自己資本比率は 30%が合格ライン、とはよく言われるところです。
ところが、自己資本比率 30% でも銀行が評価してくれないこともある。その理由についてお話します。
自己資本比率に満足する会社、自己資本比率に首を傾げる銀行
有名な財務指標のひとつに「自己資本比率」が挙げられます。
総資本(負債+自己資本)のうちに占める自己資本の割合、それが自己資本比率です。いちおう算式にしてみると、
自己資本比率 = 自己資本 ÷ (負債+自己資本)
ということになります。
算式中に登場する数字について「貸借対照表」で言うのなら。自己資本は「純資産の部」の合計額、負債は「負債の部」の合計額から拾うことができます。
この自己資本比率を計算してみてわかることは、財務の「安全性」です。
つまり。会社の資金調達方法(負債+自己資本)のうち、返済を必要としない自己資本によるものが多ければ多いほど安全である。
逆に自己資本が少ない、言い換えると、負債が多ければ多いほど、返済を必要とする点で危険がある。
自己資本比率については、そのような見方をします。
では、望ましい自己資本比率、目指すべき自己資本比率とはどれくらいを言うのでしょうか?
一般に言われるのは、「20%は欲しい」「30%あれば合格」。そんな感じです。
そこで、自社の決算書(貸借対照表)を引っ張り出して自己資本比率を計算してみたところ、合格ラインの 30%超え!よしよし。
ところが、です。
同じ決算書を見た銀行の反応はイマイチであり、自己資本比率に対する評価も低い… ということがあります。
このように、自社と銀行とのあいだに「認識違い」があれば、銀行融資をスムーズに受けることはできません。
ですから、いったいどうしてそんなことが起きるのかを確認しておきましょう。「自己資本比率30%」でも銀行が評価しない理由とは、次の5つです ↓
- 不良資産がある
- 粉飾決算がある
- 含み損がある
- 価値のない資産がある
- 現金預金が無い・少ない
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
「自己資本比率30%」でも銀行が評価しない5つの理由
《理由1》不良資産がある
自己資本比率の算式に登場する「自己資本」の金額は、「資産 − 負債」から計算されます。
ということは、たくさんの資産があれば自己資本は大きくなり、自己資本比率は高くなる。逆に資産が少ないと自己資本は小さくなり、自己資本比率は低くなります。
そのことを頭に置きつつ、「もし資産のなかに不良資産があったら?」を考えてみましょう。
たとえば。貸借対照表に「商品 300万円」が掲載をされている、とします。いわゆる、たな卸資産(在庫)です。
ところが、よくよく商品を調べてみたら。傷が付いていたり、古くなったりで、まともに売れそうもない商品が混じっている。不良資産です。
にもかかわらず、仕入をしたときの価格 300万円が貸借対照表に掲載されている。でも、実際の商品価値は 100万円だとしたら?
貸借対照表の「資産」は、200万円(300万円 − 100万円)過大になっている、と言えます。
結果として、「資産 − 負債」で計算される自己資本も過大となり、ひいては自己資本比率も過大となります。
この場合、貸借対照表から計算される自己資本比率が30%であっても、「実はもっとずっと低い」ことになるわけです。銀行はそこを見ています。
似たような話が、「回収できそうもない売掛金」です。
そのような売掛金の金額をそのまま貸借対照表に掲載していれば、やはり自己資本比率は過大になります。
たな卸資産にしても、売掛金にしても、不良資産が含まれたままの貸借対照表を見ていたのでは、会社自身が「安全性」を見誤ってしまう。
そのようなことがないように、「資産のなかに不良はないか?」という目で貸借対照表を見るようにしましょう。
《理由2》粉飾決算がある
業績を良く見せようと利益を水増しする、「粉飾決算」というものが存在します。
たとえば、ありもしない架空の売上を計上する。それにともない、架空の売掛金を計上する、とします。
すると、売掛金は実際よりも架空の分だけ過大になり、売掛金は「資産」ですから「資産」も過大になる。
結果として、「資産 − 負債」から計算される「自己資本」もまた過大になります。
さきほどの不良資産と同じような話です。
また、固定資産(建物、機械、備品、自動車など)について、減価償却費の計上をしないことで利益を水増しする、という粉飾決算もあります。
この場合、貸借対照表に掲載される固定資産の金額は、しなかった減価償却費の金額分だけ過大になります。
またしても「資産」が過大ですから、自己資本比率も過大です。気づいた銀行は、固定資産の金額を修正したうえで自己資本比率を見ています。
粉飾決算がダメだ、というのは言うまでもありませんが。それはそれとして、粉飾をすると決算書が使いものにならなくなる。これが大問題です。
