銀行が融資の可否判断をするときに重視している「決算書」。
その決算書について、決算日を過ぎてもまだ間に合う「銀行対策」のお話です。
できることはすべてやる、という気概が欲しい。
銀行から融資を受けようとしている、あるいは、すでに融資を受けている会社にとって。決算書の銀行対策は欠かせません。
もちろん。決算書は本来「会社のため」につくるものであり、「銀行のため」に対策するなどおかしなハナシだ、という反論はもっともです。
ただ、それでも。銀行が会社の決算書を重視して「融資の可否判断」をしている以上、「銀行の視点」もふまえて決算書をつくることが融資を近づけます。
逆に、同じ決算書でも、銀行の視点がないばかりに融資を遠ざけてしまう… ということはあるわけです。
そこで、決算書の銀行対策についてお話をしていきます。しかも、「決算日を過ぎてもまだ間に合う」というものばかりを5つほど。
つまり、決算日を過ぎても、決算書が確定するまで(=株主総会の決議まで、あるいは、税務署に申告書を提出するまで)ならば間に合う。という対策がこちらです ↓
- 営業利益の引き上げ
- 役員借入金の明示
- 社長の自腹
- 利益の先送り
- 異常値の把握・説明
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
決算日を過ぎてもまだ間に合う!決算書の銀行対策5選
《対策1》営業利益の引き上げ
銀行が融資先の決算書について注目をしているものとして、「利益」が挙げられます。利益が大きいほど返済力がある、ゆえに安心、貸しやすい。と、銀行は考えるからです。
その「利益」は、決算書のうち「損益計算書」に掲載されています。ただ、ひとくちに「利益」と言ってもさまざまで。
損益計算書を眺めてみると、上から「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」と並んでいます。
これらさまざまな利益について、銀行は「損益計算書の上にある利益ほど重要」と考えていることを覚えておきましょう。上にある利益ほど、会社の本業から生み出される利益であり、下にいくほど本業外の利益が混じるからです。
銀行は、融資先の本業にどれだけの「稼ぐチカラ(利益)」があるかに注目をしている、ということですね。
なかでも、最近では「営業利益」の注目度が高まっています。営業利益とは「売上高 ー 売上原価 ー 販売管理費」で計算される利益です。
経済産業省から「企業の健康診断(経営状況の把握)ツール」として提供されている「ローカルベンチマーク」に採用されている財務指標を見ると、営業利益に対する注目ぶりがわかります ↓
ローカルベンチマークは、「会社と銀行間のコミュニケーションツール」としての位置づけもあることから銀行の関心も高まっているもの。会社としてもぜひ押さえておきましょう。
で、ローカルベンチマークが注目する「営業利益」について。損益計算書の最終利益(=当期純利益)が同じでも、営業利益は違う。最終利益は同じでも決算書のつくりかたしだいで、営業利益は多くなったり少なくなったりすることがある。そこがポイントです。
営業利益を多くするために、営業利益を引き上げるためにできること、と言えば。たとえば、こちらです ↓
- 営業外収益・特別利益のうち売上高に掲載できるものがないか検討する
- 販売管理費のうち営業外費用・特別損失に掲載できるものがないか検討する
- 営業外収益のうち販売管理費と相殺できるものがないか検討する
これらは決算日を過ぎてからでも、決算書の表示方法として検討できる内容です。くわしくはこちらの記事も参考にどうぞ ↓
《対策2》役員借入金の明示
決算書のうち「貸借対照表」について、銀行は「負債が多い」ことを嫌います。「負債」の合計金額が「資産」の合計金額を上回る状態を「債務超過」と呼び、銀行からの融資がとくに難しくなることを覚えておきましょう。
この点で。役員(社長やその一族)からの借入金は、会計的には「負債」ですが、銀行の見方としては「負債ではない」というのがポイントです。
役員からの借入金は、銀行などからの借入金と違って、多少返済が遅れてもだいじょうぶ。言わば、あるとき払いの催促なし。
であるならば、役員からの借入金は「負債ではなく、出資(資本金)みたいなものだよね」というのが銀行の見方になっています。くわしくはこちらの記事もどうぞ ↓
会社としては、役員からの借入金を負債から外してもらえるほうが、銀行からの融資は受けやすくなるわけで。銀行が決算書を見たときに、「これは役員からの借入金だ」とわかるように表示をすることが大切です。
具体的には、貸借対照表の「固定負債の部」に、「役員借入金」という勘定科目名で掲載をします。これにより、「すぐに返済をしなくてもいい役員借入金」との意思表示をするのです。
これに対して、「短期借入金」や「長期借入金」などの勘定科目になっていると、銀行が決算書を一見しても「役員借入金」であることがわかりませんので。役員借入金はしっかりと明示しましょう。
なお、すぐに返済する予定の役員借入金については「負債」の扱いです。その場合には、貸借対照表の「流動負債の部」に、「役員借入金」という勘定科目名で掲載することになります。
《対策3》社長の自腹
《対策1》のところで、「利益が大きいほど返済力がある、ゆえに安心、貸しやすい。と、銀行は考える」というお話をしました。利益が大きいほど融資を受けやすく、利益が小さいほど融資は受けにくくなる。
