銀行融資にツキモノである決算書や試算表。これらをつくるために必要な「経理(帳簿つけ)」に問題を抱える会社・事業は少なくありません。
ということで、銀行融資を妨げる「日ごろの経理」3つのポイントについて、お話をしていきます。
数字の良し悪し以前に、日ごろの経理。結果以前に過程。
会社・事業における銀行融資について。
銀行は融資審査の判断材料として、決算書や試算表など「数字」に大きなウエイト(イメージとして90%〜70%)を置いています。
この点で。数字が良い、つまり、業績がよければ融資が受けやすい、というのはよく知られるところでしょう。
CHECK! 『銀行から融資を受けられる?』の目安がわかる決算書の見方
加えて、もうひとつだいじなこと。それは、「日ごろの経理(帳簿つけ)」です。
なぜならば、日ごろの経理なくして、年にいちどの決算書も、毎月の試算表もつくることはできないから。
にもかかわらず、日ごろの経理に「なにかしらの問題」を抱えている会社・事業は少なくありません。その問題が、銀行融資の成功を妨げている。
ゆえに、結果としての「数字」以前に、まずは、過程としての「日ごろの経理」はどうなのか? 確認が必要です。
そこで、銀行融資の成功を妨げてしまう「日ごろの経理」について、お話していきます。ポイントは次の3つです ↓
- じゅうぶんに早いか?
- じゅうぶんに正しいか?
- じゅうぶんに伝わるか?
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
銀行融資の成功を妨げる「日ごろの経理」3つのポイント
《ポイント①》じゅうぶんに早いか?
銀行融資を受けようとする際、「試算表」の提示を求められることがあります。銀行は、融資先の「足元の数字」を確認したいからです。
このとき、「試算表はつくっていない」あるいは「試算表ができていない」。そのような会社・事業は少なくありません。
融資を受けるために、大慌てで試算表をつくる… というのではタイヘンです。場合によっては、融資を受ける前に資金繰りが破綻してしまいます。
また、すぐに試算表が出てこないようすを見て、銀行は「管理能力が低い」という評価をしています。
これでは、スムーズに融資が受けられないのは当然です。
そもそも。日常的に試算表をつくっていないから、大慌てで融資が必要になる、とも言えます。
日ごろから経理をして試算表をつくっていれば。それをもとにして、あるていど「先読み」ができる、というものですから。慌てる前に、融資の依頼もできたはずです。
したがって、日ごろの経理のポイントとして、「じゅうぶんに早いか?」が挙げられます。
「じゅうぶん」の目安としては、どんなに遅くても、毎月末までには前月分の試算表ができているかどうか。
もちろん、早ければ早いに越したことはありませんが。ここでは、最低でもそのくらいの「早さ」は欲しいということです。
これに対して、「数ヶ月も前の試算表がまだできていない」というのは遅すぎる、と言ってよいでしょう。銀行融資の妨げになります。
ちなみに、年に1回の決算書しかつくっていない・試算表はつくっていない、のが論外であることは言うまでもありません。
もとより、会社・事業において、「早い経理」はだいじなものですが。銀行融資においても、「早さ」は欠かすことができません。
《ポイント②》じゅうぶんに正しいか?
パッと見ただけでも明らかに間違っている、という決算書や試算表があります。
たとえば、銀行の預金残高が実際と合っていない。そんなことないだろう? と思われるかもしれませんが、意外とあります。
銀行は、じぶんのところの残高はわかっているわけですから、決算書や試算表の数字と突き合わせてみて確認をしています。間違っていればすぐわかる。
結果として、ひとつ間違っていれば、「ほかにもいろいろ間違っているのではないかなぁ?」と考えるのが自然でしょう。融資審査では、マイナス要素です。
したがって、日ごろの経理は「じゅうぶんに正しいか?」も大切なポイントになります。
正しくない例をもう少し挙げておくと、
- 銀行借入金について、各銀行ごとの残高が間違っている(預金残高と同じく、銀行はチェックしています)
- 現金残高が異様に大きい(実際にはそんな現金はない、というケース)
- 決算書に仮払金がある(仮払金は一時しのぎの勘定科目なので、決算書に残るのはおかしい)
- 決算書・試算表で減価償却費を計上していない(利益の水増し、と見られます)
- 残高がマイナスになっている勘定科目・補助科目がある(基本、マイナス残高はおかしい)
などなど。
ここで言う「じゅうぶんに正しいか?」の「じゅうぶん」とは、ひとまず、このくらいのていど加減を指しています。
厳密な部分や細かい部分での正しさは、また別です。たとえば、経理処理を1円間違えた…とか。
もちろん、1円たりとも間違えないことも大切ですが、それらは銀行がパッと見たくらいではわからないことでもあります。
そうではなく、パッと見てわかるような間違いは銀行融資の妨げになる、という話をしています。
木を見て森を見ず、の言葉もあります。日ごろの経理について、大局的に、大所高所からの「正しさ」も確認してみましょう。
《ポイント③》じゅうぶんに伝わるか?
《ポイント②》では、日ごろの経理について「正しさ」が必要であることをお話しました。
ところが、銀行融資を考えると、正しいだけではまだ足りません。3つめのポイントして「じゅうぶんに伝わるかどうか?」も大切です。
たとえば、会社が社長個人から借入をしているおカネについては、貸借対照表上、「役員借入金」の勘定科目で明示をするのがおすすめです。
役員借入金は、必ずしも返済を求められるものではないという実情から、「負債」からは除いて考える。という、融資審査におけるルールがあるからです。
CHECK! 短期?長期?『役員借入金』のもっとも正しい決算書表示法
この点で、もし役員借入金を「短期借入金」などの勘定科目に含めていると。銀行は、役員借入金の存在に気が付かないかもしれません。
結果、役員借入金を負債から除いてもらえなければ、その分、評価は悪くなってしまいます(負債が少ないほうが評価は良い)。融資の可否に影響します。
役員借入金が「短期借入金」になっていたとしても、会計・税金的に間違いではありませんが、銀行融資の妨げになるケースがある、ということです。
ほかにも例を挙げておくと。「特別損失」の区分に表示したほうがよい費用を、「販売費及び一般管理費」の区分に表示している。
たとえば、従業員への退職金。発生の頻度や、金額的インパクトの大きさから見て、「特別」だと言えることは少なくありません。
これを「販売費及び一般管理費」の区分で表示すると、「特別損失」の区分に表示する場合に比べて、「営業利益」が悪くなってしまいます。
損益計算書には、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、(税引後)当期純利益、とさまざまな「利益」がありますが。
銀行は、損益計算書のなかの、より「上」にある利益(いちばん上は、売上総利益)を重視しています。
したがって、従業員退職金の例で言えば、最終利益は同じだとしても、より上にある「営業利益」がよくなるように「特別損失」に表示をするのがよいわけです。
CHECK! 最終利益は同じなのに…営業利益で銀行に嫌われる決算書のつくり方
日ごろの経理が銀行融資の妨げにならぬよう、会社・事業における状況が「じゅうぶんに伝わるか?」にも注意をしましょう。
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まとめ
銀行融資を妨げる「日ごろの経理」3つのポイント、についてお話をしてきました。
銀行が融資審査で重視する「決算書・試算表」づくりの過程である「日ごろの経理」に問題はないか? 確認をしてみましょう。
- じゅうぶんに早いか?
- じゅうぶんに正しいか?
- じゅうぶんに伝わるか?