世の中は、いよいよアフターコロナに向けて舵を切りつつあります。そんななか、V字回復している会社における銀行対応のポイントをまとめました。
中小企業の資金繰り・資金調達といえば
きょうは、2022年6月16日。いまだコロナの完全収束にはいたらないものの、世の中はウィズコロナからアフターコロナへの移行に舵を切りつつある、といってよいでしょう。
コロナの影響で落ち込んだ業績も改善し、いわゆる「V字回復」している会社もあります。その回復をより確実なものとするために、資金繰り・資金調達を盤石としたいところです。
中小企業の資金繰り・資金調達といえば、銀行融資が欠かせません。そこで、V字回復している会社における銀行対応のポイントについてまとめてみます。具体的にはこちらです↓
- 税引後利益+減価償却費を確認する
- 増加運転資金を借りる
- 決算見込みと経営計画を提示する
それではこのあと、順番に見ていきましょう。
V字回復している会社における銀行対応のポイント
税引後利益+減価償却費を確認する
V字回復ということで、試算表を見れば「利益」が出ているはずです。つまり、黒字。とはいえ、それが「じゅうぶん」な利益かどうかは、また別のハナシです。
では、じゅうぶんな利益とは、いったいどれだけの金額をいうのか? 結論として、「税引後利益 + 減価償却費 > 年間返済額」を満たすだけの金額です。
算式中の「税引後利益 + 減価償却費」は、「返済原資」をあらわしています。借りたおカネの返済原資はまず、税金を払ったあとに残った利益(税引後利益)です。
そこに、減価償却費を加算しているのは、「減価償却費がおカネの支出をともなわない費用だから」という理由があります。このあたりがよくわからないようであれば、以下の記事も参考にどうぞ↓
その「税引後利益 + 減価償却費」が、「年間返済額」を超えることで、会社は手元のおカネを減らすことなく返済を続けられるようになります。
逆に、「税引後利益 + 減価償却費」が「年間返済額」を下回るようだと、会社は手元のおカネを取り崩して返済を続けなければいけません。いずれは、おカネが尽きてしまいます。
ですから、「税引後利益 + 減価償却費 > 年間返済額」を確認することで、じゅうぶんな利益まで回復しているのかを検証するようにしましょう。V字回復というカタチだけに満足をしていると、資金繰りに支障をきたしてしまうことがあります。
なお、借りたおカネはすべて利益で返済しなければいけないわけではありません。実は、利益がなくても問題のない借入もあるのです。
具体的には、「借りたまま使わずに残っているおカネに相当する借入」や「経常運転資金分の借入」が該当します。このあたり、くわしくはこちらの記事もどうぞ↓
したがって、それらの借入があれば、その分の返済額は除いたところで「税引後利益 + 減価償却費 > 年間返済額」を考える必要があります。
「借りたまま使わずに残っているおカネに相当する借入」は、残っているおカネで返済をすればよく、「経常運転資金分の借入」は基本的に返済をしなくてもよい借入だからです。
増加運転資金を借りる
資金繰りを考えるうえで、けして忘れてはいけないのが「増加運転資金」です。増加運転資金とは、文字どおり、運転資金の増加分です。
なお、ここでいう「運転資金」とは、いわゆる「経常運転資金」のことであり、算式でいうと「売掛金・受取手形 + 棚卸資産 ー 買掛金・支払手形」になります。
そもそも、会社が事業を続けるためには「経常運転資金」分のおカネが必要であることを理解しておきましょう。
売掛金・受取手形は、入金を待っているおカネであり、その分のおカネを別途用意していないと資金繰りに支障をきたします。棚卸資産もまた、売れて入金されるのを待っているおかねですから、やはり、その分のおカネを別途用意しなければなりません。
いっぽうで、買掛金・支払手形は、支払いを待ってもらっているおカネですから、その分のおカネを借りているのと同じことです。
以上をふまえて、「売掛金・受取手形 + 棚卸資産」から「買掛金・支払手形」を減算した金額が、会社が別途用意しなければいけないおカネだ、ということになります。
