事業性評価という言葉が使われるようになって、長い時間がたちました。現状、そこまで浸透しているわけではないものの、これから先、中小企業が事業性評価を避けられない。そのワケについてお話をします。
事業性評価はこれからがはじまり
会社の銀行融資について。「事業性評価」という言葉が使われるようになって、もうすぐ10年になろうとしています。が、そこまで浸透していない…というのが現状だといってよいでしょう。
原因はいろいろありますが。おもなところでは、事業性評価よりも銀行再編が先行してしまったこと、加えて、コロナ騒動が起きたこと。では、これから先はどうなのか?
わたしは、中小企業が「銀行による事業性評価」を避けられないものと考えています。ちなみに、事業性評価とは「財務データの良し悪しや、担保・保証の有無に依存せずに、事業の内容や将来性を評価する」という考え方です。
言い換えると、これまでは「財務データの良し悪しや、担保・保証の有無に依存」しすぎていたことになります。そのような状況をあらためるべく、金融庁は「事業性評価(による融資)」を押し出してきました。
社長はこれを「他人事」としていてはいけません。なぜなら、事業性評価は銀行が独力ですることは困難だからです。「事業の内容や将来性」を理解するには、会社側からの協力(情報提供)が欠かせません。
そのあたりは、具体的な協力についてはこちらの記事も参考にどうぞ↓
話を戻して、なぜ、これから先は、中小企業が銀行の事業性評価を避けられないのか?おもな理由は次のとおりです↓
- 銀行再編では足りない
- メインバンク制の復活
- 金利上昇のあおり
このあと、順番に解説をしていきます。
中小企業が銀行の事業性評価を避けられない理由
銀行再編では足りない
現在、地方銀行を中心に銀行再編(提携・統合・合併)が進んでいます。人口減少・企業減少によって、銀行業界は厳しい状況にありますが、再編によって「合理化」することで乗り切ろうというのがおもな狙いです。
では、再編「だけ」で、本当に銀行業界は厳しい状況を脱することができるのか?といえば、疑問が残ります。
取引先(=融資先)の会社もまた、人口減少・企業減少の影響によって、商売がふるわずに倒産・廃業してしまったり。そこまでいたらずとも、商売がふるわなければ、前向きな資金ニーズ(増加運転資金や設備資金)も生まれません。
すると、銀行は結局、取引先への融資も減って、再編による合理化も帳消しになってしまうのではないか?ということが言われていますし、金融庁もそのように考えています。
そこで、事業性評価です。事業性評価によって、取引先の表面的な情報だけではなく、事業の内容や将来性といった「本質的」な情報を得ることで、銀行は「本業支援」に乗り出すことが可能です。
本業支援とは、取引先の事業支援であり、経営や財務、労務に関するコンサルティング、ビジネスマッチング、事業承継・M&A支援など。それらによる手数料収入はもちろん、本業支援によって取引先の商売が儲かれば、前向きな資金ニーズが生まれ、銀行は融資でも儲かるわけです。
つまり、銀行が再編後も生き残るためには、取引先および銀行周辺地域の活性化や成長が欠かせず、そのために銀行ができること・すべきことが「事業性評価」だといえます。
コロナ騒動も収束したいま、いよいよ事業性評価は本格化の過程にあり、中小企業が避けることはできないものと考えておくのがよいでしょう。
メインバンク制の復活
最近では、メインバンク制の復活などといわれるようになりました。以前から、メインバンクという考え方はありましたが、今後はよりメインバンク化が顕著になるということです。
ここでいう「メインバンク化」とは、銀行による取引先の絞り込みを意味します。これまでは、銀行どうしの競争から、数多くの取引先に融資をしてきたわけですが、メインバンク先に集中することで取引先の数を減らす狙いです。
ではなぜ、銀行が取引先の数を減らそうとしているのか?端的にいえば、銀行自身が疲弊をしているからです。人口減少もあって、銀行員の数が減っています。そのなかで、たくさんの取引先に対応することで、銀行員が嫌気して退職が増えているとのハナシもあるのです。
この点、金融庁もまた、銀行に対して取引先数を減らすようにといっています。そのうえで、メインバンク先の支援にチカラを入れよ、ということです。
メインバンク先の支援とは、すなわち、前述した「本業支援」にほかなりません。取引先の数が減った分、メインバンク先の支援に集中することで、メインバンク先の事業の持続・成長に貢献をする。結果、資金ニーズが増えれば、取引先の数が減ってもやっていけますよね?という理屈です。
もはやいうまでもありませんが、本業支援には、事業性評価がツキモノなのであり、メインバンク制の復活と事業性評価はセットであることを理解しておきましょう。
すると、中小企業は事業性評価を避けることができないわけです。
なお、このような状況で、社長が銀行の事業性評価に協力をしない・できないとどうなるか?やりにくさを感じる銀行が離れていくことで、メインバンクがなくなってしまった…ということもありえます。
金利上昇のあおり
ご存知のとおり、今後は金利上昇が予想されます。日銀がマイナス金利を解除すれば、多かれ少なかれ、いまよりは融資金利も上昇していくことになるでしょう。
これを受けて、銀行も「金利のある世界」に向け、着々と準備を進めている、というハナシがあります。金利引き上げをいかにして、取引先に説明し、納得してもらうかの訓練とか。
それはさておき、融資金利が上がれば、融資を受ける会社側のリスクは上がります。金利負担が増えれば、収益力(=返済力)に不安がある会社は、返済できない可能性が高まるからです。
よって、世の中の金利が上がると、銀行は融資を渋る傾向にあります。それでもなお、会社が融資を受け続けるにはどうするか?あるいは、それでもなお、銀行が融資をするにはどうするか?
1つの手段が「事業性評価」です。取引先の事業の内容や将来性を評価することで、取引先の「本質的」な収益力をつかむことができれば、銀行も融資を検討しやすくなります。
いっぽうで、事業性評価ができなければ、相対的に、融資を検討しづらくなるわけで、会社は融資が受けづらくなるのが問題です。
また、事業性評価なしに融資を受けることはできたとしても、リスクが高いと見られれば、融資金利はさらに高くなることでしょう。これが、会社にとってデメリットであることはあきらかです。
よって、今後、金利上昇が進めば、ますます事業性評価の出番は増えるし、中小企業が事業性評価を避けられない状況になるものと考えておきましょう。
まとめ
「事業性評価」という言葉が使われるようになって、もうすぐ10年になろうとしています。現状、そこまで浸透しているわけではないものの、これから先、中小企業が事業性評価を避けられない。そのワケについてお話をしました。
事業性評価を避けられないということは、社長が事業性評価を理解し、銀行に対する協力(情報提供)が重要になるということです。それができなければ、融資が受けにくくなったり、融資条件が悪くなるものと考えておきましょう。
- 銀行再編では足りない
- メインバンク制の復活
- 金利上昇のあおり