” 無借金経営をしたいよね ”
たしかに、無借金経営は悪くありません。けれども、無借金経営はたった1つのメリットしかないこと。いっぽうで5つものデメリットがあること。知っていますか? というお話です。
「無借金経営がいちばん」という誤解
借金はしないほうがいい、という話を聞くことがあります。
ところが、会社・事業を続けていくのであれば。必ずしも、借金をしないことがいいわけではありません。
無借金経営がいちばん、だとは言えないのです。
なぜなら、無借金経営にはたった1つのメリットしかなく、5つものデメリットがあるから。
そこでこのあと、そのメリットとデメリットについてお話をしていきます。
ほんとうに無借金経営を目指すべきなのか、考えるきっかけにしてみましょう。
無借金経営が抱える5つものデメリット
無借金経営について、はじめに「デメリット」から見ていきましょう。ぜんぶで5つもあります ↓
- 会社・事業を潰してしまう
- 成長のチャンスを逃す
- 経営者が「経営者のしごと」をできない
- 資金繰りのストレスに悩まされる
- 銀行から融資を受けにくい
上記5つのデメリットについて、それぞれお話をしていきます。
会社・事業を潰してしまう
いくら売上や利益があっても、おカネがなければ会社・事業は潰れます。その典型例が、黒字倒産です。
いっぽうで、いくら売上や利益がなくても、おカネがあれば潰れることはありません。
もちろん、「いつも」あるいは「いつまでも」、売上や利益がないのでは困りますが。長く会社・事業を続けていれば、思わぬ事態に陥ることはあるものです。
そんなときに備えて「おカネ」を蓄えておくことが、会社・事業を守ることに繋がります。
ここで言う「おカネ」に色はありません。自己資金だろうが、借金したおカネだろうが、おカネはおカネです。
ゆえに、自己資金が無い・足りないのであれば、借金をしてでもおカネを手元に置いておくことです。
これができずにいると、思わぬ事態を乗り切ることができず、会社・事業を潰してしまうことになりかねません。無借金経営のデメリットです。
ちなみに。思わぬ事態になってからおカネを借りればいい、という考えは成り立ちません。
CHECK! 『借りなくてもいいけど借りる』のが銀行融資のコツである3つの理由
銀行は人助けでおカネを貸しているわけではなく、ビジネスとしておカネを貸しています。「思わぬ事態(=危険)」の相手に、そうそう融資はしないもの、と心得ておきましょう。
目安は月商の3ヶ月分です。月商の1ヶ月分以下だと、日常的に資金ショートが起きやすい。月商の2ヶ月分あれば、日常的な資金ショートは起きないものの、不測の事態に余裕がない。
よって、不測の事態にも余裕をもって対応できるよう、最低でも月商の3ヶ月分です。その自己資金がないのであれば、借りてでもおカネを持つことをおすすめします。
成長のチャンスを逃す
会社・事業には、おカネが必要になる「成長チャンス」があります。
たとえば、2店舗目の出店を考えている飲食店が、「とてもいい物件」を見つけたとき。その物件を押さえるために、手付金や保証金の支払いが必要になります。
ところが、そのとき手元におカネが無かったら…? 成長のチャンスをつかむことはできません。
このタイミングで融資を受ければいいじゃないか、という意見もあるでしょう。たしかに、それもひとつの方法です。
けれども、融資をするかしないかを決めるのは銀行ですから。必ずしも融資を受けられるわけではありません。
もし受けられたとしても、申込から入金までには時間がかかります。そのあいだに、良い物件であるほど、他に流れてしまうことでしょう。やはり、成長のチャンスを逃します。
そうならないためには、借金をしてでも手元におカネを置いておくこと。チャンスはいつ訪れるかわからない。これは、思わぬ事態のようなピンチがいつ来るかわからないのとおなじです。
経営者が「経営者のしごと」をできない
きょう、いちばんの得意先の社長が商談にやって来る。にもかかわらず。きょう、仕入代金の決済ができない、社員の給料を支払うことができない。
こうなると、経営者がやるべきことは、目の前の「カネ繰り」になります。結果、商談に立ち会うことはできません。
本来、経営者は「前(将来)」を向いたしごとをすべきです。ところが、おカネが無い・足りないと、カネ繰りという「後ろ向き」なしごとに縛られてしまいます。
経営者が「経営者のしごと」ができない。経営者の代わりはいないのですから、これは大きな損失であり、デメリットです。
実際、借金を敬遠するあまり資金不足が常態化し、カネ繰りが経営者のしごとになってしまっていることがあります。タチが悪いことに、カネ繰りの成功には一応の満足感が伴います。
でも、それは間違いです。経営者が、経営者本来のしごとを選択できるように、借金をしてでもおカネを手元に置きましょう。
資金繰りのストレスに悩まされる
言うまでもないことですが、おカネが無い・足りないことは、経営者のストレスに繋がります。
おカネが無い・足りないと、経営者はカネ繰りに「時間」を奪われ、ストレスに「心」まで奪われます。ストレスが大きくなれば「体」にまで影響が出ることもあるでしょう。
経営者にとって、これほどのデメリットはありません。
資金繰りのストレスに悩むよりも、借金をしてでもおカネを手元に置いておく。このほうが会社も経営者も健全だ、というのがわたしの考えです。
銀行から融資を受けにくい
無借金を続けていると、銀行からの融資を受けづらくなることがあります。
「借金をしていない」ことについて、銀行は「借金をしたくてもできないのではないか?」と考える傾向があるからです。
つまり、なにかしら問題があって融資を受けられないような事情がある。それをほかの銀行は知っていて貸さない。その事情をウチの銀行が知らないだけなのでは…? そんなカンジです。
おかしな話に聞こえるかもしれませんが、銀行融資の世界では、「借りた実績」が信用になります。
「借りた」ということは、審査をパスして借りられたということです。また、借りたあと、約束どおりに返済をすれば、「きちんと返した」ことが信用になります。
このような「借りた実績」がない、とくに開業来ずっとない、というような無借金の会社・事業は、融資を受けづらかったりする。無借金のデメリットです。
これを解決するために、創業時には創業融資制度を使って、「借りた実績」をつくっておくことをおすすめします。
無借金経営のたった1つのメリット
続いて、無借金経営の「メリット」から見ていきましょう。たった1つです ↓
- 銀行に利息を支払わなくてすむ
銀行からおカネを借りたら、当然、利息を支払わなければいけません。
これは、おカネを借りずにいれば払う必要のないものですから。利息がないのは、無借金経営のメリットだと言えるでしょう。
けれどもしかし。
利息がないのは、「ほんとう」に、無借金のメリットだと言えるのでしょうか?
