銀行から融資を受けるのにも役立つ、経営計画書。もしかして、数値計画=経営計画書だとおもっていませんか?経営計画書には、数値計画以外にも記載が必要な項目がありますよ、というお話です。
数値計画=経営計画書ではない。
銀行から融資をスムーズに受けるのに役立つ書類の1つに、「経営計画書」があります。文字どおり「計画」であり、将来の方向性が記された経営計画書は、銀行が融資審査をする際の情報源になるものです。
ならば経営計画書をつくろう、経営計画書を銀行に渡そう、と考える社長もいるでしょう。このとき気をつけたいのが、経営計画書に記載する項目です。
「計画書」と言うと、「数値計画」をイメージする社長もいますが、経営計画書はけして「数値計画」だけではありません。むしろ、数値計画は「結果」にすぎず、そこにいたるまでの「過程」が大切です。
その「過程」こそが、経営計画書に記載すべき項目になります。この点について、先日、以下のようなツイートをしました↓
このツイートで挙げた、経営計画書に必要な項目がこちらです↓
- 経営理念・経営方針
- 外部環境の分析
- 内部環境の分析
- 経営戦略(事業領域)
- 経営課題
- 行動計画
- 損益実績・計画
- 資金繰り実績・計画
それではこのあと、これらの項目について確認をしていきます。どの項目も、欠ければ経営計画の説得力が下がるものですから気をつけましょう。
経営計画書に必要な項目
経営理念・経営方針
経営理念とは、会社の「存在意義」や「目的」を表すもの。経営方針とは、会社の「目標」を表すもの。というのが、一般的な共通認識ではあるでしょう。
用語の厳密な定義はともかく、ここで大事なことは、社長が「大切にしている考え方や価値観」、社長が「目指している会社の方向性」を言葉にすることです。その言葉が経営計画書の起点であり、土台になります。
と言われても、なかなか具体的な言葉が出てこない… というのであれば。大企業の経営理念や経営方針を、ネットで検索してみるのがおすすめです。思いを言葉にするヒントになります。
外部環境の分析
後述の「内部環境の分析」とあわせて、「現状を把握する」ということです。この点で、「SWOT分析」というフレームワークがあります↓
上図のとおり、「内部環境か外部環境か」の軸と、「プラス要因かマイナス要因か」の軸で区分します。
このうち、外部環境のプラス要因が「機会(Opportunity)」であり、外部環境のマイナス要因が「脅威(Threat)」です。
自社にとっての「機会」、つまり、追い風になるような要素を挙げみましょう。たとえば、ネット通販の会社であれば、「テレワーク・巣ごもりの拡大」など。
いっぽうで、自社にとっての「脅威」、つまり、逆風になるような要素も挙げてみます。たとえば、「配送料のコストアップ」など。
内部環境の分析
前述の「外部環境」に続いて、「内部環境」についてもまとめてみましょう。内部環境のプラス要因が「強み(Strength)」であり、内部環境のマイナス要因が「弱み(Weakness)」です。
自社にとっての「強み」、つまり、他社よりも有利な要素を挙げみましょう。たとえば、「独自の販売チャネル」や「品揃えの豊富さ」など。
いっぽうで、自社にとっての「弱み」、つまり、他社よりも不利な要素も挙げてみます。たとえば、「立地が悪い」や「市場での認知が弱い」など。
経営戦略(事業領域)
前述の「外部環境」と「内部環境」の分析ができたら、それをもとに「経営戦略」を決めます。経営戦略とは、言い換えると「だれに・なにを・どのように売るか」です。
「だれに」とは、自社にとっての顧客であり、いわゆる「選択戦略」をあらわします。「なにを」とは、自社にとっての商品であり、いわゆる「集中戦略」をあらわします。
「どのように」とは、自社に特有の売り方であり、いわゆる「差別化戦略」をあらわすところです。これら3つの戦略のバランスによって、総合的な「経営戦略」が成り立ちます。
ちなみに、「だれに・なにを・どのように売るか」は、「事業領域」とも呼ばれるもので、「腰を据えた商売」をするためには欠かせない概念です。事業領域が不明瞭だと、社長や社員の行動に迷いやブレが生じます。しっかりと明文化しておきましょう。
