フリーランスが確定申告の時期を迎えると、あたりまえのようにやっている「決算整理仕訳」。
ところが、決算整理仕訳をなくす・減らすべき。その理由についてお話をしていきます。
決算整理仕訳をやめにする。
フリーランスの帳簿つけ(経理)について。確定申告が近づくと「決算整理仕訳をやらなくちゃ!」ということになるでしょう。
ちなみに、「決算整理仕訳」とは。文字どおり、1年に1度の決算のときに行う仕訳です。たとえば、次のような項目が挙げられます ↓
- 減価償却費の計上
- 家事あん分(家事関連費)の処理
- 商品・仕掛品などのたな卸
- 貸倒引当金の繰入、戻入
- 経過勘定科目(前払費用・未払費用など)の整理
- 不良資産の整理(貸倒損失、たな卸資産廃棄損など)
これらを見て、「たしかに、たしかに。決算のときにやっているなぁ」ということかもしれませんが。必ずしも決算のときにやらなければいけないわけでもなく、むしろ、決算のときにはやらないようにしたほうがいい。
つまり、決算整理仕訳をなくす、あるいは減らすべき。その理由についてお話をしていきます。こちらです ↓
- 毎月の「正しい利益」を把握するため
- まちがいに気づきやすくするため
- 確定申告のときに手早く済ませるため
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
フリーランスは決算整理仕訳をなくす・減らすべき3つの理由
《理由1》毎月の「正しい利益」が把握できないから
決算整理仕訳のひとつである「減価償却費の計上」について。これを文字どおり、決算のときに処理すると。毎月の「正しい利益」が把握できない、という問題が生じます。
たとえば、1月に 30万円の仕事用パソコンを買ったとします。これを「定額法・耐用年数4年」で減価償却をする場合、決算整理仕訳は次のとおりです ↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 | |
12月31日 | 減価償却費 | 75,000 | 器具備品 | 75,000 |
30万円を4年で分割して経費にするのが減価償却。すると、この1年で経費にできる減価償却費は 75,000円(300,000円 ÷ 4年)です。
この 75,000円を「一気」に決算(12月31日)のときに計上するのが、決算整理仕訳になります。ゆえに、決算整理仕訳をするまでは 75,000円の経費があることがわかりません。決算で突然に利益が減って、びっくりすることになります。
75,000円くらいなら… と思われるかもですが、もっと金額が大きい「クルマ」などの減価償却費であれば、よりびっくりすることでしょう。
ですから、そこは毎月にあん分して計上しておくのがおすすめです。仕訳で言うとこちらになります ↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 | |
1月31日 | 減価償却費 | 6,250 | 器具備品 | 6,250 |
2月28日 | 減価償却費 | 6,250 | 器具備品 | 6,250 |
… | … | … | … | … |
12月31日 | 減価償却費 | 6,250 | 器具備品 | 6,250 |
上記のとおり、年間 75,000円の減価償却費を 12ヶ月であん分。6,250円(75,000円 ÷ 12ヶ月)の減価償却費を毎月計上します。決算整理仕訳は無し。
これならば、決算のときにびっくりすることもありません。なにより、毎月の利益を正しく把握することができるのがメリットです。
いっぽう、1年まとめて決算整理仕訳にしてしまうと、「毎月の利益は過大」だと言えます。実際よりも利益を多く見誤ってしまう。問題です。
減価償却と同じようなことは、「家事あん分(家事関連費)の処理」でも起こります。
たとえば。自宅兼事務所の家賃を毎月 10万円支払っているとして。仕事とプライベート半々で使っているとします。このときの毎月の仕訳がこちらです ↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 | |
1月20日 | 地代家賃 | 100,000 | 普通預金 | 100,000 |
2月20日 | 地代家賃 | 100,000 | 普通預金 | 100,000 |
… | … | … | … | … |
12月20日 | 地代家賃 | 100,000 | 普通預金 | 100,000 |
そのうえで、決算整理仕訳がこちらになります ↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 | |
12月31日 | 事業主貸 | 600,000 | 地代家賃 | 600,000 |
年間 120万円の家賃のうち、半分はプライベート分なので 60万円は経費からはずす。というのが、上記の決算整理仕訳です。
ところがこれだと、「毎月の利益は過少」になります。言い換えると、毎月の経費が多すぎる。ほんとうは5万円(10万円の半分)を経費にすべきところを、10万円も経費にしているからです。
結果として、決算のときに突然、利益が 60万円も増えてびっくりします。思っていたよりも税金が高くなってびっくりします。では、どうするか? もうわかりますよね。毎月、次のような仕訳をしておきましょう ↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 | |
1月20日 | 地代家賃 | 50,000 | 普通預金 | 100,000 |
事業主貸 | 50,000 |
これならば、決算のときにびっくりすることもありません。毎月の利益を正しく把握することができるのでおすすめです。
会計ソフトには、減価償却費や家事あん分を「自動的」に仕訳してくれる機能が搭載されています。ところが、「仕訳は1年に1回、決算整理仕訳のみ」という機能のものもあり、便利ではありますが不親切です。
毎月の利益を正しく把握することは、帳簿つけ(経理)をするうえでの「ひとつのゴール」。自動機能に頼らず、毎月の仕訳で対応することも検討しましょう。
