銀行が見ている「社長の資質」に関わることとして、「決算書を読めるかどうか?」が挙げられます。では、決算書を読めるとは具体的にどういうことなのか? について、お話をしていきます。
簿記・仕訳は経理処理に過ぎない。
銀行は融資の審査をする際、「社長の資質」も加味しています。
社長の資質とは? を具体的に考えるといろいろあるわけですが、そのなかの1つに挙げられるのが「計数管理の能力」。言い換えるなら、「決算書を読めるかどうか」です。
では、決算書を読めるとはどういうことなのか? たとえば、簿記がわかる、仕訳ができる、というのも1つの視点ではありますが、それらは「経理処理に過ぎない」とも言えます。
それよりも、社長に必要なことは「数字を経営に活かす」ことであり、「数字を経営判断に活かす」ことです。逆に、自社の数字を把握していなかったり、数字よりも感覚や感情優先で経営をしたり… となると、銀行は心配になります。
というわけで、社長は「決算書を読める」ように、「数字を経営に活かす」ことができるようになりましょう。
とはいえ、数字を経営に活かすと言っても、いったいどんな「数字」を見ればよいというのか? 銀行が考える「決算書を読める社長」という点で言えば、おもに3つあります↓
- 増減の理由
- 必要な売上高
- 資金繰り予測
それではこのあと、順番に確認していきましょう。
決算書を読める社長が見ている数字
増減の理由
数字そのものではありませんが、決算書を読める社長は「増減の理由」を把握しているものです。
たとえば、前年の仕入と今年の仕入を比べたときに、なぜ今年の仕入が減っているのか? 前月の在庫(棚卸資産)と今月の在庫を比べたときに、なぜ今月の在庫が増えているのか? など。
この点で、銀行は「増減の理由」に注目していることを覚えておきましょう。過去から現在までの決算書を並べ、過去から現在までの試算表を並べ、増減が大きな項目(勘定科目)があれば、なぜ増減しているのか?
増減の理由を知ることは、「変化の原因」を知ることであり、変化の原因が「良いものか・悪いものか」が、融資の判断に影響することになります。
では、前年に比べて、売上が増えている場合はどうでしょうか。たとえば、社長が「新商品が売れ始めた」という理由を把握していれば、銀行は「この先も期待できる」と考えられるはずです。
いっぽう、社長が理由を特定できないということになると、たとえ売上が増えていたとしても、銀行は「たまたま(この先も続くかは不明)」と考えざるをえません。
また、以前よりも原価率が上がっている場合、その理由を銀行がたずねても、社長が回答できないようであれば、銀行は不安になるでしょう。原価率が上がれば利益が減るのであり、その理由がわからないのであれば、社長は「対策を打てない・打っていない」ことになるからです。
結果として、そのような社長の会社は融資が受けにくくなってしまいます。
ですから、社長は決算書や試算表を時系列で眺めてみて、大きな増減がある項目については、増減理由を把握するクセをつけましょう。
「決算書や試算表を見ましょう」というと、「簿記や仕訳がわからない…」と及び腰になる社長もいます。が、増減の理由であれば、必ずしも簿記や仕訳の知識が必要になるわけではありません。
必要な売上高
決算書を読める社長は、決算書の数字から「必要な売上高」を把握しています。必要な売上高とは、自社の「存続」に必要な売上高がいくらであるか? の金額です。
言い換えると、いくらの売上があれば、利益がマイナスにならずに済むのか(=利益トントン)ということであり、これを「損益分岐点売上高」と呼びます。
算式であらわすと、「損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1- 変動費率)」です。固定費ってなに? 変動費率ってなんだ? というハナシは別記事に譲るとして↓
損益分岐点売上高を把握することによって、社長は「必要な売上高」を把握することができるようになります。あとは、その損益分岐点売上高に対して、実際の売上高に「どれだけの余裕があるのか」、あるいは、実際の売上高が「どれだけ不足しているのか」です。
ところが、損益分岐点売上高を把握していない社長は、それらがわかりません。どれだけの余裕があるのかわからなければ、ちょっとしたことで赤字に転落するかもしれず。どれだけ不足しているのかがわからなければ、売上アップの数値目標が立てられないことになります。
銀行としては、極めて不安な状況です。当然、そういった社長の会社は、融資が受けにくくなります。
なお、損益分岐点売上高とは似て非なるものが、「資金繰り分岐点売上高」です。資金繰り分岐点売上高とは、資金収支がマイナスにならずに済む売上高がいくらなのか? をいいます。
前述した「損益分岐点売上高」は、利益の分岐点であり、利益が分岐点を超えているからといって、必ずしも資金収支がプラスになるわけではありません。
たとえば、銀行への返済原資は「税引後利益」です。税金を支払ってなお残る利益があってはじめて、借りたおカネの返済ができます。だとすれば、銀行借入がある会社は、利益がゼロ(損益分岐点売上高)の場合、返済額分だけ資金収支がマイナスになるわけです。
すると、いずれ資金ショートを起こします。そのようなことがないように、社長は「資金繰り分岐点売上高」も把握しておきましょう。くわしくはこちらの記事をどうぞ↓
資金繰り予測
いましがた、「資金繰り」に関する話をしました。資金繰りは、会社の「生命線」です。言うまでもありませんが、資金ショート(現預金ゼロ)となれば、会社は倒産してしまいます。おしまいです。
銀行からすれば、「貸したおカネを返してもらえない」ということであり、資金繰りは「銀行にとって最大の関心事」だと言ってもよいでしょう。
この点で、「資金繰り予測」が役立ちます。文字どおり、資金繰りの予測です。具体的には、「資金繰り予定表」をつくって、向こう6ヶ月〜1年ていどの入出金の動き、毎月末の預金残高を予測します。
ところが、資金繰り予定表をつくっている社長・つくれる社長は、けして多くありません。資金繰りは会社の生命線であるにもかかわらず、資金繰り予定表がないのでは、銀行が不安になるのもしかたのないことです。
銀行以前に、社長自身も、資金繰り予定がわからなければ不安でしょうから、資金繰り予定表をつくれるようになりましょう。つくりかたについては、こちらの記事を参考にどうぞ↓
資金繰りと言うと、「決算書(あるいは試算表)の現預金残高」を見ればわかるだろう」と考える社長がいます。ですが、それは「過去」の数字に過ぎません。
銀行が知りたいのは、「貸したおカネをこの先も返してもらえるか」であり、「将来」の現預金残高です。なので、銀行が考える「決算書を読める社長」とは、「決算書をもとに、将来の現預金残高を把握している社長」にほかなりません。
なお、資金繰り予定表をつくるときには、「減収時のシナリオ」もつくっておくことをおすすめします。たとえば、「売上が 30%減少したとき」などの資金繰り予定表です。
起こりうる減収を想定しておくことで、社長は早めの対応が可能になります。減収時のシナリオがあることを銀行が知れば、「用意周到な社長だ」という見方にもつながるでしょう。
まとめ
銀行が見ている「社長の資質」に関わることとして、「決算書を読めるかどうか?」が挙げられます。では、決算書を読めるとは具体的にどういうことなのか? について、お話をしてきました。
経営に必要な数字を把握して、「数字をもとに経営判断できる社長」が銀行から好まれることを覚えておきましょう。もちろん、銀行から好まれるばかりではなく、そもそも社長にとって必要なことでもあります。
- 増減の理由
- 必要な売上高
- 資金繰り予測