いま銀行は、低金利での融資獲得競争の真っ最中。銀行から融資を受けるのなんてかんたんだ。
と、考えているのなら。その考え方は危ない!と言える5つの理由についてお話をします。
「かんたんに借りられる」なんてかんたんに言わないで。
会社・事業における銀行融資について。こんなハナシを見聞きすることがあります ↓
「いまは銀行から融資をかんたんに受けられる時代だ」
たしかに、いまの日本には会社が銀行融資を受けやすい「背景」があります。
人口減少や少子高齢化にともない、事業の縮小や廃業が増えている。そのため、銀行は貸出先を探すのに苦労する。もともとの低金利に加えて、さらに低金利での融資獲得競争が激化する。
なるほど、会社は「銀行から融資をかんたんに受けられる」という考え方もうなずけるところです。
けれども。
いっぽうで、その考え方には「危険」があることも理解をしておかなければいけません。
えっ、そうなの? と思われるのであれば、このあとのお話を確認をしておきましょう。
「いまは銀行から融資をかんたんに受けられる時代」の考え方が危ない5つの理由、というお話です ↓
- 返せないのに借りる
- ムダ使いする
- 借り方を間違えている
- メインバンクが無い
- 結局、銀行融資の原理原則をわかっていない
それでは、このあと順番に見ていきましょう。
「いまは銀行から融資をかんたんに受けられる時代」の考え方が危ない5つの理由
《理由1》返せないのに借りる
銀行から融資をかんたんに受けられるから、といって「返せないのに借りる」のはいけません。
あたりまえじゃないか、と言われるかもですが。それでは、「返せない」とはどういう状況を言うのか説明できますか?
と聞くと。答えられない… ということもあるものです。正解はこちら ↓
年間返済額 > 税引後利益 + 減価償却費
上記の算式の右側「税引後利益 + 減価償却費」が、会社の返済原資です。
損益計算書の末尾にある「税引後利益(当期純利益)」に「減価償却費」を足し戻す。その金額よりも銀行への年間返済額が多い場合、会社は手持ちの現金預金を取り崩して返済することになります。
つまり、どんどんおカネが減っていく状態です。
融資をかんたんに受けられるからといって、この算式の確認をせずに借りてしまう会社があります。気をつけましょう。
また、この算式について。「いま」は問題なくても、「これから」も問題ないのか? という見方も必要です。こういうことです ↓
向こう1年の年間返済額 > 向こう1年の税引後利益 + 向こう1年の減価償却費
さきほどの算式に「向こう1年の」がくっついています。つまり、向こう1年の予測・計画値でも「返せないのに借りる」にならないように、ということです。
向こう1年のことなどわからない!と言うハナシも聞きますが。わからないなりにも「想定(イメージ)」をしておくことに意味がある。想定していたか・していなかったかで、いざというときの対応力に差が出るからです。
《理由2》ムダ使いする
いましがた、「年間返済額 > 税引後利益 + 減価償却費」の状況で融資を受けてはいけない、という話をしました。
ところが、例外があります。借りたおカネを使わずに置いておく、というケースです。
この場合、借りたおカネのなかから返済をすればよいわけですから、「税引後利益 + 減価償却費」という返済原資はいりません。
(※ 利息支払分の原資は必要ですが、それこそ低金利。元金返済分ほど大きな負担ではないでしょう)
ではなぜ、使いもしないおカネを借りる必要があるのか?
