個人事業の税務調査って、どんなところを見られるんだろう?
事業をしている者にとって、税務調査は関心事のひとつです。いったいなにを調べられるのやら…?と不安になることもあるでしょう。
そんな個人事業主における税務調査について、どんなところが見られやすいのか。今回は「経費」に的をしぼってお話しします。
「仕事」と「私事」の境目を気にする税務署
個人事業主の特徴として、「仕事(事業)と私事(プライベート)とが隣接する」という点が挙げられます。
たとえば、自宅兼事務所の電気代は、仕事の分と私事の分とに分かれます。このうち、仕事の分は経費になりますが、私事の分は経費にはなりません。
電気代というひとつの支払の中で、仕事と私事とが隣接しているわけです。仕事と私事との境目、その線引きいかんで、経費は大きくもなり小さくもなります。
ゆえに税務署は、その「仕事と私事の境目」を気にしている。
その境目が税務調査でも注目される、ということになります。そのあたりを踏まえて、もう少し具体的なお話をしていきます。次のとおりです。
- 私費か経費かのチェック
- 専従者控除、専従者給与のチェック
- 固定資産(10万円以上の資産)のチェック
私費か経費かのチェック
「この経費は、ホントに経費なの?実はプライベートなんじゃないの?」というチェックは、個人事業主における税務調査の王道です。
キーワードは「休日」と「家の近所」
税務調査の際、数ある経費の領収書に対して、ある2つのモノに興味を寄せています。
ひとつは「休日」日付の領収書。休日、つまり、その個人事業主が「お休みの日」に発行された領収書です。
たとえば。休みの日に家族で出かけて、その時の食事代を「交際費」で経費にしているのではないか。とか、そういう眼を持っています。
もうひとつは「家の近所」の領収書。自宅近くのお店で発行された領収書です。
たとえば、家のすぐそばにあるドラッグストアの領収書。明細が記載されるレシートではなく、「お品代」とされた領収書など怪しさ満点です。
自宅で使う日用品を買ったんじゃないのぉ?みたいな。
接待交際費、福利厚生費、旅費交通費はアヤシイトリオ
そんな私費が混じりがちな経費が、接待交際費、福利厚生費、旅費交通費の3つです。たとえば、
- 接待交際費 … 「取引先用贈答品、接待飲食代」などとしながら実は「自宅用品、家族飲食代」
- 福利厚生費 … 「従業員茶菓子代、残業食事代」などとしながら実は「自宅用茶菓子代、フツーの自分の食事代」
- 旅費交通費 … 「仕事で移動用の電車代」などとしながら実は「遊びに出掛ける際の電車代」
さいごの電車代で言うと、Suicaなどの電子マネーにも注意が必要です。厳密にはチャージをした金額自体は、経費ではありません。実際に使った際に、使ったものに応じて経費になります。
Suicaを交通費に使ったり、モノを買ったり、飲み食いしたりと多用している場合には気を付けましょう。
アヤシイものにはフタをする
休日日付の領収書、家の近所の領収書など。アヤシイものには税務署のチェックが厳しいものだ、と心得ましょう。
ですから、そういった領収書には、しっかりメモを残すことです。「どこどこの取引先」への贈答品なのか、「どこどこの取引先」との食事代なのか、など。
怪しさ満点の領収書で、あらぬ疑いをかけられぬよう。かけられたとしても説明・主張できるよう。しっかり準備しておきましょう。
もうひとつ、家事関連費のチェック
私費か経費かのチェックについてもうひとつ。「家事関連費」というものがあります。冒頭で触れた、自宅兼事務所の電気代などがそれです。ほかにも、
- 家賃
- 火災保険、地震保険料
- 修繕費
- ガス、水道、灯油代
- 電話、インターネット料金
- 仕事用+自家用のクルマに関する支払 など
見た目にはヒトカタマリの支払いを、仕事と私事とに区分するのが家事関連費です。その区分の根拠については、考え方を記録に残すようにしましょう。
区分のしかたひとつで、経費の額がいかようにも変わる家事関連費。税務署の眼が厳しいのは、想像に難くありません。
専従者控除、専従者給与のチェック
家族への給与について、その金額・手続き等に誤りがないか。税務調査での焦点のひとつです。
家族への給与は経費にあらず
個人事業主が、その妻(あるいは夫)や家族に給与を払っても、原則、経費にはなりません。ただし、次のような「特別な取り扱い」が認められています。
- 青色申告の場合
一定の要件のもとに支払った給与の額を、経費とする青色事業専従者給与の特例 - 白色申告の場合
事業に専ら従事する家族従業員の数、配偶者かその他の親族かの別、所得金額に応じて計算される金額を経費とみなす事業専従者控除の特例
