに税理士が「資金繰り表の作成」を業務として想定していなかったとしたら。そりゃあ、資金繰り表をつくりませんよね、という話です。
なので、税理士と顧問契約を結ぶときには、社長が望む「業務範囲」をきちんと伝えるようおすすめします。とはいえ、契約を結んだあとに、資金繰り表の作成を税理士に頼みたいという場合には、あらためて税理士と話をして、料金を検討するのがよいでしょう。
このとき、「当初3万円で契約したのだから、その範囲内で資金繰り表をつくってほしい!」と考える社長は少なくないものと想像します。たしかに、その考え・思いはわかります。
ただ、税理士も「追加業務」をタダで対応することになるのはツラいわけなので、追加料金の支払いも検討したいところです。もちろん、現在の顧問料の状況によっては(提供サービスに対して顧問料が高い、とか)、必ずしも追加料金を支払うケースばかりではないでしょう。
そこは、ケースバイケースではありますが。いずれにせよ、「税理士が資金繰り表をつくる」にあたっては、「業務範囲と料金の再確認」が重要だと考えましょう。
税理士がつくる資金繰り表の強み
とはいえ、税理士がほんとうに資金繰り表をつくれるのか? と、おもわれるかもしれません。だいじょうぶです。
税理士が、資金繰り表の「しくみ」や「理屈」を理解できない、ということはまずありません。資金繰り表を作成するのに必要な「考え方の基礎」は、税理士試験の勉強や実務のなかで習得しているものだからです。ゆえに、税理士は資金繰り表をつくることができます。
むしろ、税理士がつくる資金繰り表には「強み」さえある、というのがわたしの考えです。
1つは、損益計画を元にした資金繰り表をつくれること。社長であれば、「利益とおカネの動きとは一致しない」という話を、いちどは聞いたことがあるでしょう。
この点で、損益計画とは「利益の計画(予測)」であり、資金繰り表とは「おカネの計画(予測)」です。つまり、損益計画と資金繰り表とは一致しません。言い換えると、利益が出ていたとしても、おカネが増えるとは限らない。その逆もしかりです。
ところが、資金繰り表をつくるばかりで、損益計画がなおざりだとしたらどうでしょう。おカネはあるけど赤字… というケースや、おカネがない理由がつかめない(利益に問題がある)というケースが起こりえます。
ゆえに、資金繰り表をつくるときには、まずは損益計画の策定、次いで、損益計画を元に資金繰り表を作成するのがセオリーです。ところが、「損益計画と資金繰り表との連動(発生主義と現金主義との関係性)」がわからないと、損益計画がなおざりになってしまいます。
税理士であれば、損益計画と資金繰り表との連動を理解できるため、その心配がありません。
それから、もうひとつ。税理士は「納税額の計算が得意」であるのも強みです。それこそ税金の専門家ですから、得意なのは当然ではありますが。それが、資金繰り表となんの関係があるのか?
資金繰り表は、おカネの出入りをあらわす書類ですから、将来の納税予定額も把握する必要があります。会社であれば、法人税や消費税の納税予定額です。
もし、その金額を見誤ってしまうと、資金繰りが大きく変わってしまいます。実際に、自社やコンサルタントが計算した納税予定額が間違っていて、決算で大慌てするケースがありました。
もちろん、自社やコンサルタントの計算だと「必ず間違える」などと言うつもりはありません。けれども、税理士であれば、間違える確率はかなり低いと言ってよいでしょう。
以上2点の強みから、資金繰り表の作成を税理士に任せるのも選択肢の1つです。
資金繰り表の作成を任せる際の注意点
では、資金繰り表の作成を税理士に任せる際の注意点についてもふれておきます。
1つは、「社長がなにもやらなくていいわけではない」ということです。税理士に依頼したからといっても、社長がなにもやらないでいると、実は税理士も資金繰り表がつくれません。
理由は、損益計画の策定にあります。前述したとおり、資金繰り表をつくる前提として、損益計画の策定が必要です。損益計画とは「売上計画ー経費計画=利益計画」であり、売上計画と利益計画を考えるのは社長の仕事になります。
とくに売上計画は、税理士が考えるものでもありませんし、考えることもできません。すると、損益計画はつくれないし、資金繰り表もつくれない… ということになるわけです。
したがって、資金繰り表の作成を税理士に任せるとしても、損益計画に関する情報は、社長が提供しなければいけないことを覚えておきましょう。
これに関連して、できあがった資金繰り表についても、社長は税理士に任せきりにしてはいけません。「銀行融資・銀行対応に適した資金繰り表」であるとは限らないからです。
税理士は「資金繰り表をつくる」ことはできますが、「銀行融資・銀行対応」まで考慮できるかどうかはまた別。資金繰り表を銀行に提示するのであれば、気をつけたほうがよいでしょう。
ちなみに、資金繰り表について銀行融資・銀行対応で注意すべき点は、こちらの記事を参考にどうぞ↓
もし、税理士がそこまで考慮できていない場合には、社長が考慮しなければいけません。資金繰り表の作成を税理士に任せたとしても、社長がなにもやらなくていいわけではないということです。
さらに、資金繰り表の作成自体も、いつまでも税理士に任せきりはおすすめできません。任せきりとなると、資金繰り表がほしいタイミングで手に入らない可能性があります。
資金繰り表は、経営判断・財務判断にだいじな情報ですから、ほしいときにないのでは困ってしまうでしょう。だとすれば、社長も資金繰り表をつくれるようになったほうがよいはずです。
なので、はじめのうちは、資金繰り表の作成を税理士に任せつつ、税理士からつくり方を教えてもらう、じぶんで学ぶなどして、いずれは社長みずから作成できるようになることをおすすめします。
まとめ
税理士は資金繰り表をつくれない、というハナシもありますが。実のところは、「つくれないのではなく、つくらない」のではないか、というお話をしました。
税理士がつくる資金繰り表の「強み」や、資金繰り表の作成を税理士に任せる際の「注意点」もあわせて押さえておきましょう。
いずれにせよ、銀行融資・銀行対応において、資金繰り表の作成は必須です。
- 税理士が資金繰り表をつくらないわけ
- 税理士がつくる資金繰り表の強み
- 資金繰り表の作成を任せる際の注意点