会社は銀行とのお付き合いにおいて、嘘をつくべきではありません。
が、たった1つだけ、嘘をつくべきケースがある。というお話をしていきます。
ついてもいい嘘、というものがある。
融資を受けている・受けようとする会社は、銀行とのお付き合いにおいて「嘘」をつくべきではありません。
嘘をついてはいけない、などというのは対銀行に限ったことでもないわけですが。とにかく、銀行に対しては「正直」であるべきだ、と言えます。
それでも。たった1つ、会社が銀行に対して嘘をついてもよいケース、むしろ、嘘をつくべきケースがあるのはご存知でしょうか。
それは、「他の銀行から融資を断られた(融資審査に落ちた)」というケースです。
A銀行から融資を断られたという事実があったとしても、B銀行に融資を申し込むにあたり、その事実を伝える必要はありません。もし聞かれても、おいそれと正直に答えるべきではありません。
ではなぜ、このケースでは嘘をつくべきなのか? このあと、その理由についてお話をします。
また、比較として。逆に嘘をつくべきではないのに嘘をついてしまいがちなケースについてもお話をしてみます。
「他の銀行から融資を断られた(融資審査に落ちた)」を言うべきではない理由
A銀行から融資を断られてしまった… だから、B銀行に融資をお願いしたい。
これを聞いたB銀行が何を考えるかと言うと、「だったらウチも貸せない」です。A銀行が貸さなかったのなら、ウチだって貸せない。
A銀行とB銀行とは別々の銀行ではありますが、「銀行」という点では同じです。融資審査は銀行ごとであっても、同じ銀行なのですから、審査の「基本」はそう変わりません。
したがって、A銀行の審査に落ちたということは、B銀行の審査にも落ちるであろうことをあらわしています。それをあえて、「A銀行から融資を断られた」と伝えるのはどうなのか?
あまりいいことはなさそうですよね、という話です。
ましてや、A銀行が自社にとってのメインバンクである場合、さらに状況は悪くなります。
通常、メインバンクはその会社をもっとも理解しているものであり、「できるだけ支援する」のが基本姿勢です。
にもかかわらず。そのA銀行に断られたということは「会社は相当まずい」と考えられ、B銀行はじめ他の取引銀行も同じように考えます。
メインバンクが融資をしないのだから、ウチだって融資をすべきではない。と、取引銀行がいっせいに及び腰になりますから、会社は融資を受けることが難しくなるばかりです。
ゆえに、「他の銀行から融資を断られた(融資審査に落ちた)」と言うべきではありません。
ちなみに。他の銀行から融資を断られたことは、会社自身が言わなければわからないことです(他の銀行にバレてしまうのは、往々にして会社自身で口にしてしまっている場合です)。
たとえば、B銀行に「A銀行から融資を受けないのですか?」と聞かれた場合。すでにA銀行から断られていたとしても、「今回はB銀行さんからの融資を考えています」などと回答するのがよいでしょう。
嘘をつくべきではないのに嘘をついてしまいがちなケース
たった1つ、会社が銀行に対して嘘をついてもよいケースとして、「他の銀行から融資を断られた(融資審査に落ちた)」というお話をしました。
ここからは逆に、嘘をつくべきではないのに嘘をついてしまいがちなケースについて、3つほど例を挙げてお話をしてみます。こちらです ↓
- 粉飾をしている
- ブラック情報がある
- 他の銀行からも借りる
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
《ケース1》粉飾をしている
利益を水増しするなど、いわゆる「粉飾決算」をしている会社が、決算書を黙って銀行に提示すれば嘘をついていることになります。
もっとも、「粉飾をしています!」などと言いながら粉飾をするような会社はないわけですが。
いっぽうで、「ついつい粉飾をしてしまった…」という会社があります。粉飾をしてしまったけれど、悪いことだとわかっているのでなんとか解消したいとは考えている。そういう会社です。
このケースでは、銀行に対して粉飾の内容や経緯を正直に話をするのがよいでしょう。
銀行はダマサれて融資をしてしまうことがないように、粉飾をとても警戒しています。決算書を分析して、粉飾の有無を検討しています。
結果、粉飾が疑われる場合でも、銀行は「粉飾してますよね?」などと面と向かって確認をするものでもありません。
