長期借入金のうち、1年以内に返済する部分である「一年以内返済長期借入金」。
その「一年以内返済長期借入金」の勘定科目が銀行融資に大切な理由についてお話をしていきます。
「一年以内返済長期借入金」が無い決算書。
会社が経理をするときの「勘定科目」のひとつに、「一年以内返済長期借入金」があります。
返済期日(完済日)が1年を超える長期借入金のうち、1年以内に返済する部分が「一年以内返済長期借入金」です。
たとえば、銀行から次の融資を受けたとすると ↓
- 融資金額 360万円
- 返済期間3年、毎月元金を 10万円ずつ返済
返済期日(完済日)は3年後ですから、360万円は「長期借入金」です。
ただし、そのうちの「120万円(10万円 × 12ヶ月)」は1年以内に返済をするので、そこが「一年以内返済長期借入金」となります。
ところが。「一年以内返済長期借入金」をひっくるめて、360万円をまるまる「長期借入金」の勘定科目で経理されている決算書もある。これはよろしくありません。
どうしてよろしくないのか? 「一年以内返済長期借入金」の勘定科目が、銀行融資には大切な理由としてお話をしていきます。その理由は次の3つです ↓
- 流動比率を過大表示しないため
- 近々の返済額を把握するため
- 正しい経理・管理ができることを示すため
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
「一年以内返済長期借入金」の勘定科目が銀行融資に大切な3つの理由
《理由1》流動比率を過大表示しないため
会社の「安全性」を示す財務指標のひとつに「流動比率」があります。算式で示すと次のとおりです ↓
流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債
カンタンに言えば。流動資産とは「1年以内におカネを受け取ることができる資産」であり、流動負債とは「1年以内におカネを支払わなければならない負債」です。
したがって、流動負債より流動資産が多いほうがいい。というのが、流動比率の見方になります。具体的には、流動比率が「200%以上が理想」であり、「100%未満はマズい」が一般的な目安です。
ではここで、冒頭の「一年以内返済長期借入金」と「長期借入金」について考えてみましょう。
銀行から借りた 360万円のうち、120万円は「一年以内返済長期借入金」でした。1年以内におカネを支払わなければいけない負債ですから、流動負債として「流動比率」の分母を構成します。
ところが。「わざわざ一年以内返済長期借入金に区分するのもメンドーだよねぇ」と、まるまる 360万円を「長期借入金」として経理していたらどうでしょう?
長期借入金は「固定負債」であることから、流動比率の分母からは外れることとなります。その結果、分母が小さくなる分だけ、流動比率は実際よりも大きくなる。過大表示です。
過大表示された流動比率では、会社は自社の現状を見誤ることになります。また、融資をする銀行にとっても、「流動比率」は注目している指標であることから、誤った情報を提供することになります。
もっとも、銀行は銀行で正しい数値に修正をしますが、それはそれ。誤った数値そのものに問題があること、流動比率に歪みが生じることを理解しておきましょう。
《理由2》近々の返済額を把握するため
繰り返しになりますが。長期借入金のうち、1年以内に返済をする部分が「一年以内返済長期借入金」です。
この「1年以内」ということを「近々」と捉えるのであれば。一年以内返済長期借入金とは、「近々返済をしなければいけないおカネ」でもあります。
もし返済できなければ、もちろん問題になるのですから、会社としては把握をしておくべきところです。
冒頭の例で言うと。360万円は3年で返済をすればいい。けれども、そのうち 120万円は1年以内に返済をしなければいけない。
にもかかわらず。「わざわざ一年以内返済長期借入金に区分するのもメンドーだよねぇ」と、まるまる 360万円を「長期借入金」として経理していたらどうでしょう?
会社は、近々返済しなければいけない金額 120万円を、決算書(あるいは試算表)からすぐに把握をすることができません。
会社が返済できるかどうかは、「年間返済額」と「税引後利益(厳密には、税引後利益+減価償却費)」の大小で決まります。
年間返済額よりも税引後利益が大きければ、手持ちのおカネを減らさずに返済できる。逆の場合には、手持ちのおカネを取崩しながら返済しなければいけない。取り崩しの状態が続けば、当然、会社は破たんします。
ですから、「年間返済額」と「税引後利益」とを把握・比較することは、銀行融資を受けている会社にとっての重要ごとなのです。
年間返済額としての「一年以内返済長期借入金 120万円」を把握できるかできないかは、大きな違いであることを理解しておきましょう。
一年以内返済長期借入金が 120万円とわかれば、「120万円の税引後利益があれば返済はできるのだな」と一目瞭然です。
《理由3》正しい経理・管理ができることを示すため
《理由1》では、「一年以内返済長期借入金」の勘定科目を使わないと、流動比率が過大表示になる、と言いました。
過大表示という点では。「正しい経理」ができていない、とも言えるでしょう。
正しい経理ができていないことは、自社にとっての問題でもありますが、銀行にとっての問題でもあります。そのような経理の決算書は、融資審査をするうえでは信用できないからです。
本来、「一年以内返済長期借入金」に区分すべきところを、まるまる「長期借入金」として経理している… 正しい経理を知らないのか? 正しい経理ができない会社なのか? と銀行から見られることにもなりかねません。
もちろん、このような見られ方は、銀行から融資を受けるうえでマイナスです。
《理由2》では、「一年以内返済長期借入金」の勘定科目を使わないと、近々の返済額を把握できない、と言いました。
近々返済しなければいけない金額が 120万円であることもわからない。ゆえに返済するのに最低限必要な利益もわからない。これでは、会社は資金繰りを考えることができません。
したがって、「一年以内返済長期借入金」に区分されていない決算書を見た銀行からは、「この会社の財務的な管理能力は低そうだなぁ」という評価にもなりかねません。
「低評価を受ける→融資が受けづらくなる」ということであれば、会社の資金繰りはますます危うくなるばかりです。
「一年以内返済長期借入金」の勘定科目を使うことは、銀行に対して、自社が「正しい経理・正しい管理」ができていることを示すためでもある。と、心得ておきましょう。
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まとめ
長期借入金のうち、1年以内に返済する部分である「一年以内返済長期借入金」。
その「一年以内返済長期借入金」の勘定科目が銀行融資に大切である理由を理解したうえで、「長期借入金」とは区分して経理をするようにしましょう。
- 流動比率を過大表示しないため
- 近々の返済額を把握するため
- 正しい経理・管理ができることを示すため