詳しくは、国税庁の「青色事業専従者給与と事業専従者控除」のページに委ねますが。
要は。「特別な取り扱い」を認めるとしながらも、「給与の全額経費をそうカンタンには認めんよ」というスタンスです。
金額、手続きでヘタをしない
さきほどの「特別な取り扱い」によれば。青色申告の場合、「一定の要件のもと」にとされています。その「一定の要件」とは、
- 青色事業専従者給与の届出を事前に提出しているか
- 青色事業専従者給与は、届出の範囲内の金額で支給しているか
- 届出の給与金額は、労務の対価として妥当か
- 給与の対象者はもっぱらその事業に従事しているか など
まぁ、いろいろあります。だからこそ、要件をちゃんと満たしているかを確認したいわけですが。
また、届出という手続き面、形式面にばかり注目するあまり。実質面がなおざりとなるケースが散見されます。「一定の要件」で言うと、「労務の対価として妥当か」どうか。
従事してきた期間、仕事の性質・内容・程度、他の従業員の給与とのバランス、同業者の給与水準、事業規模、収益状況など、多面的かつ総合的な見方が必要になります。
家族だからといって、ミョーに高額な給与になっていないか。実質面を整理して、説明・主張できる準備をしておきましょう。
固定資産(10万円以上の資産)のチェック
インパクトが大きい高額な支払については、当然、税務署のチェックも厳しくなります。
消耗品で10万円以上のモノはないかな?
10万円以上のモノを買った際の支払いについては、「固定資産かどうか」という問題が発生します。
たとえば、1台9万円のパソコンは、一発で経費になります。いっぽう、1台15万円のパソコンは一発では経費になりません。
1台(1組、1セット)10万円以上のモノは「固定資産」とされ、減価償却という会計のルールに従い、複数年で分割して経費にしなければいけないと決まっています。
ということで。このルールをきちんと守っているのかな?、ということを税務署はチェックします。
青色申告をしている場合には、1台30万円未満のモノは一発で経費にしてOKとされています。ただし、年間で合計300万円を限度とします。
したがって、30万円以上のモノが減価償却の対象となります。
1台、1組、1セット
10万円以上か未満か、という話をするときに注意すべきこととして。「単位」の問題があります。
10万円以上か未満かどうかは、「1台、1組、1セット」といった単位で金額を考えることになっているのです。
これについて、例としてよく用いられるのが「応接セット」です。1脚5万円のソファー4脚、9万円のテーブル1台という応接セットがあった場合。これをどう考えるのか?
応接セットの、応接セットたる目的を考えれば。イス4脚、テーブル1台すべてがあって、はじめて機能を発揮し、目的を果たします。
であれば金額の判断は、「ソファー5万円×4脚+テーブル9万円×1台=29万円」です。よって10万円以上なので、一発では経費にならず。減価償却で分割して経費に、ということになります。
ソファーやテーブルのひとつひとつは10万円未満だから、とはなりません。税務調査では、固定資産の「単位」にも焦点が当たります。注意しましょう。
そもそも私物じゃないんだよね?
固定資産は10万円以上と金額が大きく。複数年での分割経費とはいえ、トータルでは大きな経費としてのインパクトがあります。
それだけに個人事業主の側では、高い買い物をするときには「経費にしたい」という思惑が働くものです。
たとえば20万円の家庭用冷蔵庫、これは「私物」ですよね。例が極端ではありますがが、そういう「私物を仕事用だと偽っていないか?」を税務署は見ています。
そういったことから、税務調査の中では「現物確認」を行うことがあります。本当は自宅で使っているのに、事務所で使っていることにしている。なんてことはありませんよね?
まとめ
個人事業主の税務調査について、経費の勘所をお話ししてきました。
仕事と私事が近い位置にある個人事業主。その線引きがあいまいになりがちであること、甘くなりがちであることを税務署はわかっています。
「ま、いっか」「これくらい、いっか」、がエスカレートして税務調査で困ったことにならないように。
ふだんから「仕事と私事」の線引きは明確に、確実にしておきましょう。エスカレートしてから改める、というのは非常に困難です。
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きょうの執筆後記
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