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『創業融資なんてカンタンだ』に潜む3つの落とし穴

創業融資はカンタンだ、の落とし穴

” 創業融資って、受けるのがカンタンなんだよね?”

って、それ。どこからそんなハナシを… カンタンだ、と高をくくっていると怪我をします。そこで、「創業融資なんてカンタンだ」に潜む3つの落とし穴についてのお話です。

目次

「創業融資なんてカンタンだ」に潜む3つの落とし穴

事業をはじめる際にぜひとも利用したいのが「創業融資」です。文字どおり、「創業」時期にしか受けられない、そのとき限りの融資です。

不足しがちな自己資金を補うためにも利用しない手はない、と言っても過言ではないでしょう。

そんな創業融資について。比較的受けやすい融資だ、というハナシがあります。

創業ということで「実績(過去)の数字」を見られないことから、「計画(予測)の数字」だけで借りられる。この点では、確かに「借りやすい」とは言えますが。

増長して、創業融資なんて「カンタン」だとのハナシであれば行き過ぎです。

そこで、「創業融資なんてカンタンだ」に潜む落とし穴について、お話をしていきます。落とし穴は次の3つです ↓

このあとの話の内容
  1. 満たすべき要件がある
  2. 準備に時間がかかる
  3. 失敗するとあとがタイヘン

それでは、このあと順番に見ていきましょう。

 

《落とし穴①》満たすべき要件がある

創業融資の大きな特徴のひとつとして、「満たすべき要件」の存在が挙げられます。

具体的には、「自己資金がどれだけあるか」という自己資金要件、それから、「事業に必要な経歴がどれだけあるか」という経歴要件の2つです。

にもかかわらず、これら要件をおざなり、あるいは、なおざりにしていると。創業融資の土俵にも上がれない、ということになりかねません。

自己資金要件とは

創業融資の代表格である日本政策金融公庫の「新創業融資」を例に挙げると。自己資金要件について、次のように触れられています ↓

創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方

【 日本政策金融公庫 新創業融資制度「自己資金要件」より抜粋 】

これを言い換えると、自己資金の9倍までしか融資はできませんよ、ということです。

ですからたとえば、自己資金は100万円ということであれば。900万円を超える融資はムリですよ、と日本政策金融公庫は言っているわけです。

なーんだ、自己資金100万円で、900万円も融資を受けられるなら余裕じゃないか。と思うのであれば、その考え方は危険です。

前述の「自己資金の9倍」が示すところは「最大」の意味合いであって、「最低を保証」するものではありません。

結局のところ、ほとんどのケースにおいて、融資額は「自己資金の2倍から4倍ていど」に収まります。9倍、というのはかなりのレアケースだと言えます。

そう考えると、自己資金はあればあるほどいいわけで。にもかかわらず、ちょっと自己資金は用意できなくて… などというのは論外だ、という理解が必要です。

自己資金無き熱意にじゅうぶんな説得力はありません。創業への覚悟のもと、コツコツ貯めた自己資金を銀行は評価するのです。

【参考】制度融資における自己資金

自治体・信用保証協会・銀行が三位一体で行う融資を「制度融資」と呼びます。自己資金の何倍までの融資が可能か、という「ていど加減」はそれぞれの制度融資ごとに異なりますが、自己資金の重要性(自己資金は多いほどよい)に対する考え方は変わるところがありません。

経歴要件とは

再び日本政策金融公庫の「新創業融資」を例に挙げると。経歴要件については、次のように触れられています ↓

現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方で、次のいずれかに該当する方

(1) 現在の企業に継続して6年以上お勤めの方
(2) 現在の企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方

【 日本政策金融公庫 新創業融資制度「雇用創出等の要件」より抜粋 】

これを見ると、これからはじめる事業について「どれだけの経歴を積んでいるか」が重視されていることがわかります。

ただ、上記の要件を満たすことができなくても、「従業員を雇う」など他の要件を満たすことでもよい、ともされています。

では、経歴なんてなくてもよいのか? と言うと、そんなことはありません。

常識的に考えて、まったくの未経験ではじめる事業がうまくいくことは稀です。まったく初めてではないにしても、経験が少ないほどうまくいく可能性は低くなる。銀行もそのように考えています。

経歴無き創業では、「ただの思いつき」と言われても文句は言えません。経歴要件については満たすことができるよう(あるいは、満たしていると説明できるよう)努めましょう。

 

《落とし穴②》準備に時間がかかる

自己資金要件と経歴要件のお話をしてきました。ではもしも、要件を満たすことができそうになければ?

