減価償却ってよくわからない。うまく説明できない。
会計の世界で、減価償却はひとつの「難所」となっています。経営者や経理担当者はその理解に苦しみ、会計人はその説明にアタマを悩ませます。
難所でありながらも、とても重要な考え方であり、テクニックでもあるのが減価償却。カンタンに知りたい・説明したい人のための「減価償却の考え方」、お話しします。
カンタンではない減価償却を、カンタンに説明するために
正直言って。減価償却はカンタンなものではありません。
けれども、会計人はもちろん、事業に携わる人が避けては通れない、避けるべきではない道が減価償却。ひとまず奥深く険しい道は避けることにして、ラクな道から行ってみましょうか。
クリームパン、はじめました
突然ですが。会社員のジョーさんは、脱サラをして商売をはじめることにしました。考えているのは、クリームパンの移動販売。
ある出張先で、それはそれはウマいクリームパンを焼く「パン屋」を知ったことがきっかけです。ジョーさんは、片田舎にあるそのパン屋からクリームパンを仕入れ、都心で移動販売して回ることを計画。
「都会のグルメなOLの間で大ヒットするに違いない!」ジョーさんはそう独り言ちると、数値計画を立て始めました。
パクりーむぱん移動販売の数値計画 | |||
1年目 | 2年目 | 3年目 | |
売上 | 10,000 | 10,000 | 10,000 |
仕入 | 5,000 | 5,000 | 5,000 |
給料 | 3,000 | 3,000 | 3,000 |
利益 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
「儲けは十分。あとはクルマか。でもおカネがないんだよね・・・」
友人のあなたにお金を借りに行く
ジョーさんは、友人のあなたに数値計画書を差し出して言いました。「バカ売れ間違いなし!でもクルマを買うお金が足りなくて・・・貸してもらえないだろうか?」
抜け目のないジョーさんは、クリームパンと街頭調査報告書を持参しています。
「パクりーむぱん、ねぇ・・・」あなたはつぶやきました。商品ネーミングのセンスの悪さ、人んちのパンを仕入値の倍で売るというあくどいビジネスモデルを疑いました。
ところが、とりあえず口にしたクリームパンのあまりのウマさに心ひかれ始めます。調査報告書も特に問題はなさそう。というか、「バカ売れ」を裏付けるに十分な内容です。
心傾くあなたに、ジョーさんは追い打ちをかけます。「金利は年利10%払う」
あなたは思わず、「で、いくらのクルマを買うんだい?」
それはムチャなのか
あなたの言葉にジョーさんは身を乗り出して言いました。「4,500!」
「よ、よ、4,500!?」あなたはびっくりしてのけ反ります。
「そりゃムチャだ!見てみろよ、1年間の利益は2,000だぞ。4,500のクルマを経費にしたら大赤字だ。10%の利息なんて払えんのか?」
「3年で返済させてもらえれば、ネ」ジョーさんは自信たっぷりに答えます。
「ホントに儲かるのかぁ?お金だって返してもらえるんだろうなぁ・・・?」あなたは困ってしまいました。
《利益》儲かるのかどうかについて
ここからが本番です。ジョーさんのパクりーむぱん販売は、事業として成り立つのか。考えてみましょう。
3人の責任者
ジョーさんは「3年で返済する」と言いました。これは、ジョーさんが「3年クルマに乗れる」と考えていたからです。
3年乗ったらおそらく廃車だろうと予測し、それに合わせて返済も3年だ、と。
ここで、「3年クルマに乗れる」という点に着目します。クルマは3年間にわたり、移動販売という事業に使われます。
であれば、クルマの購入費4,500を、購入した年「だけ」に負担させるのはどうなのでしょうか?
「4,500のクルマを経費にしたら大赤字だ」と言った、あなたのイメージは次のとおりです。
パクりーむぱん移動販売の数値計画 | |||
1年目 | 2年目 | 3年目 | |
売上 | 10,000 | 10,000 | 10,000 |
仕入 | 5,000 | 5,000 | 5,000 |
給料 | 3,000 | 3,000 | 3,000 |
クルマ | 4,500 | ||
利益 | -2,500 | 2,000 | 2,000 |
ちょっと前提を変えます。もしも、この事業の責任者が「年替わり」だとしたら?そして、各年の利益額でそれぞれの責任者が評価されるとしたら?
1年目の責任者はたまったものではありません。2年目、3年目の責任者と同様に、売上10,000をあげているにもかかわらず自分だけ大赤字。
「2年目、3年目だって同じクルマを使っているんだから不公平だ!」、1年目の責任者は叫びます。
ということで、イメージチェンジです。クルマの購入費 4,500は3年間にわたり平等に負担する。こんな感じでどうでしょう。
パクりーむぱん移動販売の数値計画 | |||
1年目 | 2年目 | 3年目 | |
売上 | 10,000 | 10,000 | 10,000 |
仕入 | 5,000 | 5,000 | 5,000 |
給料 | 3,000 | 3,000 | 3,000 |
クルマ | 1,500 | 1,500 | 1,500 |
利益 | 500 | 500 | 500 |
1年目から3年目までが「同じ利益」になりました。同じクルマを使って、同じ事業をしているのですから、事業の評価としてはこうあるべきです。
購入したクルマは買った年だけに役立つものではなく、3年間にわたり役立つ(貢献する)という考えこそが「減価償却」です。
3年間に負担させる費用 1,500のことを、会計の言葉では「減価償却費」と呼んでいます。
利益はだいじょうぶ!
