中小企業の決算書と、大企業の決算書には違いがある。その「違い」がわかっていないと、銀行融資は受けにくくなってしまいます。
というわけで。銀行融資の理解に必要な「中小企業と大企業の決算書の違い」についてお話をしていきます。
自社の決算書を大企業の決算書と同じに見てはいけない
会社が融資を受けようとするときに、銀行から提出を要求されるものとして「決算書」が挙げられます。
その決算書には、中小企業と大企業とで「違い」があることを押さえておきましょう。銀行は「違い」を念頭において、決算書を見ています。
いっぽうで、中小企業のなかには、自社の決算書を大企業と同じ視点で見ている社長もいますので気をつけましょう。
見られる側の会社が、銀行の見方をわかっていなければ融資は受けにくくなってしまいます。逆に、見られる側の会社も、銀行の見方がわかっていれば、よりスムーズに融資を受けられることにもつながるはずです。
というわけで。銀行融資の理解に必要な「中小企業と大企業の決算書の違い」についてお話をしていきます。具体的にはこちらの3点です ↓
- 中小企業は現金預金が多いほどいい
- 中小企業は債務超過が多い
- 中小企業の決算書は適正でない
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
銀行融資の理解に必要な「中小企業と大企業の決算書の違い」
《違い1》中小企業は現金預金が多いほどいい
中小企業と大企業の決算書の違い、まず1つめ。それは、中小企業は現金預金が多いほどいい、です。裏を返せば、大企業は現金預金が少ないほどいい。
大企業に関して言えば、資金調達(おカネを集める)の方法はさまざまです。銀行融資はもちろん、社債、第三者割当増資、ベンチャーキャピタル、事業譲渡などなど。
いわゆる「エクイティ・ファイナンス」の選択肢が豊富な大企業は、「いつでも資金調達ができる」ところに強みがあります。ゆえに、手元におカネ(現金預金)を置いておく必要がありません。
また、いかなる資金調達にも「コスト」がかかることから、おカネを余らせておくことは「無駄なコストの発生」を意味しています。ゆえに、手元におカネを置いておくくらいなら、返済なり投資なりに回すのが大企業の財務戦略です。
これに対して、中小企業はどうか? と言うと。
まず、資金調達の選択肢が限られています。第三者が増資をしてくれることは難しく、社債の発行もカンタンではありません。経営者自身が潤沢な資金を持っていればよいのですが、なかなか稀有なケースでしょう。
そう考えると、中小企業の資金調達のキモは「銀行融資」だ、と言っても過言ではありません。だから、わたしは銀行融資の重要性や銀行対応のしかたなどを本ブログで繰り返しお伝えをしています。
それはそれとして。資金調達の選択肢が限られる中小企業にとって、だいじなのは「手元のおカネ(現金預金)」です。いつでも資金調達ができる大企業とは違うのですから、できるだけおカネを持っておくことです。
唯一無二とも言える資金調達手段の「銀行融資」は、借りたいときに借りられるわけでもありません。晴れた日にしかおカネを貸さないのが銀行です ↓
言うまでもなく、おカネが尽きたときが会社のおわり。「黒字倒産」の言葉もあります。いくら売上高が多くても、いくら利益が多くても、おカネが無くなれば会社はつぶれてしまうのです。
現金預金が少ない決算書は、つぶれやすい会社の特徴でもあります。したがって、銀行は現金預金が多い中小企業を好み(=融資が受けやすい)、現金預金が少ない中小企業を嫌う(=融資が受けにくい)。これを覚えておきましょう。
ひとつの目安として。平均月商(年間の売上高÷12ヶ月)の1ヶ月分にも満たない現金預金は少なすぎます。平均月商の3ヶ月分以上あると、ひとまず安心できるくらいは多い、と見ることができるでしょう。
《違い2》中小企業は債務超過が多い
決算書のうち「貸借対照表」の状態をあらわす言葉に、「債務超過」があります。
債務超過とは、文字どおり、債務が超過している状態。もう少し言うと、負債(債務)が資産を超過している、つまり、「資産よりも負債が多い」ということです。
資産とはプラスの財産であり、負債とはマイナスの財産になります。債務超過とはマイナスのほうが多い状態なのですから「ヤバそうだなぁ」ということはわかるでしょう。
実際、貸借対照表に掲載されているすべての資産を売却して現金化しても、負債を完済することができないのが債務超過であり。実質的に破綻をしていることをあらわすのですから、ほんとうに「ヤバい」です。
したがって、債務超過の会社は銀行から嫌われます。とても融資が受けにくい。
ところが、中小企業の貸借対照表を見てみると。大企業に比べて、債務超過の会社が多くあることに気が付きます。そのおもな理由は、2つです。