粉飾された決算書は事実と乖離します。事実ではない決算書をいくら眺めたところで、得られるものはありません。
会社が自社の状態を知るためのだいじな決算書が使いものにならない、などということがないように。粉飾決算はしないことです。
《理由3》含み損がある
貸借対照表に「土地」が掲載されている、とします。
その昔、土地が値上がりを続けた時代に、さらなる値上がりを期待して買ってはみたけれど。未利用のうえに、いまは値下がり。そんな土地です。
いわゆる「含み損」を抱えた土地、ということになります。
もし、この土地を売却すれば、「購入金額 − 売却金額」は損失として経理処理されるところです。
そう考えると。いま現在、貸借対照表に掲載されている土地の金額は「含み損」の分だけ過大だ、と見ることができます。
ですから、銀行もそのように見ています。含み損の金額を修正したうえで、自己資本比率を見ています。
いっぽうで、会社は含み損を考えないままに貸借対照表を見ていると。銀行からの評価と食い違うことになるわけです。
株や投資信託などの有価証券についても同じことが言えます。
自社の貸借対照表に「含み損」はないか。あれば、それを除いたところで自己資本比率がどのくらいになるかを計算してみましょう。それが銀行の見方です。
《理由4》価値のない資産がある
貸借対照表に掲載される勘定科目のひとつに「繰延資産」があります。
たとえば「創立費」。会社を設立するにあたってかかった諸々の費用です。これを損益計算書の「費用」とはせず、貸借対照表の「資産」として掲載したものが「創立費」です。
創立費として資産にしたうえで、設立後5年以内のあいだで徐々に費用にしていきます(費用にした分、創立費の金額は減ります)。
このような処理をするのは、「繰延資産とは、本来費用ではありながらも、その支出の効果は将来にわたり及ぶもの」だから、との会計的考え方があるからです。
それはそれとして。その創立費をいつまでたっても費用にしない、資産に計上しっぱなしの会社もあります(費用にすると赤字になるから、などの理由で)。
この場合の創立費には資産としての価値が無い、というのが銀行の見方です。費用にすべきところを見送っているから、ですね。
もっと言えば。繰延資産は「本来が費用」なのだから、そもそも繰延資産自体に価値が無いと見ている銀行もあります。
貸借対照表の繰延資産の金額を減らしたところで、自己資本比率を見ているということです。
似たようなものとしては「前払費用」「仮払金」「立替金」「貸付金」などが挙げられます。
貸借対照表には「資産」として掲載をされていても、中身を見てみたら価値がない。いずれ費用や損失になるばかり… このような資産を銀行は注視していることを覚えておきましょう。
もちろん、価値のない資産が貸借対照表にあれば、自社も判断を誤ります。資産の価値について、貸借対照表を精査する目が必要です。
《理由5》現金預金が無い・少ない
繰り返しになりますが、自己資本は「資産 − 負債」で計算されます。
資産が多いほど自己資本は大きくなり、自己資本比率も大きくなります。
ところで、その「資産」のなかで、銀行が考える「もっとも確実・安全な資産」とはなんでしょうか?
それは、現金預金です。
たな卸資産や売掛金といった資産は「不良化」により資産価値を失うことがあります。現金化できないことがあります。
固定資産には値下がりがあります。売却したときに、買った値段よりも少ない金額しか回収できないことがあります。
現金預金には、そのような危険がありません(インフレ、盗難などは別として)。
ゆえに、銀行は現金預金がある会社を、安全面から高く評価します。
自己資本比率も安全性をはかる指標として見られるところですが、いくら自己資本比率が高くても現金預金はカツカツ・ほとんどない、というのでは安全面に問題あり。それが銀行の見方です。
実際、自己資本比率がどれだけ高かろうと、現金預金が尽きてしまえば会社は破綻してしまいます。
銀行の見方に限らず、現金預金が少なすぎることにリスクがあるのは間違いないのです。
自己資本比率を高めることもだいじですが、現金預金も増やすことができているか。あわせて確認をするようにしましょう。
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まとめ
「自己資本比率30%」でも銀行が評価しない5つの理由についてお話をしてきました。
自社と銀行とのあいだに「認識違い」があれば、銀行融資をスムーズに受けることはできません。
貸借対照表を見て、自己資本比率を過大評価することがないように。注意すべきポイントを押さえておきましょう。
- 不良資産がある
- 粉飾決算がある
- 含み損がある
- 価値のない資産がある
- 現金預金が無い・少ない