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その「返済原資」はホンモノか?〜簡易キャッシュフローを暴く

その「返済原資」はホンモノか?〜簡易キャッシュフローを暴く

返済原資の指標とされる「簡易キャッシュフロー」。ところが、簡易キャッシュフローは、必ずしも、実際のおカネの動きをあらわしているわけではありません。という、お話です。

目次

簡易キャッシュフローはウソをつく。

銀行から融資を受けている会社が考えるべきこととして、「返済原資」があります。なぜなら、銀行は「返済原資」があるかないかを見て、融資の可否を検討しているからです。

その「返済原資」とは、「返済をする元手になるおカネ」ということになりますが。イメージしやすいところでいえば、「簡易キャッシュフロー(後述)」や「不動産や預金担保」です。

ほかにも、「借りたおカネそのもの」や「売上代金の入金(売掛金)」といったものも挙げられます。

それはそれとして、ここでは「メインの返済原資」とも言える「簡易キャッシュフロー」について考えてみましょう。算式であらわすと次のとおりです↓

簡易キャッシュフローの算式

簡易キャッシュフロー = 税引後利益+減価償却費

銀行もまた、これを「返済原資」と見て、「融資をするか・しないか?」や「いくら融資をするか?」の検討をしています。

簡易キャッシュフローの金額が大きいほど、融資を受けやすく、より多くの金額の融資が受けやすくなることは言うまでもありません。ところが、です。

簡易キャッシュフローには、ちょっとした「欠陥」があります。それは、「ほんとうに返済原資としてのおカネがあるのかはわからない」ということです。

言い換えると、「利益=おカネ」ではない。その説明は別記事にゆずるとして、利益の分だけおカネが増えるわけではありません。そういう意味では、まさに「簡易」です。

だとすれば、「簡易キャッシュフローをあまり鵜呑みにはできないよね」ということにもなるでしょう。銀行がそう考えるのはもちろん、会社もまた他人事ではありません。

簡易キャッシュフロー(返済原資)を見誤れば、資金繰りに問題が生じてしまうのですから。

そこで、「その返済原資はホンモノか?」と題して、簡易キャッシュフローを検証することにしてみましょう。その検証材料は、ずばり「経常収支」です。

経常収支がウソを暴く。

まずは、経常収支とは?

さっそくではありますが。経常収支とは? を算式であらわすと次のとおりです↓

経常収支の算式 その1

経常収支 = 経常利益 + 減価償却費 + 各種引当金増加額 ー 運転資金増加額

ちなみに、これもこれで「簡易的」な計算方法ではありますが。「実務的」には、これでとおっていますのでだいじょうぶです。で、算式のほうを見てみると…

前半の「経常利益 + 減価償却費」は、簡易キャッシュフローにも似ていますよね。そのうえで、「各種引当金増加額」をプラスしています。

これは、減価償却費を加算するのと同じ意味合いです。減価償却費も引当金の計上も、おカネの支出をともなわない費用であるため、経常利益に足し戻しています。

こうやって、その会社の「経常的な活動によって増えたおカネ」を計算しよう、というのが「経常収支」です。

問題は、ここから。算式の末尾、「運転資金増加額」をマイナスしているところになります。では、増加運転資金とは? 算式であらわすと次のとおりです↓

運転資金増加額の算式 その1

運転資金増加額 =(当期末の売上債権 ー 前期末の売上債権)+(当期末の棚卸資産 ー 前期末の棚卸資産)ー(当期末の仕入債務 ー 前期末の仕入債務)

ちなみに、売上債権とは、売掛金や受取手形のこと。棚卸資産とは、商品や製品、材料などの在庫のこと。仕入債務とは、買掛金や支払手形のことです。

これらの当期末と前期末の差額を計算しつつ、運転資金増加額を求めます。というわけで、さきほどの算式を、言い換えたものが次のとおりです↓

運転資金増加額の算式 その2

運転資金増加額 = 売上債権増加額 + 棚卸資産増加額 ー 仕入債務増加額

経常収支の計算では、「経常利益 + 減価償却費 + 各種引当金増加額」から、これ(運転資金増加額)を「マイナス」しているのでしたよね。というわけで、経常収支の算式はこうなります↓

経常収支の算式 その2

経常収支 = 経常利益 + 減価償却費 + 各種引当金増加額 ー 売上債権増加額 ー 棚卸資産増加額 + 仕入債務増加額

ではなぜ、売上債権増加額と棚卸資産増加額はマイナスをして、仕入債務増加額はプラスをするのか?