まずひとつは、「中小企業の業績は大企業ほど安定的ではない」こと。すべての中小企業の業績が安定していない、とまでは言いませんが。一般的・相対的に、中小企業は大企業ほど業績は安定しないものです。
信用力・資本力など「チカラの差」があるのですから、もっともな話でしょう。
結果として、黒字のときもあれば赤字のときもある。ひょっとしたら赤字のほうが多い。赤字が増えると債務超過になる、という流れがあるために中小企業の貸借対照表は債務超過になりやすいのです。 ↓
それからもうひとつ、中小企業が債務超過になりやすい理由。それは、「税金を嫌って利益を減らす」からです。
利益が多いほど税金が多くなるため、「税金を払うくらいだったら経費を使う(そして、利益を減らす)」という発想が、多くの中小企業で見られます。
利益を削れば、債務超過になりやすくなる。本来出せるはずの利益を出さずに、場合によっては赤字にまでしてしまう。
これは、経営と所有が一致している中小企業ならではの行為です。経営と所有が分離している大企業であれば、そのような行為に対して「株主」が黙っていないでしょう。利益を出して、配当しろ! ということですね。
中小企業では、「社長=株主」であるためにおとがめなし。ゆえに、意図的な赤字もありえるし、結果としての債務超過にもなりやすいのです。
赤字・債務超過の会社が銀行融資を受けにくいのは、さきほどもお話をしたとおり。自社が、債務超過になりやすい中小企業になっていないか? 自問自答してみましょう。
ポイントは、出せる利益はきちんと出す。納税を嫌わないことです。少なくとも利益以上に税金を取られることなどありません。税金を払ったあとには、おおむね7割程度のおカネが残ります。お忘れなきように。
《違い3》中小企業の決算書は適正でない
中小企業と大企業の決算書の違い、さいごの1つ。それは、中小企業の決算書は適正ではない、です。
などと言うと、各所からお叱りを受けてしまいそうですが。それでもあえて言わせてもらえば、中小企業の決算書は、大企業ほどに適正ではない。
まず大企業の話をすると。大企業は、監査法人の監査を受けなければいけません。その監査によって、大企業の決算書が「適正」であることが示されます。
中小企業だって、税理士の監査を受けるじゃないか! と思われるかもですが。税理士の監査と、監査法人の監査とでは少々事情が異なります。
大企業の監査は、原則、「無限定適正」を示すものです。無限定適正とは、読んで字の如し。限定することなく適正、すべて正しい。決算書の隅から隅まで正しい。これが、監査法人が表明する「無限定適正意見」です。
いっぽうで、税理士の監査はどうかと言うと。無限定適正までのものではありません。たとえば、中小企業の在庫について、いっしょにたな卸に立ち会ったり、事細かに存在の有無まで確認をしたりまではしないでしょう(している場合もなかにはあるだろう、とは思いますが)。
ゆえに、中小企業の決算書は大企業ほどに適正ではない。ということは、銀行も念頭に置いています。もう少しはっきり言うと、中小企業の決算書にはなにかしら「粉飾決算」めいたものがある、みたいな。
また、大企業には「物言う株主」がいることも、大企業の決算書の適正さに貢献するところです。もし不適正な決算書をつくったとわかれば、株主が黙っていません。
株主あっての大企業ですから、当然、適正な決算書をつくることになります。いっぽうの中小企業は、「おとがめなし」でしたよね。《違い2》でもお話をしたとおり、「社長=株主」ですから。
というわけで。誤解を恐れずに言えば、中小企業の決算書はとかく不適正になりやすいのです。実際に不適正でなくとも、不適正だと見られやすいのです。じゃあ、どうするか?
適正だ、とアピールをすることです。適正ではない前提だからこそ、銀行に対しても適正をアピールする。粉飾決算をしてはいけないのはもちろんですが、粉飾っぽい決算書は少なくありません。
自社の決算書を見て、粉飾っぽいところがあれば、銀行に対してきちんと説明をすることをおすすめします。くわしくはこちらの記事をどうぞ ↓
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まとめ
中小企業のなかには、自社の決算書を大企業と同じ視点で見ている社長もいます。けれども銀行は、中小企業の決算書と大企業の決算書には違いがあることを念頭において決算書を見ています。
銀行の見方を知ることは、銀行融資をスムーズに受けるにあたっての近道です。「中小企業と大企業の決算書の違い」を押さえておきましょう。
- 中小企業は現金預金が多いほどいい
- 中小企業は債務超過が多い
- 中小企業の決算書は適正でない
それでは、このあと順番に見ていきましょう。