このあいだ買った12万円のパソコン。仕訳はどうなるんだ…?
10万円以上のモノに対する仕訳は、フリーランス・個人事業主に共通する悩みのひとつであるようです。
そんな悩みについて。仕訳に加えて、減価償却という難題にも答える話をしていきます。
10万円以上のモノに対する「考え方」は3通り
たとえば。7月に12万円(消費税込)のパソコンを買ったよ、という場合。これに対する帳簿づけ(経理)の考え方は3通りあります。
- 4年で減価償却する
- 1度に経費にする
- 3年で均等に経費にする
以下、消費税については「税込経理(本体価格と消費税とを区分しない経理)」を前提とします。
多くの場合、処理の簡便さから「税込経理」が採用されます。税抜経理の場合には、異なりますのでご注意ください
実は3通りとも減価償却
さきほどの3通りの考え方は、それぞれ違ったように見えますが。実は、いずれも「減価償却費として経費にする」という点で共通しています。
つまり、3通りとも「減価償却費」という勘定科目で経費になります。あとは、「何年でいくらずつ経費にするか」の違いだけです。
具体的な仕訳は後述することにして。まずは、「何年でいくらずつ経費にするか」のイメージを確認しましょう。
「何年でいくらずつ経費にするか」のイメージ
イメージは次の表のとおりです。
購入した年 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 合計 | |
4年で減価償却 | 15,000 | 30,000 | 30,000 | 30,000 | 14,999 | 119,999 |
1年で経費 | 120,000 | 120,000 | ||||
3年で均等に経費 | 40,000 | 40,000 | 40,000 | 120,000 |
それぞれの方法について、それぞれ解説を加えていきます。
「4年で減価償却」が大原則
3通りの方法を示しましたが、原則はこの「4年で減価償却」の方法です。あとの2つの方法は、例外的な方法だということ。
税法では、ひとつ10万円以上のモノについては、「耐用年数に応じて減価償却すること」としています。繰り返しですが、これが原則です。
ちなみに「耐用年数」とは、「何年で経費にするか」の「何年」に当たるものです。
各人の自由裁量にならないよう、耐用年数は税法の中で決められています。
→耐用年数の一覧はコチラ
パソコンの場合には4年。だから「4年で減価償却」です。
→耐用年数一覧の「電子計算機・パーソナルコンピュータ」参照
さらに、耐用年数に応じて、「償却率」というものが定められています。耐用年数4年の場合の償却率は「0.250」です。
→償却率一覧は「別表第八 平成十九年四月一日以後に取得をされた減価償却資産の定額法の償却率表」参照
償却率の0.250というのは、4年間で経費にする、4分の1ずつ経費にするということで「1÷4=0.250」という考え方です。
これに基づいて、1年間で経費にできる金額の計算は、
- 120,000 × 0.250(償却率)=30,000
さきほどのイメージ表の「購入した年」が15,000円になっているのは、パソコンを使った期間が7月から12月までの「6か月」だったから。
- 120,000 × 0.250 ×6/12か月=15,000
という計算です。そのために、120,000円全額を経費にするまでに5年目までかかっている、ということです。
イメージ表のとおり、「5年目」での償却は14,999円です。これは、さいごの1円は残すルールになっているから。
パソコンを売ったり、廃棄したりして、「パソコンが無くなったとき」にゼロにします。
「1度に経費にする」ができるのは青色申告の人だけ
パソコンの購入代金12万円を、一番早く経費にできるのが「1度に経費にする」方法です。
これを専門用語で「少額減価償却資産」と言います。
具体的には、ひとつ30万円未満のモノであれば1度に経費にしていいよ。というのが、少額減価償却資産。
ほんとうは原則の「耐用年数に応じて減価償却」をして欲しいけれど、金額が少ないから一発経費でもいいでしょう。ということです。
金額が多いか少ないかの判断基準を「30万円」に置いているわけです。
さいごに、大事な注意点がひとつ。青色申告をしている人にしか、この方法をとることはできません。ご注意を。
ひとつ30万円未満のモノを1度に経費にできるこの方法は、年間合計300万円までの制限があります。
「3年で均等に経費」はラクしておトク?