いざというときに備えるためです。会社はいつも順風満帆ではありません。良いときもあれば悪いときもある。悪いときに備えておカネを持っておく。
また、いつなんどき投資のチャンスが来るかもわかりません。設備投資、人材採用、商品開発… そのときにおカネが無ければチャンスを逃してしまいます。
もともとの過少資本に加えて、資金調達力が弱い中小企業は、ふだんからおカネを持っておくことが大切です。借りてでも、です。
というわけで、使わずに置いておくためのおカネを借りてみた。融資をかんたんに受けられるから借りてみた。
のにもかかわらず、それをムダ使いしてしまう…(気が大きくなってモノを買ってしまう、など) という会社があります。本末転倒です。
ムダ使いをしようと思っておカネを借りる人はそういないでしょうが、結果としてムダ使いをしてしまう人は少なくありません。
じぶんもそうかもしれない、というのであれば。ムダ使いをしないような「しくみ」をつくってから借りるのがおすすめです ↓
《理由3》借り方を間違えている
銀行から融資を受けるのはいいけれど。「借り方」を間違えている、というケースもあります。
たとえば。機械設備や自動車など、いわゆる固定資産を買うにあたり、「短期返済(1年以内返済)」の融資を受ける。これはいけません。
固定資産は「長期」のあいだ使うものです。そのあいだに生じる利益が返済原資です。ゆえに、返済は短期、原資は長期ではバランスがとれず、資金繰りが悪くなります。
固定資産を買うにあたって融資を受けるのであれば、「長期返済(1年超の毎月分割返済)」で借りなければいけません。
また、「経常運転資金(売上債権 + たな卸資産 − 仕入債務)」分のおカネを「長期返済(1年超の毎月分割返済)」で融資を受ける。これもいけません。
経常運転資金は、事業をしている限り「ずっと必要」なおカネなのであり、毎月返済を続けていくことで資金繰りが悪くなってしまいます。
したがって、経常運転資金の融資を受けるのであれば、「短期返済(1年以内返済)」で、返済期限には更新することで実質返済なしの「短期継続融資」が正解です。
このあたりの「借り方」を考えず、「融資をかんたんに受けられるから」と、借りやすい借り方ばかりしていると、会社の資金繰りはどんどんとおかしなものになっていきます。
融資を受けられてはいても、借り方を誤っている会社は少なくありません。自社の借り方はだいじょうぶかどうか? 確認をしておきましょう。
《理由4》メインバンクが無い
「融資をかんたんに受けられるから」と、そのときに借りやすい銀行から借りる、という会社があります。
言い換えると、とっかえひっかえいろんな銀行から借りている。そんな会社です。
とっかえひっかえ借りているものだから、融資残高が分散します。どこの銀行の融資残高も似たり寄ったり。
平時はこれでよくても、問題は「非常時」です。
たとえば、会社の業績が悪化する、という非常時。おカネを借りたいと考えますが、業績が悪い会社に銀行は融資をしたがりません。
そんなとき頼りになるのが「メインバンク」です。会社のことをいちばんに理解してくれている、結果として多くの融資をしてくれている(融資残高が大きい)銀行です。
メインバンクならば、会社の潜在力・将来性を見極めて融資をしてくれるかもしれません。
ところが、とっかえひっかえいろんな銀行から借りていると。メインバンクと呼べる銀行がありません。
銀行のほうにも「じぶんがメインバンク」との自覚はありませんから、非常時の対応はけんもほろろです。
したがって、融資をかんたんに受けられるからと、そのときに借りやすい銀行からばかり借りるのではなく、メインバンクづくりを意識するようにしましょう。
《理由5》結局、銀行融資の原理原則をわかっていない
冒頭、いまの日本には銀行融資を受けやすい時代だ、という話をしました。
ただ、いつまでもこの状況が続くわけではありません。「いま」は受けやすくても、「これから」もずっと受けやすいとは言えません。
融資獲得競争の末に銀行が淘汰されて、競争が一段落すれば、こんどは「融資を受けにくい時代(あるいは受けやすくはない時代)」がやって来るでしょう。
そのときに困るのは、銀行融資の原理原則をわかっていない会社です。
銀行融資の原理原則とは? たとえば、
- 銀行融資はまず決算書・ほぼ決算書で決まる
- 自社の身の丈に合った銀行と付き合う
- 銀行と真っ向から交渉はできない
- 無借金の会社は敬遠される
- 銀行とは定期的にコミュニケーションをとる など
こちらの「まとめページ」にもいろいろあります ↓
CHECK! 銀行・融資の記事まとめ
このあたりの原理原則がわかっていないと、いずれ来るであろう融資を受けにくい時代には苦労することになります。
融資をかんたんに受けられる時代だから、いまは借りることができているだけ。という状況ではいけません。
中長期にわたって銀行融資をスムーズに受け続けられるように、銀行融資の原理原則を理解しておきましょう。
まとめ
「いまは銀行から融資をかんたんに受けられる時代」の考え方が危ない理由についてお話をしてきました。
たしかに、いまの日本には会社が銀行融資を受けやすい「背景」があります。
けれども、いっぽうでその考え方には「危険」があることも理解をしておかなければいけません。
危険である理由を押さえておきましょう。
- 返せないのに借りる
- ムダ使いする
- 借り方を間違えている
- メインバンクが無い
- 結局、銀行融資の原理原則をわかっていない