製造機械が老朽化したために、買い替えが必要。そこで、メインバンクに設備資金の融資を相談したところ、「信用保証協会の保証枠が無い」と断られてしまった。それでも銀行融資を受けるにはどうしたらよいか?
実際の事例から汎用性・再現性が高い要素を抜き出してお話ししていきます。
じぶんがこの会社の社長だったらどうするか?
実際の事例から学ぶ銀行融資・銀行対応、今回は…
長年にわたり、ある製品を製造している会社がありました。製造機械が老朽化したために、買い替えが必要な状況です。そこで、メインバンクに設備資金の融資を相談したところ、「信用保証協会の保証枠はいっぱいなので(保証付き融資はできない)」と断られてしまいました。
このままでは、機械が使えなくなり、事業は立ち行かなくなってしまいます。とはいえ、機械の購入代金を一括払いできるほどのおカネはない… なんとかして、銀行融資を受けたい。
まずは、じぶんがこの会社の社長だったらどうするか。対応をイメージをしてみたうえで、このあとのお話を確認していただければと思います。それでは、いってみましょう。
要設備資金・保証枠無し・メインバンクは謝絶→銀行融資を受けるには?
製造機械が老朽化したために、買い替えが必要。そこで、メインバンクに設備資金の融資を相談したところ、「信用保証協会の保証枠が無い」と断られてしまった、という会社の事例があります。この事例から、汎用性・再現性が高い要素を抜き出したのがこちらです↓
- メインバンクを見極める
- プロパー融資との組み合わせ
- 自己資金を用意する
それではこのあと、順番に見ていきましょう。
メインバンクを見極める
製造業をいとなむ会社にとって、製造機械が無ければ事業が成り立たないことはあきらかです。メインバンクであれば、当然に理解しているところでしょう。にもかかわらず、融資を断られたのはなぜなのか?
まずは、事例の会社の業績を確認してみると。ここ数年は売上が減少傾向にあり、前期は赤字。今期も黒字は厳しい状況です。
貸借対照表を見ると、社長からの借入金(役員借入金)が数千万円。これを自己資本とみなせば、債務超過(資産<負債)は免れますが、負債とみれば債務超過になります。
というように、けして業績はよくありませんが、ぜったいに融資が受けられないような状況ではありません。ましてや、事業に不可欠である製造機械の買い替えですから、メインバンクであればなんとか融資を検討してほしいところでしょう。
続いて、事例の会社の借入状況を把握することにしました。
借入残高のシェアでみると、A銀行(都市銀行)が50%、B信用金庫が20%、日本政策金融公庫が30%です。社長がメインバンクに考えているのが、A銀行でした。
が、A銀行からの融資はすべて信用保証協会の保証付きです。プロパー融資はいっさいありません。保証付き融資であれば、会社が返済できないときには信用保証協会が肩代わりをしてくれます。
ということは、A銀行はリスクをとるつもりがない、と考えられるところです。なんてヒドい銀行なんだ!と思われるかもしれませんが。A銀行は都市銀行です。
基本的に、都市銀行は大企業向け(少なくとも年商10億円以上)の銀行であり、会社の規模から見て、事例の会社には合わない銀行でした。また、都市銀行は決算書の見方もシビアなものです。
役員借入金を自己資本とはみなしていない可能性があります。以上をふまえて、A銀行が、保証付き融資以外に融資をしないのは当然だと言えるでしょう。
結果として、社長はメインバンクを見誤っていたことになります。社長はA銀行をメインバンクだと考えていましたが、A銀行のほうは自行がメインバンクだとは考えていなかった、ということです。
そこで、融資を相談する銀行を、A銀行ではなく、B信用金庫に切り替えることにしました。
プロパー融資との組み合わせ
B信用金庫は、事例の会社の近所に支店があります。借入残高こそ、それほど大きくはありませんが、長年にわたって借入をし続けている銀行であり、お付き合いは長い銀行でした。
