自社の借入金は返済できる?できない?の見極め手順についてお話をしていきます。返済できないのでは… と抱えている不安が、実は抱えずに済む不安かもしれません。
抱えずに済む不安を抱えている。
きょうは、2022年6月30日。世の中は、「コロナ禍」から「コロナ後」に以降しつつあります。そういったなか、「コロナ禍で増えた借入金を、これから返済できるのか…?」という点で不安を抱える会社はけして少なくないようです(公表されている各種アンケートによれば)。
とはいえ、「これから返済できるのか」をどのように見極めればよいのか。その見極めが誤っていているがために、ほんとうは抱えずに済む不安を抱えているケースもあります。つまり、返済できるのに、返済できないのでは…? と勘違いをしているケースです。
というわけで、本記事では「自社の借入金は返済できる?できない?の見極め手順」として、お話をしていきます。具体的には次のとおりです↓
- 余剰資金の確認
- 経常運転資金の確認
- 余剰資産の確認
- 将来利益の検討
- 借り換えの検討
- リスケジュールの検討
それではこのあと、順番に見ていきましょう。
自社の借入金は返済できる?できない?の見極め手順
余剰資金の確認
どれだけの借金があったとしても、おカネさえあれば不安になることはありません。つまり、1億円の借金があっても、1億円のおカネがあれば、借金はないのといっしょです。
そこまで極端ではないにせよ、少なからずおカネ(現金預金)を持っている会社もあるでしょう。
コロナ禍では、未曾有の事態に対する不安から「とりあえず借りておこう」と、融資を受けた会社が少なくありません。幸いコロナの影響は小さく、借りたおカネをほとんど使わずに済んだ… ということで、おカネを持っている会社もあるわけです。
こういったケースでは、現金預金の残高分の借入金については「いつでも返済できる」ことになります。ですから、借入金の残高は、現金預金の残高分を除いたところで考えるようにしましょう。
借入金の残高のまま考えていると、「返済できないかも…」と勘違いをしてしまいます。
なお、現金預金があるからといって、「繰り上げ返済をしてしまおう!」と考えるのは尚早です。この先もなにが起きるかはわかりませんから、そのまま手元におカネを備えておくことも検討しましょう。
借りたいときには借りられない、借りたいときほど借りられないのが銀行融資です。
経常運転資金の確認
経常運転資金とは、「売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産(在庫)ー仕入債務(買掛金・支払手形)」をいいます。経常運転資金について、詳しくは別記事にゆずるとして↓
経常運転資金とは、会社が「事業を続けるあいだ、立て替えているおカネ」だといわれます。言い換えると、事業をやめるときには立て替えていたおカネが戻ってくるということです。
では、その具体的な金額とは? 決算書や試算表に記載されている「売上債権」と「棚卸資産」の金額を見てみましょう。それらは、事業をやめたときには現金化できる金額です。
いっぽうで「仕入債務」の金額は、事業をやめたときには、きれいに支払わなければいけない金額です。そこで、現金化できる金額(売上債権・棚卸資産)と、支払わなければいけない金額(仕入債務)とを相殺した金額が、「立て替えていたおカネが戻ってくる金額」になります。
つまり、経常運転資金分のおカネは、事業をやめたときには戻ってくるわけです。だとしたら、そのおカネを借入金の返済に充てることができます。よって、経常運転資金分の借入金はないのといっしょ、と考えることができるでしょう。
借入金が1億円あっても、経常運転資金が 3,000万円なのであれば、実質的な借入金は 7,000万円だということです。にもかかわらず、借入金の残高のまま考えていると、やはり「返済できないかも…」と勘違いをしてしまいます。気をつけましょう。
余剰資産の確認
続いて、決算書や試算表で「資産の部」を眺めてみます。とくに、固定資産を眺めてみましょう。そのなかに、「現金化できるもの」かつ「相応の価値があるもの」があれば、その分の借入金もないものとして考えることができます。
仮に、時価 5,000万円の土地があれば、事業をやめたときには売却して、借入金の返済に充てることが可能です。だとすれば、借入金のうち 5,000万円については、それほど心配をしなくてもよいでしょう。
とはいえ、時価は下がることもありますし、「いま売却できるものがあるなら、売却して返済に充てる」のが確実です。よって、資産のなかから売却できるものがないか、つまり、余剰資産がないかを確認してみましょう。
