決算書の役員貸付金が原因で、新規取引銀行から借入できない… それでも銀行融資を受けるにはどうしたらよいか?
実際の事例から汎用性・再現性が高い要素を抜き出してお話ししていきます。
じぶんがこの会社の社長だったらどうするか?
実際の事例から学ぶ銀行融資・銀行対応、今回は…
いままで融資を受けたことがない銀行、つまり、新規取引銀行に融資を申し込んだところ。決算書に掲載された役員貸付金(約 500万円)が原因で断られてしまった。
という場合に、どうしたら銀行融資を引き出すことができるのか? を考えていきます。
そもそも、事例の会社で役員貸付金にいたった経緯は? というと。社長が、会社の預金から引き出したおカネを精算せずにいたことの積み重ねになります。そのなかみは、経費ではあるけれど精算しなかったもの(黒字をキープするため)や、正直、社長個人の生活費に充てたものもあったようです。
一般的にも、そういったことがあると知っている銀行は、役員貸付金がある会社を嫌います。役員貸付金は公私混同のあらわれ。融資をすれば、また社長が個人的に使ってしまうかもしれません。
銀行は「会社」におカネを貸したのであり、「社長」に貸したわけではないのですから、会社に貸したはずのおカネが社長に流れてしまうのでは困るのです。
だったら、社長は会社におカネを返せばいいだろう、というハナシではありますが。社長がそのおカネを持っていないことはあるわけです。
この会社からの相談のきっかけは、「新規取引銀行から融資を受けられない」とのことでしたが。既存の取引銀行に対しても、役員貸付金の存在は悪影響を及ぼします。融資が受けられなくかもしれません。
まずは、じぶんがこの会社の社長だったらどうするか。対応をイメージをしてみたうえで、このあとのお話を確認していただければと思います。それでは、いってみましょう。
決算書の役員貸付金が原因で新規取引銀行から借入できない→銀行融資を受けるには?
決算書の役員貸付金が原因で、新規取引銀行から借入できずにいた事例があります。この事例から、汎用性・再現性が高い要素を抜き出したのがこちらです↓
- 金銭消費貸借契約書・返済予定表を提示する
- 決算書の表示をあらためる
- 借入の資金使途をあきらかにする
それではこのあと、順番に見ていきましょう。
金銭消費貸借契約書・返済予定表を提示する
まずは前提として。役員貸付金を「解消」する方法はいくつかあります。素直に返済する方法がひとつ。ただし、今回の事例では、社長個人の資金不足により不可。
ほかにも、
- 社長個人が他から借りたおカネで返済する
- 社長が持っている資産を売却して返済する
- 会社が債権放棄(返してくれなくていいよ、と言う)する
- 生命保険の役員貸付金解消プランを利用する
といった方法がありますが。今回の事例では、これらの方法が選択できない、あるいは、選択しないものとします。というわけで、すぐには役員貸付金を解消できないことが前提です。
それでも、銀行に融資を検討してもらうにはどうするか?
社長に「返済する意思」があることを、あきらかにすることです。社長が借りたおカネは、きちんと会社に返済します。と、口で言うだけでは銀行もなっとくできませんから。書類を準備します。
具体的には、「金銭消費貸借契約書」と「返済予定表」です。
金銭消費貸借契約書は、会社と社長とのあいだにおカネの貸し借りがあったこと、それをどのように・いつまでに返済するのかを記載した書類になります(ネット検索で、ひな形は見つかります)。
いっぽうの返済予定表は、金銭消費貸借契約書にもとづいて、元金と利息の支払いを一覧にします。銀行から融資を受けたときに銀行から受け取る返済予定表のイメージです。
これらの書類を準備するのは、言われてみればあたりまえなのですが。準備していない会社は、けして少なくありません。だから、銀行に「社長の返済意思」を疑われてしまうのです。
というわけで、以上の書類を準備したら、コピーを銀行に提示しましょう。ただし、これだけではまだ不十分です。書類だけで、ほんとうに返済をしているかがわかりません。
おすすめは、毎月の役員報酬(社長の給料)から、返済予定表にしたがって、毎月の返済額(元金・利息)を天引きする方法です。そのうえで、給与明細や振込履歴なども、あわせて提示するとよいでしょう。
これにより、社長に「返済する意思」があること、実際に返済をしていることは、銀行に理解してもらえるはずです。もちろん、だからといって融資を受けられるわけではありませんが。まずは、できること・すべきことを確実に実行しましょう。
決算書の表示をあらためる
事例の会社では、役員貸付金を決算書の「固定資産」の部に記載していました。これを会計的な見方をするのであれば、「回収までに時間がかかる役員貸付金」だということになります。
結果、返済する意思がないものと見られかねません。実際、固定資産の部にある役員貸付金は、まったく返済がなされず、放置されていたりもするものです。
そこで、決算書の表示をあらためることにします。
具体的には、決算日から1年以内に返済する役員貸付金は「1年以内回収役員貸付金」として「流動資産」に表示する。1年を超えて返済する役員貸付金は、「役員貸付金」として「固定資産」に表示する。
「1年以内回収役員貸付金」には、前述した返済予定表を見て、決算日から向こう1年に返済する元金の合計額を記載します。残りの返済額は、「役員貸付金」に記載します。
すると、決算書を見たときに、「会社は、役員貸付金を継続的に回収しているようだ」と考えてもらいやすくなるでしょう。
要は、社長に「返済する意思」があることを、決算書からもアピールする。これが大切です。前述の金銭消費貸借契約書や返済予定表とズレてしまったりしないように気をつけましょう。
つじつまが合っていないとなると、不信を招いてしまいます。
借入の資金使途をあきらかにする
以上の対応をしたうえで、借入の申し込みをするときには、「資金使途(借りたおカネの使いみち)」をあきらかにするようにしましょう。
というのは、今回の事例に限らず、借入全般に言えることではありますが。役員貸付金があるときにはとくに、です。なぜなら、銀行は「借りたおカネをまた社長個人が使うのではないか?」と警戒しています。
この警戒をやわらげるためには、資金使途に関する資料を提示することです。設備資金(設備投資をするためのおカネ)の借入であれば、対象設備に関する見積書や設備投資計画書など。
運転資金(設備資金以外のおカネ)の借入であれば、向こう1年ていどの資金繰り予定表で、おカネの動きを示す。といったことが考えられます。
というように、資金使途をあきらかにすることについては、いつも以上にていねいに対応するのがよいでしょう。
加えて、もうひとつ。融資を申し込む銀行を、売上入金口座として指定するのも、ひとつの方法です。売上代金が継続的に入金されれば、常時一定以上の残高が見込まれるようになります。
銀行にとって、預金残高は「担保」に近いものですから、回収不能リスクの軽減につながります。これが、融資をあと押しする材料になることもあるはずです。
もちろん、既存の売上先に入金口座を変更してもらうのもタイヘンでしょうから。事例の会社では、「既存の売上先のいちぶと、今後の新規売上先については、御行を売上入金口座に指定します」との対応を銀行に伝えました。
結果として、新規取引銀行からも融資を受けることができた、という事例です。
まとめ
決算書の役員貸付金が原因で、新規取引銀行から借入できない… それでも銀行融資を受けるにはどうしたらよいか?
実際の事例から、汎用性・再現性が高い要素を押さえておきましょう。自社の銀行融資・銀行対応にも、役立てる場面があるはずです。
- 金銭消費貸借契約書・返済予定表を提示する
- 決算書の表示をあらためる
- 借入の資金使途をあきらかにする