キャッシュフロー計算書って、どこをみればいいんだ?
財務諸表のひとつでありながら。貸借対照表や損益計算書ほどになじみがないのがキャッシュフロー計算書。見方がわからない、という人は少なくありません。
とはいえ、財務諸表の一翼を担うキャッシュフロー計算書。なおざりにするにはちと惜しい。ということで、キャッシュロー計算書の見方についてお話しします。
キャッシュフロー計算書の見方 3つのポイント
ずばり。キャッシュフロー計算書で見るべきポイント、知るべきポイントは3つです。
- キャッシュ(現金・預金)は増えたのか、減ったのか?
- 営業活動キャッシュフローはプラスなのか?営業利益とのかい離はどうか?
- 3つのキャッシュフローの関係性はどうか?
以上、3つのポイントを押さえることで、「おカネの流れぐあいを把握する」のがキャッシュフロー計算書に求める役割です。
キャッシュフロー計算書の「つくり」を知っておこう
3つのポイントに入る前に。キャッシュフロー計算書の「つくり(構造)」をカンタンに押さえておきましょう。
キャッシュフロー計算書のひな形
中小企業庁「中小企業の会計34問34答」で提供されている、キャッシュフロー計算書のひな形は次のとおりです。
ひな形を要約する
中小企業庁のひな形を見ているとアタマが痛くなるので、要約することにします。次のとおりです。
要約キャッシュフロー計算書 | |||
項目 | 金額 | 《参考》 | |
1 | 営業活動キャッシュフロー | ×××××× | ひな形の(Ⅰの計)欄の金額 |
2 | 投資活動キャッシュフロー | ×××××× | ひな形の(Ⅱの計)欄の金額 |
3 | 財務活動キャッシュフロー | ×××××× | ひな形の(Ⅲの計)欄の金額 |
4 | キャッシュ(現金・預金)の増減 | ×××××× | ひな形のⅣ欄の金額 |
5 | キャッシュ(現金・預金)の期首残高 | ×××××× | ひな形のⅤ欄の金額 |
6 | キャッシュ(現金・預金)の期末残高 | ×××××× | ひな形のⅥ欄の金額 |
さきほどのひな形と比べてみましょう。大きな項目をそのままに、細かいところは端折ってみた。それだけです。はじめから情報が多すぎるのでは、見るのにも混乱しますので。
そもそも、キャッシュフロー計算書はどうつくるのか?については、次の記事も参考にどうぞ。
それぞれの項目の関連性を絵にしてみる
キャッシュフロー計算書の「つくり」を見たところで。ちょっと絵にしてみます。計算書内のそれぞれの「項目」の関わり具合を確認します。
さきほどの「要約キャッシュフロー計算書」と見比べてみましょう。まず、「4. キャッシュの増減」は、「5. キャッシュの期首残高」と「6. キャッシュの期末残高」との差額です。
その「4. キャッシュの増減」の内訳として、「1. 営業活動」「2. 投資活動」「3. 財務活動」の3種類のキャッシュフローがあります。
3種類のキャッシュフローが意味するもの
キャッシュの増減の内訳である「3種類のキャッシュフロー」には、それぞれ次のような意味合いがあります。
キャッシュフローの種類 | 意味合い |
営業活動キャッシュフロー(営業CF) | 本業で生み出したおカネはいくらか |
投資活動キャッシュフロー(投資CF) | 将来に投資したおカネ、過去の投資を売却したおカネはいくらか |
財務活動キャッシュフロー(財務CF) | 資金調達したおカネ、返したおカネはいくらか |
《ポイント1》 キャッシュ(現金・預金)は増えたのか、減ったのか?
前段が長くなりましたが。きょうのテーマ、キャッシュフロー計算書の見方のポイントひとつめです。
1年間のキャッシュ増減を把握せよ!
この1年間でキャッシュ(現金・預金)は増えたのか? それが、キャッシュフロー計算書からいちばんに確認すべきポイントです。
「5. キャッシュの期首残高」と「6. キャッシュの期末残高」の差額である、「4. キャッシュの増減」を見ましょう。おカネが増えたか、減ったか。どれくらいの増減かがわかります。
おカネの増減理由は、キャッシュフロー計算書でしかわからない
キャッシュ、すなわち「おカネ」を見るのがキャッシュフロー計算書。損益計算書で「利益」がわかっても、おカネが増えたかどうかはわかりません。
それならば、おカネが増えたかどうかは、貸借対照表からでもわかるのではないか? その通りです。でもわかるのは、増えたか減ったかということだけ。その「理由」まではわからない。
キャッシュフロー計算書をなおざりにできないワケがここにあります。
《ポイント2》 営業活動キャッシュフローはプラスなのか?営業利益とのかい離はどうか?
続いて、キャッシュフロー計算書の見方のポイントふたつめ。
本業は儲かっているのかを把握せよ!