売上債権も棚卸資産も「資産」です。資産として、わかりやすいように「モノ」をイメージしてみましょう。モノが増える、つまり、モノを買うにはおカネが必要です。

「モノを買う=おカネが減る」と考えれば、「資産が増える=おカネが減る」ということになります。売上債権も棚卸資産も「資産」なのですから、それらが増えればおカネは減る。

なので、経常収支の計算では、売上債権と棚卸資産の増加額をマイナスしているのです。

じゃあ、仕入債務をプラスしているのは? 仕入債務は「負債」です。負債は、「マイナスの資産」と言い換えることができますから。資産とは「逆の動き」をする、とイメージしましょう。

資産が増えるとおカネが減るのですから、負債が増えるとおカネは増える、ということです。実際、借入をすると(負債が増えると)、その分、おカネが増えますよね。

少々長くなりましたが、こうして、経常収支(=経常的な活動によって増えたおカネ)が計算できるわけです。

経常利益と比較せよ

経常収支が計算できたとしたらどうなのか? なにをすればよいのか? と、思われるかもしれません。

はい、経常利益の動きと比較をしてみましょう。すると、経常利益の動きと経常収支の動きとが、必ずしも連動していないことに気がつきます。

たとえば、経常利益はプラス(黒字)なのに、経常収支はマイナスというのは、けしてめずらしいことではありません。繰り返しになりますが、利益とおカネの動きは一致しないからです。

経常利益は「利益」であり、経常収支は「おカネ」をあらわします。だから、両者の動きは一致しないのです。では、こんなことがあったとしたらどうでしょう?

経常利益は、3期連続プラス(黒字)。経常収支は、3期連続マイナス。事実はともかく、銀行はまず間違いなく、「粉飾決算(利益の水増し)」を疑います。

経常利益は、粉飾決算によって操作できるからです。だったら、経常収支だって操作できるんじゃないの? と、思われるかもしれませんが。それが、できないのです。

たとえば、粉飾決算の王道(?)といわれる、架空在庫の計上で考えてみましょう。架空在庫によって利益が増えるしくみについては、別の記事にゆずるとして。

架空在庫を計上すれば、経常収支は増えるのか? さきほどの算式を見れば、増えないことがわかります。架空在庫は、棚卸資産増加額にあたりますから、経常収支の計算上はマイナスです↓

経常収支の算式 その2

経常収支 = 経常利益 + 減価償却費 + 各種引当金増加額 ー 売上債権増加額 ー 棚卸資産増加額 + 仕入債務増加額

これは、架空売上の計上も同じです。架空売上を計上するときには、売上債権(売掛金)も増えます。するとやっぱり、経常収支の計算上はマイナスです。

こうして、粉飾決算をすればするほど、「経常利益」と「経常収支」との差は開いていきます。となると、簡易キャッシュフローを返済原資として信用することはできないよね、となるわけです。

経常利益と経常収支が乖離する会社がすべきこと

ここまでのお話で、会社が考えるべきこと・すべきことは、おおむね見えてきたのではないでしょうか。復習もふくめて整理をすると、

経常利益と経常収支について会社がすべきこと
  1. 経常収支を計算してみる
  2. 経常利益と経常収支を比べてみる
  3. 比べて乖離していたら、簡易キャッシュフローは鵜呑みにできない
  4. 乖離の原因を把握する

経常利益と経常収支とが乖離する原因は、多くの場合、売上債権増加と棚卸資産増加にあります。問題は、それが「粉飾」によるものか、そうでないかです。

粉飾だということであれば、ただちに粉飾をやめましょう。としか言いようがありません。粉飾をしてだませるのは、じぶん(自社)だけであり、銀行をだますことはできないことを覚えておきましょう。

粉飾は、いずれかならずバレますし、バレたとしても銀行は「知らないフリ」をしながら、ゆっくりと融資を引き上げていく(新規融資をしなくなる)ものです。

では、粉飾ではないのだとしたらどうするか? 売上債権増加と棚卸資産増加について、銀行に対して、きちんと説明をしましょう。粉飾を疑われている可能性があるからです。

「きちんと説明」とは、具体的に言うと、売上債権の明細や入金状況などについて、一覧表を提出するとか。棚卸資産の明細や入出庫状況について、やはり一覧表を提出するとか。

棚卸資産については、銀行にも倉庫を見てもらう、現物を見てもらう、という方法も有効です。いずれにせよ、売上債権や棚卸資産が「たしかに存在する」ことを、いかに説明できるかがポイントになります。

また、売上債権や棚卸資産の増加、つまり、運転資金の増加は、融資を受ける「理由(資金使途)」になります。ただし、その増加が粉飾決算によるものでなければ、という条件付きです。

だからやっぱり、売上債権や棚卸資産の増加については、銀行に対して「きちんと説明」をしましょう、となります。売上債権や棚卸資産が増加しているのに融資を受けなければ、おのずと資金繰りは悪化します(経常収支の減少)。

ちなみに、銀行は経常収支について、2期連続のマイナスを「警戒」するものです。利益が黒字か赤字かはともかく、2期連続でおカネが減っているのは「危険」だからですね。

もちろん、3期連続マイナスとなると、さらに見方は厳しくなります。そのうえ、利益は黒字だったりすれば、「粉飾確定!」といったところでしょう。

このあたりの「銀行の見方」も理解をしつつ、自社でも、経常利益と経常収支の動きを確認しておくことが、スムーズな銀行融資、ひいては資金繰りの安定につながるはずです。

まとめ

返済原資の指標とされる「簡易キャッシュフロー」。ところが、簡易キャッシュフローは、必ずしも、実際のおカネの動きをあらわしているわけではありません。

そこで、「経常収支」にも目を向けて、簡易キャッシュフローや経常利益との乖離を確認しておきましょう。必要に応じて、運転資金増加分の融資を受けることも大切です。

その「返済原資」はホンモノか?〜簡易キャッシュフローを暴く

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