「ウチの決算書は黒字だから、融資が受けられるぞ!」と考えるのは早計です。
銀行も疑う、「ほんとうに黒字?」な決算書の事例についてお話をしていきます。
黒字ならOK、というわけではない。
会社が銀行から融資を受けるときには、「決算書が黒字(損益計算書の最終利益がプラス)」が良いのは広く知られているところでしょう。
この点で。「ウチの決算書は黒字だから、融資が受けられるぞ!」と考えるのは早計です。なぜなら、たとえ黒字であっても、銀行からは「ほんとうに黒字なの?」と疑われるような決算書もあるからです。
おもな事例としては、次の5つになります↓
- 役員報酬が少ない
- 減価償却費が少ない
- 特別利益が多い
- 現金預金が少ない
- 利益剰余金が少ない
自社の決算書が、これらに当てはまる場合には気をつけなければいけません。たとえ決算書が黒字でも、思いのほか融資が受けにくいことがあります。
それではこのあと、5つの事例を順番に見ていきましょう。
銀行も疑う「ほんとうに黒字?」な決算書の5事例
《事例1》役員報酬が少ない
銀行も疑う「ほんとうに黒字?」な決算書の5事例、1つめ。それは、「役員報酬が少ない」です。役員報酬(社長の給料)が少ないと、決算書が黒字でも銀行に疑われてしまうことがあります。
たとえば、決算書の最終利益が 100万円のプラス、という会社があったとして。役員報酬を見ると、120万円(月額 10万円)だったとします。
ここで銀行が考えるのは、「月額 10万円なんかで生活できる? ほんとうは 20万円とか 30万円必要なんじゃないの?」ということです。結果として、「役員報酬が少ない・少なすぎる」と判断すれば、決算書を修正します。
具体的には、
「役員報酬は 240万円(月額 20万円)は必要だ」と判断をすれば、決算書の役員報酬 120万円との差額は 120万円です。この 120万円を、決算書の最終利益 100万円からマイナスします。
すると、修正後の最終利益は「100万円 − 120万円」で、20万円の赤字です。というように、決算書は黒字でも、「実際は赤字」のケースがあります。
もしも、「役員報酬が月額 10万円でも生活できる」のであれば、その旨を銀行に説明するようにしましょう。たとえば、社長個人に不動産賃貸収入があるとか、配偶者も給与収入があるとか。
銀行が納得できれば、さきほどのような修正は免れることになります。このあたり、詳しくはこちらの記事もどうぞ↓
《事例2》減価償却費が少ない
銀行も疑う「ほんとうに黒字?」な決算書の5事例、2つめ。それは、「減価償却費が少ない」です。減価償却費が少ないと、決算書が黒字でも銀行に疑われてしまうことがあります。
たとえば、決算書の最終利益が 100万円のプラス、という会社があったとして。減価償却費を見ると、50万円だったとします。ところが、その会社が所有する固定資産の状況からして 50万円は少なすぎる、というようなケースです。
そもそも、減価償却とは。高額のモノ(固定資産)を買ったときに、その金額をいちどには経費にせず、複数年に分割して経費にする。という、会計のテクニックを言います。
2,000万円の機械を買ったら、10年で分割して、毎年 200万円ずつ経費にする。この「毎年 200万円」が「減価償却費」です。ちなみに、「何年で分割するか(法定耐用年数と呼びます)」は、モノごとに税法で決められています。
このようにして計算された「毎年 200万円」は、会社が経費にできる「上限額」です。利益を少なくして、税金を抑えたいという会社は、減価償却費を上限額まで計上することになります。
ところが、利益が出ていない会社は、利益を水増しするために(銀行から融資を受けたいから)、減価償却費を限度額まで計上しない… というのが「減価償却費が少ない」の事例にあたります。
さきほどの例で言えば、決算書の減価償却費は 50万円。でも、上限額は 200万円のはず。だったら、「200万円 − 50万円」で 150万円も経費が少なくなっている。
決算書の最終利益は 100万円だけれど、150万円の経費が少ないと考えると、「100万円 − 150万円」で、50万円の赤字です。というように、決算書は黒字でも、「実際は赤字」のケースがあります。
また、減価償却費が少ない会社は、ほかにも利益を水増しする操作を行っていることがあるため、銀行はより疑いを強めます。ヘタをすると、決算書そのものを疑われてしまうことを理解しておきましょう。
[ad1]《事例3》特別利益が多い
銀行も疑う「ほんとうに黒字?」な決算書の5事例、3つめ。それは、「特別利益が多い」です。特別利益が多いと、決算書が黒字でも銀行に疑われてしまうことがあります。
特別利益とは、損益計算書の下のほうに掲載されている、その名のとおり「特別な利益」です。たとえば、不動産や株式を売却したときの利益とか、保険を解約したときの差益とか。