地方銀行や信用金庫・信用組合は、地域金融機関として、地域の成長・発展に貢献することをミッションにしています。中小企業が融資を受けるなら、まずは、地域金融機関がおすすめです。
とはいえ、社長は「信用保証協会の保証枠が無いのだから、B信用金庫だって貸してくれないだろう」と考えていました。
ところが、保証枠を増額できることがあります。それは、銀行がプロパー融資をしてくれるケースです。結論として、B信用金庫がいちぶプロパー融資をすることを条件に、信用保証協会も保証を承諾。無事に、機械の購入代金について融資を受けることができました。
信用保証協会は、プロパー融資がまったくない会社に対しては、どうしても保証枠を低く設定する傾向があります。言うまでもなく、銀行がプロパー融資をするほどの信用がないからです。
逆に、プロパー融資を受けている会社に対しては安心感がありますので、保証枠が高くなる傾向にあります。
また、2018年の信用保証制度の見直し以降、銀行や会社が「保証付き融資」に依存するのを正そうという動きが進んでいるところです。つまり、銀行は目利きを活かしてプロパー融資をしなさい、会社は事業内容を良くしてプロパー融資を受けられるようになりなさい、ということになります。
ですから、会社は保証付き融資ばかりではなく、ふだんからプロパー融資も受けられるようにしなければいけません。プロパー融資を受けるのに良いタイミングについては、こちらの記事も参考にどうぞ↓
なお、今回のプロパー融資をきっかけに、事例の会社では少しずつ、借入をA銀行からB信用金庫にシフトすることにしています。B信用金庫を、ほんとうのメインバンクとしてお付き合いをするためです。
自己資金を用意する
B信用金庫からプロパー融資を引き出すにあたり、ひとつだいじなことがありました。それは、「自己資金の準備」です。設備資金の融資を受けるにあたって、購入代金の全額の融資を受けることは可能です。
が、いちぶ自己資金があったほうが、設備資金の融資は受けやすくなります。自己資金があるほど、銀行としては返済可能性が高いと考えられるからです。
自己資金の目安は、購入代金のうち2割〜3割くらい。これくらいの自己資金があると、銀行は設備資金の融資がしやすくなるものです。事例の会社では、2割ていどの用意ができました。
ちなみに、設備資金の融資の返済原資は「利益」です。設備投資によって増える毎月の利益の範囲内に、毎月の返済額がおさまるかどうか。自己資金が多いほど、毎月の返済額は少なくなりますから、その分、利益が少なくても返済できることになります。
これが、自己資金が多いほど融資が受けやすくなる理由です。
今回の事例では、既存の機械の老朽化にともなう入れ替えですから、顕著に利益が増えるわけではありません。それでも、技術の進歩はあるもので、新型の機械では1割ていどの増産は可能とのこと。
これら(自己資金あり・増産による増益あり)をふまえて、設備投資計画書を作成して、利益の範囲内で返済ができることを銀行に示すようにしました。設備投資計画書の様式やつくり方について、くわしくはこちらの記事もどうぞ↓
設備資金の融資をスムーズに受けるためには、設備投資計画書の作成がおすすめです。計画書がないと、銀行は「設備投資に見合う利益が増えるのか、返済はできるのか?そもそも、いまその設備が必要なのか?」といったことがわかりません。結果として、融資が受けにくくなります。
会社の業績があまり良くないなど、融資を受けるのが難しい状況のときこそ、手間を惜しまずに設備投資計画書を作成するようにしましょう。
計画書は、銀行融資を受けるためだけではなく、自社の投資判断にも役立つものです。
まとめ
製造機械が老朽化したために、買い替えが必要。そこで、メインバンクに設備資金の融資を相談したところ、「信用保証協会の保証枠が無い」と断られてしまった。それでも銀行融資を受けるにはどうしたらよいか?
実際の事例から、汎用性・再現性が高い要素を押さえておきましょう。自社の銀行融資・銀行対応にも、役立てる場面があるはずです。
- メインバンクを見極める
- プロパー融資との組み合わせ
- 自己資金を用意する