経営課題
一般に、課題とは「現状と理想のギャップ」を言います。前述の「外部環境・内部環境」を現状、「経営戦略」を理想ととらえて、両者のギャップを考えてみましょう。
言い換えると、経営戦略の実現・浸透には「あとなにが必要か(なにが不足しているのか)」ということです。
経営課題を明文化することで、銀行からの支援が受けやすくなる効果があります。たとえば、設備投資が経営課題に挙がっていると、銀行から融資提案がもらえたり。売上先・仕入先の開拓が経営課題に挙がっていると、銀行から紹介をしてもらえたり、といった支援です。
経営課題は社内だけではなく、銀行とも共有していきましょう。
行動計画
経営理念・経営方針、外部環境・内部環境の分析、経営戦略(事業領域)、経営課題の確認ができたら、それらを前提として、「数値計画(損益・資金繰り計画)」と「行動計画」を作成しましょう。
このとき、「行動計画」が抜け落ちている経営計画書があります。銀行は「行動計画=数値計画の根拠」と考えていますから、行動計画がないと数値計画の実現可能性を疑われてしまうのが問題です。
また、経営計画書を作成したからには、その後の「進捗管理」が重要になります。その際、数値だけを管理していたのでは不十分です。数値は結果に過ぎず、行動の結果が数字です。だとすれば、行動の管理、行動の計画が必要だとわかるでしょう。
計画の進捗について、銀行からは「何ができたのか・何ができなかったのか」を問われます。数字が良くても行動がともなっていなければ「マグレ当たり」、数字が悪くても行動はできていたのであれば「次に期待」といった見方です。
行動計画の具体的な書式や、つくり方については、こちらの記事もどうぞ↓
損益実績・計画
ここからは、いよいよ「数値計画」です。まずは「損益実績・計画」をつくります。
対象期間は「実績3年分」と「計画5年分」です。計画は5年が長いようであれば、3年でもよいでしょう。いずれにせよ、「中期計画」の位置づけになります。
1年だけの計画だと、方向性がわかりにくいものです。たとえば、売上をどういったペースで伸ばしていくのか。3〜5年の「中期計画」によって明らかにしましょう。
なお、とくに決まった書式はありませんが、基本的には損益計算書と同じです。
損益計画を作成するときには、「大き過ぎる売上」に注意しましょう。実績に対して計画の売上が大きいほど、銀行からは「実現可能性」を疑われることになります。
すると、売上計画の根拠をより厳しく追及されるものと考えておきましょう。
具体的には、80%以上達成できる計画かどうかです。実績がそれを下回るようだと、銀行からは「この会社がつくる計画書は信用できない」と見られてしまいます。気をつけましょう。
資金繰り実績・計画
さいごに、「資金繰り実績・計画」です。書式としては、実績として直近3ヶ月、計画として向こう1年、というのがおすすめになります。
具体的な書式やつくり方については、こちらの記事もどうぞ↓
もしかすると、「損益計画があるのだから、資金繰り計画はいらないのでは?」とおもわれたかもしれませんが。
損益(利益)と資金繰り(おカネ)は別モノです。利益が出ているからといって、おカネが増えているかどうかはわかりません。
銀行にとっては、利益も大事ですが、おカネはもっと大事なものでもあります。おカネがなければ、貸したおカネを返済してもらえないからですね。ゆえに、「資金繰り計画を見たい」と考えています。
資金繰り計画は、社長にとっても大事な情報(経営判断の材料)になりますから、必ず作成するようにしましょう。
まとめ
経営計画書は、銀行から融資を受けるのにも役立つ書類です。その経営計画書には、数値計画以外にも記載が必要な項目があります。
記載が不足すれば、経営計画書の説得力が下がるところですから気をつけましょう。すると、銀行融資の役に立ちにくいのはもちろん、社長が経営判断を間違える原因にもなりえます。要注意です。
- 経営理念・経営方針
- 外部環境の分析
- 内部環境の分析
- 経営戦略(事業領域)
- 経営課題
- 行動計画
- 損益実績・計画
- 資金繰り実績・計画