税理士がつくる決算書のなかには、「税金的にはOK」でも、「銀行融資的にはNG…」というものがあります。
税理士任せにしている会社は要注意。ということで、「銀行融資にはNG」な決算書の事例についてお話をしていきます。
税理士が悪いっ! というハナシではなく。
会社が銀行から融資を受けるときには、「決算書が重要」なのはよく知られるところでしょう。
その決算書を「税理士任せ」にしている会社は注意が必要です。税理士のチカラを借りるのは良いにしても、完全に任せきりではいけません。
なぜならば。税理士がつくる決算書のなかには、「税金的にはOK」でも、「銀行融資的にはNG…」というものがあるからです。
誤解なきように申し添えますと。税理士ばかりが悪いのではなく、税理士に任せきりにしている会社にも非があります。むしろ決算書は会社のものなのですから会社のほうが悪い、とさえ言えます。
だから、会社も気をつけましょう。そういうハナシです。
そこで。わたしが実際に、銀行融資のご相談を受けてきた会社の決算書のなかから、「これは銀行融資にはNG」と感じた事例についてお話をしていきます。こちらです ↓
- 売掛金の勘定科目内訳明細書が雑
- 経営セーフティ共済の掛金を費用処理
- ちょっとだけ赤字
- 役員借入金を「短期借入金」で表示
- 役員貸付金を「長期貸付金」で表示
- 仮払金の残高が多い
- 減価償却をしていない
- 多額の「開発費」が計上されている
- 営業外収入のなかみを精査していない
- 決算報告をしていない
税理士任せの決算書で、銀行融資を受けるのに苦労することがないように。これらの事例を、会社自身が押さえておくようにしましょう。
それでは、このあと順番にお話していきます。
税理士任せの決算書から「銀行融資にはNG」な事例10選
《事例1》売掛金の勘定科目内訳明細書が雑
決算書には、「勘定科目内訳明細書」という書類が付属しています。文字どおり、それぞれの勘定科目の内訳明細を記載する書類です。
この点で。売掛金の勘定科目内訳明細書が雑な決算書があります。具体的には、売掛先の社名が不正確(株式会社や有限会社の記載がない)、住所が未記載など。
こういう勘定科目内訳明細書は「なにかを隠している」ようで、どこか怪しげです。架空売上の売掛金なのではないか? と疑わることにもなりかねなません。
また、いくつかの売掛先をまとめて「その他 〇〇件」と合算で記載しているケースについて。対税務署はともかく、対銀行ではすべての内訳明細を開示するのがおすすめです。架空や回収不能の売掛金と疑われないように、です。
売掛金の勘定科目内訳明細書は、銀行もよく見ています。「雑」はやめましょう。
《事例2》経営セーフティ共済の掛金を費用処理
経営セーフティ共済(倒産防止共済制度)について。この「共済掛金」を費用処理している決算書があります。税金的にはまちがいではありませんが、銀行融資的にはイマイチです。
なぜなら、費用処理した分だけ利益が減ってしまうから。銀行融資を受けるにあたっては利益が多いに越したことはありません。
そこで、費用ではなく「資産」として処理する方法があります。「貯金」のイメージですね。そのうえで、税金の計算をするときには経費とすることは可能です(方法は税理士に確認を)。
つまり、費用処理をせず、資産として処理したからと言って、税金が高くなるわけではありません。資産として処理できれば、利益を減らさずに済みますから、銀行融資にも有利になります。
また、資産として処理するときには「倒産防止共済掛金」など、具体的な名称をつけておくとよいでしょう。それを見た銀行が、「得意先の倒産に備えているのは安心だ」との見方をしてくれるからです。
《事例3》ちょっとだけ赤字
ちょっとだけ赤字、という決算書があります。極端なケースでは数万円くらい赤字… の決算書です。
銀行が嫌う決算書の最たるものは「赤字」になります。たとえ1円でも、赤字は赤字。銀行からは嫌われ、融資が受けにくくなるものと覚えておきましょう。
そう考えると。赤字で税金が出ないことを喜んでいる場合ではありません。銀行から融資を受けたいのであれば、1円でも黒字にすることです。
