” 損益分岐点はクリアできそうだ。これで銀行からも融資を受けられるだろう ”
と言うのであれば、それはちょっと違います。銀行融資を考えるのであれば、目指すべきは損益分岐点ではなく、「収支分岐点」ですよ。というお話です。
損益分岐点を超えるだけでは融資を受けられない
「損益分岐点(売上高)」という言葉があります。端的に言えば、損益分岐点とは「利益がトントン(ゼロ)になる売上高」のことです。
言い換えると、損益分岐点の売上高を1円でも超えるのであれば利益が出る。つまり、黒字の決算書ができる。というわけです。
ところで、銀行融資を考えるのであれば。損益分岐点だけを目指しているのでは不十分です。実は、もっと「上」の売上高を目指す必要があります。
「でも、銀行は黒字の会社に融資をするのではないのか? だったら損益分岐点を超えればじゅうぶんなのではないか?」と言われるかもしれませんが。
損益分岐点の売上高では、決算書は赤字にならなくても、おカネが足りなくなるのです。もう少し具体的に言うと、銀行への返済金額分だけおカネは不足します。
これでは銀行もおカネを貸したくはないでしょう。
じゃあ、おカネが不足せずにすむ売上高とは? というものが、「収支分岐点」です。このあとお話をしていきます ↓
- 損益分岐点と収支分岐点の違い
- それぞれの分岐点の具体的計算方法
- 銀行に出す資金繰り表は「収支分岐点」からつくる
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
損益分岐点と収支分岐点の違い
同じ「分岐点」にも、2つあります。損益分岐点と収支分岐点です。まずはじめに、両者の違いを確認しておきましょう ↓
- 損益分岐点 ・・・ 「利益」がトントンになる売上高
- 収支分岐点 ・・・ 「おカネの増減」がトントンになる売上高
上記のとおり。損益分岐点は、「利益」がトントン。収支分岐点は「おカネの増減」がトントン。両者の違いは、「利益」か「おカネの増減」かです。
では、ここで言う「利益」と「おカネの増減」とは? を示すと次のとおりです ↓
- 利益 ・・・ 収入 − 経費
- おカネの増減 ・・・ 入金 − 出金
ここで注意点をひとつ。「利益」と「おカネの増減」は、なんとなく似たイメージがあるかもしれませんが、まったくの別モノとして理解をする必要があります。
たとえば、こういうことです ↓
【問】当飲食店の今月の状況は下記のとおりでした。「利益」と「おカネの増減」を求めよ
- 収入 ・・・ 売上 200万円
- 経費 ・・・ 仕入 70万円、その他経費 120万円
- 入金 ・・・ 売上代金回収 200万円
- 出金 ・・・ 仕入代金支払 70万円、その他諸経費支払 120万円、銀行への借入金返済額 10万円
【答】
- 利益 = 収入 − 経費 = 売上 200万円 −(仕入 70万円 + その他経費 120万円)= 10万円
- おカネの増減 = 入金 − 出金 = 売上代金回収 200万 −(仕入代金支払 70万円 + その他諸経費支払 120万円 + 銀行への借入金返済額 10万円)= 0万円
このように、「利益」と「おカネの増減」とは異なります。
決算書で「利益」が出ているからといって、それと同じだけの「おカネ」があると思ったら大間違い。というのがここでのだいじなポイントです。
上記の例で言えば、「利益」は 10万円出ているのに、「おカネの増減」は 0万円です。利益は 10万円も出ているのに、手元におカネはまったく無い。
「利益=おカネの増減」ではありません。なんとなく似ているようだけど、「利益」と「おカネの増減」とは別モノとして考えなければいけません。
だから、「利益」の分岐点と、「おカネの分岐点」の2つが必要なのです。2つの分岐点の違いについて、確認のために再掲します ↓
- 損益分岐点 ・・・ 「利益」がトントンになる売上高
- 収支分岐点 ・・・ 「おカネの増減」がトントンになる売上高
それぞれの分岐点の具体的計算方法
それでは、実践的なハナシに移りましょう。2つの分岐点の具体的な計算方法について。
損益分岐点の計算方法
利益がトントンになる「損益分岐点」の売上高は、次の計算式で求めます ↓
損益分岐点 = 原価以外の諸経費 ÷(1-原価率)
※ 厳密には、原価以外の諸経費とは「固定費」を、原価率とは「変動費率」に置き換えます
上記算式の意味合いを説明していくと長くなりますから、そこは省かせていただくことにして・・・
それよりも具体例にて、実際に計算をすることで計算方法を身につけましょう ↓
【問】当飲食店の月間損益分岐点の売上高を求めよ
- 原価(仕入)以外の諸経費は、月間で 130万円
- 原価率(売上高に対する原価の割合)は 35%
【答】損益分岐点 = 原価以外の諸経費 ÷(1-原価率)=130万円 ÷(1 − 0.35)= 200万円
というわけで、上記具体例の飲食店の月間損益分岐点は 200万円です。
検算をしてみると、「利益 = 売上高 − 原価 − 諸経費 = 200万円 −(200万円 × 35%)− 130万円 = 0」。利益トントンです。
けれども、ここにもし、銀行への返済が毎月 10万円あるとしたら?
