本社や工場を建てたり、機械設備や車を買ったり、いわゆる「設備投資」にあたって必要なおカネとして「設備資金」があります。
その設備資金について。銀行から借りられる金額はいくら? の考え方をお話していきます。
「いくら借りられるか?」は「いくら返せるか」で決まる
会社・事業における銀行融資は、大きく2つに分かれます。設備資金と運転資金です。
設備資金とは。本社や工場を建てたり、機械設備や車を買ったり、いわゆる「設備投資」にあたって必要なおカネです。
運転資金とは、その設備資金以外に必要になるおカネ。具体的には、仕入や経費の支払いなど、ということになります。
では、このうち「設備資金」について。
いったい、ウチの会社は設備資金をいくら借りられるのか? との疑問を見聞きしますが。その答えは、「返せる分だけ」です。
言い換えると。設備資金を「いくら借りられるか?」は、「いくら返せるか」で決まる。そういうことです。
じゃあ「いくら返せるか」とは、どのように考えればよいのか? というのがこのあとのお話になります。こちらです ↓
- まずは、設備投資による利益で返せるか
- 次に、既存の返済ができるかどうか
- さいごに、いま現在の業績が悪くないか
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
銀行から設備資金で借りられる金額はいくら?の考え方
まずは、設備投資による利益で返せるか
設備資金を借りた場合の返済原資は、原則、設備投資による「利益」です。
なにかしらの設備投資をしたことによって、これまでよりも増えるであろう「利益」。その利益で、借入の返済ができるかどうか。算式であらわすと、次のとおりです ↓
設備投資による年間利益 + 設備投資による減価償却費 ≧ 設備投資による借入金の年間返済額
※ 利益は、「税引後」の利益と考えます
突然あらわれた「減価償却費」に首をかしげてしまうかも、ですが。ひとまず、ここは無視しておきましょう。
すると、「設備投資をしたことによる年間利益」が、「設備投資による借入金の年間返済額」よりも大きい。少なくともイコールであること。
これが逆になると。利益では返済できないので、手持ちのおカネで返済をすることとなり、会社のおカネは目減りをしていくことになります。
このあたりの理解を深めるために、事例で確認をしてみましょう ↓
当社は、次の設備投資を予定している。
- 設備投資の予定金額 ・・・ 1,000万円
- 設備の耐用年数 ・・・ 10年
- 設備投資による年間利益 ・・・ 0万円(設備投資により増える売上 200万円 − 設備投資により増える経費 200万円)
- 設備資金の希望借入額・返済期間 ・・・ 1,000万円、10年(年間返済額 100万円)
では、上記について、順番に考えていきましょう。
まずは、利益。「設備投資による年間利益」は0万円、つまり、トントンを見込んでいます。利益0万円の詳細は、「設備投資により増える売上 200万円 − 設備投資により増える経費 200万円」です。
ここで、「設備投資により増える経費 200万円」のなかには、「減価償却費」が含まれることがポイントになります。
減価償却費とは。設備投資のような大きな金額の支出があった場合に、その支出を複数年に分けて経費にする、という会計テクニックです。
設備投資をした年に 1,000万円の経費をドン! だと、その年だけ利益が減りすぎてしまいます。設備はその年だけに使うのではないのですから、使う年であん分すべきでしょう。
というわけで、あん分をする基準が「耐用年数」です。その設備が何年もつか、何年つかえるか? が耐用年数。
その耐用年数が「10年」ということなので、「設備投資の予定金額 1,000万円 ÷ 耐用年数 10年 = 100万円」が毎年の減価償却費になります。
100万円の減価償却費は「設備投資により増える経費 200万円」に含まれているんだ、と確認をしたうえで。さきほどの算式に当てはめてみましょう ↓
設備投資による年間利益 0万円+ 設備投資による減価償却費 100万円 ≧ 設備投資による借入金の年間返済額 100万円
不等号(≧)を挟んで、左側と右側はイコール。ゆえに、算式はギリギリ成り立ちます。この設備投資であれば、銀行から設備資金を借りられそうだ、ということです。
したがって、「設備資金をいくら借りられるか?」を考えるにあたっては、予定している設備投資について、上記の算式が成り立つかどうかを検討することになります。
もし算式が成り立たなければ。もっと売上増できないか、もっと経費減できないかなどを再検討のうえで算式に当てはめてみる。
結果、算式が成り立つことを銀行に説明するために必要になるのが「事業計画書」です。事業計画書のなかで、設備投資により増える売上や経費を示し、借りるおカネの返済ができることを示す。
設備資金の融資を受けるときには、「事業計画書」が必須であることを覚えておきましょう。
ちなみに。前述の算式のなかで「設備投資による年間利益」に「減価償却費」を加算するのはなぜなのか?