数万円、あるいは数十万くらいの赤字であれば「くふうしだい」だと言えます。たとえば、経費の一部を社長が「自腹を切る(経費から外す)」とか。
もちろん、会計のルールや法律に反するような「粉飾」までをすすめるものではありません。ルールの範囲内、法律の範囲内でできることをやりましょう、というハナシです。
このあたりはぜひ、税理士にも相談をしてみるとよいでしょう。その前提として、決算の2ヶ月前くらいには「決算予測」をしておくこと。決算までに時間があればあるほど、できる「くふう」も多くなります。
[ad1]《事例4》役員借入金を「短期借入金」で表示
社長やその親族である役員からの借入金を、短期借入金として表示している決算書があります。
結論として、「役員借入金」の勘定科目で、さらには「固定負債」の部に表示をするようにしましょう。
なぜなら、短期借入金(流動負債)にしていると。銀行が注目する指標のひとつ「流動比率(流動資産÷流動負債)」が悪くなってしまうから。
また、役員借入金のうち「すぐに返済をしなくてもいい部分」については、負債ではなく「資本」とみなす、という銀行の考え方もあります。
したがって、「役員借入金」という勘定科目によって、役員借入金の存在を明らかにする。固定負債の部に表示することで「すぐに返済しなくてもいい部分」だとアピールする。これが重要です。
短期借入金と表示をしていると、単純に負債と見られてしまう可能性があります。すると、銀行からの評価は下がってしまうので注意しましょう。
《事例5》役員貸付金を「長期貸付金」で表示
役員貸付金、つまり、社長に対する貸付金が掲載されている決算書があります。
銀行は、基本的に「貸付金」が嫌いです。融資をしたおカネが、社長個人に流れてしまう可能性があるから。銀行は会社に融資をするのであって、社長に融資をするわけではありません。
とはいえ。いろいろあって、役員貸付金が増えてしまった… すぐに返済もできない… ということもあるでしょう。そのときに、「長期貸付金」として決算書に表示するのはおすすめできません。
そこで、まずは会社と社長のあいだで「金銭消費貸借契約」を結ぶ。「返済予定表」もつくり、予定にしたがって実際に返済を進めます。契約書と返済予定表は銀行にも提示をしましょう。
そのうえで、返済予定表にもとづいて、1年以内に返済される分を流動資産に、1年を超えて返済される分を固定資産に表示します。これにより、「返済してもらえる貸付金」であることをアピールするわけです。
いっぽうで、長期貸付金のみで表示をしていると、「返済をしてもらえるのかなぁ、返済する気があるのかなぁ」と見られやすくなります。役員貸付金が多い、減らないと、銀行からは嫌われることを覚えておきましょう。
《事例6》仮払金の残高が多い
銀行が嫌う勘定科目のひとつが「仮払金」です。その仮払金の残高が多い(目安として数十万円以上)、という決算書があります。
仮払金の残高が多いと、銀行は「ほんとうは経費にすべきものを保留しているのかなぁ(利益を減らさないために)」と疑うものです。
また、単なる「未精算」であったとすれば。それはそれで「1年に1度の決算なのに仮払の精算もしない、いい加減な経理だなぁ」と見られます。
いずれにせよ、仮払金があって良いことはなにもありません。
税理士としても、会社が仮払を放置しているのであれば、どうしようもないところです。仮払金の有無については、自社でしっかりと管理をするようにしましょう。とくに、決算書には仮払金を残さないことです。
《事例7》減価償却をしていない
相応の固定資産があり、減価償却があるはずなのに、減価償却費が掲載されていない決算書があります。聞けば、「少しでも利益を増やすため」と。
これは、銀行から見ると「利益の水増し」にあたります。減価償却すべきはする、というのが「会計」のルールだからです。
いっぽう、「税金」のルールでは減価償却をしないのはOK。なので、会社が「減価償却をしたくない」と言えば、税理士もそれを受け入れることはあるわけです。
ところが、減価償却をしなければ、銀行から「利益の水増し」と見られる。また、「ほかにもなにか水増ししているのでは?」と決算書そのものを疑われてしまうことに大きな問題があります。
したがって、減価償却はきちんとやりましょう。