よって、会社は「バレていない」と思っていても、実は銀行にはうすうすバレていることはあるものです。
粉飾という悪事をはたらきながら平然と黙っている。そのような不誠実を銀行が好むわけがないですよね。
したがって、「ついつい粉飾をしてしまったが、これからは絶対にしない」というのであれば、粉飾については嘘をつかずに正直に話をすることをおすすめします。
《ケース2》ブラック情報がある
銀行は、融資審査の際にブラック情報を確認していることがあります。具体的には、経営者の「個人信用情報」です。
たとえば、過去にクレジットカードの支払遅延がある、多額のカードローンがあるなど。そのような情報は「個人信用情報機関」に登録されており、銀行は登録情報を照会することがあるのです ↓
銀行が情報を紹介した結果、過去または現在にブラックな情報がある場合、融資を受けることは難しくなります。
いっぽうで。ブラックの内容がそれほど重いものではないとか、あるいはいま現在は問題が解決しているとか、の場合には必ずしも融資が受けられないわけではありません。
ですから、じぶんでブラック情報があるとわかっているのであれば、あえて自主的に銀行に話をする、説明をするのもひとつの方法です。
これが逆に、じぶんからはなにも言わずに黙っていて、銀行のほうでブラック情報を見つけたとなるとよろしくありません。
銀行に言われてから話をする、説明をするのでは言い訳がましく、不誠実の疑いをぬぐうことは困難だからです。
銀行からしてみれば「ブラック情報を黙っていたな(=ブラック情報が無いと嘘をついていたな)」といったところでしょう。
じぶんすらブラック情報を忘れていた… ということもあるでしょうから、自信がない場合には、あらかじめ「個人信用情報」を取得して確認しておくのがおすすめです ↓
《ケース3》他の銀行からも借りる
A銀行から融資を受けることをB銀行に言ったら、B銀行は気を悪くするのではないか? と考える会社があります。
だから、B銀行には黙っておく、とか。「A銀行がしつこいからしかたなく借りた」などと嘘をつく、ということがあるようです。
けれども、そのように「他の銀行からも借りる」ことについて嘘をつく必要はありません。悪いことをしているわけではないからです。
そもそも、会社がひとつの銀行からのみ融資を受けているのであれば、それはリスクだと言えます。ひとつの銀行にできる融資は限られるのですから、複数の銀行から資金調達できるように備えておくのがよいはずです。
銀行もまた、じぶんのところだけ融資を頼られるのは「荷が重い」ということもあります。たとえば、じぶんの銀行だけで 1,000万円融資をするよりも、他の銀行と 500万円ずつ融資をすれば、銀行のリスクは半分ですみます。
よって、「他の銀行からも借りる」ことは、銀行にとっても悪い話ではないのです。
また、ひとつの融資案件を同時に複数の銀行に依頼する、という場合(融資を急いでいるケースなど)。これも嘘をついたりせず、正直に「同時に依頼している」ことを伝えましょう。
具体的には、「今回の融資はA銀行とB銀行の両方に依頼をしています。もしも両方の審査がOKだった場合には、両方から融資を受けるつもりです」といった伝え方になります。
なお、両方の審査がOKだった場合に、片方からしか融資を受けないとなると、銀行としては「骨折り損(審査はしたのに融資できない)」もありますから気乗りがしないことでしょう。
審査がOKなら融資を受ける、というところがポイントです。
※ 設備資金の融資については、設備と融資とが「ひもつき」であるため、上記のような重複による融資はできません(運転資金の融資に限られます)
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まとめ
融資を受けている・受けようとする会社は、銀行とのお付き合いにおいて「嘘」をつくべきではありません。
それでも。たった1つ、会社が銀行に対して嘘をつくべきケースとして、「他の銀行から融資を断られた(融資審査に落ちた)」を覚えておきましょう。
また、逆に嘘をつくべきではないのに嘘をついてしまっていないか? 本文中に挙げた「嘘をつきがちなケース」を確認しておくとよいでしょう。
- 粉飾をしている
- ブラック情報がある
- 他の銀行からも借りる