次に利息を考慮します。3年返済で年利10%です。
パクりーむぱん移動販売の数値計画 | |||
1年目 | 2年目 | 3年目 | |
売上 | 10,000 | 10,000 | 10,000 |
仕入 | 5,000 | 5,000 | 5,000 |
給料 | 3,000 | 3,000 | 3,000 |
減価償却費 | 1,500 | 1,500 | 1,500 |
利息 | 450 | 300 | 150 |
利益 | 50 | 200 | 350 |
ところで、よくある疑問ですが「返済額」は経費にはなるのか?
なりません。借りたものを返しているだけ。「行って来い」です。だから、利益にはカラみません。
一方で、利息は「借りた額以上」に支払い負担がありますので経費として認められます。
利息を考慮しても、3年間を通じて利益が出そうです。
クルマのガソリン代が出ていないじゃないか、って? あぁ、そうでしたね。説明が漏れました。超エコモデルの最新型自動車で、エネルギーはそこら中にある「空気」なんです。
そんなことよりも。あなたは言ってましたよね?「(貸した)お金だって返してもらえるんだろうなぁ・・・?」って。確かめないと安心してお金が貸せません。
だって、毎年の利益は 50~350です。貸すことになる4,500を3年で返してもらえるのでしょうか?
《資金繰り》お金は回るのかどうかについて
さきほどの数値計画を見る限り。毎年の利益はだいじょうぶ。どうやら儲かる事業のようです。
でも、お金はちゃんと回るのかな?ということを確かめます。
利益とお金の動きは別モノだ
パクりーむぱんの移動販売は「現金商売」。現金で仕入れて、現金で売ります。給料の支払も現金です。
ここで「儲かっているかどうか」はひとまず忘れることにします。代わりに「お金」の動きという事実だけに注目です。数値計画を「お金の動き」に書き換えます。
お金が増えれば「+」、お金が減ったら「-」で表現します。
パクりーむぱん移動販売のお金の動き増減表 | |||
1年目 | 2年目 | 3年目 | |
売上 | +10,000 | +10,000 | +10,000 |
仕入 | -5,000 | -5,000 | -5,000 |
給料 | -3,000 | -3,000 | -3,000 |
クルマ購入 | -4,500 | 0 | 0 |
減価償却費 | 0 | 0 | 0 |
利息 | -450 | -300 | -150 |
借入 | +4,500 | ||
返済 | -1,500 | -1,500 | -1,500 |
お金の増減 | +50 | +200 | +350 |
ポイントは、減価償却費のお金の動きは「ゼロ」だということです。減価償却は会計上のテクニックでしかありません。お金の動きとは別モノです。
クルマは買ったときだけにお金が動くものであり、毎年の減価償却でお金が動くわけではありません。その点をようく表で確認してください。
購入した1年目の「クルマ購入 -4,500」、毎年の減価償却費は「ゼロ」です。合わせて、「-4,500」。4,500のクルマですから当然です。
さきほどの利益の数値計画にはなかった「借入」「返済」についても確認しておきましょう。
1年目に4,500を借りるので「借入 +4,500」です。毎年 1,500ずつ返済するので「返済 -1,500」。1,500 × 3年で借りた 4,500を返済します。
これらの結果、毎年のお金の増減は「プラス」。返済金も考慮したうえで、1年目は 50、2年目は 200、3年目は 350のお金が増えていきます。
あなたが貸そうとしているお金も、利息も。3年で受け取ることができそうです。
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まとめとして
お話ししてきた例を見てみると。「利益」と「お金の増減」とが一致していました。再掲します。
1年目 | 2年目 | 3年目 | |
利益 | 50 | 200 | 350 |
お金の増減 | +50 | +200 | +350 |
「利益」と「お金の増減」とが一致していたのは、「減価償却の期間と、返済の期間を3年で合わせていたから」です。いうなれば、たまたまです。
実際には、減価償却は6年で返済は5年とか、2つの期間が異なることもありえます。すると、「利益」と「お金の増減」とは一致しなくなります。
さらに言うと、減価償却費の計算方法は複数あります。今回のように毎年均等額、というわけでもない計算方法もあるのです。
そんなことを踏まえていくと。利益とお金の増減が一致することは、まずありません。
利益とお金の動きとは常に切り離して考える必要がある、ということです。今回、「数値計画」と「お金の動き増減表」の2つを作ったように。
さいごにおさらいです。今回お話しした減価償却についてのポイントは2つ。覚えておきましょう!
- 減価償却は「高額な資産」を一括で経費にするという「不公平」を正すための会計テクニック
- 減価償却費は「経費(例では 1,500)」ではあるけれど、お金の動きは「ゼロ」