銀行融資のリスケジュールに必要な「経営改善計画書」。とはいえ、経営改善計画書などつくったことがない… という社長は少なくないものと推測します。
そこで、リスケに失敗する経営改善計画書の特徴についてのお話です。
経営改善計画書などつくったことがない。
銀行融資を受けている会社の社長が知っておくべきことのひとつに、「経営改善計画書」があります。経営改善計画書とは、銀行融資をリスケジュールするのに必要な書類です。
リスケジュールとは、当初の融資条件を変更することであり、おもに「返済猶予・返済減額」をいいます。資金繰りがどうしても厳しければ、社長はリスケを依頼しなければなりません。
が、銀行にとって、リスケジュールは好ましいものではなく、リスケジュールの可否を判断するために、「経営改善計画書」を求めることになります。ゆえに、社長は経営改善計画書をつくらなければいけないわけです。
とはいえ、経営改善計画書などつくったことがない… という社長は少なくないものと推測します。そこで、リスケジュールに失敗する経営改善計画書の特徴について、お話をしていきます。
- 行動計画がない
- 窮境原因が不明瞭
- 5年以内に正常化しない
- 貸借対照表の予測がつくれない
- 粉飾している
これらの特徴にあてはまる経営改善計画書をつくってしまい、リスケジュールに失敗することがないように。5つの特徴を、順番に確認していきましょう。
リスケジュールに失敗する経営改善計画書の特徴5つ
【特徴1】行動計画がない
経営改善計画書をつくるにあたって、「いったい、どんな項目を記載すればいいのか」という悩みがあります。絶対的な書式はありませんが、以下の項目は必須だと考えておきましょう↓
- 経営理念・経営方針
- 外部環境(機会と脅威)
- 内部環境(強みと弱み)
- 経営戦略(事業領域)
- 経営課題
- 行動計画
- 損益実績・計画
- 資金繰り実績・計画
なかでも、抜け落ちてしまいがちなのは「行動計画」です。「計画書」というと、「数値計画」のイメージが強いようで、数値計画をつくっておしまいの社長がいます。
ところが、数値だけでは説得力がありません。その数値を実現するために「なにをするのか」という行動が大切です。そこで銀行は、数値計画の実現可能性をはかる材料として、行動計画を必要としています。
もちろん、会社自身にとっても、行動計画は必要なものですから(行動計画がなければ、数値計画と実績の差異を検証できない)、「数値計画と行動計画はセット」と覚えておきましょう。
行動計画のつくりかたについては、こちらの記事を参考にどうぞ↓
【特徴2】窮境原因が不明瞭
「窮境原因」という言葉があります。聞き慣れない言葉かもしれませんが、リスケジュールの場面では、よく耳にする言葉です。「会社が窮地に陥った原因」という意味になります。
この窮境原因をつかめていないと、会社が再生を果たすことは難しくなるでしょう。なので銀行は、窮境原因を気にしますし、経営改善計画書にも記載すべきです。
さきほど列挙した項目でいうと、「外部環境(機会と脅威)」と「内部環境(強みと弱み)」が窮境原因にあたります。
たとえば、外部環境(脅威)で言うと、新型コロナや、震災・台風といった災害など。これらが原因で、窮地に陥った… という会社もあるでしょう。
ただし、「外部環境(脅威)」によるものばかりを記載するようではいけません。
たしかに、それらも原因ではありますが、同じ環境でも窮地を免れた会社はあるはずです。また、外部環境を、会社のチカラだけで改善するのは困難でもあります。
それよりも、会社が独力で改善できる「内部環境(弱み)」のなかに、窮境原因を見出しましょう。
たとえば、「旧態依然の事業に依存してきた経営体質」や、「過小資金が常態化していた財務管理体制」など。これらであれば、独力で改善可能です。改善できれば、外部環境の変化にも強くなります。
ともすると人は、外部環境のせいにしがちです。いっぽうで、内部環境にも、必ずなにかしらの原因があるものです。
