経営者保証の説明義務化は社長にメリットなのか?【会社の銀行融資】

経営者保証の説明義務化は社長にメリットなのか?【会社の銀行融資】

2023年4月以降、金融機関には「経営者保証の説明義務」が課される方向です。これは、銀行融資を受けている会社の社長にとってメリットなのか? 社長がすべきことやデメリットもふまえてお話をしていきます。

目次

メリットもあれば、デメリットもある。

2022年8月末に金融庁が公表した「2022事務年度 金融行政方針」には、「経営者保証に依存しない融資慣行の確立や、事業全体に対する担保権の早期制度化に取り組む。」との記載がありました。

そして、同年10月末には同じく金融庁から「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針等の一部改正案」が公表され、2023年4月以降、金融機関には「経営者保証の説明義務」が課される方向に向かっています。

そもそも、経営者保証とは「会社が金融機関から融資を受ける際、社長個人が会社の連帯保証人となること」です。したがって、社長にしてみれば、経営者保証は「なければないほうがよい」ものだと言えます。

経営者保証付きの融資となれば、会社が返済できなくなったときに、社長個人にまで返済義務が及ぶからです。

そんな経営者保証に関して、金融機関の説明義務化は社長にとってメリットなのか? について、このあとお話をしていきます。はじめに、結論を言っておきましょう。

メリットはあります。が、メリットを受けるためには社長にもすべきことがありますし、場合によってはデメリットが生じる可能性もあります。ゆえに、注意が必要です。

それでは、話をはじめていきましょう。

経営者保証の説明義務化によるメリット

現状、銀行が経営者保証をとる場合には、社長に対して「経営者保証の必要性」を説明することが推奨されています。なぜ、経営者保証なしでは融資ができないのか? その理由を説明しましょう、ということです。

ところが、実態は「ほぼ説明されていない(説明もなく経営者保証がとられている)」、あるいは、銀行側は説明したつもりでも「社長が理解できる説明内容ではない」という状況にあります(公表されている統計データによれば)。

そのような状況もあっての「このたびの説明義務化」です。金融庁がそう言うからには、金融機関も取り組まざるをえません。

説明義務化が実際にスタートすれば、銀行は「社長に対して経営者保証の説明をする」とともに、「その記録を保存しなければならない」ことになります。

また、経営者保証を必要とする場合には、銀行が「どうして保証が必要なのかの理由」や「会社がどこを改善すればよいのか」にも言及しなければなりません。

これらの義務をあからさまに怠れば、業務改善命令の対象にもなるため、銀行にとっては強烈なプレッシャーになることでしょう。

結果として、経営者保証をとられるにせよ・とられないにせよ、社長は「きちんと説明が受けられる」というのが、説明義務化によるメリットの1つです。

加えて、経営者保証なしの融資が受けやすくなるというメリットもあります。これまでは、説明義務がなかったことから、社長側の理解も不十分であり、必要以上に経営者保証をとられていた可能性を否定できないからです。

とはいえ、説明義務化によって、経営者保証なしの融資の基準が「甘くなる」わけではありません。もともと「経営者保証に関するガイドライン(以下、ガイドライン)」という基準があって、今後もそれが基準になります。

したがって、そのガイドラインが「いままで以上に、有効に運用されるようになる」というのが、説明義務化によるメリットだと言えるでしょう。繰り返しになりますが、けして基準が甘くなるわけではありません。

メリットを受けるために社長がすべきこと

経営者保証の説明義務化によるメリットについて話をしました。では、そのメリットを受けるために社長がすべきことについて考えてみましょう。

いくらメリットがあるといっても、何もせず黙っていれば、結局はメリットが受けられない… ということはありえます。

いちばんは、社長が「ガイドライン」の内容を理解することです。銀行も説明はしてくれますが、どこまでていねいに説明をしてくれるかはわかりません。社長自身が理解しているに越したことはないでしょう。

そのうえで、ガイドラインに示された基準を会社がクリアできるよう、社長は日ごろから改善に取り組むことが大切になります。では、ガイドラインの内容とは?

端的に言うと、ガイドラインには「3つの要件」が示されています。次のとおりです↓

  1. 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
  2. 財務基盤の強化
  3. 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

これだけ見ていると、「なんのこっちゃ?」とおもわれることでしょう。だからこそ、ガイドラインの内容について理解する、勉強することが必要なのです。そのとっかかりとして、こちらの記事もどうぞ↓

前述したとおり、銀行が経営者保証付きの融資をするときには、「経営者保証が必要な理由」の説明や「改善すべき点」の指摘をすることになります。これを聞いて、社長が感情的になって怒り出したり、キレたりしないようにしましょう。

あくまで、拠り所は「ガイドライン」です。もし、反論するにしても、ガイドラインに沿って意見を伝えられるようにしなければいけません。

なお、説明義務化によって、銀行は「ガイドラインに対する取組方針を公表する」ことが望ましい、とされています。ですから、説明義務化のスタート以降、社長は自社の取引銀行の「言動・動向」に関心を持つことも大切です。

銀行ごとに、説明義務化への取り組み姿勢には差が出るでしょうから、銀行選びの要素の1つにもなるでしょう。

経営者保証の説明義務化によるデメリット

ものごとには、メリットもあればデメリットもあるものです。経営者保証の説明義務化についても、やはりメリットだけではありません。デメリットもあるものと考えます。

それは、「融資が受けにくくなるかもしれない」というデメリットです。

2023年4月以降、経営者保証の説明義務化がはじまれば、文字どおり、銀行には「説明義務」が生じます。前述したとおり、社長への説明や、結果の記録などが必要であり、いままで以上に融資事務の負担が増えることでしょう。

1人の銀行担当者が融資事務に使える時間は限られていますから、放っておけば、融資件数が減ってしまいます。銀行としてはそれも困るわけで、それならどうするか?

「できるだけ負担が小さくて済む会社」から優先して融資をすることが考えられます。では、「できるだけ負担が小さくて済む会社」とは? たとえば、「ガイドラインに対する理解がある社長の会社」です。

いっぽうで、ガイドラインのことがさっぱりわからず、銀行の説明に対しても感情的に反抗をするばかり。改善点についても聞く耳を持たない… となれば、銀行担当者の足は遠のくものでしょう。

すると、そういった会社は融資が受けにくくなるかもしれません。なので、社長はガイドラインについて理解を深めましょう、というのはお話をしたとおりです。

なお、ガイドラインについて理解をしている社長の会社でも、デメリットが生じる可能性があります。説明義務化のスタート直後は、一時的に銀行が混乱をしたり、融資に慎重になることもありえるため、やはり融資が受けにくくなるかもしれないからです。

もともと経営者保証をとられていない会社は別として、これまで経営者保証をとられている会社はとくに、「いまのうち(説明義務化がはじまるまで)」に、あらかじめ融資を受けておくということも検討しておくとよいでしょう。

まとめ

2023年4月以降、金融機関には「経営者保証の説明義務」が課される方向です。これは、銀行融資を受けている会社の社長にとってメリットなのか? について、お話をしてきました。

たしかに、メリットはありますが、そのメリットを受けられるよう社長がすべきこともあります。また、場合によってはデメリットが生じる可能性があることも理解しておきましょう。

経営者保証の説明義務化は社長にメリットなのか?【会社の銀行融資】

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