運転資金の融資を受けたのなら、欠かすことができない「折返し融資」。その注意点についてのお話です。
そもそも「折り返し融資」ってなんだっけ?
会社が銀行から融資を受けて、毎月返済をしている場合。あるていどの返済が済んだところで、もともとの融資金額までふたたび受ける融資を「折り返し融資」と呼びます(巻き直し、巻き替え、巻き戻し、などとも)。
たとえば、もともと 500万円の融資を受けていたとして。その後、毎月返済を続け、融資残高が 300万円になっているとしたら。
折り返し融資では、ふたたび 500万円の融資を受けて、残高の 300万円を返済。正味 200万円の融資を受けたことになります。つまり、「これまで返済した分を借り直す」のが折返し融資の効果です。
ではなぜ、これまで返済した分を借り直すのか?
それは、返済を続けることで手元のおカネが減ってしまうからです。さきほどの例で 200万円の返済をしていれば、その分だけ手元のおカネも減ってしまっているからです。
もともと 500万円の融資を受けたのが「運転資金に充てるため」であった場合。次の算式が前提にあった、と言えます ↓
- 売掛金・受取手形 + たな卸資産 − 買掛金・支払手形 = 500万円
これは「正常運転資金(所要運転資金、経常運転資金とも)」と呼ばれるものであり、「会社が事業を続けている限り必要とされるおカネ」をあらわしています。
この 500万円というおカネを用意しておかないと、仕入や経費の支払いができなくなってしまう… というのが正常運転資金です。そのあたり詳しくはこちらの記事も参考に ↓
その「会社が事業を続けている限り必要とされるおカネ」を借りたのにもかかわらず。毎月返済を続けていたら、借りたはずのおカネは減っていく・失くなっていくことになってしまいます。
結果として、資金繰りが厳しくなる。場合によっては、資金繰りが破たんします。
そんなことにならないように。あるていどの返済が済んだところで、もともとの融資金額までふたたび融資を受ける「折返し融資」が重要なのです。
と、前置きが長くなりましたが。運転資金の「折返し融資」で考慮すべき注意点について、このあとお話をしていきます。次の3つです ↓
- 原則、正常運転資金の範囲内と理解する
- 業績が悪くなる前にやる
- お付き合いしている銀行すべてでやる
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
運転資金の「折り返し融資」で考慮すべき3つの注意点
《注意点1》原則、正常運転資金の範囲内と理解する
冒頭、正常運転資金についてお話をしました。
例として挙げたのが、正常運転資金が 500万円であり、その正常運転資金分として 500万円の融資を受けた会社です。
では、もしも。この会社が「折り返し融資」を受けようとする時点の「正常運転資金」の金額が、当初の 500万円よりも減っていたらどうでしょう?
実際に、正常運転資金の金額( 売掛金・受取手形 + たな卸資産 − 買掛金・支払手形)は変化をするものです。
売上が増減したり、入金サイトに変更があれば、売掛金・受取手形の金額は変わります。同じように、仕入が増減したり、支払サイトに変更があれば、買掛金・支払手形の金額は変わります。
たな卸資産(在庫)も、売上の増減や仕入の増減などを理由に変わるでしょう。
そのようにして正常運転資金の金額は変化を続けているために、銀行は折り返し融資をするタイミングで、あらためて正常運転資金の金額を把握することになります。
その結果、折り返し融資の時点における正常運転資金が 300万円だとしたら。折り返し融資による総額 500万円の融資では「貸しすぎ」です。
正常運転資金 300万円に対しては、現時点の融資残高 300万円でバランスも取れているのであり、折返し融資をする理由がないからです。
したがって、運転資金の折返し融資では、「折返し融資を検討する時点での正常運転資金の金額」に注意をしなければいけません。
折返し融資後の融資残高が、折り返し融資時点の正常運転資金の金額以内であればOKですが、逆に、折り返し融資時点の正常運転資金の金額を超えているのであれば問題だ、ということです。
超えてしまった分の金額は、正常運転資金とは別の「借入理由(資金使途)」が必要であり、別の融資として審査・検討することになる、と理解しておきましょう。
《注意点2》業績が悪くなる前にやる
誤解を恐れずに言えば、折り返し融資は比較的受けやすい融資です。
銀行から見たときには、いちど融資をした「実績があるから」というのがその理由になります。
当初の融資金額が 500万円なら 500万円までは審査をしたうえで融資をした。その後、滞りなく返済もされている。この実績が銀行に対する信用になり、折り返し融資を受けやすいものにしているのです。
この点で。借りる側としては「多少業績が悪くても、折り返し融資なら借りられるかも… 」を期待することができます。
ただし、明らかに業績が悪い場合。たとえば、赤字の金額が大きい、2期連続の赤字などの場合には、さすがの折り返し融資も、受けられる可能性は低くなってしまいます。
したがって、折り返し融資を受けるにしても、業績がほんとうに悪くなってからでは遅すぎる、ということは覚えておきましょう。
基本的には、あるていどの返済が済んだところで「自動的・機械的」に、折り返し融資を受けるように決めておくことです。
「いまは業績がいいし、おカネがあるから借りない」と考える社長も少なくありませんが。業績が悪くなってから、おカネが無くなってからでは銀行は融資を躊躇します。借りられるときに借りておくことです。
目安としては、当初の融資金額のうち、3分の1ていど返済が済んだら折り返し融資を受ける。と、考えておくとよいでしょう。
《注意点3》お付き合いしている銀行すべてでやる
銀行融資をじょうずに活用するためには、複数の銀行とお付き合いをするのがポイントです。詳しくはこちらの記事もどうぞ ↓
複数の銀行とお付き合いをしている、つまり、複数の銀行から運転資金の融資を受けている場合には、折り返し融資はお付き合いしている銀行すべてでやるようにしましょう。
たとえば。A銀行、B銀行、C銀行の3つの銀行から運転資金の融資を受けている、という会社があったとして。
A銀行からの融資だけは折り返し融資をする。他の銀行はいっさい折り返し融資をしない。これではA銀行が嫌がることでしょう。
A銀行にしてみれば、「ウチだけが融資のリスクを負っている…」との思いが生じるからです。
また、「B銀行やC銀行は、会社が危ないと見て折り返し融資を躊躇しているのではないか? だったら、ウチもやめたほうがいいかな」とも考えたくなるところです。
これでは、その後の融資を受けるのも難しくなってしまいます。
そこで、「折り返し融資はお付き合いしている銀行すべてでやる」ことがだいじになるのです。
とはいえ、同じタイミングでいちどに折り返し融資を受ける、ということではなく。A銀行、B銀行、C銀行に対して、おおむね同じようなサイクルで、順繰り順繰り折り返し融資を受けることができればOKです。
いずれにせよ。複数の銀行とお付き合いをしながら、どこかの銀行にだけ折り返し融資をお願いし続けることがないように気をつけましょう。
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まとめ
運転資金の融資を受けたのなら、欠かすことができないのが「折返し融資」です。その「折返し融資」で考慮すべき注意点を押さえておきましょう。
- 原則、正常運転資金の範囲内と理解する
- 業績が悪くなる前にやる
- お付き合いしている銀行すべてでやる