その問いの答えを導くために、利息の金額を具体的に計算してみましょう。たとえば、
300万円を金利 年3%で借りたときの利息はいくら?
- 年の利息・・・3,000,000 × 3% = 90,000円
- 月の利息・・・90,000 ÷ 12ヶ月 = 7,500円
- 日の利息・・・7,500 ÷ 30日 = 250円
というわけで。300万円を金利3%で借りたときの利息は、年 90,000円。月 7,500円。日 250円です。
この利息を、前述した「無借金経営のデメリット」と比べてみましょう ↓
- 会社・事業を潰してしまう
- 成長のチャンスを逃す
- 経営者が「経営者のしごと」をできない
- 資金繰りのストレスに悩まされる
- 銀行から融資を受けにくい
300万円のおカネが手元にあれば、これらのデメリットの「ていど」はだいぶ小さくなるはずです。
そう考えると。年 90,000円、月 7,500円、日 250円の利息は、「わずか」な利息だという見方もできるのではないでしょうか。
無借金の場合、「銀行に利息を支払わなくてすむ」のはそれほど大きなメリットとは言えない。ということです。
無借金経営のメリットはほかにもある! というあなたへ
無借金経営のメリットは、「銀行に利息を支払わなくてすむ」のたった1つだと言いましたが。
それだけではないだろう! と、思われるかもしれませんので、さいごに補足をしておきます。
おカネを返さなくていい、のもメリットでは?
借金をすると、おカネを返済しなければいけないじゃないか。その点、借金をしなければ、おカネを返さなくてもいいのはメリットだ、という意見。
しかし、それはメリットとは言えません。
なぜなら、「返済」とは借りたおカネをただ返しているだけであり、とくに「損」でもなんでもないからです。
その点で、利息は上乗せなので損ではありますが、金額自体はそうでもない。というのは、さきほどお話をしたとおりです。
借金を負っているという心理的負担がない、のもメリットでは?
たしかに、そのとおりです。けれども、その心理的負担がない分、おカネが無いというストレスを負う覚悟があるかどうかです。
借金をしてまで会社・事業をする気はない! とまで言い切れるのであれば、無借金経営はポリシーですから、なにも言うことはありません。
けれども、「そのうち借りるかも」「必要になったら借りるかも」というのでは、いつか「おカネが無いストレス」と向き合うことになります。
借金が無い・少ないと経営指標がよくなる、のもメリットでは?
これも、そのとおりです。借金が少ないと、流動比率や自己資本比率などの経営指標がよくなります。
ですが、その経営指標が、だれの・なんの役に立つのでしょうか?
大企業であれば、投資家の目に触れる決算書・経営指標の見栄え、ということはあるでしょう。
けれども、小規模零細企業にあっては、「外部」に向かって見栄えを必要とする機会はそう多くありません。
それよりもだいじなことは、「手元のおカネ」の有無です。会社・事業を継続・成長させるにあたって、おカネを準備できるかどうかです。
そのおカネを準備する手段が、「銀行融資」です。小規模零細企業は、大企業ほど多くの資金調達手段を持ちません。銀行融資は、唯一無二とも言える手段です。
したがって、銀行から融資を受けるということを前提に、財務戦略を持つことが重要になります。
対銀行にあっても経営指標がよいに越したことはありませんが、それだけではありません。むしろ、銀行特有の見方・考え方を理解しましょう。
前述した「借金した実績が融資を受けやすくする」という話しかり。とくに、小規模零細企業は、経営指標の良し悪しに執着しすぎないように注意が必要です。
銀行融資におすすめのメニュー
銀行融資の記事まとめページ
銀行融資入門セミナー
銀行融資・財務のコンサルティング
銀行融資の個別相談
まとめ
無借金経営のたった1つのメリットと5つものデメリット、についてお話をしてきました。
誤解なきように申し添えますが、無借金経営自体が悪いわけではありません。
融資を受ける必要がないほどに自己資金を蓄えている、という前提であれば、無借金経営は良いことです。
あるいは、借金をするくらいなら会社をやめる、という前提であればそれはそれです。
ただし、そのような前提でなければ、無借金経営はいちばんではありません。「借金=悪」の固定観念に気をつけましょう。
そのあたりをくわしく、わたしが書いたこちらの本(Kindle出版)も、よろしければどうぞ↓