決算書のなかの2大帳票である貸借対照表と損益計算書。
銀行は融資審査のとき、どちらを重視するのか?についてお話していきます。
どちらかと言えば「損益計算書」をとる銀行
いわゆる「決算書」のなかには、いろいろな帳票がありますが。
なかでも2大帳票として、「貸借対照表」と「損益計算書」が挙げられます。
このうち貸借対照表は、決算日現在である一時点の「財産の状況(財政状態と呼びます)」をあらわす帳票です。
この「財産の状況」を算式でかんたんに示すなら、「資産 − 負債 = 純資産(自己資本)」になります。
いっぽうの損益計算書は、その決算期1年間である一定期間の「収益の状況(「経営成績」と呼びます)」をあらわす帳票です。
この「経営成績」を算式でかんたんに示すなら、「収入 − 費用 = 利益」になります。
言い換えると、貸借対照表は「純資産(自己資本)」を、損益計算書は「利益」を見るための帳票だ、ということになるわけです。
では、その貸借対照表と損益計算書。いったいどちらが大事なんだ?というハナシはときおり見聞きするところ。
貸借対照表のほうが損益計算書よりも並びが先だから、貸借対照表が大事なんだ!とか。利益がなければはじまらんのだから、損益計算書が大事なんだ!とか。意見はさまざまです。
それはそれとして、決算書で融資審査をする銀行はどうなのでしょう? 貸借対照表と損益計算書のどっちを重視しているのか?
融資を受ける側として、知っていて損はありませんよね。
銀行融資支援にたずさわるなかで、わたしが感じている「銀行の考え方」はこちらです ↓
- 短期的には貸借対照表、中長期的には損益計算書を重視する
- どちらかひとつと言われれば、損益計算書を重視する(ただし、債務超過がひどすぎる場合を除く)
上記の「銀行の考え方」について、このあとくわしくお話をしていきます。
短期的には貸借対照表を重視する理由
銀行の考え方を理解するにあたって、まずはじめに「貸借対照表」の話を少しします。難しい部分はなるべく省いて、できるだけ易しくいきますのでご安心を。
さて、冒頭、貸借対照表を算式で示すと、「資産 − 負債 = 純資産(自己資本)」になりますよ、と言いました。
これで銀行がなにをいちばんに見ているかと言えば、こういうことです ↓
『いまある資産をすべて売り払って現金化した場合に、負債を返しきれるかどうか?』
つまり、「資産 − 負債」がプラスであれば負債を返しきれるからOK。逆に、「資産 − 負債」がマイナスであれば負債を返しきれないのでNG。と、銀行は見ています。
このうち、「資産 − 負債」がマイナスになることを「債務超過」と呼び、それは銀行が忌み嫌うもののひとつであることを覚えておきましょう。
繰り返しになりますが、債務超過、すなわち「資産 − 負債」がマイナスの状態とは、実質的に破綻していることのあらわれです。なぜなら、いまある負債を返せないから。
したがって、債務超過の貸借対照表を見た銀行としては「おカネを貸しても返ってくるはずがない。だから融資はできないだろう」と、「まずは考える」ことになります。
このように貸借対照表で融資の可否を「まずは考える」という点で、銀行は「短期的には貸借対照表を重視する」と言えるのです。
長期的には損益計算書を重視する理由
ここでもういちど、「資産 − 負債 = 純資産(自己資本)」の算式に戻ってみましょう。
さきほど、「資産 − 負債」はプラスが良い、と言いました。言い換えると、「純資産(自己資本)」はプラスが良い、ということになりますよね。
では、「純資産(自己資本)」とはなにか? と言うと。おもに、「資本金」と「過去の利益の累計」を合わせたものです。
「資本金」とは、株主から出資を受けた金額、というのはご存知のところでしょう。
もうひとつ「過去の利益の累計」のほうは、文字どおり、会社がはじまってからの毎年の利益(税引後当期純利益)を累計した金額です。
ということは。「毎年の利益」があればあるほど、また、それが累積されればされるほど、「純資産(自己資本)」は大きくなることがわかります。
そして、「純資産(自己資本)」が大きくなるということは、「資産 − 負債」がプラスになるということでもあります。
ところで、「毎年の利益」とは? 損益計算書に示されるのでしたよね。
損益計算書を算式で示すと「収入 − 費用 = 利益」です。その「利益」が大きければ大きいほど、貸借対照表の「純資産(自己資本)」も大きくなり、債務超過を免れやすくなります。
このように、損益計算書の利益が「最終的」には、貸借対照表の純資産(自己資本)につながるという点で、銀行は「中長期的には損益計算性を重視する」と言えるのです。
ちなみに、損益計算書の「毎年の利益」は、貸借対照表の「純資産(自己資本)」とでつながっている。これは、「決算書のしくみ」として覚えておくべきポイントでもあります。
どちらかひとつと言われれば、損益計算書を重視する理由
さきほど話をしたとおり、損益計算書の利益は、最終的に貸借対照表の純資産(自己資本)を増やすことにつながります。
であるならば。もし、貸借対照表が「ちょっと債務超過(資産よりも負債が多い)」くらいでも、損益計算書の利益が安定しているのであれば、いずれ近いうちに債務超過は解消します。
いっぽうで、いまは債務超過ではなかったとしても、利益が出ていない、赤字が続いている、という場合はどうでしょう?
いまは債務超過でなくても、いずれ近いうちに債務超過に転落してしまいます。赤字が止まらなければ、さらに債務超過は進行します。
そう考えると。貸借対照表の債務超過と、損益計算書の利益とを比較して、より重要だと言えるのは「損益計算書の利益」のほうです。
利益があれば・利益が出続けていれば債務超過にはならない、あるいは債務超過の状態が解消されるからです。
ゆえに銀行は、「貸借対照表か損益計算書のどちらかひとつ」と言われれば、「どっちかと言えば損益計算書、損益計算書の利益がだいじかな」と考えます。
ですから、損益計算書の利益が出ている、また、これからも利益が出そうだ、ということであれば。少々債務超過があっても、融資の検討をしてもらえる可能性がある、と言えるでしょう。
損益計算書を「中長期的な視点」で見ているからですね。
ただし、債務超過が少々ではない場合には、そうはいきません。債務超過がはなはだしく、いまにも破綻しそうな貸借対照表は「短期的な視点」で見て、極めて危険だからです。
したがって、銀行は「どちらかひとつと言われれば損益計算書。ただし、債務超過がひどすぎる場合は除く」と考える。これが結論です。
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まとめ
銀行は融資審査で「貸借対照表」と「損益計算書」のどちらを重視するのか? についてお話をしてきました。
もちろん、どちらも大事ではあるのですが、そこには「銀行の考え方」があり、決算書を短期的な視点で見るか、中長期的な視点で見るかによって、その考え方も変化しうるものであることを押さえておきましょう。
- 短期的には貸借対照表、中長期的には損益計算書を重視する
- どちらかひとつと言われれば、損益計算書を重視する(ただし、債務超過がひどすぎる場合を除く)