会社の借金には、良い借金と悪い借金とがあります。その見分け方についてのお話です。借金はすべて悪いものとしてひとくくりにしていると、必要以上に資金繰りが悪くなってしまいます。
借金をひとくくりにすると資金繰りが悪くなる。
会社における借金について、「良い借金」と「悪い借金」という考え方があります。
って、いやいや、借金に良いものなんてないだろう? と、おもわれるかもしれませんが。実は、そうでもないのです。借金には悪いものもあれば、良いものもあります。
というわけで、その「見分け方」を確認していきましょう。ずばり、こちらです↓
- 借金に見合う資産がある
- 借金に見合う利益が増えている
- 自社の信用になっている
- 価値なき資産が増えている
- 赤字が増えている
- 自社の信用を壊している
それではこのあと、順番に解説をしていきます。
借金をひとくくりにすることがないように、すべてを悪いものとして、借金を毛嫌いすることがないように気をつけましょう。必要な借金まで嫌うと、必要以上に資金繰りが悪くなります。
良い借金とは…?
借金に見合う資産がある
会社の借金として、「銀行借入」をイメージしてみましょう。いま、1,000万円のおカネを銀行から借りるとします。うわ〜、1,000万円も借金が増えてしまったぁ… という見方もありますが。
1,000万円の借金が増えたのと同時に、1,000万円のおカネ(預金)も増えているはずです。つまり、この段階であれば、すぐに「完済できる」のですから、実質的な借金はゼロだと言えます。
というように、借金に見合う財産(この場合はおカネ)があれば、良い借金なのです。なにが良いのか? おカネが増えて、資金繰りに余裕ができるのが良い、ということになります。
極端な例ですが、「借金が0、おカネも0」の会社と、「借金が 1,000万円、でも、おカネが 1,000万円」の会社と、どちらが資金繰りは安心・安全か? と言えば、後者でしょう。
会社は、おカネがなくなればつぶれてしまうのですから、借金があったとしてもおカネはあったほうがいい、という考え方はあるはずです。
なお、借金に見合う財産はおカネに限りません。借りたおカネで、なにか資産を買いました、という場合。その資産の価値が、借金に見合うものであれば問題ないと言えます。
たとえば、自社の製品をつくるための機械設備を買いました、というケース。1,000万円の借入で 1,000万円の機械設備を買ったのであれば、この時点では借金に見合っています。
これを聞いて、「そんなのあたりまえだろう」とおもわれるかもしれませんが。借金に見合わない資産というのもありますので、そちらは「悪い借金とは…」として後述します。
借金に見合う利益が増えている
さきほどの機械設備の例で考えてみましょう。1,000万円の借入については、返済をしなければいけません。ところが、機械設備は使っていますから、機械設備を換金して返済するわけにもいきません。
では、どうするか? 当然、機械設備を使って増えた利益で返済します。だとしたら…? 借金に見合う利益が増えていなければいけない、ということです。
仮に、1,000万円を毎年 100万円ずつ 10年で返済するのであれば、毎年 100万円の利益が必要になります。それだけの利益を生み出せなければ、手元のおカネを取り崩して返済するほかありません。
そのような状態を「過剰投資」と呼びます。ですから、過剰投資にならないように、借金をして資産を買う場合には、「資産が生み出す利益 > 返済」になるかどうかを検討することが大切です。
ちなみに、資産を買うのではなく、「運転資金(仕入代金や経費を支払うおカネ)」としての借入であれば、返済をするための利益は必要ありません。
返済の原資は、「売上債権(売掛金・受取手形)」や「棚卸資産(在庫)」であって、利益がなくても返済することはできるからです。このあたり、詳しくはこちらの記事もどうぞ↓
何にせよ、借金に見合う利益が増えている限り、悪い借金ではありません。むしろ、借金をすることで、その分だけ資金繰りに余裕ができるのですから、良い借金だとも考えられるわけです。
自社の信用になっている
銀行借入に関して言えば、その借入は「自社の信用」にもなります。
銀行はだれかれ構わずおカネを貸したりはしません。銀行は「信用できる相手」にしかおカネを貸しませんから、銀行借入があるということは「銀行から借入ができる会社」という信用になるのです。
逆に、銀行借入がまったくない会社はどうか? というと。銀行から借入したくてもできないほど悪い会社、と見られる可能性があります。
この点で、とある銀行の元支店長さんは、「無借金の会社には融資をしないようにしていた」と言っていました。すべての銀行がそうではないにせよ、そういう見方もあるということです。
だとすれば、銀行借入がある(つまり、借金がある)のは「自社の信用」でもあり、その信用によって、より銀行借入がしやすくなるのはメリットだと言えるでしょう。
自社の信用になる借金は良い借金だ、とも言えるはずです。
悪い借金とは…?