複数年にわたって経費にする点では「4年で減価償却」に似ています。
原則である減価償却と違うのは、そのモノの耐用年数に関係なく「3年」で均等に経費にすること。
ただし、この方法を採ることができるのは、10万円以上20万円未満のモノに限られます。ここが注意点。
したがって、1年間で経費にできる金額は、
- 120,000÷3年=40,000円
あくまで3年間で「均等に経費」にするため、「4年で減価償却」のように「6/12か月」を考慮する計算はありません。この点で計算自体はラクになります。
また、別の論点として。パソコンなどの資産を所有することにより課税される「償却資産税」という税金の対象から外れます。
他の2つの方法の場合には課税の対象になりますので、この点ではおトクといえるでしょう。
償却資産税とは、機械や備品などの所有者に対して課税される税金です。ただし、課税の対象額が合計150万円未満の場合には課税されません。
「仕訳」ももちろん3通り
それでは、3通りの考え方について。それぞれの仕訳を確認していきます。
「4年で減価償却する」場合の仕訳
パソコンは「器具備品」という勘定科目を使います。
《 購入時 》
(借方)器具備品 (貸方)現金預金 120,000
《 決算時・購入した年 》
(借方)減価償却費 (貸方)器具備品 15,000
《 決算時・2年目~4年目 》
(借方)減価償却費 (貸方)器具備品 30,000
《 決算時・5年目 》
(借方)減価償却費 (貸方)器具備品 14,999
売却・廃棄した場合には、それ以後、上記の仕訳とは異なります。その際の仕訳の提示は機会を改めます
「1度に経費にする」場合の仕訳
パソコンは「器具備品」という勘定科目を使います。
《 購入時 》
(借方)器具備品 (貸方)現金預金 120,000
《 決算時・購入した年 》
(借方)減価償却費 (貸方)器具備品 120,000
「3年で均等に経費にする」場合の仕訳
この方法のときだけ、「一括償却資産」という勘定科目を使います。モノがパソコンかどうかに限らず、「3年で均等に経費」のときには「一括償却資産」を使います。
《 購入時 》
(借方)一括償却資産 (貸方)現金預金 120,000
《 決算時・購入した年~3年目 》
(借方)減価償却費 (貸方)一括償却資産 40,000
3年目までに売却・廃棄しても上記の仕訳に変わるところはありません。ここは「4年で減価償却」の場合とは異なる点です
青色申告決算書の「減価償却費の計算」の書き方
さいごに。3通りの考え方について、確定申告で提出する青色申告決算書の「減価償却費の計算」の書き方をお話しします。
「4年で減価償却する」場合の書き方
《 購入した年 》
ポイントは、「本年中の償却期間」が「6/12」であること。7月から12月までの6か月なので。
《 2年目 》
未償却残高は決算で減価償却をするたびに減っていきます。
《 3年目 》
《 4年目 》
《 5年目 》
前述したとおり、「未償却残高」としてさいごに1円が残ります。
減価償却の方法には、例示した「定額」法という方法のほかに「定率法」というものもありますが、ここでの説明は省略させていただきます
例示では、パソコンを「プライベートでは使わない」ということを前提にしています。
つまり、「仕事でしか使わない」という意味で「事業専用割合 100%」です。プライベートでも使う場合には、その分だけ「事業専用割合」は低下させることになります
「1度に経費にする」場合の書き方
《 購入した年 》
ポイントは右端の「摘要」欄に「措法28の2」と書くこと。これが、「30万円未満のモノ」を1度に経費にすることの意思表示になります。
「取得年月」欄には、「取得年」を記載しておけばOKです(月は不要)。
「3年で均等に経費にする」場合の書き方
《 購入した年 》
左端の「名称等」欄には「一括償却資産」と記載、「償却率」欄には3年均等を表すため「1/3」と記載します。「取得年月」欄には、「取得年」を記載しておけばOKです(月は不要)。
《 2年目 》
未償却残高は決算で減価償却をするたびに減っていきます。
《 3年目 》
まとめ
10万円以上のモノを買ったときの3つの考え方、仕訳、決算書の書き方について見てきました。
3つの考え方のどれがいいのか、というのは、まさに考え方しだいです。
利益が出ていて、早く経費にしたいと考えれば「1度に経費にする」方法。逆に、利益があまり出ておらず、経費は先送りしたいのであれば「4年で減価償却する」方法。
経理処理のわかりやすさや償却資産税の節約などを考えるのであれば「3年で均等に経費にする」方法を選ぶ、というのもアリでしょう。
一般には、早く経費にしたいと考え、「1度に経費にする」方法を採用することが多くなりますが。青色申告にのみ許された方法であることには注意です。
************
きょうの執筆後記
************
ブログには書けない・書きにくいことその他。きょうの「執筆後記」は毎日メルマガでお届け中です。
よろしければメルマガ(無料)をご登録ください! → 登録はこちらから