銀行は、融資先の「在庫」を気にしています。銀行が「在庫に問題がある」と考える場合には、融資を受けることは難しくなります。
そこで、「在庫が多い・増加した」の5パターンとそれぞれの銀行対応について、お話をしていきます。
在庫が気がかりな銀行、在庫を見て融資を控える銀行
一般に、会社・事業は「在庫を持ちすぎないように」と言われます。
なぜなら、商品を仕入れて売れるまでのあいだ、つまり、在庫を持っているあいだ、「おカネが寝てしまう」からです。
商品を仕入れたときにおカネを支払うわけですが、仕入れた商品が売れなければ、そのおカネを回収することができない。
在庫が多いほど、資金繰りが悪くなる。だから、在庫を持ちすぎてはいけない、と言われるのです。
この点で、銀行もまた融資先の「在庫」を気にしています。在庫が多いのではないか? 在庫が増加してはいないか?
その結果、「在庫に問題がある」と考える場合には、警戒感から融資を控えることになります。
融資を受ける側としては、「在庫が多い」あるいは「在庫が増加した」のであれば、そこに問題がないのかどうかを自ら確認することが大切です。問題など無いのに、融資を控えられても困りますからね。
ということで、「在庫が多い・増加した」のパターンと、それぞれのパターンにおける銀行への対応について話をしていきます。パターンは5つ、次のとおりです ↓
- 売上が増加した
- 不良在庫がある
- 架空在庫がある
- 品揃えを増やした
- 受注に対応する
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
「在庫が多い・増加した」の5パターンとそれぞれの銀行対応
《パターン1》売上が増加した
売上の増加にともない在庫も増加することがあります。このとき、「売上の増加に見合った在庫の増加」であれば問題はありません。
具体的には、売上の増加は「平均月商(年間の売上高 ÷ 12)」で考えます。たとえば、こういうことです ↓
前期 | 当期 | |
平均月商 | 1,000万円 | 1,200万円 |
在庫 | 1,500万円 | 1,850万円 |
たな卸資産回転期間 | 1.50 | 1.54 |
上記のとおり、前期から当期にかけて、在庫は 350万円増加しています(1,850万円 − 1,500万円)。
これに対して、売上(平均月商)も 200万円増加をしています。この在庫の増加が、売上の増加に見合ったものかどうかを確認する指標が「たな卸資産回転期間」です ↓
たな卸資産回転期間 = 在庫 ÷ 平均月商
この「たな卸資産回転期間」で、在庫が平均月商の何ヶ月分あるかがわかります。
前期は 1.50ヶ月分、当期は 1.54ヶ月。おおむね変わりがないことから、「売上の増加に見合った在庫の増加」だと言えるでしょう。
たな卸資産回転期間は、銀行のほうでも計算をしているものですが、上記のような状況であれば問題になることはありません。
では、在庫が増加して、たな卸資産回転期間も大幅に増加するようなケースはどうなのでしょう? というのが、次からのお話です。
《パターン1》のように在庫が増えると、会社にはおカネが必要になります。在庫が増えることで「寝てしまうおカネ」が増えるからです。
そこで、資金繰りをスムーズにするために、銀行から「増加運転資金」を理由として融資を受けるようにしましょう。
売上増加というポジティブな背景がありますので、銀行の融資姿勢も基本的にポジティブです。
《パターン2》不良在庫がある
言うまでもないことですが、在庫は「売れる」ことが前提です。ところが、売れないこともあります。
商品ニーズを読み違えてしまった、その後の値引き処分もしそびれてしまった… というようなケース。いわゆる「不良在庫」です。
この場合、前述した「たな卸資産回転期間」は増加しますから、銀行は「もしかして不良在庫がある?」を疑うことになります。
これが事実であれば、いたしかたありません。起きてしまったことは起きてしまったことで、しかたのないことです。
それはそれとして。現状の開示・説明はもちろん、現状にいたった背景、今後の対応策を銀行に伝えるようにしましょう。
ただただ銀行を不安・心配にさせてしまうよりはずっとよいはずです。
そもそも、在庫を抱えるビジネスでは「欠品」を恐れるところではありますが、「不良在庫」とのバランスにはじゅうぶん気をつけなければいけません。
《パターン3》架空在庫がある