この点で。利益が無い、赤字だ、という場合にはとくに、銀行からの融資は受けにくくなることを覚えておきましょう。極端を言えば、1円でも赤字は赤字。赤字の決算書は、銀行からは嫌われます。
にもかかわらず。ちょっと赤字、という決算書をつくってしまう会社があります。たとえば、数万円〜数十万円くらい赤字の決算書。
この場合には、「社長の自腹」という選択肢を検討するのもひとつの方法です。
つまり、経費として経理しているもののなかから、社長が自腹を切るものとして経費から外せるものがないか? を検討する。たとえば、交際費の一部について、社長が自腹を切るとか。
このような対応については、賛否両論あることでしょう。それはわたしも理解しています。
けれども、会社のおカネが無くなったときが会社の終わりです。そうなれば賛否もなにもありません。とにかくまずは、会社のおカネを切らさないこと、資金繰りをきちんと回すことです。
そのためには銀行からの融資は重要なのであり、これから先も銀行から融資を受けるのであれば、できるだけ利益を出す。できるだけ黒字にしておくことが欠かせません。
いちど決算書を銀行に提出すれば、次の決算書ができるまでの1年は「赤字の会社」との評価をされ続けることになります。1年ものあいだ、融資が受けにくい状態が続くわけです。
数百万円単位の赤字となれば別ですが、数万円〜数十万円くらいの赤字というときには、「社長の自腹」を検討するようにしましょう。
《対策4》利益の先送り
いましがた、数万円〜数十万円くらいの赤字ということきには「社長の自腹」を検討する、というお話をしました。
では、数百万円単位の赤字で、もはや赤字は回避できない… という場合はどうでしょう。ここで会社が検討すべきこととして、「利益の先送り」があります。
どうせ今回の決算が赤字なのであれば、今回はさらに赤字にしてでも次回の決算は黒字にする。そのためにできるだけ利益の先送りをする、という考え方です。
たとえば、
- 少額減価償却資産(ひとつ30万円未満の固定資産)を全額費用として処理する
- 対象の固定資産があれば特別償却をする
- 回収不能の売掛金など不良債権を損失として処理する
などなど。これらによって、翌期以降の費用を抑えることで利益が出やすくなります。決算日前であれば、さらに手段は増えます ↓
- 売れない在庫を処分することで損失として処理する
- 決算日近くの売上を翌期にずらす
- 翌期に予定していた費用を前倒しする
などなど。どうしても今回の決算で赤字が避けられなければ、利益の先送りを考える。次回の決算が黒字になるように、を考えるようにしましょう。
2期連続の赤字となると、銀行からの融資はかなり厳しくなります ↓
《対策5》異常値の把握・説明
銀行は、融資先の決算書を見るときに「異常値」に注目をしています。たとえば、
- 売上や利益の増加率が大きすぎる
- 売掛金回転期間や在庫回転期間が長すぎる
- 売上高支払利息率が高すぎる
などなど。これらのような異常値を見た銀行が考えることは、「決算書にウソがあるのではないか」ということです。つまり、粉飾決算を疑われる。
もちろん、粉飾決算は良くないことであって、やってはいけません。ところが問題は、粉飾などしていないのに「粉飾っぽく見えてしまう決算書」もあるということです。
言わば、「悪意なき粉飾」や「自覚なき粉飾」といったところでしょう ↓
さきほどの例で言えば。ワケあって「売上や利益の増加率が高い」こともあるし、「売掛金回転期間や在庫回転期間が長すぎる」こともある。ワケあって「売上高支払利息率が高すぎる」ことだってあります。
であるならば、異常値の「ワケ」を銀行に説明すべきです。理解をしてもらえれば、粉飾の疑いも晴らすことができますので。
ところで。「〜すぎる」という異常値について、いったい何と比べて「〜すぎる」のか? 比べるものは2つあります。
ひとつは、自社の「過去の推移」です。自社の過去の数値と比べて、今回の決算の数値がどうなっているか。銀行は、過去の決算書を並べて数値を比較しているものです。会社の側も同じようにして「異常値」を把握しておきましょう。
そして、もうひとつは「同業他社」です。同業他社の数値と比べてみて、自社の数値が異常ではないか。銀行は同業他社のデータを持っていますから、そこから異常値を把握しています。
では、会社の側はどのように把握をすればよいか。そのためのツールとして、途中でも触れた「ローカルベンチマーク」が挙げられます。ローカルベンチマークのなかにある財務分析から、同業他社との比較をすることが可能です ↓
また、独立行政法人中小企業基盤整備機構が提供している「経営自己診断システム」も同業他社比較のツールとして使えます。WEB上で自社の決算書データを入力するだけで結果が得られます ↓
ローカルベンチマークも経営自己診断システムも、どちらもだれでも無料で使えるツールです。異常値を把握するためにぜひ使ってみましょう。
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まとめ
銀行が会社の決算書を重視して「融資の可否判断」をしている以上、「銀行の視点」もふまえて決算書をつくることが融資を近づけます。
決算日を過ぎても、決算書が確定するまで(=株主総会の決議まで、あるいは、税務署に申告書を提出するまで)ならば間に合う。という対策を押さえておきましょう。
- 営業利益の引き上げ
- 役員借入金の明示
- 社長の自腹
- 利益の先送り
- 異常値の把握・説明