銀行への返済原資は「利益」です。利益トントン(ゼロ)であれば、返済原資がないということです。
さぁ、どうする? ということで、次に「収支分岐点」を見てみましょう。
収支分岐点の計算方法
続いて、おカネの増減がトントンになる「収支分岐点」の売上高は、次の計算式で求めます ↓
収支分岐点 = (原価以外の諸経費 + 借入金返済額) ÷(1-原価率)
※ 厳密には、原価以外の諸経費とは「固定費」を、原価率とは「変動費率」に置き換えます
さきほどの損益分岐点と違うのは、「借入金返済額」を「原価以外の諸経費」に加えるところだけ。
では、こちらも具体例で計算をしてみましょう ↓
【問】当飲食店の月間損益分岐点の売上高を求めよ
- 原価(仕入)以外の諸経費は、月間で 130万円
- 原価率(売上高に対する原価の割合)は 35%
- 銀行への毎月の借入金返済額は 10万円
【答】収支分岐点 =(原価以外の諸経費 + 借入金返済額) ÷(1-原価率)=(130万円+10万円) ÷(1 − 0.35)= 215.38…万円
というわけで、上記具体例の飲食店の月間損益分岐点は約 215万円です。
検算をしてみると、「利益 = 売上高 − 原価 − 諸経費 − 借入金返済額 = 215万円 −(215万円 × 35%)− 130万円 − 10万円 ≒ 0」。おカネの増減がトントンです。
例題の飲食店は、「損益分岐点」は 200万円でしたが、銀行への返済を考えると「収支分岐点」の215万円を売り上げなければいけないことがわかります。
本文中、借入金返済の原資は「利益」だと言いました。正しくは「税引後の利益」です。税金を払ったあとの利益が返済原資です。
この税金分を考慮すると、収支分岐点の「正式な算式」は次のとおりになります。本文では、わかりやすさを重視して、税金の部分は考慮外としましたことをご了承願います。
収支分岐点 = (原価以外の諸経費 + (借入金返済額 ÷(1 − 税率)) ÷(1-原価率)
銀行に出す資金繰り表は「収支分岐点」からつくる
ここまで、2つの分岐点について、両者の違いと計算方法を見てきました。
さいごに、銀行融資と「収支分岐点」の関係についてお話をします。
売上計画から考えてはいけない
銀行から融資を受ける際には、「予測資金繰り表」を提出します。資金繰り表とは、おカネの増減について、その予測推移を明らかにする書類です。
もしも、「資金繰り表なんて提出してないけど」と言うのであれば。提出できるようにしましょう。銀行からの信頼度が変わりますから ↓
それはそれとして。資金繰り表をつくるときのポイントが、「おカネの増減トントン」です。つまり、収支分岐点です。
収支分岐点を超える売上高がないのであれば、その会社は、借りたおカネを返せないということになります。収支分岐点を下回るような会社に、原則、銀行はおカネを貸せません。
予測資金繰り表をつくるのに「どれだけ売れるだろう?」と、売上計画を立てるところからはじめるケースがありますが。銀行融資の資金繰り表、という点では順序が違います。
まずは、原価率・経費の額・借入金返済額の数字を集めてみて、収支分岐点の売上高を求める。求めた売上高について、実現可能性を検討する、という順序です。
売上計画から手をつけると、「もっと売りたい・もっと売れる」との思いから、過大な売上金額になりがちです。
過大な売上金額の実現可能性を銀行に証明するのは難儀です。結果、銀行融資は遠のきます。
銀行に提出する予測資金繰り表をつくる際には、必要最低限(必達目標)である「収支分岐点の売上高」をベースに考えましょう。
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まとめ
損益分岐点と収支分岐点についてお話をしてきました。
両者の違いを理解し、銀行融資においては「収支分岐点」の考え方が重要であることを覚えておきましょう。
とくに、資金繰り表を作成する際には、収支分岐点を求めることからはじまります。
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きょうの執筆後記
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