なお、減価償却しないのが、税金計算上の「繰越欠損金」の関係で… と言うのなら。その旨を『「中小企業の会計に関する基本要領」の適用に関するチェックリスト 』という書類に税理士に記載をしてもらい、銀行に提示をするのがおすすめです。利益の水増しではないことのアピールになります。
[ad1]《事例8》多額の「開発費」が計上されている
「開発費(繰延資産)」が計上されている、しかも多額に、という決算書があります。
これを見た銀行は、「ほんとうは経費にすべきものを保留しているのでは?」と疑うものです。事実、そうであることも少なくありませんが。
開発にともなう費用の多くは「費用処理」、というのが会計のルールです。基本的に、税金の計算も、その会計のルールにならうことになっています。
そう考えると。費用ではなく「資産」として計上される開発費というのは、実際にはあまりないはずなのです。
したがって、「開発費で利益の水増し」と考えるのはやめましょう。やはり、他の水増しも疑われるきっかけになりかねず、決算書そのものの信頼性を損なう可能性があります。
もし、ほんとうに資産とすべき開発費があるのであれば。そのむねを、税理士からも銀行に説明をしてもらうとよいでしょう。少々専門性の高い内容でもありますから、説得力が増すはずです。
《事例9》営業外収入のなかみを精査していない
営業外収入のなかみを精査していない、という決算書があります。「売上高に計上できるはず」のものが営業外収入として表示されているようなケースです。
すると、その分だけ「営業利益」が小さくなります。最終利益は変わらないのですが、営業利益は変わる。銀行は、最終利益もさることながら、本業の収益力を示す「営業利益」により注目をしています。
営業利益をできるだけ増やすことはできないか? という目で、決算書を見てみましょう。
似たようなケースとして。会社が借り上げた社宅について、社長や社員からの家賃を営業外収入に計上している場合にも、営業利益をムダに小さくしていることになります。
そのあたり、くわしくはこちらの記事をどうぞ ↓
《事例10》決算報告をしていない
決算報告をしていない。つまり、決算書について、銀行に報告をしていない、という会社があります。
いやいや、決算書なら毎年銀行に渡している。と言うのであれば、それは違います。ただ渡すだけではなく、「報告」までしているか? という話です。
実際にお聞きしてみると、「ただ渡すだけ」という会社がほとんどであることがわかります。ではいったい、なにを報告するのか?
まずは、決算書の内容です。見ればわかるだろう、と思われるかもですが。そうでもありません。
たとえば、在庫の金額が多いという決算書。銀行は真っ先に、架空在庫や不良在庫を疑います。けれども、豊富な在庫を強みにする会社もあるでしょう。であれば、それは説明をしなければ伝わりません。
このように、決算書の内容は説明をすることで、より正しく伝わる。銀行からの理解も得られるようになります。
また、決算報告のときに、資金調達計画について話をするのも重要です。向こう1年は、どれくらいの銀行融資を考えているか? 予測資金繰り表をもとに話ができれば「場当たり的ではなく、計画的に借入する会社」との評価につながります。
決算報告の場に、税理士に同席してもらうことができれば、銀行からは「税理士からの支援も厚く、安心できる会社」との評価にもつながるところです。
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まとめ
税理士がつくる決算書のなかには、「税金的にはOK」でも、「銀行融資的にはNG…」というものもあります。
「税理士任せ」にしている会社は注意が必要です。銀行融資にはNGな決算書の事例を、会社自身が押さえておきましょう。
- 売掛金の勘定科目内訳明細書が雑
- 経営セーフティ共済の掛金を費用処理
- ちょっとだけ赤字
- 役員借入金を「短期借入金」で表示
- 役員貸付金を「長期貸付金」で表示
- 仮払金の残高が多い
- 減価償却をしていない
- 多額の「開発費」が計上されている
- 営業外収入のなかみを精査していない
- 決算報告をしていない