これらの特別利益は、「ことし限り」の利益です。不動産や株式を売買することを商売にしている会社を除いては、不動産や株式を売却したときの利益は、「ことし限り」の利益になります。
また、毎年のように保険を解約している会社もないでしょうから、やはり、保険を解約したときの差益も「ことし限り」の利益です。
そんな特別利益が 300万円あって、そのうえで最終利益が 200万円という会社があったとします。ここで銀行が考えるのは、「300万円はことし限りの利益なのだから、会社本来の利益ではない」ということです。
結果として、銀行は「決算書の最終利益 200万円 − 特別利益 300万円」という修正をすることになります。修正後の最終利益は 100万円の赤字です。
というように、決算書は黒字でも、「実際は赤字」のケースがあります。特別利益について、くわしくはこちらの記事もどうぞ↓
《事例4》現金預金が少ない
銀行も疑う「ほんとうに黒字?」な決算書の5事例、4つめ。それは、「現金預金が少ない」です。現金預金が少ないと、決算書が黒字でも銀行に疑われてしまうことがあります。
たとえば、損益計算書の最終利益は黒字。いっぽうで、貸借対照表の現金預金を見ると、ぜんぜん無い。具体的には、平均月商(年間売上高 ÷ 12ヶ月)の1ヶ月分未満であり、おカネがカツカツ… そんな事例です。
すると、「利益が出ているのに、おカネが増えないのはなぜだろう?」という見方もあるでしょう。利益とおカネの増減は、完全に連動するわけではありませんが、中長期的にはおおむね連動するものだからです。
それでも、黒字なのにおカネが無いとなれば。銀行は、「ムダなモノを買っているのではないか?」とか、「粉飾決算をしているのではないか?(たとえば架空売上の計上)」などと疑うことがあります。
実際、そのような会社もあるわけで。ムダなものも買っていないし、粉飾決算なんてしていないという会社は気をつけたいところです。
具体的には、「キャッシュフロー計算書」を作成して、「現金預金の増減理由」を明らかにしましょう。売上が増えたことで、売掛金が増えたり、在庫が増えたりすれば、利益が出ていてもおカネは減ります。
そのあたりのところを、キャッシュフロー計算書で銀行に説明をするわけです。もちろん、銀行は銀行で「現金預金の増減理由」を考えていますが、会社自身が理解していること、説明できることに、銀行は安心と信用を感じるものでもあります。
《事例5》利益剰余金が少ない
銀行も疑う「ほんとうに黒字?」な決算書の5事例、5つめ。それは、「利益剰余金がが少ない」です。利益剰余金が少ないと、決算書が黒字でも銀行に疑われてしまうことがあります。
利益剰余金とは、貸借対照表の「純資産」の部にある勘定科目です。平たく言うと、「過去の最終利益の合計額」になります。会社が開業してから、いままでの利益の累積額が「利益剰余金」です。
つまり、利益剰余金の金額が多いほど、その会社は「高利益体質」であり、利益剰余金の金額が少ないほど、その会社は「低利益体質」であることをあらわします。
この点で。もし、損益計算書の最終利益が黒字であっても、貸借対照表の「利益剰余金がかなりマイナス」という会社があったとしたら。
銀行が考えるかもしれないのは「過去からの累積でみれば、この会社は赤字体質。今回の黒字は単発かもしれないなぁ」といったことでしょう。
このままでは、融資が受けにくくなってしまいますから、翌期以降の「経営計画書」を作成して、銀行に提示するのがおすすめです。計画書のなかで、翌期以降も黒字であることをアピールします。
もちろん、計画は計画であって、未来がどうなるかはわかりません。けれども、どうなるかわからないことを「きちんと考えている」からこそ、会社は黒字に近づくことができる。そういう考え方もあるはずです。
実際、黒字の会社は、赤字の会社よりも「経営計画書を備えている割合」が高いというデータもあります。銀行もそのあたりのことをわかっていますので、経営計画書を作成・提示する会社には一目置くものです。
今回は黒字、でも、利益剰余金はマイナス。そういう会社は、ぜひ経営計画書の作成・提示にとりくんでみましょう。
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まとめ
「ウチの決算書は黒字だから、融資が受けられるぞ!」と考えるのは早計です。なぜなら、たとえ黒字であっても、銀行からは「ほんとうに黒字なの?」と疑われるような決算書もあるからです。
銀行も疑う、「ほんとうに黒字?」な決算書の事例を理解して、自社の決算書があてはまっていないかを確認しておきましょう。
- 役員報酬が少ない
- 減価償却費が少ない
- 特別利益が多い
- 現金預金が少ない
- 利益剰余金が少ない