個人事業主の旅行代だって経費になるよね?
経費になれば嬉しいな、経費にしたいな。というのが個人事業主の本音ではありますが。
経費にできるかどうか、否、経費になるかどうかは、当然のごとくケースバイケースです。個人事業主の旅行代についてまとめてみます。
旅行の目的はなんだ?
まずは「旅行代」を分類してみます。分類の基準は、「旅行の目的」です。
旅行代の3分類
個人事業主の旅行代が経費になるかどうかを考えるにあたり、旅行代を3つに分類します。分類の基準は、「旅行の目的」です。
旅行の目的 | 経費になるか? |
観光(プライベート) | ならない |
慰安・福利厚生 | なりうる |
仕事(出張、取材、視察、研修) | なりうる |
プライベート目的、観光目的の旅行が経費に「ならない」というのは説明を要しないでしょう。
問題はその他。「なりうる」という表現がまたもどかしい。経費への道のりは、そうカンタンなハナシではないということです。詳細はこのあとお話しします。
目的の「あとづけ」なんてやめてくれ
旅行代の詳細をお話しする前に、大切なことについてクギを刺しておきます。
旅行を目的別に分類しましたが、「目的」とは旅行に行く前に決まっているものです。
観光旅行に行ったのだけれど、「(経費にしたいから)仕事目的だった、ということで」なんていう「あとづけ」はありえません。それは「目的」ではなく、「こじつけ」です。
経費にしたい気持ちはわかりますが。気持ちが先行して、事実と異なることがないように。どうかご注意ください。
慰安・福利厚生目的の旅行
プライベート、観光目的の旅行がダメならば。慰安として、福利厚生としての旅行はどうなのよ?ということについて。
フリーランス(従業員ゼロ)の場合
従業員がいない個人事業主、いわゆるフリーランスの場合。残念ながら、慰安・福利厚生目的の旅行代は経費になりません。
そもそも、慰安や福利厚生というものは「従業員」に対するものとされ、事業主に対する慰安や福利厚生という考え方は無い、とされています。
配偶者、家族のみの場合
奥さん(あるいはダンナさん)と旅行。子供も含めて旅行。これもダメです。フツーの家族旅行と変わらないよね、ということで経費になりません。
ちなみに、奥さんやダンナさんが事業専従者(≒従業員)だとしても、他に従業員が居なければやはりダメ。このあたりについては、過去の判例により示されているところです。
勤務の少ないアルバイトがいる場合
そうかそうか、家族だけではダメなのか。ならば、「アルバイト 」を雇用しているケースではどうなのか?
勤務が少ないアルバイトだけを雇用している場合では。アルバイトを旅行に連れていっても、「経費にするのは厳しい」と考えるべきでしょう。
週に数回程度勤務のアルバイトの慰安・福利厚生に「旅行は必要なのか?」というと、一般的には「必要ない」との見方が強いと考えられるからです。
また、税務署などの見方によっては。家族旅行を経費にしたいからアルバイトを雇って連れて行ったんじゃないの、と言われかねない。
とはいえ、ここは考え方、説得材料しだい、という余地はあるかもしれません。
勤務が少ないアルバイトばかりだとしても、ある程度の人数を雇うことで仕事が成り立っている。というような業態が常であれば、余地はあるかなと(私見です)。
慰安・福利厚生の範囲を超えている場合
ということで、基本的には家族以外に従業員がいることで慰安・福利厚生目的は成立します。
じゃあ、従業員がいればいいかというと、「給与に対する税金」という注意点が残っています。
次の4つについてクリアをできない場合、その旅行代は、従業員への「給与」として従業員に所得税が課税されることになります。
- おおむね1人あたり10万円以内(事業主負担分が)
- 4泊5日以内
- 全従業員の50%以上が参加
- 不参加者に旅行代として現金を渡していない
これらがクリアできないということは、慰安・福利厚生の範囲を超えている、慰安・福利厚生とは言えない、ということです。注意しましょう。
ただし。給与とされても、個人事業主にとって経費であることは変わりません。勘定科目で言うところの「福利厚生費」か「給与」かの違いです。
もういちど、個人事業主と事業専従者について
個人事業主だけの旅行、個人事業主と事業専従者だけの旅行はダメだと言いました。
けれども、慰安・福利厚生の範囲内における従業員との旅行であれば。個人事業主、事業専従者の旅行代も経費になります。
事業専従者は他の従業員と同様に従業員として考えられ、個人事業主の旅行同行には監督責任が生じるためです。
仕事目的(出張、取材、視察、研修)の旅行
続いて、仕事目的の旅行はどうなのかについて見ていきます。
仕事目的とは
仕事を目的とした旅行であれば、経費になるわけですが。目的と経理をする際の勘定科目で分類すると、次のとおりです。
旅行の目的 | 勘定科目 |
商談、営業、商品の買い付け、サービス提供等による出張 | 旅費交通費 |
出版、執筆等のための取材 | 取材費 |
新規事業開発や新規市場開発等のための視察 | 研究費 |
従業員の研修 | 研修費 |
勘定科目については、必ずしも上記のとおりでなくてもかまいませんが参考として。
証拠を残す
仕事目的の旅行代をしっかり経費にするためには、証拠を残すことが大切です。
税務調査では「ホントに仕事で行ったの~?」という眼で見られるのですから、調査官を説得・納得させなければいけません。その「証拠」としては、
- 日程表
- 撮影写真
- 仕事先で入手した名刺、パンフレット等の資料
- 打合せなどの内容メモ、議事録
- 旅行の報告書
- 旅行による成果物(新商品、新サービス、出版物など)
などが考えられます。あればあるほど良い、ということにはなりますが。あとで「証拠がショボすぎる」ということがないように。特に旅行先でしか入手できないものには意識をしておきましょう。
「こじつけ」が過ぎぬように
仕事かどうか、というのはなかなかビミョーなところがあります。解釈しだい、というところがあり、人によっても判断がわかれるところです。
とはいえ、ムリのある「こじつけ」には注意しましょう。
たとえば、取材費について。ライターや執筆業の人が、取材旅行をすることに違和感はありません。旅行ブログでアフィリエイト収入を上げるブロガーの取材旅行も、もちろんOKです。
では、同じブロガーでも。税理士ブロガーのわたしが、旅行を記事にした場合の旅行代は経費にできるのか?さすがにムリがあるでしょう。
たしかに、記事という成果物はある。ブログは仕事の一環で執筆している。けれども、記事による明確な収益はありません。そこに経費だけを突っ込むというのは・・・事実のバランスの問題です。
視察について言えば。説得材料として、成果の「実績」が欲しいところです。成果が無い点について、視察の有効性・経費性を問われるということはあり得ます。
そうは言っても。視察には研究的要素がありますから、「失敗・未実現・未成果」はつきもの。すべての視察に対して、必ずしも成果があがるわけでもないでしょう。
どれほどの視察に対し、どれほどの成果があがっているのか。これだけの成果があるから、その成果を求めて視察が必要なんだ。というような説得材料があればベストです。
まとめ
個人事業主の旅行代について見てきました。
解釈の幅に依るところがあり、人によっては判断が分かれるところもあるでしょう。
そのような場合の拠り所は「フツーの感覚」です。フツーに考えてどうなんだ、一般的、常識的に考えてどうなんだ、ということが役立ちます。
自分のこととなると、「都合の良い解釈」をしがちなものです。同じことを他人がしていたら自分はどう思うか、そんな見方もしてみるとよいでしょう。
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きょうの執筆後記
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