そう考えると、含み損を抱えている有価証券や遊休不動産などが候補に上がります。売ったら損をするのでもったいない… とおもわれるかもですが。売ったおカネで借入金を減らす「効果」についても検討してみましょう。
さらに含み損を抱えるのではもっともったいないですし、売却をすれば損失には節税効果もあります。
将来利益の検討
ここまでの話をいったん整理します。カンタンにまとめると、「余剰資金(現金預金)、経常運転資金、余剰資産分」の借入金については、ないのといっしょだということです。
たとえば、決算書の借入金が1億円、現金預金が 3,000万円、経常運転資金が 2,000万円、余剰資産が 1,000万円だとします。すると、「借入金1億円ー現金預金 3,000万円ー経常運転資金 2,000万円ー余剰資産 1,000万円」で 4,000万円です。
なので、返済をほんとうに心配すべき金額は 4,000万円ということになります。借入金1億円をそのまま見ていたのでは、勘違いが大きいことがわかるでしょう。
では、その 4,000万円はどうするのか? それは、「将来の利益」で返済をします。借入金の返済原資は利益だ、というハナシは聞いたことがあるでしょう。まさにそれです。
もう少し厳密にいうのであれば、将来の「税引後利益+減価償却費」となります。「税引後利益+減価償却費」のことを「簡易キャッシュフロー」などと呼びますが。くわしくは別記事にゆずるとして↓
ここではシンプルに、税引後利益だけで考えてみましょう。法人税率が 30%だとすると、4,000万円の借入金を返済するためには、税引前利益として「4,000万円 ÷(1ー30%)= 5,714万円」が必要です。
では、これを仮に7年で返済するとしたら「5,714万円 ÷ 7年」で、毎年 816万円の税引前利益を生み出さなければいけません。これを、いま現在の利益や事業計画から見たときに、クリアできる金額なのかどうなのか? です。
銀行の視点からみて7年で返済が望ましく、できれば 10年以内、最悪でも 15年以内と考えておきましょう。
クリアできるのであれば、返済を不安に感じる必要はありません。が、クリアできない場合にはどうするか…
借り換えの検討
事業計画を見直して、将来の利益を増やすことは前提として。それでも将来の利益が、返済をするには足りないというのであれば、「借り換え」を検討します。
借り換えとは、いまある借入金をあたらしい融資で借り直すことです。このとき、いまある複数の借入金をひとつにまとめて返済期間を延ばすことで、毎月の返済額を少なくできます。
これにより、おカネ(現金預金)が減っていくスピードを抑えて、そのあいだに利益の改善をはかるのが狙いであり、要は「時間かせぎ」です。
また、前述のケースで「5,714万円 ÷ 7年 = 816万円」について、それだけの将来の利益が見込まれるとしても、「実際の返済が速すぎる」ということはあります。
たとえば、いま現在の返済額が年間 2,000万円だとしたら、816万円の利益では資金繰りに支障をきたすかもしれないということです。もちろん、そこは「余剰資金・経常運転資金・余剰資産」でまかなうことにもなりますが、それでも資金繰りに支障をきたすことはありますので。
資金繰り予定表をつくってみて、おカネの動きを把握するのがよいでしょう↓
リスケジュールの検討
資金繰り予定表をつくって、おカネの動きを確認した結果。借り換えをしたとしても、資金繰りがもちそうにない。つまり、数ヶ月以内には資金ショートを起こしてしまう。この場合には、リスケジュールを検討することになります。
リスケジュールとは、返済の減額・猶予です。銀行に相談をして、毎月の返済額を減らすか止めるかをしてもらいましょう。現状、リスケジュールが断られるケースはほとんどありません(真摯な対応をする限り)。
ただし、せっかくリスケジュールができても、すでに手元のおカネが少なすぎると、事業の改善・回復までもたない可能性が高くなってしまいます。よって、リスケジュールをするなら「早め」がポイントです。
そのためにも、資金繰り予定表の作成が大切になります。また、その前提として、本記事で話をしてきた手順によって「自社の借入金は返済できる?できない?」の見極めもできるようにしましょう。
まとめ
自社の借入金は返済できる?できない?の見極め手順についてお話をしきました。返済できないのでは… と抱えている不安が、実は抱えずに済む不安かもしれません。
本記事の手順に沿って、自社の状況を確認をしてみましょう。
- 余剰資金の確認
- 経常運転資金の確認
- 余剰資産の確認
- 将来利益の検討
- 借り換えの検討
- リスケジュールの検討