なお、毎月繰り返す仕訳については、会計ソフトの「定型の仕訳を登録する機能」が便利です。イチから手入力するよりもラクですから、減価償却費や家事あん分の仕訳を登録しておくとよいでしょう。
ここでは、減価償却費と家事あん分を例にお話をしました。他の決算整理仕訳についても考え方は同じです。
毎月の利益に与える影響が大きな決算整理仕訳ほど、決算整理仕訳をなくす・減らす。代わりに毎月の仕訳で対応する、という考え方を覚えておきましょう。
《理由2》まちがいに気づきにくいから
決算整理仕訳のなかには、「売掛金の計上」というものもあります。仕訳で言うとこちらです ↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 | |
12月31日 | 売掛金 | 300,000 | 売上高 | 300,000 |
上記の決算整理仕訳はどういうことかと言うと。決算までのあいだは、売上代金の入金があったときに、つど次の仕訳をしています ↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 | |
入金時 | 普通用金 | 200,000 | 売上高 | 200,000 |
そのうえで、決算のときには「12月末までに仕事は終わったけれど、12月末では未入金」のものについて、さきほどの決算整理仕訳をするのです。
確定申告のときには、未入金も含めて、12月末までに仕事が終わっているものを売上高に計上しなければいけないから、ですね(「発生主義」と呼びます)。
そんな決算整理仕訳に対して、おすすめする仕訳はこちらになります ↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 | |
仕事完了時 (請求時) | 売掛金 | 300,000 | 売上高 | 300,000 |
入金時 | 普通預金 | 300,000 | 売掛金 | 300,000 |
仕事が完了して請求したときに、売上高を計上する。同時に売掛金が発生しますが、入金したときに相殺してゼロにする。という仕訳です。
ふだんからこのような仕訳をしておけば決算整理仕訳はいりません。
と、言うと。なんだかメンドーだ、決算整理仕訳方式のほうがラクだ、と思われるかもですが。そこには「まちがいに気づきにくい」というデメリットがあることを覚えておきましょう。
たとえば。30万円の請求に対して、お客さまがまちがえて 29万円しか振り込みをしてこなかったとします。このときの決算整理仕訳方式の仕訳がこちらです ↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 | |
入金時 | 普通用金 | 290,000 | 売上高 | 290,000 |
これだと、1万円入金が少ないことに気づけない可能性があります。絶対に 30万円だ! と覚えている場合は別ですが。そうそういつもキリがいい金額でもありませんから、すべてを覚えていられるわけでもないでしょう。
これに対して、さきほどの「おすすめ仕訳」をしていた場合がこちらです ↓
借方・勘定科目 | 借方・金額 | 貸方・勘定科目 | 貸方・金額 | |
仕事完了時 (請求時) | 売掛金 | 300,000 | 売上高 | 300,000 |
入金時 | 普通預金 | 290,000 | 売掛金 | 290,000 |
上記のとおり。本来であれば、相殺されてゼロになるはずの売掛金がゼロにならない。1万円の差額が発生していることに気づくことができます。
同じようなことで言えば。お客さまがまったく入金をしてこないケースにも気づきやすくなります。入金がなければ、売掛金はいつまでも残ったままですから、気づきやすくなるわけです。
これが決算整理仕訳方式となると、そもそも売掛金がないので、入金がないことにも気づかぬまま… がありえます。困りますよね。
このような点でも、決算整理仕訳に頼りすぎるのは禁物です。決算整理仕訳については、なくす・減らすことができないか? 考えるようにしましょう。
《理由3》確定申告のときに時間がかかるから
ここまで、決算整理仕訳をなくそう・減らそう、というお話をしてきました。とはいえ、決算整理仕訳自体を否定するものではありません。
それはそれで正しい処理であり、やり方のひとつでもあります。
けれども、決算整理仕訳が多くなると、それだけ決算の処理に時間がかかることになるのはデメリットです。結果として、確定申告をするにも時間がかかります。
あ〜、決算整理があるんだよなぁ… と考えると。決算もおっくうになるものです。すると、手も付けづらくなります。ますます時間がかかる。
また、「1年に1度だけ」の決算整理仕訳だと、「忘れてしまう、思い出すのに時間がかかる」というデメリットもあります。前年の帳簿や資料をひっくり返して「まずは復習から」という人も少なくないでしょう。
やはり、ますます時間がかかります。
これに対して、決算整理仕訳をなくす・減らすことができていれば。毎月の帳簿つけの段階で、ほぼほぼ処理は完結しています。決算だからと言って、あらためて仕訳することもなくなります。
いつもどおり、12月の帳簿つけが終われば決算も終わり。決算をおっくうに感じることもありません。
さらに。日ごろから減価償却費や家事あん分などの項目に触れているため、理解が進み、身につきやすくなります。結果として、日ごろの帳簿つけのスピードアップにも貢献するはずです。
このあたりのメリットにも目を向けて、決算整理仕訳をなくす。減らすことも考えてみるのはいかがでしょうか。
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まとめ
フリーランスが確定申告の時期を迎えると、あたりまえのようにやっている「決算整理仕訳」。
ところが、「決算整理仕訳をなくす・減らすべき」という考え方もあります。その理由を理解しておきましょう。
- 毎月の「正しい利益」を把握するため
- まちがいに気づきやすくするため
- 確定申告のときに手早く済ませるため