減価償却費は経費ではあるけれど、おカネの支払いをしているわけではないからです。
事例で言うと。設備投資 1,000万円のおカネは、銀行から受ける融資 1,000万円によって支払いが終わっています。ですから、減価償却費 100万円と言っても、100万円のおカネが実際に出ていくわけではありません。
ゆえに、「設備投資による年間利益」が0万円でも、「減価償却費」の分はおカネが残っているはずだよね、ということで足し戻す。これが、「設備投資による年間利益 0万円+ 減価償却費 100万円」の意味するところです。
次に、既存の返済ができるかどうか
銀行から設備資金を借りられる金額はいくらかを考えるにあたり、まずは、「設備投資による利益で返せるかどうか」だという話をしました。
算式にすると、「設備投資による年間利益 + 設備投資による減価償却費 ≧ 設備投資による借入金の年間返済額 」です。
「借りたおカネを返せるかどうか」という視点で言えば。すでに受けている融資があれば、やはり同じように考えることになります。これも算式にしてみると ↓
既存の年間利益 + 既存の減価償却費 ≧ 既存の借入金の年間返済額
「設備投資による」という文字が「既存の」に置き換わっただけであり、考え方は変わりません。
これにより、設備投資以前に既存の融資を受けている場合の算式は、2つの算式の「合算」になります ↓
(既存の年間利益 + 既存の減価償却費)+(設備投資による年間利益 + 設備投資による減価償却費) ≧ 既存の借入金の年間返済額 + 設備投資による借入金の年間返済額
と、見た目はイカツイ算式ですが。これまでの内容がわかっていれば、とくに難しいことではありませんよね。
それはそれとして、この「合算」の算式からわかることは。「既存の年間利益 + 既存の減価償却費」も、「設備投資による借入金」の返済原資になりうる、ということです。
つまり。「設備投資による年間利益 + 設備投資による減価償却費 ≧ 設備投資による借入金の年間返済額」の算式が少々成り立たなくても、既存分を含めることでなんとかできることもある。
であるならば、銀行に対しては「合算分の資料」を提示して説明をすることがポイントになります。
合算分の資料とは。具体的には、「資金繰り表」です。設備投資をしたあとの状況をふまえた予測資金繰り表を作成・提示します。
前述した「事業計画書」は、基本的に合算前の設備投資単独について示した資料です。算式で言えば、「設備投資による年間利益 + 設備投資による減価償却費 ≧ 設備投資による借入金の年間返済額」。
これに対して、資金繰り表では「これまでの事業+設備投資による事業」、つまり会社全体の状況を示します。算式で言えば、「(既存の年間利益 + 既存の減価償却費)+(設備投資による年間利益 + 設備投資による減価償却費) ≧ 既存の借入金の年間返済額 + 設備投資による借入金の年間返済額」です。
したがって、設備投資にのみ焦点をあてた事業計画書だけではなく、会社全体の状況を示す資金繰り表も、あわせて準備をするようにしましょう。
これまでの事業が順調であるほど、設備投資による借入金の返済にも安心感が出ます。
さいごに、いま現在の業績が悪くないか
いましがた、こんなことを言いました ↓
”これまでの事業が順調であるほど、設備投資による借入金の返済にも安心感が出ます。”
では逆に、これまでの事業が順調でない場合はどうなのでしょう? 言い換えると、「いま現在の業績が悪い」というような場合です。
結論から言うと、設備資金の融資を受けることは難しくなります。
設備投資による利益が見込めており、「設備投資による年間利益 + 設備投資による減価償却費 ≧ 設備投資による借入金の年間返済額」の算式が成り立つという事業計画書があっても、です。
「計画」はいくらでも良く見せられます。ゆえに、「計画が良いに越したことはないけれど、いま現在の業績が重要!」というのが銀行の見方です。
では、いま現在の業績はなにで見られるのか? と言えば。決算書や試算表です。
たとえば、決算書や試算表で大きな赤字が出ているとしたら。設備投資による利益がいくら見込めるとしても、銀行は融資を躊躇します。結果的に、融資したおカネが赤字補てんに使われる可能性があるからです。
したがって、設備資金の融資を受けるにあたっては、いま現在の業績が悪くないことが求められます。良い悪いの具体的な基準については、こちらの記事も参考にどうぞ ↓
また、「設備投資による利益に頼らなくても、これまでの事業はじゅうぶんに資金繰りが回っている」ということを銀行に説明できるのがベストです。
これまでの事業と、設備投資による事業とを分けて、それぞれの資金繰り表を作成・提示する、というのがその方法になります。
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まとめ
本社や工場を建てたり、機械設備や車を買ったり、いわゆる「設備投資」にあたって必要なおカネとして「設備資金」があります。
その設備資金について。銀行から借りられる金額はいくら? の考え方を押さえておきましょう。ポイントは、「いくら返せるか」です。
- まずは、設備投資による利益で返せるか
- 次に、既存の返済ができるかどうか
- さいごに、いま現在の業績が悪くないか