キャッシュの増減を把握できたなら。次にすべきことは、その理由を把握すること。その「とっかかり」として、3種類のキャッシュフローがあります。
なかでも最重要キャッシュフローが、「営業活動キャッシュフロー」です。これは、「本業で生み出したおカネはいくらか」ということでしたよね。
そう考えれば、「営業活動キャッシュフローがプラスである」のは大原則であることがわかります。まずは、プラスかどうかをチェックです。
営業活動キャッシュフロー<営業利益になっていないか
次にすべきことは、「営業利益との対比」です。営業利益は、損益計算書の一項目。本業のもうけを表す利益が、営業利益です。
そこで、「本業で生み出したおカネの営業活動キャッシュフロー」と「本業のもうけである営業利益」とを比べてみましょう。
おカネの増減と利益の増減とは完全一致しないものなので、「ある程度」の差があるはずです。それは仕方なし。
問題があるのは、営業活動キャッシュフローが、営業利益を大きく下回るケース です。
売掛金や買掛金などの信用取引(いわゆる「ツケ」)があると、「売上や仕入(利益)の計上時期」と「おカネの動き」にズレが出ます。
掛売であれば、売上(利益)が先に立ち、おカネは少し遅れて増えることになります。また、現金の動きを伴わない経費である減価償却なども、ズレの要因のひとつです。
在庫、売掛金、買掛金の動きをチェック
「営業活動キャッシュフロー<営業利益」となってしまう場合には、さらなる原因追及が必要です。原因として考えられるのは、
- 在庫が膨らんでいる(不良在庫)
- 売掛金が膨らんでいる(入金サイトが長くなっている)
- 買掛金が縮まっている(支払いサイトが短くなっている)
ほかにも原因はありえますが、とくに注意してみるべきは上記の3つです。在庫、売掛金、買掛金は、貸借対照表の動き(推移)を追えばわかるところ。チェックしてみましょう。
在庫や売掛金が増えるということは、「在庫や売掛金という資産」を、キャッシュを使って買ったことを意味しています。在庫や売掛金の増加が、資金繰りを悪くすると言われるのはこのためです。
いっぽう、買掛金のサイトが短くなると、その分キャッシュがはやく流出しますので。やはり、資金繰り的には悪い方にはたらきます。
損益計算書の利益だけを見ていてもわからないところですから、くれぐれもご注意を。
《ポイント3》 3つのキャッシュフローの関係性はどうか?
キャッシュフロー計算書の見方のポイント、さいごです。
3種類のキャッシュフローの「8つの組み合わせ」を把握せよ!
キャッシュフローには3種類ありますが。もっともたいせつな営業活動キャッシュフローの確認が済んだなら、次にやるべきことは「全体のバランス」チェックです。
3種類のキャッシュフローのプラス・マイナスの組み合わせを見ていきます。組み合わせは8つ、次のとおりです。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | |
営業活動キャッシュフロー(営業CF) | + | + | + | + | - | - | - | - |
投資活動キャッシュフロー(投資CF) | - | + | + | - | + | - | - | + |
財務活動キャッシュフロー(財務CF) | - | - | + | + | + | + | - | - |
組み合わせごとの特徴
8つの組み合わせについて、それぞれの特徴を見てみましょう。ただし、これはあくまで「方向性」を見るものです。
それぞれの「+」「-」の金額の大小によって、同じ組み合わせの場合でも状況は異なります。キャッシュフローの「流れはどこへ向いているか」の目安と考えましょう。
1 営業CF+、投資CF-、財務CF-
理想形。長期的には、このカタチがベストです。メインエンジンの営業CFで稼いだおカネを、あらたな投資や、借入返済に充てています。無い袖は振れません。
2 営業CF+、投資CF+、財務CF-
理想形のカタチに加えて、投資CFが+。不要資産などの売却などをすすめて投資CFを生み出し、財務体質のスリム化をはかる過程で見られるパターンです。
3 営業CF+、投資CF+、財務CF+
資産の売却(投資CF)、資金調達(財務CF)でおカネを生み出し、あらたな事業への進出をはかる転換期などに見られるカタチです。
4 営業CF+、投資CF-、財務CF+
本業の稼ぎ(営業CF)に加え、資金調達(財務CF)で増やしたおカネを、あらたな投資に使う。ベンチャー企業や、第2創業期の会社などに見られるおカネの流れです。
5 営業CF-、投資CF+、財務CF+
ヤバめです。本業の稼ぎが悪いので、資産を売り(投資CF)、おカネを集めて(財務CF)凌ぐという危険なおカネの流れ。なんとかしないと。
6 営業CF-、投資CF-、財務CF+
これもヤバめです。おカネを生み出すチカラもなく(営業CF)、おカネを借りている(財務CF)のに加え、あらたな投資まで・・・起死回生を賭けた崖っぷち、にも見えます。
7 営業CF-、投資CF-、財務CF-
過去の蓄え(内部留保)が厚い会社はこういうことができます。少々稼ぎが悪くても(営業CF)、投資ができて(投資CF)、おカネも返せる(財務CF)。とはいえ、状態の長期化には注意。
8 営業CF-、投資CF+、財務CF-
本業が悪く(営業CF)、あらたな借入もできず返すだけ(財務CF)。資産を売って(投資CF)なんとかおカネをねん出。そんな厳しさが見えるパターンです。リスケも視野に、立て直しが必要です。
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まとめ
キャッシュフロー計算書の見方のポイントについて見てきました。
おカネが増えているかどうか、営業活動キャッシュフローは増えているかどうか、3種類のキャッシュフローのバランスはどうか。の3点がポイントです。
もう一つ重要なことは、キャッシュフロー計算書を複数年並べて見ること。単年だけでは見えてこない、大きな「おカネの流れ」が見えてきます。
なじみがないキャッシュフロー計算書に、なじんでいきましょう。