内部環境の原因を自覚することは、社長にとってはみずからの非を認める行為であり、ツラいところでしょう。ですが、「ほんとうの窮境原因」を特定してこそ、改善の可能性を高めることができると考えておきましょう。
【特徴3】5年以内に正常化しない
経営改善計画書で数値計画をつくる際、目指すのは「5年以内に正常化」です。ここで言う「正常化」とは、「債務超過なし、債務償還年数10年未満、通常返済」をいいます。
したがって、リスケジュール開始から5年以内に、債務超過(資産<負債)をなくして資産超過(資産>負債)に転換すること。
債務償還年数(借入金残高÷税引後利益)が10年未満になるくらい、利益を回復させること。結果、リスケジュール前の返済に戻せることが、経営改善のゴールになります。
言い換えると、「5年以内の正常化」を満たす数値計画をつくらなければいけないということです。つくった数値計画では、5年後に正常化できない… とならないように気をつけましょう。
とはいえ、鉛筆なめなめ「調子のよい数値計画」をつくるのもいけません。銀行は、リスケジュールのあいだじゅう、計画と実績との対比を続けるからです。
そのなかでもし、計画に対して実績があまりにも下回るようであれば、リスケジュールを打ち切られてしまいます。これを避けるための目安は、計画に対して「達成率 8割以上」です。
なので、数値計画は慎重に、手堅くつくること。そして、達成率を上げるためには、行動計画をつくりこむこと。行動計画に沿って、確実に行動を実行していくことです。
【特徴4】貸借対照表の予測がつくれない
さきほど列挙した、経営改善計画書の項目とは別に、銀行から提示を要求されることもあるのが「貸借対照表の予測」です。1年後、2年後、3年後… の貸借対照表をつくってほしい、という要求になります。
これは、リスケジュール中の財務状況をより正確に把握するためであり、現状がとくに厳しい会社や、プロパー融資が多い会社などでは、要求されるケースが多くなるものです。
ところが、損益計算書の予測はつくれる社長でも、貸借対照表の予測となるとカンタンではありません。つくれなければ、リスケジュールできなくなりますから困ってしまうでしょう。
顧問税理士に相談する、つくってもらうのもひとつの方法ですが。社長がじぶんでつくれないわけでもありません。こちらの記事を参考に、つくることも考えてみましょう↓
なお、貸借対照表の予測は、経営改善計画書をつくるときだけに役立つものではありません。ふだんでも、貸借対照表の予測があることで、貸借対照表の実績対比ができるようになります。
すると、不良資産の増加や負債の異常値などにも気づきやすく、財務状況の把握に役立つのはメリットです。損益計算書の予測とあわせて、とりくんでみましょう。
【特徴5】粉飾している
経営改善計画書それ自体の話ではありませんが、経営改善計画書をつくる前提として、「粉飾決算」をしていると、リスケジュールができなくなってしまうことがあります。
粉飾があると、銀行は財務状況を正しく把握できませんし、粉飾するような会社を支援するわけにもいかないからです。よって、ふだんから粉飾をしないほうがいいのは、言うまでもありません。
とはいえ、もし、リスケジュールを銀行に依頼する時点で粉飾がある場合にはどうしたらいいのか?
この期に及んで、隠し続けることはおすすめできません。銀行は、クチにはせずとも粉飾に気づいているものです。会社のほうから、粉飾を正した数値をあきらかにするようにしましょう。
ただし、「粉飾をしていました」と言うのも、あからさますぎます。「決算書をあらためて見直したところ、修正すべき点が見つかりました」と伝えるくらいがよいでしょう。
まとめ
銀行融資のリスケジュールに必要な「経営改善計画書」。とはいえ、経営改善計画書などつくったことがない… という社長は少なくないものと推測します。
いざというときのために、リスケに失敗する経営改善計画書の特徴を押さえておきましょう。
- 行動計画がない
- 窮境原因が不明瞭
- 5年以内に正常化しない
- 貸借対照表の予測がつくれない
- 粉飾している