望ましくない在庫の増加として「不良在庫」の話をしました。加えてもうひとつ、望ましくない在庫として「架空在庫」が挙げられます。
ほんとうは無いはずのモノを「在る!」と偽って在庫の処理をすると、利益が増加するという「古典的粉飾テクニック」があるのです。
当然、その手は銀行も承知していますから。架空在庫による在庫の増加を警戒しています。
具体的には、前述した「たな卸資産回転期間」の増加をチェックする、というのが1つ。それからもう1つ、「売上総利益率(粗利益率)」の増加もチェックをしています。
架空在庫の処理をすると、売上総利益(粗利益)が増えるために「売上総利益率(粗利益率)」も増加するからです。
減収増益(売上が減っているのに利益は増える)のケースなどは最たるもので。在庫増加・売上総利益率増加をともなうものであれば、架空在庫による「粉飾」を疑われることでしょう。
粉飾決算に手を染めるなどあってはいけないことですが、もしも「(過去に)やってしまった」というのであれば、銀行には正直にお話することも必要です ↓
《パターン4》品揃えを増やした
不良在庫なんて無い、架空在庫なんてもちろん無い。でも、在庫が多い・在庫が増加した(たな卸資産回転期間が増加した)、というケースもあります。
会社・事業が「意図して」在庫を増やしている。たとえば、他社と比べて「品揃え」を強みにしているようなビジネスをしている、というケースです。
一般に、在庫は無いほうがいい、と言われるところではありますが。必ずしもそうとは言えません。
在庫が多いことはリスクがある、あるいは非効率だと知りながらも、自社のビジネスモデルとして、差別化のポイントとして「あえて在庫を持つ」のはアリなわけです。
このような場合に放っておくと、銀行は同業他社平均と比較をしたうえで「在庫が多い」という判断をすることでしょう。結果、融資が控えられることにもなりかねません。
ですから、「在庫が多い」ことの必要性として、自社のビジネスモデルを説明する、商流図を提示するなどして、銀行に理解をしてもらうことが大切です。
また、銀行の「ほんとうに在庫が動いているのか?(不良在庫は無いか)」「ほんとうに在庫があるのか?(架空在庫はないか)」という警戒を払拭するために、
- 在庫を実際に見てもらう、倉庫を実際に見てもらう
- 取扱商品の入出庫表を作成して、定期的に動きがあることを確認してもらう
などの対応をするのもおすすめです。
あえて在庫を持つのもひとつのビジネスモデルではありますが、「難しいビジネス」であることは理解をしておいたほうがよいでしょう。
とくに、資金が少ない小規模零細企業には難しいものがあります。そもそも在庫を持つのにおカネがかかり、在庫を持ったあとのリスク(不良化)を飲み込めるおカネが必要だからです。
《パターン5》受注に対応する
問題はないけれど在庫が増加するケースとして、「受注に対応する」も挙げられます。
たとえば、決算日近くに得意先から大量の商品を受注した。商品の仕入は決算日までに済んだものの、得意先への納品(売上の計上)はまだ。
この場合、決算書には「大量の商品を受注した」分の在庫が掲載されることになります。売上はまだなのに在庫は増えるので、結果として、たな卸資産回転期間は「異常値」を示します。
異常値を見た銀行は、やはり不良在庫や架空在庫を疑いますから、放っておくわけにもいきません。
そこで、受注の事実を証明できる「受注書」や「契約書」などを、決算書とあわせて銀行に提示するのがよいでしょう。
銀行に言われてから提示する、という流れもありますが。銀行(の担当者)が、言ってくれるかはわかりません。
「どうも粉飾っぽいなぁ、以上」という判断をされていることもゼロではないはずです。不利益な判断をされないよう、対応は「こちらから」と心得ておきましょう。
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まとめ
「在庫が多い・増加した」の5パターンとそれぞれの銀行対応についてお話をしてきました。
銀行は、融資先の「在庫」を気にしています。銀行が「在庫に問題がある」と考える場合には、融資を受けることは難しくなります。
融資を受ける側としては、「在庫が多い」あるいは「在庫が増加した」のであれば、そこに問題がないのかどうかを自ら確認するようにしましょう。それにともなう銀行対応も大切です。
- 売上が増加した
- 不良在庫がある
- 架空在庫がある
- 品揃えを増やした
- 受注に対応する