経営者保証の説明義務化により、これまでよりも、社長の連帯保証を外しやすい環境にあります。とはいえ、手放しで外れるものでもなく。経営者保証の解除に役立つツールのご紹介です。
変化の波に乗ることができるのか?
会社の銀行融資について。2023年4月からはじまった「経営者保証の説明義務化」により、これまでよりも、社長の連帯保証を外しやすい環境に移行しつつある、といえます。
原則、経営者保証を不要とすることを公表する銀行もあらわれました。もちろん、手放しで経営者保証を不要とするわけではないにせよ、以前に比べれば大きな変化です。
ではどうしたら、自社は、その変化の波に乗ることができるのか? つまり、これまでは経営者保証ありだった融資を、経営者保証なしの融資に変えられるのか?
この点で、役に立つとおもわれるツールを、3つご紹介することにします。具体的には、次のとおりです↓
- ローカルベンチマーク
- 経営計画書
- 金利の引き上げ
それではこのあと、順番に確認をしていきましょう。
経営者保証の解除に役立つツール3選
ローカルベンチマーク
通称、ロカベン。経済産業省がWEBで提供しているツール(Excelファイル)です。もともと、「会社と銀行との対話ツール」として、位置づけられてもいました。
端的にいうと、ロカベンは「財務情報」と「非財務情報」とに分かれています。いずれの情報も、ロカベンを利用すると、コンパクトかつヌケモレなく、まとめることができるのがメリットです。
以前は、銀行員も「ロカベン?なにそれ」という時代もありましたが。いまでは、認知度が100%に達し、4割ていどの銀行で利用されているとのハナシもあります。
なんにせよ、ロカベンは「事業の内容や将来性」をはかるのに必要な情報が豊富であることから、今後はますます、銀行融資の現場で利用が進んでいくことでしょう。
この点、銀行が「経営者保証の解除」を検討するにあたっては、やはり、ロカベンの内容は有用であり、ロカベンがあるのとないのとでは、解除の可否に差が出ることは間違いありません。
ロカベンがない、言い換えると、会社が提供できる情報が「決算書だけ(財務情報だけ)」となると、銀行は「目の前の数字」でしか評価ができなくなってしまいます。
また、目の前の数字(業績)が、「必然なのか偶然なのか」をはかるのに、「非財務情報」が役立つものです。
ロカベンにおける非財務情報とは、たとえば、「ビジネスモデル(商流)」や「業務フロー」、経営者の「理念・方針、将来目標」、事業の「現状把握」、自社を取り巻く「事業環境」や「内部体制」など。
これらの情報によって、銀行は、将来の利益も評価することができるようになり、現在の利益を検証することができるようになります。結果として、経営者保証を解除できる可能性が高まるわけです。
銀行員にロカベンが周知されたいっぽうで、社長のなかにはまだ「ロカベン?なにそれ」という社長もいます。ロカベンを作成し、それを銀行に提示・説明できるようにしていきましょう。
ロカベンについては、こちらの記事も参考にどうぞ↓
経営計画書
経営者保証の解除に役立つツール2つめは、経営計画書です。ロカベンを作成している会社も少ないですが、経営計画書を作成している会社も多くはありません。
ですが、経営計画書もまた、経営者保証を解除するのに有効なツールであることを理解しておきましょう。その理由は、経営計画書の記載項目を見れば明らかです↓
- 経営理念・経営方針
- 外部環境の分析
- 内部環境の分析
- 経営戦略(事業領域)
- 経営課題
- 行動計画
- 損益実績・計画
- 資金繰り実績・計画
言葉尻には違いがあるものの、実は、「経営計画書」と「ロカベン(の非財務情報)」の内容とは似ています。上記項目のうち、とくに「経営理念・経営方針 〜 経営課題」の部分です。
この点、ロカベンは所定の様式による「紙面の都合上」、ボリュームは限られますが、経営計画書は各社の自由であるため、ボリュームの制限はありません。
また、経営計画書における「行動計画 〜 資金繰り実績・計画」は、ロカベンには含まれないものですから、経営計画書があると、さらに多くの「将来情報」を提供できることになります。
つまり、経営計画書はロカベンを補足する役割もあるし、ロカベンに記載されたことの実現可能性(妥当な計画があるのかどうか)を示す役割もあるわけです。
以上をふまえて、ロカベンとあわせて、経営計画書を作成し、銀行に提示・説明することをおすすめします。
金利の引き上げ
さいごは、金利のお話をします。借入金利です。これをツールと呼ぶのは違和感があるかもしれませんが、経営者保証を解除する際の「交渉材料」になる点で、取り上げることとします。
その借入金利は、銀行側のリスクの度合いによって決まるものです。銀行が、貸したおカネを回収できる可能性が高ければ金利は低く、逆に、回収できる可能性が低ければ金利は高くなります。
では、銀行が社長の連帯保証を取らずに融資をする場合はどうでしょう? リスクが高くなるか、低くなるかといえば、当然、リスクは高くなります。
もし、会社が返済できなくなったときに、銀行は、社長個人に対して返済を求めることができないからですね(実際に、返済を求めるかどうか、求めたからといって返済できるかは別として)。
だとすれば、経営者保証なしで融資を受けたいのであれば、経営者保証ありの場合に比べて、金利が高くなるのは「やむをえない」ことはわかるでしょう。
なので、「金利はできるだけ低くして。そして、経営者保証も外して」というのは、ムリがありますし、難易度が高い交渉になります(いちぶの優良な会社を除いては)。
では、どうするか? もうおわかりのとおり、「金利は多少高くてもよいから、経営者保証を外してほしい」と交渉をすることです。
経営者保証を外すにも、「最初の実績」が重要になります。実績がないと、銀行は及び腰になるものです。だからまずは、金利を譲って、経営者保証を外す実績をつくることがおすすめになります。
いちど実績ができれば、次からは、経営者保証を外しやすくなりますし(他の銀行でも)、実績を重ねていくことで、金利を下げていくこともできるはずです。
まとめ
経営者保証の説明義務化により、これまでよりも、社長の連帯保証を外しやすい環境にあります。とはいえ、手放しで外れるものでもありません。
本記事で紹介をした3つのツールを活かして、銀行との対話を進めていくとよいでしょう。何の用意もない場合に比べると、経営者保証をより外しやすくなるはずです。
- ローカルベンチマーク
- 経営計画書
- 金利の引き上げ