では仮に、V字回復前の経常運転資金が「売掛金・受取手形 1,000万円+ 棚卸資産 300万円 ー 買掛金・支払手形 600万円 = 700万円」の会社があったとしましょう。
この会社がV字回復によって、売上が 1.5倍になったとすると、経常運転資金「「売掛金・受取手形 1,000万円 × 1.5+ 棚卸資産 300万円 × 1.5 ー 買掛金・支払手形 600万円 × 1.5 = 1,050万円」となります(入金サイト、支払サイト、在庫水準に変化はないものとして)。
というように、経常運転資金は、当初の 700万円から 1,050万円まで増えるわけです。このときの増加分である 350万円(1,050万円 ー 700万円)が、増加運転資金にあたります。
では、増加運転資金分のおカネを用意していなければどうなるか? 当然、資金繰りが厳しくなりますよね。なので、V字回復にあわせて、会社は増加運転資金分の銀行融資を受けることが大切になります。
ところが、業績が回復基調にあると「いずれおカネは増えるはず」と考えて、増加運転資金分の手当てをせずにいる会社は少なくありません。結果、思わぬ資金不足で慌てることになります。
なお、増加運転資金分の融資は、早めに受けることがだいじです。売掛金・受取手形、棚卸資産、買掛金・支払手形について、「過去の推移・今後の見込み」を書類にまとめて、銀行に提示・説明をすることで、早めに融資の相談をするようにしましょう。
決算見込みと経営計画を提示する
さいごに、もうひとつ。V字回復しているときの銀行対応について、「決算見込みと経営計画を銀行に提示する」ことをおすすめします。
たとえば、3月決算の会社が、4月〜9月にかけてV字回復の状況にある場合。決算までの 10月〜3月の予測をもとに、決算見込みを書類にまとめます。
これを聞いて、4月〜9月までの試算表があればよいのではないか、とおもわれるかもしれませんが。銀行は基本的に、試算表を信用していないのです。文字どおりの「試算」であることから、精度が低かったり、粉飾があったり、ということを疑っています。
ゆえに、銀行がいちばんに信じるものは決算書です。その決算書はこんなふうになる予定ですよ、という決算見込みを示すことで、銀行の疑いを軽減することができます。
また、最終的な決算書で、前述した「税引後利益 + 減価償却費 > 年間返済額」を満たすのか? も、銀行が気になるところですから。やはり、決算見込みは有意義な情報になります。つまり、決算見込みを示すことで、より融資が受けやすくなるということです。
決算見込みに加えて、さらに、向こう3〜5年ていどの経営計画を提示できるとよいでしょう。銀行はいつも、数字を保守的に見ています。いくらいま利益が出ていても、いくら決算見込みで利益が出ていても、その先も利益は続くのか? という目で見ているのです。
もちろん、先のことなどだれにもわかりはしません。それは、銀行だってわかっています。ただそれでも、先のことを想定して、計画をつくれる会社であればこそ、銀行は評価します。
経営計画をつくるにあたっては、どこまで回復が続くのか(時期と金額)をあきらかにしましょう。ここで、回復があまりに早く、あまりに大きいようだと、銀行からは疑われてしまいます。繰り返しになりますが、銀行はいつも保守的だからです。
コロナ以前も含めた過去からの推移を見て、不自然ではない早さ、不自然ではない大きさの回復かどうかを確認しておくようにしましょう。
良すぎる計画は、銀行対応としては逆効果になります。銀行に提示する計画書は、「税引後利益 + 減価償却費 > 年間返済額」を満たすものであればじゅうぶんです。
まとめ
世の中は、いよいよアフターコロナに向けて舵を切りつつあります。そんななか、V字回復している会社における銀行対応のポイントをまとめてみました。
せっかくのV字回復も、銀行対応を怠ると資金繰りに支障をきたしてしまうことがあります。回復をより確実なものとするために、銀行対応に注意して、資金繰りを盤石なものとしましょう。
- 税引後利益+減価償却費を確認する
- 増加運転資金を借りる
- 決算見込みと経営計画を提示する