価値なき資産が増えている
良い借金として、「借金に見合う資産が増えている」と前述しました。いっぽうで、「価値なき資産が増えている」のだとすれば、それは悪い借金です。
価値なき資産とはすなわち、「借金に見合わない資産」になります。
たとえば、借りたおカネで 1,000万円の株を買いました、というケース。その株が、時価 100万円まで値下がりしていたとしたらどうでしょう? 借金に見合わない資産ですよね。
そもそも、借りたおカネで株を買うこと自体も問題なのですが。それはさておき、借金に見合わない資産となると、いずれ資金繰りに支障をきたすことはまちがいありません。換金しても、借金を返済できるだけのおカネにはならないからです。
似たようなところでは、社長に対する貸付金も挙げられます。銀行から会社が借りたおカネを、社長個人に貸し付けてしまうケースはあるものです。
貸し付けたおカネを社長が返済できればよいのですが、返済できないこともあります。それどころか、どんどん貸付金が増えていくことさえあります。
会社から見れば、「回収できない貸付金」であり、いうなれば不良債権です。これまた、借金に見合わない資産となります。銀行からは問題視されて、以後の融資が受けにくくなるところです。
というわけで、借金したおカネを使う場合には「価値なき資産が増える」ことがないように、気をつけなければいけません。
赤字が増えている
良い借金として、「借金に見合う利益が増えている」と前述しました。反対に、借金に見合う利益が増えていなければ問題です。悪い借金だと言えます。
その最たる例が、借金をしたうえで赤字が増えているケースです。借入をして、1,000万円の機械設備を買いました。ところが、販売がふるわず、毎年赤字が出ている…
だとすれば、返済原資である利益がないのですから、手元のおカネを取り崩して返済しなければなりません。これが「過剰投資」だという話はすでにしました。
似たようなところでは、豪華すぎる社長車なども一例です。借入で 1,000万円のクルマを買いました。これに対して、金銭的な利益は特に増えません… という場合。いうまでもなく、資金繰りを悪くします。
社長車を買うな! というハナシをしているのではありません。あくまで、クルマを買ったことによる、資金繰りへの影響の話をしています。
したがって、借金をしたおカネを使う場合には「赤字が増える」ことがないように、気をつけましょう。
借金をすることが問題なのではありません、赤字が増えることが問題なのです。ここを取り違えると、「借金=すべて悪」という勘違いをしてしまうことになります。
自社の信用を壊している
良い借金として、「自社の信用になっている」と前述しました。いっぽいうで、自社の信用を壊す借金というものもあります。
銀行借入をしたのち、たびたび返済に遅れてしまう… 当然、信用を失います。すると、「借入が信用になる」という話はなくなってしまうことを理解しておきましょう。
借りたおカネを、約束どおりに返済しているから信用にもなるのです。預金口座の残高不足で、うっかり返済に遅れてしまう… などということがないようにしましょう。
また、借入時に銀行に伝えていた「資金使途(借りたおカネの使いみち)」とは違うことにおカネを使ってしまうと、やはり、信用を失うことになります。ウソをついた、という見方です。
せっかく銀行借入できたのに、その後の行動で自社の信用を壊すことがないように気をつけましょう。
まとめ
会社の借金には、良い借金と悪い借金とがあります。その見分け方についてのお話をしました。
借金はすべて悪いものとしてひとくくりにしていると、必要以上に資金繰りが悪くなってしまいますから、じゅうぶんに気をつけましょう。世の中は「借金=悪」のイメージが優勢です。
- 借金に見合う資産がある
- 借金に見合う利益が増えている
- 自社の信用になっている
- 価値なき資産が増えている
- 赤字が増えている
- 自社の信用を壊している