準備をしなければなりません。とはいえ、自己資金も経歴も、一朝一夕にできあがるものではありません。時間をかけての準備が必要になります。

自己資金を準備するには

融資額は自己資金の2倍から4倍ていどだ、と前述しました。したがって、融資希望額が大きいほど、準備すべき自己資金の額も大きくなります。

会社員時代にお給料の中から、自己資金を貯めていくのはカンタンなことではないでしょう。だからこそ、時間をかけてコツコツと貯めた自己資金は評価をされるのです。

具体的には、銀行は創業者の「預金通帳」の取引履歴を見て、自己資金の存在(ほんとうに自己資金なのか)をチェックします。

チェックされるのは、おおむね6ヶ月から1年ていどの取引履歴。いくらのお給料をもらって、どのように自己資金を準備してきた人なのかを銀行は見ています。

自己資金の存在をうかがい知ることができる預金通帳を準備するのに、少なくとも6ヶ月から1年ていどかかる。ということを覚えておきましょう。

創業直前に、ポーンと口座に入金されたおカネを、銀行は疑いの目で見るものです。

経歴要件を準備するには

経歴は長ければ長いほど、事業がうまくいく可能性は高くなる(と銀行は見ている)、と前述しました。

したがって、自己資金と同様に、経歴もまた準備には時間がかかります。経歴がない、経験がない事業を始めようとする際には気をつけましょう。

ちなみに、経歴については、正社員としての勤務に限らず、アルバイトやパートでもかまいません。また、「無給で修行」というようなことであっても、経歴と言えば経歴です。

さらに、「有給・無給」による雇用でもなく、おカネを払って「教わる」というのも経歴のひとつです。創業に向けて、◯◯学校や◯◯教室に通っていた、とか。

このあたりが、融資申込書類には記載されていない、じゅうぶんに表現されていないことがあります。創業のためにしてきた努力は余すところなく、「経歴」というカタチでしっかり表現しましょう。

 

《落とし穴③》失敗するとあとがタイヘン

「創業融資なんてカンタンだ」というウワサを盲信するあまり、準備不十分などで融資の審査に落ちてしまったら…?

創業融資をあきらめなければいけない

融資審査に落ちてしまったのであれば、融資をあきらめざるをえません。

厳しいスタートではありますが、自己資金や親族からの借入などでなんとかするしかありません。

再度、融資を申込むことはできるのか? ということですが。原則、6ヶ月ていどはあいだが空かないと、申し込みを受け付けてはもらえないでしょう。

なお、別の銀行(日本政策金融公庫がダメだったので、制度融資へ…など)であれば、すぐに受け付けてもくれますが。状況が変わらないのであれば、やはり審査には落ちてしまいます。

結局、創業融資は受けられず… ということであれば、一度きりの創業融資をあきらめなければいけません。

創業を遅らせなければいけない

創業融資がうまくいかないうえに、自己資金や親族からの借入などが不十分である場合。当然ながら、事業を始めることができません。

おカネの都合がつくまでは創業できない、ということになります。

それまでにどれだけの時間を要するのかはわかりませんが、明らかに余計な時間であり、機会を逃してしまうことになるかもしれません。

この点について、「ほんとうに」自己資金がないのであれば、融資が受けられないのもムリはありませんが。

いっぽうで、実は自己資金と呼べるものがあるのに、理解不足・説明不足により融資を受けられなかった。というケースもときおり見聞きします。

「創業融資はカンタンではない」と心して、一度きりの創業融資で不用意な失敗をしないように注意が必要です。

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まとめ

「創業融資なんてカンタンだ」に潜む3つの落とし穴、についてお話をしてきました。

「実績(過去)の数字」を見られないことから、「計画(予測)の数字」だけで借りられる。という点では「借りやすい」創業融資ですが、「カンタン」ではありません。

創業融資の本質をしっかりと理解して、思わぬ落とし穴にハマらぬように気をつけましょう。

 

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